052. 踏み出した一歩(1)
七月初めの週末、もう馴染み深い高知駅で俺は芽依を待っていた。
今日は七月の第一週の日曜日で、牧野は週明けから練習を再開すると言っていた。
高知県に来てから一度も東京に帰っていない牧野は先週のSTAGE:0の予選が終わったタイミングで東京に戻っていった。
なにやら別件で東京に一度帰らないといけないとかなんとか言って飛行機で飛び立っていった。
(アイツも忙しい奴だよな……)
明日の昼の便で高知にまた帰ってくると行っていたが、その時は迎えに来ようかと聞いたら「大丈夫」と言っていた。
流石に教え子に学校をサボらせるわけにもいかないしねと、彼らしいことを言っていた。
芽依は約束の時間より少しだけ遅れると連絡が来ていたので、俺は壁に寄りかかりながらスマホをいじり彼女を待っていた。
(なんか、懐かしいな。この感じ……)
昔はよくこうやって駅で友達を待っていた気がする。場所は東京だったけどな。
高知駅はよく整備された真新しい駅だと個人的には思う。
飲食店が軒を連ねているし、駅舎自体もとても綺麗だ。観光客も多くいる。北口にはバス乗り場、南口にはタクシー乗り場と路面電車の乗り場がある。
東京育ち東京生まれだった俺にとっては、路面電車がある街というのは非常に新鮮に映った。
「ごめん、待った?」
そう言って息を上げてやってきたのは芽依だった。約束の時間より10分ほど遅れていたが、別に時間に猶予はあるし……、そんなに走らなくても良かったのにと思った。
「いや、別にそこまで待ってないぞ」
そんな会話をしつつ、俺は彼女の服装に視線を移す。
白を基調とした服装にパステルカラーのカーディガンを羽織っていて、髪はいつもと違い後ろで結んでいる。なんというか、大人っぽい雰囲気だ。
この前とはだいぶ雰囲気の違う格好に面食らってしまったが、すぐに平静を取り戻して俺も言葉を返す。
「そういえば、場所決めてなかったけどどうする?」
「んー、なんか行きたいとこある?」
そう、今日は芽依と以前から約束していた中間試験終わったらどこか一緒に出掛けようよ的なやつを実行する日だ。ただ、今日どこに行くかはノープランだった。
(どこでもいいよ、と言うべきなのか行きたいところがあると言うべきなのか……。うーん、わからん)
少し頭を悩ませたが答えは出ないので、とりあえず何も決めずに芽依の行きたいところに行くことにした。
「じゃあ、動物園に行きたいな!」
芽依の行きたいところは意外なことに動物園だった。なんでも、この前テレビで特集されていたから行ってみたいとのことだった。
「動物園か。あんまり行ったことなかったな……」
「そう、私もないんだよね」
芽依は嬉しそうに俺の手を引っ張って高知駅の改札口に向かって走り始める。彼女の髪とカーディガンが風に靡くのを見て、思わず目を奪われてしまう。
「どうしたの?」
俺の視線に気づいて芽依は不思議そうに俺の顔を覗いてくる。
「いや……、なんでもない」
流石に素直に綺麗だとは言いづらいので俺は彼女から視線を逸らして、少しだけ歩くスピードを上げる。彼女は俺の反応を見てケラケラと楽しそうに笑っている。
「守月君、照れてるんでしょ?」
「いやいや、照れてねぇよ」
「ほんとかな〜?」
こうして揶揄ってくる彼女とやり取りをするのが個人的には楽しい。なんというか、気を遣う必要がないのだ。
「電車来ちゃうから早くいこ!」
俺たちが向かった先は、高知駅からJR土讃線から土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線で乗り換えてのいち駅で降りる。目的の場所は「のいち動物公園」だそうだ。
のいち駅から徒歩で県道22号を真っすぐ進んだ場所に「入り口はこちら」という錆びれた看板と共に階段が伸びている。
階段を上がると、目の前には動物園が広がっていた。
動物園は思っていた以上に広く、動物の種類もそこまで多くはないが、しっかりとそれぞれのゾーンに分かれていて見やすい工夫がなされている感じだった。
「わぁ……、レッサーパンダだ」
そう言って彼女は目を輝かせて、柵越しにレッサーパンダを見る。俺はそんな子供っぽい彼女の姿を見て思わず笑ってしまいそうになったがなんとか堪えた。
そんなことを思いながら俺は彼女についていき、奥の方にあるジャングル博物館のゾーンへと足を踏み入れた。このゾーンには樹上や地上に生息する鳥類や哺乳類、水中に生息する爬虫類や魚類、さらには中南米や南東部のユニークな動物まで、さまざまな動物が展示されている。
「みてみて、私ワニって初めて見たかも……」
彼女はそう言って興味津々にワニのいる場所を見ている。中南米にはこんな大きな動物が普通に生活してると考えると少し怖いと思った。
「あ、ワニってあんな感じで泳ぐんだね」
水の中をちょこちょこと泳ぐワニを見て彼女はそう呟く。俺は「そうだな」と肯定する。こうして、俺と芽依は動物園の中を歩いて見て回った。
園内にはベンチやテーブルがあり、休憩できるようになっている場所も多くある。俺たちは一旦そこで一息ついた。
「動物園ってあんなに色々な動物いるんだね」
「そうだな。結構動物の種類も多かったし、割と楽しかったな」
「うんうん、次はこども動物園に行こうよ!」
「ああ、いいぞ」
そう言って再び俺たちは歩き始める。今度は小動物を展示しているゾーンだ。ウサギやモルモットなどの可愛らしい動物に芽依は目を輝かせて、その様子を写真に収めていた。
「守月君!みてみて、この子可愛い」
そう言って彼女はモルモットを抱きかかえてこちらに見せてくる。小動物と戯れる芽依はいつもより幼く見えた。




