050. 週末の買い物(4)
高知県高知市栄田町二丁目にある「高知駅」は比較的新しい駅である。元々は地上の平面に敷かれた線路を、橋梁によって上方に移設した高架駅になっている。
彼女の家は高知駅の北口を抜けた先にあり、徒歩で数分のところにあるらしい。
「で、どのあたりなんだ?」
「ここから歩いて10分くらいかな……」
俺は菜希の後をついていく形で彼女の家に向かう。高知駅を抜け、北口に出ると右手側にバスターミナルが見えてくる。
北口にはあまり来る機会がないが、南口の景色とあまり変わらない。都会の景色と大きく異なるのは、高層ビルがあまりないところだろう。
菜希の家は、バスターミナルをさらに進んだ先の住宅街にあるようだ。
彼女は俺の前を歩きながら、時折こちらを振り向きながら歩く。何か言いたいことでもあるのだろうか。しばらく歩いていくと、一軒の家の前で菜希は立ち止まった。
どうやらここが彼女の家のようだ。
「ここよ」
そう言って指差した先にあった家は、二階建ての一戸建てだった。家の表札には「篠宮」と書かれているので間違いないだろう。
俺は、少し気まずさを感じつつも玄関まで案内されたのでそのまま入ることにする。家の中は綺麗に整理整頓されており清潔感のある空間だった。
リビングに案内されるとソファーで座って待ってるように言われる。菜希がお茶菓子とお茶を持ってくるようだ。しばらくするとお茶菓子とお茶を持って戻ってきた。
「はい、これ食べていいわよ」
そう言って差し出されたのはどら焼きだった。俺はお礼を言ってから受け取ると口に運んだ。甘さ控えめの餡子と生クリームが入った皮が絶妙なバランスでマッチしていてとても美味しかった。
「さて、やろうか」
休憩は終わりにして、早速作業に取り掛かることにする。
俺は二階にある菜希の部屋に案内された。彼女の部屋は綺麗に片付けられていて、あまり物は多くない。机の上にはデスクトップパソコンが置いてあるだけだった。
「なによ」
俺の視線に菜希が気付いたようだ。
「いや、別に……」
俺は慌てて視線を逸らす。
「じゃあ、始めるか……、このパソコンでいいんだよな?」
俺は、デスクトップパソコンを指差しながら尋ねる。
「うん、それで合ってる。お願い」
菜希の許可が出たので早速作業に取り掛かることにした。
まずは、電源を外し、ディスプレイに付いているケーブルも全て外す。そして、パソコンを床に置いてネジを回して中身を拝む。久しぶりに開けた中身は結構溜まっている。
「掃除機で埃吸ってもいいか?」
そう言うと菜希が隣の部屋から掃除機を持ってくる。中の埃を吸いながら中身のパーツを確認する。一般的な自作パソコンで何も変わったところはない。
「部室の掃除を思い出すな……」
「そ、そこまで汚くないわよ」
菜希はムッとした様子で抗議する。
「まあ、多少埃が積もってただけだし……、気にするほどじゃない。よくあることだ」
俺はパソコンを分解し、掃除していくことにした。菜希はパソコンの掃除の仕方を知らなかったらしいのでケースの外し方などを教えながら一ヶ月に一回は掃除をしろと伝えておいた。
「さて、ここからが本題なわけだが……」
ケースを外して中身の部品を見る。グラフィックボードの換装はそんなに難しくない。
まずは、パソコンの土台となる基盤であるマザーボードを外すところから始める。マザーボードにはCPU、それを冷やす冷却用のクーラーとグラフィックボード等が付いている。
これらの部品を壊さないように細心の注意を払いながら、古いグラフィックボードを取り外す。そして、先程買ってきた新品に換装する。
まあ、慎重にやればどうってこともない作業である。
その様子を菜希は、興味深そうに眺めていた。
「手際良いわね」
「まあ、昔からこういうのはよくやってたからな……」
自作パソコンを作るのは相当やったしな……。
無事に交換を終えると、電源を入れて動作確認をする。問題なく動いていることを確認し、再び元の位置にケーブル類を取り付けることにする。
「もう、直ったの?」
菜希は心配そうに聞いてくる。俺は無言で頷きながら、電源を入れて動作確認をする。
「どうやら、大丈夫そうだな……」
「よかった……」
菜希は胸を撫で下ろすと、改めて俺に礼を言ってきた。
「ありがとう。本当に助かった……」
「どういたしまして」
俺は軽く返事をすると、作業に使った工具を片づけ始めた。
「今夜治ったパソコンのテストも兼ねて、芽依も呼んで一緒にやる?」
そう提案すると、菜希も試したくて仕方がなかったのだろう。
「うん、やる!」
と即答した。
「じゃあ、決まりだな」
俺はそう言って工具を鞄にしまうと立ち上がる。そして、そのまま玄関に向かうと靴を履く。
「今日は本当にありがとうね」
菜希は見送りのために玄関までついてくると改めてお礼を言ってくる。俺は軽く手を振って応えるとドアを開けて外に出る。
外の景色は夕焼けに染まっており、どこか物悲しい雰囲気を漂わせていた。
「またね……」
菜希は笑顔で手を振るとドアに寄りかかりながら俺のことを見送っていた。俺は軽く手を振ってそれに応えると駅に向かって歩き出した。




