045. 牧野コーチのIGL(3)
「よし、じゃあ次の試合も頑張ろうか」
牧野はそう言って芽依に笑いかける。芽依はどこか緊張しながら「はい」と頷いた。勝った試合の後にIGL変わるのってプレッシャー半端ないよな……。
「次のカスタムは芽依さんの思う通りに指示出ししてみて。その方が芽依さんは戦いやすいと思うから」
「わ、分かりました」
芽依は緊張した表情で画面を見つめていた。そして、マッチングが完了した後にゲームがスタートする。
見かねた俺は芽依の緊張を和らげるために、ゲームキャラの着地と同時に芽依のキャラに一撃パンチを入れた。
「え、ちょっと……」
芽依が驚いたような声を上げる。牧野はニヤニヤしながらこちらを見ている。その瞳は「味方をフォローするのもチームメンバーの仕事だよ」と訴えていた。
(全く見透かしたようにこっち見てんじゃねぇよ……)
「芽依……、これは練習だ。それに、指示通りに動くから難しく考えなくていい」
「わ、分かった」
そんなやり取りをしてる間にも物資を漁り続ける。今度は菜希の席の方から牧野の指導をしている声が聞こえてくる。主にタレットを置く場所を絞らせる指示だ。
「メディアはヒールするのだけが仕事じゃない。タレットを置いて敵の検知や妨害することも立派な役目の一つだ」
「は、はい!」
「高台に立ったらセラフィムの撃ち漏らしを狙おうか。こういう場合は芽依さんがドローン飛ばしてる逆側を警戒する」
「は、はい!!」
そんなやり取りが繰り返されている内にゲームも佳境に入っていく。牧野の指示通り、高台の上から俺が射撃を行ってダメージレースで勝つ。撃ち負けた敵は岩場の遮蔽へ隠れようとする。
「こっち逃げた。これ撃てるかな。ここ、ここ!」
ピンを指す方向に敵が逃げてくのが見える。その敵をフォーカスして、菜希と俺が銃を撃つ。その銃声とほぼ同時に敵がダウンする。牧野はちょっとだけ驚いたような表情を浮かべ「いいね」と言って頷いた。
「敵が蘇生しようとしてるからグレネード投げて蘇生阻止。メディア優先で狙って!」
「了解!」
芽依がそう指示を飛ばす。グレネードで敵の蘇生を牽制し、俺が一気に岩場に突っ込む。意表を突かれた敵は撃ち返す間もなく倒れた。
「S40方向から敵来てるから高台まで引いて、菜希は逆サイド警戒お願い」
「分かった」
芽依が指示を出し、菜希が返事を返すタイミングと同時に敵が空中から降ってきた。ピックするエージェントには偏りがある。スタバトは特に王道の三人「セラフィム/リンダ/メディア」というバランス型の構成で争うことが多い。だが、中には王道から外れた構成で戦うチームもある。
ヴォルトが一気に詰めてきた瞬間に、俺はそいつと撃ち合いを始めた。タイミング的には最悪だったかもしれない。
しかし、すぐに芽依がこちらの状況を察して「そのまま撃ち合いで」と指示を出してくる。
その撃ち合いは制したものの、デスゾーンの収縮と共に移動が遅れた。バトロワにおいてこの遅れはかなり痛手だった。
当初取ろうと思ってた高台は他のチームに取られ、俺たちはかなり不利な状況に追い込まれた。
(ヤバいな……)
結局、高台のパーティーから一方的に撃たれるような形になり、俺たちはほぼ何もできないまま敗北した。その試合終了後、芽依が「ごめん……」と落ち込んだ様子で俺たちに頭を下げた。
「これも経験だからIGLは失敗してなんぼだから……。逆にあの試合は何が悪かったと思う?」
「漁夫のパーティーを相手したからですか?」
「そう、正解。正直、あれはセラフィムなら引けたし、強行するより安全地帯取る方が先だったね」
牧野はそう言って、プロジェクターにさっきの場面を投影する。観戦画面から見てるのでパーティー全員の動きが分かる。
「守月君はいわば狂犬だ。撃ち始めたら絶対に自分の判断では引かない。前線を張るエースっていうのはそういうもんだ。だから、僕らIGLが必要なんだ」
おい、なんかその言い方だと俺が突撃馬鹿みたいに聞こえて、ちょっと嫌なんだけど……。
「芽依さんの役目は守月君の首にリードを付けて待てを言うことだ」
「え、なんか嫌な言い方ですね……」
「でも、守月君は途中で戦闘してて自分の判断で尻尾巻いて逃げることないでしょ?」
「まぁ、はい」
芽依は牧野の言い方に苦笑いを浮かべる。俺は完全に誰にでも噛みつく狂犬みたいな扱われ方になってた。なんか表現的に嫌なんだけど……。
(まさか、コイツ前世でも俺のことをそういう風な目で見てたのか?)
俺はジト目で牧野のことを見る。しかし、牧野はそんな俺と対照的に笑みを浮かべながら言った。
「でも、指示出しはかなり上手くなってる。本当に経験が大事だからね」
牧野のその言葉を聞いた芽依は俯きながらも悔しそうな表情を浮かべていた。負けず嫌いな性格は相変わらずだな。
カスタム数試合の中で、牧野の指導と芽依の努力によってかなり動きが良くなってきた。それでも、最初以外一度もチャンピオンを取れなかったのを芽依は何も言わなかったが、きっと心の中では悔しい思いをしているだろう。
時刻は午後6時を過ぎていた。日が傾き始め、徐々に薄暗くなっていく部室でカスタムも終わり、今日は解散ということで俺たちは帰路に就こうとする。
すると、牧野は俺に「ちょっと話をしよう!」と誘ってきたので彼の後についていくことにした。
二人に「先に帰ってくれ」と言い残し、牧野は裏にある駐車場へ向かっていく。そして、俺はただ黙って牧野の後ろをついていく。
駐車場に着くと、彼は自分の車の中に乗り込みエンジンを掛ける。そして、俺を手招きをして助手席に乗るように指示を出す。
「ちょっとだけドライブでもしようか?」
「男二人で?」
「まぁ、そこは気にしないでさ。色々と思うことあるんじゃないかと思ってね」
見透かした瞳で見つめる牧野の視線から俺は目を逸らした。芽依のこと、そして自分のこと……。色々と思うことはあるし、それは牧野も同じだろう。
そんなことを考えながら、俺は牧野の車の助手席に乗った。




