046. 牧野の反省会
翌日、俺はいつも通りに学校を終えると、芽依と菜希と共に部室へやってきた。部屋の様子は一昨日までとは全く違うものになっていた。
「さてと、じゃあさっそく始めようか!」
牧野が言うと、俺たちはゲーミングチェアに腰を下ろす。いつの間にプロジェクターを取り付けたのか分からないが、ノートパソコンに接続した画面を映し出す。
「まずは、出来ていなかった大会の反省からしていこうか。順位は良かったけど色々と思うところはある。特に戦術面かな……」
牧野はいきなり俺が課題に感じていた本題に切り込んでくる。そして、その言葉にピクリと反応した芽依の動きを俺は見逃さなかった。
かつて、天才理論派と呼ばれた牧野がこの前の試合の戦況をどう捉え、どう分析するのか、その答えを俺は聞いてみたいと思った。
「基本的に戦術は戦場の環境で変わってくる。臨機応変に情報を取って戦術を変える。まぁ、スタバトは情報量が多いからね、細かいことを言うと色々あるんだけど……」
牧野はそう言いながら画面上に簡単な図を描き始める。そして、その図を使って俺たちが戦った試合の動きをペンで簡単に解説し始めた。
「一戦目の最終ラウンドは交戦を選んだよね。これは選択肢のひとつとしてはありだとは思う。ただし、最適解ではなかったと俺は考えている」
牧野はそう言うと図をさらに書き込んでいく。
「まず、この局面での最善手だったのは『交戦』ではなく『撤退』だった。理由は『残りの敵の位置が把握できないから』だね」
確かに一戦目の終盤、俺たちは最後の敵の位置を見失っていた。牧野はあの場で無理に戦闘を続けるより、一度引いて態勢を立て直すほうがいいという判断が出来るのが理想だと言う。
だが、そんな判断が瞬時に下せるほど、あの緊迫した場面で頭は回らないだろう。
ある程度大会の経験がある俺ですらそうなんだから……、今回の大会が初参加の芽依にそのレベルを求めるのはちょっと厳しいように思える……。
「バトロワにおいて最終円での『交戦』は最もリスクが高い行為だと言える。最後に突っ込んだチームが圧倒的に有利になる」
その言葉を聞きながら芽依は下唇を噛んでいた。悔しそうなその表情を見ると、俺は「何か言いたそうだな……」と心の中で呟いた。
「この試合で良くも悪くも鍵を握っていたのは守月君の戦闘能力だった。火力がある選手を要するチームはファイトで勝ちやすいが順位が安定しにくいという傾向がある。だから、その火力をどう活かしていくかが重要になってくる」
その言葉を放った牧野がどこか懐かしそうな表情を浮かべた。
(はいはい、その節は物凄く迷惑をおかけしました……)
心の中で牧野に謝っておく。NRT時代の牧野の苦労は、俺と啓介の突っ込み癖が原因なんだからな……。何度怒られたことやら……。
「戦闘においてフィジカルがある選手の手綱をどう握るかが重要になってくる。守月君を自由に戦わせるというのもひとつの戦略だし、戦わせずにステイさせるのも戦略だ。この絶妙なバランスをどう取るか、これを今後は第一に考えていって欲しい」
牧野はそう言うと、俺のことを真っ直ぐに見つめてくる。俺はその瞳に吸い込まれるように視線を外せなくなった。
なるほどな、常にそういう風に考えて次の手を考えていたのか……。
だが、正直今の芽依にそれをやれというのは酷な話だ。この話を芽依が芽依なりにどう理解し、どう活かしていくかが今後の課題になるんだろう。
「ただ、この前の試合が初めての大会だったんだよね。なら、ひとまずは上出来だよ」
牧野はそう付け加える。芽依はというと、下を向いたまま何か考え事をしている様子だった。
「さて、ここからは映像を見ながら気になる点を話していくね。芽依ちゃんは疑問があったら遠慮なく言ってね」
牧野の言葉を聞き、芽依は小さく頷いた。そして、スクリーンに流れる映像に集中し始める。牧野はそんな芽依の様子を見ながら、話を進めていく。
牧野の指摘は的を得ていて、ひとつひとつの考え方が理に適っているように思えた。
映像見た後からなら何とでも言えると思うだろうが……、牧野はおそらく戦場で同じ状況ならば同じ判断をするだろう。それだけは断言できる。
「さて、守月君」
「はい……」
俺は牧野に呼ばれ、視線をスクリーンから牧野に向ける。
「この反省会を経て、君はどう動く?」
俺は少し考えてみる。この問いは牧野からのメッセージのような気もした。
「うーん、そうですね……」
俺は少し考えてから口を開く。
「変わらないですね。この前の試合も今も、俺は俺なりに戦うだけですから」
「なるほどね……」
牧野はそう呟く。そして、少し間を置いてからこう続けた。
「安心したよ。これで、攻めるのを止めますって言ったらどうしようかと思ってた」
牧野はそう言うと「ふっ……」と小さく笑った。
「まぁ、君がどんな選択をしようが、俺はそれをサポートするだけだけど……。でも、君は変わらないとなんとなくそう思った」
牧野はそう言うと「さてと」と呟き立ち上がる。
「今日はここまでにしようか。続きはまた今度にしよう」
そして、スクリーンを見ていた芽依に牧野がそっと話しかける。
「今度もうちょっと詳しく説明するよ。ゲームは考え方が大切なんだ。自分の考えに固執するのではなくて知識を幅広く得ることで、視野が広がるし、それを他人に話すことで言語化の能力が身につく。司令塔ってそういうのが求められるんだよね」
芽依は不安そうな表情を浮かべながらも小さく頷いた。
申し訳ないが……、俺には芽依に適切なアドバイスを送ることはできない。教えれるものなら教えてあげたい。だが、そんなセンスがあるなら前世で戦術担当をクビになったりしていない。
(本当にすまん……)
そんなことを考えながら芽依を引き連れて、校舎の外に出ると、空は一面橙色になっていて、地平線の向こうに沈みかけている太陽がとても綺麗に見えた。




