005. 世界を目指す男たち(3)
心臓の高鳴りが止まらない。ここまで、とても長い時間のように感じたが、まだ……、今日が終わっていないという事実が俺を更に高ぶらせた。
解説の席からインタビュアーが飛び込んでくる。牧野がそれに対して冷静に答えている。
「おめでとうございます」
「……あ、あぁ、ありがとうございます」
俺の前の席から声が聞こえてくる。視線の先には牧野が立っている。見事なIGLだった。指揮官は常に冷静に戦場を分析し、作戦を立て続けた。適任だったな……。
「大会のMVPは柳町選手です。トーナメントでも一番多くキルを稼ぎましたね」
「えぇ、柳町がいなかったら決勝は勝てなかったですし……、彼には非常に感謝したいですね。ですが、まだ終わらないです。目標は世界の頂点ただ一つです」
牧野は深く頷き、目をつぶり、深呼吸をした。世界の壁は高い。だけど、このチームならきっと辿り着けると思っている。
「本当にお疲れ様……、そして、ありがとうな!」
「何言ってんだ。まだ、これからだろ?」
「あぁ、そうだな、次の世界大会も頼むぞ。次は世界で戦うんだ!」
その言葉に全員が頷いた。やっと、皆が目指してきた場所に立つことができる。
そして、その日は解散となった。一週間後には、もう飛行機に乗って台湾で開催される大会に出発する。幸いなことに、明日は休みである。
一日、休んで今日の疲れを取ろう。
去年負けた時はネット上でかなり叩かれた。期待する結果通りにいかなければ世間からはキツイ言葉を投げかけられる。それが勝負事の世界の常識だ――。
『レーティングでは世界上位なのに、国内の決勝ラウンドで負けてたら意味ねぇだろ』
『国内で一番レベル高いと思うのになんで勝てねぇんだ』
勝って当然、世界と戦ってこそ、実力は証明できる。
「柳町選手、ちょっといいですか?」
会場に一人で残っていると雑誌記者と名乗る人物が俺に話しかけてきた。その記者はメモ帳とペンを持っており、そのメモ帳にはびっしりと文字が書かれていた。
「今日はお疲れ様でした。少しインタビューをしたいのですが、お時間大丈夫ですか?」
「あぁ、はい……、大丈夫ですよ」
俺は先程までいた控え室に戻ってインタビューを受ける。こうやってインタビューを受けてメディアに「eスポーツ」という文化を露出することは、業界にとって重要なことだ。
「柳町選手、今日は見事なプレイでしたね」
「ありがとうございます。今日の試合に向けて調整してきたので結果が出せて良かったです」
「柳町選手はゲーム内での感度がかなり高く、ハイセンシというこのタイトルのプロの中では珍しいタイプですよね……。やはり、その感度の高さの秘訣はなんですか?」
FPSというゲームをやっていると「ハイセンシ」や「ローセンシ」という言葉がよく出てくる。
俺の使っている「ハイセンシ」という感度は、素早く反応する必要がある状況で有利になり、マウスをわずかに動かすだけで簡単にプレイヤーの視点を移動できるというメリットがある。
その代わり銃のリコイルの制御が非常に難しくなる。
だが、俺が使っている武器はリコイル制御が必要のない「単発」の銃である。
敵を倒し、次の敵を倒すためにフリックする際に、相手の動きに合わせて素早く狙えた方が良い。その動作を極限まで速くするため、限界まで感度を高くして、目で追える限界まで突き詰めた結果が今の「超ハイセンシ」の感度である。
今まで何人もの人間が俺の感度を真似しようとしていたが全員が一瞬で挫折している。人の感度なんて真似するものではなく――、自分の体に合ったものを使うのが一番である。
「そうですね……。まぁ、感度については色々ありますが、自分の場合は素早く敵を狙いたいという思いが強くてその感度にしているだけです」
「確かに、あのフリックエイムは柳町選手の特徴でもありますね。では、次の質問ですが、次の世界大会も控えてますが意気込みは?」
世界大会には世界中のプロゲーマーが参加する。日本代表は「NRT」が、アメリカ代表は前回の優勝チームである「MFG」、台湾からは「BATWO」が出場する。
「そうですね……、世界の頂点で戦って自分がどこまで通用するのか試したいですね」
「世界の壁は高いと思いますが?」
「いえ、自分たちは壁が高いとは思っていません。今までやってきたことは世界にそのまま通用するそう思って練習してきてますし、本番でも同じようにやるつもりですね」
俺は椅子から立ち上がり、控室を後にしようとすると記者から呼び止められる。
「柳町選手、最後に一ついいですか?」
「えぇ、いいですよ」
「柳町選手は……、今後も競技選手として続けていきたいと考えてますか?」
プロゲーマー、そんな職業が誰かの憧れに変化していき……、今みたいにコソコソと何かを言われることなく堂々と職業として認められる日が来て欲しい。
そんな未来をそんな未来を想像しながら、俺は口を開いた。
「プロの競技選手として今まで以上に活躍して、今後のeスポーツ事業の未来を切り開く学生に憧れてもらえるような存在になりたいですね」
「なるほど……、ありがとうございました。また、機会があればお話し聞かせてください」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は軽く会釈をしてその場から立ち去った。控え室から会場の外に出る廊下を歩きながら俺は今回の大会を分析していた。
優勝のMVPは俺ではなく牧野である。彼の緻密な作戦が世界を相手にどこまで刺さるのか見てみたいと思った。そして、同じように世界で戦う人間と撃ち合ってみたい。
撃ち合って、撃ち合って、勝ちたい――、
勝った先には勝者にしか味わうことのできない快感が待っている。俺はそんな喜びをNRTのみんなと一緒に分かち合いと心の底から思っている。
【専門用語集】
1. ハイセンシ
ゲーム内の感度が高いことを示す。メリットはマウスの移動が少なくても、画面上の視点が大きく動くということです。ちょっとした手首の動きだけで操作している感じ。ハイセンシは一瞬で反応できる代わりに射撃に精密さが求められます。強く動かく人にとってはブレやすい。
2. ローセンシ
ゲーム内感度が低いことを示す。ハイセンシの対義語ですね。視点の移動が緩やかになる代わりに、エイムが安定しやすくなります。銃の制御がしやすいです。
3. リコイル
リアルの銃でも反動があると思います。実際にゲームの中でも銃を撃つと反動があり、リコイルは反動を意味します。FPSのプレイヤーは銃を真っすぐに飛ばすため反動を制御しようとします。上に向かっていく反動を下に下げて真っすぐ飛ばすのがリコイル制御です。




