053. 踏み出した一歩(2)
のいち駅に戻ってくる頃にはもう17時を過ぎていた。
「もう17時過ぎてるし、そろそろ帰るか……」
俺がそう提案すると彼女は少しだけ寂しそうな顔を浮かべた。だけど、すぐにいつもの笑顔に戻って「うん、そうだね」と返してくる。
その反応に俺は少しだけ違和感があったが、気の利いた良い言葉が浮かばず……、芽依の後ろ姿を追いかけながらついていく。
「ねぇ、守月君って好きな人いるの?」
帰り道の道中で芽依は突然立ち止まってそんなことを聞いてくる。突拍子もなく芽依がそんなことを言うので俺は思わず黙り込んでしまった。
「ごめん、変な事言ったね」
そういって彼女は少し俯く。その彼女の表情は暗くてよく見えなかったが、若干頬が赤くなっていた気がする。
芽依がどういう気持ちでそんな問いをしてきたのか俺はよく分からずに逆に質問をする。
「逆に芽依は好きな人いるのか?」
そう尋ねると芽依は何も言葉を発さない。人通りの少なくなった駅までの道のりをすこしずつゆっくりと歩きながら……、そして、少し間が空いてから芽依はゆっくりと話し始める。
「ねぇ、守月君。私ね……」
と話を切り出す。そして、芽依は俺の目を見てこう言った。
「守月君のことが好きだよ」
芽依の言った言葉を俺は理解できなかった。いや、理解はできたがこんなにもド直球に自分の思いを伝えてくると思わずに平常心を保つように見せながら心の中で狼狽えた。
頭の中で「好き」という二文字だけ反芻される。
誰かに「好き」なんて言葉を面と向かって言われたことはなかった。だから、俺は「好き」という言葉を伝えられた時、何も返せなかった。
どう答えればいいのか分からなかったから……。
俺が返事に困り、立ち止まってしまっていると芽依は口を開いた。
「あっ、返事はいらないよ。私が伝えたかっただけだから」
そう言って芽依はゆっくりと歩き出す。俺は何も言えずに彼女の後ろをついていくだけだった。我ながら情けないと思った。
「じゃあ、また明日ね」
そう言って、彼女は俺に背を向けて離れていく。俺はただその背中を見送ることしかできなかった。暫くして、俺は段々と止まっていた思考回路が動き出すのを感じた。
(今のは一体なんだったんだ……?)
芽依に告白されたと認識するまでには時間がかかった。芽依に感じていた心地良さは果たしてそれは恋なのか、それとも他の何かなのか、それは俺には分からなかった。
渦巻く思いが心をずっと揺さぶっている。
「あ―――、もうなんなんだよ!」
思わず俺は誰もいない帰り道でそう叫んでしまった。今日の出来事が頭の中でフラッシュバックする。
(なんか……無性に恥ずかしいな)
彼女に告白された直後はどうしていいか分からず、何も返事をすることができずに別れてしまった。返事を先延ばしにすればするほど、彼女の思いを弄んでしまうのではないかと不安になる。
既に芽依からはボールは俺に投げられ、投げ返すかどうかの選択を迫られているような状況である。
「あー、もう……。わけがわかんねぇ」
俺はそう心の中で呟きながら帰り道を少しだけ遠回りしながら歩く。俺は少し立ち止まって公園で休憩することにした。
公園のベンチに座って空を見上げる。東京と違って田舎の空は澄んでいて星が綺麗に見える。
「ほんとにどうするかねぇ」
見上げた空にそう呟きながら俺は大きくため息をつく。俺は一体どうしたいのだろう。彼女の思いに応えたいのか、それとも断るべきなのか。
そんな思いを逡巡させながら、俺は公園のベンチから立ち上がりゆっくりと帰路についた。




