055. 天才と呼ばれた頭脳(2)
放課後の部室に向かうと既に菜希が来ていた。俺はそんな菜希を横目に見ながら部室に入った。
「おー、早いな」
「まあね。練習時間減らしたくないから」
「芽依は?」
「あー、日直日誌があるらしいから遅れるってさ」
菜希は牧野が備品で学校側に提供したゲーミングチェアに座りながらパソコンの電源を入れ、「スタバト」を起動する。そして、射撃訓練場でボットを撃ち始めた。
(コイツもコイツでかなりストイックだよなぁ……)
「おー、みんな早いね。一応、終礼終わりの時間に合わせたんだけどさ」
そう言いながら牧野が部屋に入ってくる。牧野もだいぶ慣れてきたのか前世のように口調が軽くなってきた。
敬語を使ってる牧野とかなんか違和感半端なかったしな。まあ、欲を言えば俺も牧野とため口で喋りたいところではあるが……、周りの目もあるので流石に自粛している。
「今日の試合は16時半からね。知り合いの配信者が人数集めてくれたからカスタムマッチで動きの確認していこう」
牧野はそう言って、俺たちに今日参加するメンバーのリストをくれる。俺はそのリストを見ながら「懐かしいな」と思わず口に出してしまった。「TACTICAL GEAR Escape」はゲーム配信をメインに活動するプロゲーミングチームの1つ。もちろん、競技のチームもいる。今回はストリーマー部門がカスタムに参加してくれるらしい。
「本当はプロ部門に入ってもらうと思ったんだけど日程が合わなくてね」
牧野が苦笑しながらそう言うと、俺は「そりゃ残念ですね」と言いながらリストに目を落とす。
もちろん、俺の知らない人ばかりだ。
「TACTICAL GEAR Escape」は前世から続いている有名なプロゲーミングチームだ。俺もその名前は良く知っている。
対戦する機会こそ少なかったが、TACTICAL GEAR Escapeのメンバーである通称「プロチーム1の良心」と呼ばれているプレイヤー「KAGEROU」さんはストリーマー部門で人気を誇っている。
(牧野だって競技引退するくらいだし年の流れって残酷だよな……)
そんなことを思いながら俺はリストの一番最後にあった名前を見て驚く。そこには見覚えのある名前が書かれていた。
「あれ……、紅林って」
俺はそう言いながら牧野の顔を見た。すると彼は「あ、気づいた?」と言いながら笑って見せた。
「そうそう元NRTで現TACTICAL GEAR Escapeのストリーマーの紅林尚成。コイツもスタバトやってるし……、ていうか、カスタム開いてくれるの紅林だからね。練習相手としてはかなり手強いと思うよ」
紅林はストリーマーになっていたのか……。そういえば、アイツ昔からゲーム配信をよくやってたっけ。俺は前世の記憶を蘇らせながら徐々に元NRTメンバーの所在が明らかになっていることに喜びを感じていた。
「あ、それと」
牧野がそう呟いたので俺は彼の方を見る。牧野は俺と菜希に向かってウインクをしてからこう告げるのだった。
「最初の一戦だけ僕が入るので芽依さんには画面と僕の指示出しをしっかり聞いてもらうのに集中してもらいます」
その後、日直日誌を提出してきた芽依が部室に合流し、カスタムマッチに参加するコードを打ち込んだ。牧野は自分の席に着くとヘッドセットを被り、カスタムマッチの画面をじっと見つめている。
(なんか不思議な感覚だな……)
牧野が隣にいて指示を出しているのがどこか不思議だった。いや、俺にとっては”当たり前だった”光景なんだけど……。
「さぁ、練習のカスタムだけど勝ちに行こうか!」
試合が始まった。荒廃した都市「ネオクライシスシティ」が舞台のスタバトは、上空からパラシュートで地上に降りて武器を集めながら敵と戦う。バトルロワイアルゲームというのは、武器の回収の速度とゲームは時間経過に伴い狭まる「デスゾーン」の位置を予測して安全地帯に移動するかが鍵になる。
「物資は地下のエリアで全部回収して、安全地帯に素早く移動しよう。目標は2分だね」
牧野がそう言いながら、マップ外の赤い線で囲まれた円を指差す。このエリアが「デスゾーン」だ。これがランダムの中心点に向かって収縮していく。
俺が使用しているキャラは、セラフィム。牧野が使用しているのは、リンダ。そして、菜希が使用しているのは、メディア。このパーティーがオーソドックスな形だ。攻撃、索敵、サポートとバランスの取れた編成と言える。
「リンダは偵察ドローンを飛ばせるんだけど、移動後の情報収集が非常に大事になるからね。これどのFPSでも一緒だから」
マップの収縮よりも先にスムーズに三人が移動しながら牧野は芽依にそう言う。
「このマップで一番勝率の高いのは廃墟のビルの上だね。上から偵察ドローン飛ばすからそこにフォーカス合わせて!」
「あの高台の敵撃てるかな。ここ、ここ!」
牧野がゲーム内でピンを撃ちながら指示を飛ばす。俺が前線に行き過ぎると「待って、戻ってきて!」と言ってくる。このまるで狂犬にリードをつけて引っ張り回される感覚は懐かしい。
(そうそうこの感覚だよ。懐かしいな……)
俺はそんなことを考えながら牧野の指示に従いながら銃を構え、廃墟のビルの上から撃ちおろすように敵を蹂躙する。牧野が「そこのメディアにフォーカス合わせて」と言う。その数秒後には敵がやられていく。
「回復キャラからフォーカス合わせよう。その時には偵察ドローンでキャラ判別することを忘れないように」
そんな会話をしながら俺たちは敵を殺す。芽依は完全に画面に釘付けになっている。生きた教本っていう感じだよな。
「そこ、セラフィムが撃ち漏らした敵を狙って!」
菜希が牧野に言われるがまま銃を構えて撃つと面白いように敵が倒れていった。牧野の指示に従いながら数十分が経過した。狭くなったデスゾーンに5部隊が鬩ぎ合う。
「最初に攻撃を仕掛けたパーティーが負ける。これがバトロワゲームの恐ろしさだからね」
龍馬ゲーミングは全く持って位置を変えずに高台のポジションを守ってきた。偵察ドローンは銃で撃ち落とすことが可能だが……、牧野の操作するドローンの動きがウザすぎて撃ち落とそうにも狙いがつけられないといった状況だった。
「タレットを下に落とすように置けるかな?」
牧野の素早い指示に菜希は驚いたような声を出す。そのすぐ後にタレットを高台から落とす。ドローンでは検知できなかったが真下に張り付いてるパーティーがいるらしい。
そうしている間にも、敵が争って部隊数が減っていく。デスゾーンが狭まった戦況は段々と激しくなってきて、先程までの静けさは一気に銃声に上書きされていく。
「よし、今だ!」
残り1部隊に切り替わった瞬間、牧野がドローンを飛ばし一斉に高台から飛び降りる。「回復してるメディア狙って!」という掛け声と共にワンダウン。そして、その数秒後に敵部隊の壊滅を告げるメッセージが画面に表示される。俺と菜希は思わず大きく安堵の息を吐いた。
試合を観戦していた芽依も少し疲れたような表情をしていたが、試合後牧野に色々と質問をしているあたり勉強家だと感心していた。
「いやぁ、流石だね。まだまだ、伸びしろあるよこのチーム」
牧野は笑いながらそう言いながら、次のカスタムのマッチングの準備を始めた。席を芽依に譲り、牧野は今度は菜希の傍でプレイを見ると言って傍に椅子を持ってきていた。




