048. 週末の買い物(2)
約束の時間よりも少し早めに着いたが、既に菜希は来ていた。
「早いんだな」
「まあね」
服装も制服ではなく私服だった。女の子らしい清楚な感じの服装だ。
「ほら、早く行くわよ」
そう言って、俺の腕を引っ張って歩き出す。
道中、高知市の観光名所として有名な「はりまや橋」が見えたが、朱色のその橋の長さはわずか10cmほどと短く、日本三大がっかり名所のひとつとして揶揄されている。実際に実物を見てみると確かに「しょぼいな」と思った。
まあ、この朱色のこじんまりとした橋が、高知の街並みにポツンとある様子が、どこか趣を感じさせる気がする。それでも観光名所としてはあまりインパクトはないな……。
菜希は見慣れているのか、特になんの反応もせずにスタスタと歩いて行った。
「なあ、どこに向かってるんだ?」
「昨日調べておいたパソコンショップよ」
そう言って路面電車に乗り、電車に揺られること数分、俺たちは知寄町で下車し、そこからさらに歩いて行った先にそのパソコンショップはあった。
東京では聞いたことのない、地方独自の独特なショップだった。
店内手前は特に家電量販店と大差ないレイアウトだったが……、奥にゲーミングデバイスコーナーがあったり、自作パーツを販売しているコーナーがあり、一般的な家電量販店とは一線を画すものがある。
「ここかなり品揃えがいいな……」
「そうね。わたしも初めて来たけど、なかなかいい店じゃない」
菜希は、店内を見て回る。
「で、調子が悪いっていうのはどこが悪いのか分かってるのか?」
「ディスプレイに映像が映らなくなったのよ。何度かパソコンを再起動とかもしたんだけど、映像が映らなくて……」
「なるほどな」
菜希が部屋に置いてあるパソコンの様子をスマホで見せてきた。確かに、電源は入っているのに、ディスプレイに何も映っていないようだ。
「ディスプレイに映像が映らないって言っても色々と原因はある。モニターの接続を一度外して、もう一度接続してみたか?」
「えぇ、やってみて、駄目だったわ……」
「ケーブルを変えてみたりはしたか?」
「えぇ、したわ。元から調子悪かったのよ。映像も乱れることが偶にあったし……」
「うーん、そうなるとグラフィックボードの調子が悪いか?」
「やっぱり?」
医師の問診のように一つずつ可能性を潰していき、最後に残った答えから悪い部品を導きそれを交換する。菜希の話では使っているパソコンは兄から譲り受けた物らしく、かなり古いものらしい。
グラフィックボードにガタが来ていてもおかしくはない。
「グラフィックボードも種類多いね……」
菜希はずらりと並ぶグラボを見ながらそう呟いた。
グラフィックボードにも色々と種類はあるが、性能と値段はピンからキリまである。安いものは性能がそこまで高くなく、逆に高い物は高性能と分かりやすい。結局は予算と電源との兼ね合いになる。
菜希の使っているパソコンのスペックは既に分かっているので、予算とスペックを総合すると選べるグラボは限られてくる。
「まあ、1070じゃないか?」
「このRTXとGTXの違いって何?」
「GTXは旧規格、RTXは新世代の規格だな。新規格はグラフィック軽量化システムとリアルタイムレイトレーシングに対応してるから……」
「ちょっと待って……、意味わかんない!」
「別に違いは新しいかそうでないかの違いだけだ。予算と性能を考えると……、GTX1070が最適解だと思う」
俺は店のパンフレットに書かれていたグラフィックボードの仕様表を見ながら答える。
「そうだよね。でも、新規格って言われると、なんか引かれるけど……」
「そのおさがりのパソコンをいつまで使うかによるな。もし、今年までに買い替えるなら1070でいいだろうし……」
「まあ……、そっか……、そうだよね」
菜希はそう言いながら、目の前のグラフィックボードを眺める。
「値段も手頃だしね……」
俺は、そう呟きつつ菜希の背後を通り、店員を探す。幸いなことに店の奥の方でレジ対応をしていたので話かけやすい位置にいた。
「すみません」
「はい、何でしょうか?」
若い女性店員さんだ。営業スマイルなのか自然な笑みなのかわからないが、とりあえず好印象を与えてくれる人だった。
「あのー、ここのショーウインドウに飾られてるグラフィックボードを購入したいんですが……」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員はショーウインドウの方へと向かった。
「ありがとう、選んでもらって」
「別に構わないよ。俺も最新のグラフィックボードどんな感じか見れたし……」
「そう……」
どこか素っ気ない感じに菜希は返事をした。しかし、俺にはわかる。内心かなり喜んでいて、そのことを悟られないようにわざと素っ気なく振る舞っている。その証拠に微妙に口角が上がっているのを俺は見逃さなかった。しばらくすると店員が戻ってきたので話を進めることにする。
「では、レジはこちらになりますので、会計をお願いします」
「はい、わかりました」
菜希はそう返事し、レジに向かう。店員さんは俺が買うと思っていたのかちょっと驚いた表情を浮かべていたが、すぐに営業スマイルを維持したままレジに向かっていった。
これで一件落着かと思いきや、買い物を済ませた菜希は、まだ何か言いたげな顔をしていた。
「どうした?」
「いや……、その……、まだ行きたいところあるんだけど……」
「わかった、付き合うよ」
菜希は目を輝かせてお礼を言うと先程と同じように先行して店を出た。行き先も告げずに……。




