004. 世界を目指す男たち(2)
「今年のNRTは非常に仕上がりが良いですね。まさか、ここまでとは思ってませんでした」
「えぇ、ここまで強いチームだとは思わなかったです」
解説席の二人も興奮した様子で話していた。去年は本当に酷い戦い方をしていた。エースである柳町が重要なところでことごとく弾を外す。
本来持ちうる実力であれば完封してもおかしくなかったのだが……。まあ、これは彼が悪いわけではないのだ。前衛が「IGL」をやるというのは思っているよりもかなり過酷なのである。
だが、今年は明らかに違っている。
しっかりと緻密な作戦を立て、牧野という冷静な指揮官が周りの戦況を伺いながら、常に思考を巡らせて戦術を出し、確実に勝利を掴んでいる。
「牧野隆史……、相当な切れ者ですね」
去年までの彼らは「THE WORLD」というゲームの本質を理解できていなかった。このゲームは全員の動きが諸に勝敗に直結する。将棋の駒のように個々が与えられた役割をこなす。
これが当たり前のようで非常に難しい。
「今年は……、優勝できるかもしれませんね」
「私もそう思います。ですが、NRTにはもっと上を目指して欲しいですね」
「……というと?」
「去年もそうでしたが、世界で強いのは連覇中のアメリカ代表チームで、日本チームは過去の大会などを見てそこまで強くない印象があります。そこを超えていって欲しいですね」
「自分も密かに期待しておりますが……。その前に、この国内予選を突破しないといけませんからね。まずは油断せずに見守っていきたいと思います」
夏の暑さが本格的になった八月の上旬の幕張メッセにNRTのメンツは再集結していた。決勝ラウンドの予選を勝ち抜き、遂にやってきた決勝の舞台――、
去年はここで敗れたなんて感傷に浸ってる場合ではない。世界大会への切符を掴むためには超えていかないといけない。その先の頂を掴むために。
対戦相手は……、S.K(霧ヶ峰聡史)率いるT2W(team tower wall)だ。
彼らの特徴はとにかく堅い。どんなゲームでも堅実にプレイし、安定した成績を残している。特にリーダーである霧ヶ峰が防衛ラインを完璧に守りきる。
そして、奇しくも去年の決勝と同じ相手で同じ舞台となった。
(ドラマを生むにはもってこいの舞台設定だな……)
これは神のいたずらか……、はたまた運命なのか……。
まぁ、どちらにせよ俺たちは全力で戦うだけだ。
「さぁ、『THE WORLD』の決勝戦。 実況は私、田中がお送りします。そして、解説は昨年に引き続き、元プロの古畑さんお願い致します」
「はい、よろしくお願いいたします」
「まずは、去年の映像を見返しましょう」
去年は開幕と同時に特攻を仕掛け、速攻で防衛拠点を落としてしまった。あの時は俺の指示と岡田の息が完全に合ってなかったからああなったわけで……。
こういうリプレイを見ると……、「あぁ、こうしておけば良かった」とか「こうしたら勝てたしれない」みたいな反省点が次々と出てくる。
「今年はどういった展開になると思われますでしょうか?」
「そうですね……、やはり、序盤の攻防が鍵を握るでしょうね。岡田君が動き出すタイミング、そこをうまく抑えることができれば一気にペースがT2Wに傾く可能性がありますね」
「なるほど、ではまもなく試合が始まります。T2W対NRTの試合です!」
会場の雰囲気は観客たちの熱気に包まれていた。観客の歓声は普通のスポーツなどに比べれば大きくないがそれでもかなりの数が集まっている。
いずれは、eスポーツという事業が発展していき、ライブのような盛り上がりを見せるかもしれない……。その時まで俺は競技選手を続けてたいと胸の中で密かに野望を抱いている。
「開始早々に特攻! これは去年と全く一緒の展開だ!」
「去年は速攻で攻撃の駒を落とされてしまいましたからね。今年も同様に岡田選手が鍵を握るのか?」
「おっと……、ここで岡田選手と柳町選手が別のルートに別れて攻撃に……、これはどういった意図なんでしょう?」
「恐らく……、罠でしょうね。T2Wも前の試合で散々あの二人のラッシュを見てますからね。マップも奇襲に向いたものですし……、考案者は牧野選手でしょうね」
「えぇ、そして、ここからは……」
「あっという間に相手の爆弾設置エリアに近づいていきますね。この岡田選手の速さは流石に予想外だったのか、霧ヶ峰選手は反応が遅れていますね」
T2Wは去年の世界大会で韓国代表にストレート負けしている。だからこそ、今年こそは世界で優勝を狙うために綿密な作戦を練ってきたはずだ。
