062. 最強と最凶(1)
現在、スタバト界隈では二人のプレイヤーが話題に上がっている。
守月裕樹のプレイヤーネームは「M.yuki」、スタバト初期のランクでネット界隈を震撼させた選手がブロック代表決定戦にいたという事実は瞬く間に世間に広がった。
(牧野が余計なことしなきゃ世間に広まらずに済んだのにな……)
そして、もう一人のプレイヤーの名前は「Delta」。スタバト界隈で最近大炎上し、凄腕高校生プレイヤーということもあったせいかネットで大きく騒がれている。
芽依も名前は聞いたことあるらしく、休日の部室でゲームをしてる時にふと話題になった。
「最近、このDeltaって人よくネットニュースとかSNSで流れてくるけど何かしたの?」
「あぁ、色々やってるな……、コイツは」
ちなみに、明日からeスポーツ同好会は牧野が高知に帰ってくるので再開する運びになる。聞いた話によると菜希は学校をサボって東京に牧野を追いかけていったそうだ。
突拍子もないことをする奴だと思ったが……、別に観光していたわけじゃないと牧野からフォローの言葉があったので少しだけ安心した。
さて、話題はいま世間を騒がせている「Delta」というプレイヤーの話だが……。
正直な話、同学年でここまで話題になって世間を騒がしているのは非常に珍しい。最近になってDeltaのプレイ動画が拡散され始めてからネット界隈では二つの意味で大きな話題になっている。
ひとつはプレイヤーとしての資質、もうひとつは性格面での非行が目立つ点だ。
「ほら、最近さ企業系のVTuberが伸び始めただろ?」
「確かに動画見てると楽しそうにスタバトやってたり雑談配信してたりするね」
2019年は俺がプロゲーマーやっていた時よりも世間からはゲームというものが多少は身近な存在になってきた。その風潮の大きな起因となっているのはVtuberという存在である。
簡単に言えばVTuberの動画視聴が世間的にも大きなブームになったことでやっているゲームが世間的に広まって当たり前になってきた。
学校では普通にそういう配信者の話題になったり、最近はVTuberのライブ配信も盛んに行われている。スタバトもこのVtuberフィーバーに乗りどんどんとプレイ人口が増えている。
ここまでバトロワ系のコンテンツで伸びていて勢いのあるコンテンツを前世含め今まで見たことがないので俺は「異質」だと感じている。
「FPSというタイトルが世間的に認められつつあるが逆に言えば界隈での良くない文化というのも露呈してるんだよな……」
事の発端はある有名なVtuberの配信で起きた出来事だ。ランクマッチの配信を行っていた実況者をソロで瞬殺したDeltaは配信者に対して屈伸して死体撃ちをするという行動を取った。
その後、そのDeltaは配信者からブロックされたそうだがそれを機に多くのリスナーがDelta個人に対して攻撃を行っているそんな状況だ。
「VTuber界隈がここまで大きくなってきたことによって、今までの界隈の常識が普通の人にとっては通用しなくなっているということだな」
スタバトは古のFPSというよりかは世間に認められたライトなバトロワなイメージが定着しつつある。陰湿な嫌がらせ行為と取れる行動は一気に炎上の種となる。
死体を撃つという行為に対して俺は別に何も思っちゃいない。実際にやられたこともある。
(しょうもねぇなと思いながら画面見てるだけだけど……)
やった当人のDeltaは特に反省しているような様子もなく後日SNSに「いやいや、弱い方が悪いだろ」という投稿をしたことでその反感を買って更に大炎上中である。
「強ければ何でもしていいってわけじゃないよね」
芽依の言うことはもっともで「死体撃ち」に関してはネット上では様々な議論が飛び交っている。中にはDeltaを擁護するような意見もあり「海外では普通のこと」みたいな意見を言ってる人もいる。
ただ、今回に関しては「強ければ何をしてもいい」とも取れる極端な思想を持っているDeltaの人間性がネット上では話題にされている。
そもそもバトロワ系コンテンツで人気沸騰中のゲームでこんなしょうもない話題が上がってくる時点で何か歯車が少しだけ狂い始めているような気がする。
「まぁ、バトロワ系コンテンツに限らず、煽り行為は控えておいた方がいいとは思うがな……」
「でも、実際こういうコンテンツで人を煽る行為ってマナー違反とかではないし運営が決める問題じゃないのが難しいよね」
芽依の言うことは的を射ている。別に運営にそんなことをやらせるまでもなく「みんな楽しくゲームをしましょう」ということができればそれでいいのだ。
世間を騒がせているDeltaという選手に対して俺が思うことは「本当に心の底からゲームを楽しんでるのかコイツは?」という一点に限る。
「まぁ、Deltaもまだ若いから熱くなる気持ちも分からなくはないんだけどな」
「守月君も、私も同年代だけどね……」
やっべ、今の台詞は流石におじさん臭かったな。
「と、とにかく、相手のことを煽ったり死体撃ちをするのは良くないからな……」
ブロック代表決定戦は終わったが、全国大会はもう数ヶ月後に控えている。Deltaもオンライン高校ブロックの代表選手だそうだ。
例え、素行が非常に悪かろうとランクマッチ上位を走っている実力者であるのは周知の事実。
「そんな人に負けるわけにはいかないよね」
「あぁ、そうだな」
そんな芽依の言葉に俺は同調して頷いた。全国大会までは2ヶ月近く時間がある。
ブロック代表決定戦の活躍を牧野にSNSで拡散されたせいで俺は世間から認知され、ランクマッチをソロで回していた頃の戦績を掲示板に貼られ、そこそこに名前は売れた。
ただ、正直言うとあまり期待値が上がり過ぎるのも勘弁していただきたい。
「全国大会で当たるだろうし楽しみが増えたな」
実際、Deltaと撃ち合ってみたいという願望はある。奴のプレイスキルは間違いなく一級品だ。そんな相手と戦えることはゲーマーとして楽しみである。
(どんな相手だろうが負けてやるつもりはないしな……)




