052. 中間試験(2)
放課後になり、俺と芽依は約束通り図書室へと向かった。
中間試験まで残り一週間を切っている。いつもはそんなに人がいない図書室には自習する生徒が多くいた。まあ、人が多くいるとはいえ、やはり図書室は静かだ。
(図書室なんて初めて来たな……、本なんて一切読まないし……)
俺たちは空いている席を見つけて向かい合わせに座る。
牧野には事前に「中間が近いからテスト勉強をする」とメッセージアプリで伝えていたので、放課後に部室に顔を出す必要はなくなった。
「牧野さん、なんて言ってたの?」
「学生の本分は学業だから頑張ってねって言われた」
「まあ、そうだよね……」
ちなみに、菜希も誘ったのだが「わたしは群れて勉強をするタイプではない」と直球で断られてしまった。この前の件で少しは打ち解けたと感じていたが……、まだまだ一線を引かれている。
打ち解けてくれる日は果たして来るのだろうか……。
「じゃあ、始めよっか」
俺は芽依に言われるがまま机に教科書を並べる。芽依はすぐにノートのコピーを俺に渡してくる。
「これ、私のノートね。要点だけ抑えれば赤点は回避できると思うから」
「あぁ、ありがとな……」
俺はパラパラとノートのコピーを捲る。綺麗な字だ。俺がノートに視線を移すと芽依が指を差しながら「ここ、重要だよ」と教えてくれる。
膨大な試験範囲の中から重要な項目を抑えて教えてくれるらしい。
それもそうだ。試験はもう来週に迫っているのだから、一から復習をするような時間は残っていない。最低限の知識を詰め込むだけでも赤点は回避できるだろう。
「あ、あぁ……。わかった」
俺は芽依に教えてもらいながら頭の中で整理していく。
「ここの問題はこうやって解くんだよ」
俺は芽依に言われた通り、問題を解いていく。俺の間違いに対して、芽依は「ここは、こう解くんだよ」と的確に教えてくれる。
「これで全部解けたな」
「うん、じゃあ次はこの問題を解いてみて?」
俺は渡された問題集を黙々と解いていく。その間、芽依は俺が解き終わるのを静かに待ってくれていた。性格が母親に似ているのか、芽依は教えるのが上手かった。
「教えるの上手いな、芽依は」
「そ、そうかな……。守月君が飲み込みが早いんだよ」
俺が解き終わった問題集を見せると、芽依は「うん、完璧だね!」と笑顔で褒めてくれる。
なんだか、懐かしい記憶が蘇ってくる。高校生の進路に迷ってた時に、大学進学を勧めてくれた美和先生から勉強を教えてもらった時もこんな感じだったっけ……。
あの時も、今も、変わってねぇな……。
「じゃあ、次の問題に移るね」
芽依に教えてもらいながら俺は問題集を解き続けていく。
そして、あっという間に一時間が経ち――、
「守月君って別に勉強ができないわけじゃなかったんだね」
「まぁ、人並みにはできるな……」
「それでも、授業は寝ちゃ駄目だけどね」
芽依の言う通りだ。授業態度に関しては咎められるべきなのだが……。
まあ、こうやって人並み程度に勉強ができるのは、芽依の母親である美和先生が受験期間に一生懸命基礎から教えてくれたからだ。
まあ、そんなことは芽依には口が裂けても言えないだろう。
「そういえばさ、コーチになってくれた牧野さんも教え方上手いよね」
「あぁ、そうだな。アイツは昔から……」
そこまで言って俺はハッと我に返り口を噤んだ。途中で口を噤んだ俺を向かい合って座っていた芽依が不思議そうに見ている。
「昔から……?」
芽依の問に俺は咳払いをする。
「あぁ、知っての通り、昔からずっと競技選手でIGLをやってたっぽいからさ……。試合の流れを読むのもうまいし、状況を言葉にするのが上手いんだよ。判断力もずば抜けてる」
芽依は「そうだよね、私も見習いたい」と納得している様子だが……。俺は内心、冷や汗をかいていた。どうにか誤魔化せたか……。
(危ない……)
俺が口を噤んだ理由は単純だ。この世界での牧野と俺の関係は、たまたま知り合ったコーチと学生という立ち位置であって、それ以上でもそれ以下でもない。
元チームメイトとしての記憶は、この俺とは全く関係ないことだ。
(……気を付けねぇとな)
「どうしたの、守月君。難しい顔して」
「……いや、ここの問題が解けなくてな」
俺は咄嗟に問題集に目を移す。芽依はそんな俺の心情を察することもなく、「ここはね」と解説を続けてくれる。今は余計なことを考えるのはよそう。
(まずは中間試験を乗り越えるのが先決だな)
俺は再び目の前の問題集に視線を移した。相変わらず丁寧に教えてくれる芽依の言葉を頭の中で繰り返しながら問題を解いていった。