牧野はそれも考慮している。つくづく罪な男だと思う。牧野は他人が嫌がる作戦を考えるのが本当に上手い。別に悪い意味ではなく……。
対人戦というのは他人がやられたら嫌なことをやり続けるゲームだ。これはFPSに限らず、格闘ゲームでも、カードゲームでも一緒だ。
相手の裏を搔くために、思考を巡らせ、戦略を組み立てていくのが一流の策士である。
「さぁ、ここで霧ヶ峰選手が前に出たが、岡田君と一対一のトレードになった!」
「意外ですね。霧ヶ峰選手は設置まで防衛に徹すると思っていましたが、動きましたね……」
「まあ、これが決勝の舞台特有の雰囲気なのでしょうか……。おっと、霧ヶ峰選手をカバーに来たT2Wの選手を裏に回った柳町選手が一蹴!!」
「一気にNRTが人数有利に、これは結構一方的な結果になるんじゃないですか?」
「そのまま防衛側の拠点までNRT全員が到着しました。設置まで残り時間は1分……、さぁ、T2Wはこのまま守りきれるか? それとも、NRTが攻めきるか!?」
「戦況はNRTが有利です。ですが、ここからが強いのがT2Wです」
「えぇ、去年も霧ヶ峰君の堅実な防衛指示によって、NRTは敗退してしまいましたからね」
「さぁ、ファイトが始まっ――、なんだこれ!?」
「流れるような柳町選手のフリックショットでT2Wが壊滅!!」
「これは……、去年とは大違いですね。去年は大事なところでいつもの冴えわたるエイムが出ずに非常に苦労してましたからね……」
「えぇ、ですが……、今年の仕上がりは目を見張るものがあります」
試合はあっという間に進行する。
「さぁ、T2Wは防衛の4ラウンド全部落としました。これで、攻守交替というわけですか……」
「得意の防衛で連敗だと……、精神的にもきついでしょうね」
「さぁ、ここでNRTが防衛です! ここまで、圧倒的な強さを見せつけてマッチポイントにしましたが、まだ油断はできません」
牧野の指示が今日は良く聞こえる……、敵の音も、エイムも、調子が良い。仕上がりの良さを改めて実感する。自分の心臓の音がしっかり聞こえる。いつもより鼓動が速い気がする。
(集中しろ、マッチポイントだ。ここまで来た……、敵の頭だけ見ろ)
俺はただ目の前にある防衛ラインを守ることだけを意識する。
狙うのは敵の頭――、それを撃ち抜き続けろ!
「柳町選手と岡田選手が防衛ラインでクロスを組んでいる。入ってきた瞬間に一気に激しい撃ち合いになりそうだ!」
「うぉ、凄いですね。一気に二人を抜きました」
「えぇ、私も驚きました。柳町選手……、前回大会の時よりも強くなってますね」
「これは、T2Wは苦しい展開になってきました」
「はい、この岡田選手と柳町選手を止められないと、このまま一気にNRTが取りきりそうです。T2Wもこのラウンド負けたら終わりなので必死です」
(柳町、突っ込め!)
牧野の指示と共に俺はその瞬間に飛び出し、クロスを組んでいた先の通路に飛び出す。岡田が後に続くように一緒に付いてくる。敵は別の場所にスイッチしたらしい……。
(流石に、マッチポイントだから安定を取ったか)
だが、こちらとしては攻撃的な姿勢を止めるつもりはない。この勝負はもう既に決まっている。俺たちの完全勝利でな……。
「おっと、ここで中央地点で霧ヶ峰選手と柳町選手が対面!」
「これは……、お互いのエースの一騎打ち。これは痺れますね。実況席の視点だと分かりやすく、観客側からはとても面白いものが見られるでしょうね」
「おぉっと、ここで鈴木選手がT2Wの霧ヶ峰選手の裏に回っている! これは……、まずいぞ!!」
「霧ヶ峰選手が裏からの攻撃に気づきましたね」
「さぁ、裏から来ていた鈴木選手を撃破。しかし、柳町選手がそれを狙っていたのか、すでに霧ヶ峰選手側に攻撃しに来ていますね」
「これは、霧ヶ峰選手が詰みましたね」
「えぇ、柳町選手が落とし切って、爆弾を持っている霧ヶ峰選手を撃破。そして、NRTが防衛成功です!!」
「鈴木選手が霧ヶ峰選手に裏取りを仕掛けたのが上手かったですね」
緊張の糸が解ける。終わった……。俺はゲーミングチェアに凭れ掛かり、観客席からの歓声を幕張メッセの天井を見上げながら聞いていた。
「さぁ、優勝は……、なんと……、去年の雪辱を晴らしNRTが優勝だー!!」
【専門用語集】
1. フリックショット
フリックショットとは、瞬時に敵にエイムを合わせて撃つことです。 スコープなどで構えていて、スコープの端の視界に敵が入った瞬間に素早くマウスを動かしてそのまま撃つことです。当たり前のように見えてかなりの反射神経と技術を要します。




