047. 週末の買い物(1)
カーテンから差し込む朝日を浴びて、ゆっくりと目覚めた。
枕元には、スマホが置いてある。
「もう、朝か」
ぼんやりとした意識のまま、スマホを手に取る。液晶画面に表示されている時刻は、まだ起きるには早い時間だった。
今日は土曜日なので、まだ惰眠を貪る時間は十分にある。
「まだ、寝れるな」
そう呟いて、再び布団を頭からかぶる。
しかし、一度覚醒してしまった意識はなかなか眠りにつかない。
「仕方ないか……」
俺は、諦めて布団から這い出た。そして、カーテンを開けると、窓から外を眺める。外から差し込む光を浴びていると、徐々に意識がはっきりしてきた。
「よし!」 と気合いを入れて立ち上がる。
そして、そのまま洗面所に向かった。
両親の姿というものをここ最近は見ていない。母親も、父親も、仕事でほとんど家を空けており、たまに帰ってくるがすぐにまた出て行ってしまう。
そんな薄い関係の方が俺にとっては都合が良い。もし、まともな家庭だったら俺の記憶が欠落していることにいち早く気づかれていただろう……。
そのことについて言及されるのは非常に面倒くさい。
「俺の両親は本当は違うしな……」
鏡に映る自分の顔を見ながら呟く。この顔を見るのも随分と慣れてきた気がする。
本当の両親はいま何をしているのだろうか。転生してから牧野に再開して、どこか不思議な感覚になった。毎日なぜか懐かしい夢を見る。
だが、両親に会いたいかと言われると、そうは思わなかった。柳町俊吾は死んだ。もし、両親と顔を合わせても……、この場にいる俺は「赤の他人」でしかない。
ここでは、俺は守月裕樹という人間なのだから……。
「さて、朝飯を作るか」
俺はキッチンに立つと、冷蔵庫を開けて中身をチェックする。卵にベーコンにレタスがある。後はパンを焼くだけだ。
料理はさほど得意ではないが……、できないわけでもない。大学時代は一人暮らしをしていたということもあり、簡単な朝食なら作れる。
そんな矢先――、ポケットに入れていたスマホが振動した。
「誰だよ、こんな朝っぱらから」
ポケットに手を突っ込みながら、誰宛かも特に見ずに、スマホを耳に当てる。
「はい、もしもし」
「わたしだけど……」
「あぁ、わたしだけじゃ、誰かわからないな」
「んっ……、篠宮菜希、わかるでしょ?」
「ああ、お前か……」
朝っぱらから怒鳴り声をあげる不機嫌な声色の彼女は、いつもの教室でクラスメイトと話している穏やかな声とはまるで別物である。
本当に同一人物かと心配になるくらいだ……。
俺はそんな彼女の「秘密」を一方的に知り……、そこから一方的にゲーム同好会に巻き込んだが、それとこれは別問題。休日に怒鳴られる筋合いなんかない。
「今、忙しいから切るぞ」
そう言って切ろうとした時だ。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
電話越しでもわかるくらいに慌てていた。そんなに焦ってなんの用事なんだろうか。電話を切るのをやめて次の彼女の言葉を待った。
「ねぇ、今日って暇だったりする?」
「まあ、そうだな」
「それならさ、お昼から買い物に付き合ってくれない?」
「買い物?何を買うんだよ?」
「それは、その……」
「なんだよ、ハッキリしろよ」
「昨日からパソコンの調子がおかしくて……。部品買いたいから付き合って欲しいのよ」
「パソコンくらい自分でやれよ……」
「わたしだってそうしたいわ!」
「なら、なんでそうしないんだ……」
「それは、その……。ほら!あんたも暇ならいいじゃない!」
理由になってねぇよ……、と心の中でツッコミを入れる。だが、彼女の発言がいつも理不尽なのは日々の会話の中でも明らかだ。
(芽依がいないときはいつもこうだしな……)
まあ、察するにパソコンの部品についての知識がないのだろう。俺も胸を張って自信があるかと言われると……、微妙ではあるが人並み程度の知識はある。
断ったら断ったで面倒なことになるだろう。
「わかったよ。行けばいいんだろ?」
俺は、渋々承諾するしかなかった。
「なら、十三時に高知駅前で待ち合わせね!」
「はいはい……」
「それじゃあね!」
そう言って、電話は切れた。
「……ったく、人使いが荒いやつだ」
俺はため息を吐きながらも、朝食の準備に取り掛かる。朝の爽やかな目覚めは一人のクラスメイトの電話によってぶち壊されてしまった。
「てか、パソコンの調子がおかしいって……、そんな状態で大会に参加してたのか?」
俺は、朝食のパンを食べながら呟く。
「まあ、終わったことを気にしてても仕方ないか……」
それよりも今は、目の前のことに集中しよう。俺は目の前に用意した朝食を食べ終え、食器を片付けてから駅前に出かける支度を始めた。




