047. 中間試験の勉強会
六月上旬に差し掛かり、桂浜の夕日を牧野と見てから一週間が経った。梅雨入りということで天気はどんより曇り空。今にも泣きだしそうという天気の中、俺は学校への道のりを歩いていた。
「あ、守月君だ」
後ろから声をかけられたので振り返ると、そこには芽依の姿があった。
この数ヵ月でだいぶこの関係性にも慣れてきた。前世では病室に籠りっぱなしの少女が、今では普通に学校へ来て勉強やゲームの話をしている。
(本当は柳町俊吾として彼女の成長を見守りたかったが贅沢な悩みだな)
俺はそんなことを思いながら芽依に挨拶を返す。
「おはよう、芽依」
俺がそう言うと彼女はニコッと微笑んだ。柔らかな笑みとは裏腹に、その目は何か言いたげであった。まぁ、大体察してるんですけどね……。
「守月君はちゃんと中間試験の勉強してる?」
「まぁ、ほどほどには……」
高校の授業は流石にノー勉で乗り切れるほど甘くなかった。所々憶えてはいるが大半は忘却している。いかに自分が真面目に高校生で勉強してこなかったかを改めて痛感させられた。
「中間試験で赤点取ったら、補講があるけど大丈夫なの?」
「そこはなんとかするさ」
俺がそう言うと芽依はジト目でこちらを見てきた。その目は『本当に大丈夫か?』という不安が感じられる眼差しだった。
(そんな顔で俺を見るなよ……。ちゃんと勉強はしてるって)
STAGE:0のスタバト部門は六月の下旬にブロック代表決定戦が終了し、八月初旬にSTAGE:0の全国大会が開催される。
正直なところ、自分のスキル磨きと座学の習得に時間をかけすぎて勉強にまでリソースが回せていない。
ただ、牧野がせっかく教頭を口説き落としたのだから俺が赤点を取るわけにもいかない。
「だったら、勉強会しようよ」
「勉強会?」
まさかの芽依の提案に俺は聞き返した。
「中間試験まであと一週間、勉強詰め込むのにもちょうどいい期間でしょ?」
(まぁ、確かにそうだけど……)
「で、どこでやるんだ?」
「私の家でどうかな。お母さんも学校だから気兼ねなくできると思うし」
まあ、別に勉強はしようと思ってたし……、芽依が手伝ってくれるのならありがたい。断る理由もないので俺は芽依の提案に乗った。
「じゃあ、お願いしようかな」
「うん、分かった。私もちゃんと復習したいからちょうどいいし……。今日は英語の勉強しようね」
「あぁ、そうだな……」
そんなことを思っている間に学校の校門が見えてくる。昇降口を抜けて廊下を歩いて、自分のクラスへと着いた。
午前の授業は何事もなく過ぎ、午後の体育でドッと疲れを感じながら教室へ戻る。教室に戻ると鞄を用意した芽依が待っていた。
「牧野さんが試験週間は流石に部活なしにしようって言ってたよ」
マジかよ……。
「流石にこの時期は勉強しないとね」
「ですよね~」
芽依とそんな会話をしながら芽依の家に向い、勉強道具一式とタブレットが詰まったバッグを持って芽依の家へと向かった。
「本当は菜希ちゃんも誘ったんだけどね」
菜希はクラスメイトと別の勉強会に誘われていたらしく、今回は参加できなかったそうだ。
「菜希ちゃんってクラスの中でも人気だからね」
「なんでだろうな……」
「そりゃあ、誰にでも優しいし、可愛いからね。男子からも女子からも人気だよ」
そういや、そんなことを聞いたようなことを以前もクラスで聞いた気がする。
「でも、偶になんか菜希ちゃんって変な時あるよね?」
「変なところ?」
「なんか、ほんとに時々だけど自分の思いをグッと堪えてるような……、そんな感じ」
芽依の話を聞いて内心ギクッとしてしまう。偶に鋭いこというよな、芽依って……。
きっと、菜希はゲームやってる時……、特に自分のせいで敗着に繋がったりしたら本心では悔しがってるんだろう。でも、彼女が作り出した「明るく優しい篠宮菜希」のイメージを崩すわけにはいかないから、その思いを自分の中に抑え込んで他のキャラを演じてるんだろう。
そんなことを思っていると、気が付けば芽依の家の前に辿り着いていた。俺はバッグの中から鍵を取り出して玄関の扉を開ける。
「誰もいないから、遠慮しないで上がって」
「お邪魔します……」
芽依の家に来るのは二度目なので、この家の中ならある程度把握している。一応、靴を脱いだ後に揃えてから芽依の部屋に入る。
「相変わらず綺麗な部屋だな。とてもじゃないがゲーマーの部屋には見えない」
芽依の部屋の中はゲーマーの部屋とは思えないぐらい白とピンクのデバイスで統一された部屋は、清潔感のある女の子の部屋といった感じだと毎回思う。
「ほら、早く今日は机に座って勉強なんだから」
「へいへい」
芽依は俺に向かってそう言うと、自分も勉強机に座る。それからしばらくの間、勉強をしながら分からないところを質問するという形で勉強会が進んでいった。そして、そんな時間を過ごしながら気が付けばあっという間に夕方になっていた。
「今日はこの辺で終わりにしようか」
「あぁ~疲れた……」
俺はそう言いながらテーブルに突っ伏した。そんな俺を見て芽依はクスクス笑いながら、俺の背中をポンポンと軽く叩く。
「お疲れ様」
「なんか悪いな勉強見てもらっちゃって」
「ううん、気にしないで。私も復習できて良かったし」
(そうは言うものの、芽依にはいつも付き合ってもらってばかりだしな……)
「じゃあさ、中間試験終わったらどこか一緒に出掛けようよ」
「あ、あぁ、いいぞ」
俺がそう言うと芽依はニコッと笑った。
「じゃあ、決まりだね。楽しみにしてるね」
【コラム】
更新をサボってたというかリアルがあまりにも忙しすぎて執筆活動が疎かになっていましたが辛うじて生きてます。中間試験って嫌な響きですね。私は中間試験いつもノート綺麗に書いて勉強した気になってる奴でした。




