045. 準備室の掃除(2)
翌日――、
俺はいつも通りに学校を終えた後、新たな部室候補の場所へと向かっていた。
部屋に入ると、昨日と同じように埃が一瞬で部屋に舞う。俺は制服の袖で埃を吸わないよう、口元を抑え、事前に用意していた体操服に着替えた。
芽依と菜希は掃除の用具や着替えを一式済ませてから部屋に向かうということで、少し遅れて部屋に合流する予定になっている。
「おっ、もう来てたんだね」
「牧野さん、お疲れ様です」
「とりあえず、始めようか……。さっさと済ませないと荷物運び込めないからね」
牧野はそう言い残すと部屋に入り、まずは部屋の窓をすべて全開にして換気を始める。窓を開けると更に埃が舞って鼻がムズムズする。
(なんでこんな状態になるまで放置してたんだ……)
端のロッカーには掃除道具が備えられていた。元々部室として使っていたのだろうか、LANケーブルが接続されたままのデスクトップパソコンが一台置き去りにされている。
試しに電源を入れてみようとしたが、スイッチを入れても画面が反応することはない。
「それは駄目っぽいね。廃品は全部裏口に運んでくれって教頭先生から伝言」
「なんかいいように使われてる感じがする……」
あの禿げ教頭……。心の中で悪態を吐きながら、俺は要らなそうな備品を外に出してしまう。長年使われてなさそうなものばかりが保管されている。
「まあ、現実は甘くないってことさ。旨い話には裏があるもんだよ。ほら、菜希ちゃんと芽依ちゃんも来たみたいだ」
廊下を見ると、牧野の言うように菜希と芽依が体操着に着替えて部屋にやってきていた。
「とりあえず、使えないものや要らなそうなものは、廊下に出して裏口に運んでいこう。守月君と俺は裏口に荷物を運ぶから、要らないものの選別は任せていいかな?」
菜希は「分かりました」と返事をすると、芽依と共に荷物の選別を始めた。俺は牧野と一緒に廊下に出されたものを特別棟の外の裏口に運び出していく。
想像以上の肉体労働に俺はすぐに音を上げそうになったが……、牧野は「まだいける」と俺に対して発破をかける。そういえば、コイツ筋肉バカだったな……。
「ほら、若いんだから、頑張れ!」
「はい……」
(馬鹿か……、俺はお前みたいに体を鍛えてねぇんだ……)
そんなことを考えながら、部屋と裏口を何往復かすると、牧野は額の汗をぬぐうような仕草を見せる。俺も同じくらい汗をかいていて体操着の首元に塩が染みているような感覚があった。
「そういえば、回線が学校のものだとゲームするには少し弱いよね。個別に契約しないとダメそうだ。これは早急に取り掛からないと……」
牧野はそう呟きながら、廊下の窓から外の様子を確認する。確かに、学校の回線は貧弱でとてもじゃないがオンラインゲームができるようなポテンシャルはない。
こういう回線周りの契約などは大人が絡まないといけないため牧野という存在は非常に助かる。絶対に俺だけの力では解決しない問題だ……。
「少し休憩しようか。流石に堪えるね……」
牧野はそう言うと、廊下に座り込み、そのまま廊下に座り込んだ。俺もその隣に座り込む。廊下に選別された不要なものは芽依と菜希が外まで運び出していた。
「さてと、そろそろ再開しようか」
牧野は立ち上がると、そのまま部屋に戻り始めた。俺もその後を追うように部屋に戻る。選別するものはあとわずかで終わりそうだ。
「よし、これで終わりかな……」
選別を終えた芽依が呟く。俺も最後のものを外まで運び出し、部屋の中は先ほどの状態が嘘だったかのように整理整頓されていた。
「よし……じゃあ、あとは掃除機をかけるくらいか」
「そうですね……」
俺達は分担して部屋にあった埃を吸い取ると、持参していた雑巾で乾拭きを始めた。
「よし、これで大丈夫そうだな」
牧野が部屋の中を見渡して言う。部屋も綺麗になったし、これならすぐにでも使えそうな感じだった。牧野は「さてと」と言うと、俺を手招きする。
「さて、車に荷物があるから一緒に取りに行くのを手伝ってくれ」
俺は「はい、わかりました」と返事をし、牧野と一緒に部屋を出る。外に停められた車の中にはぎっしりと荷物が詰め込まれていた。
「これ、全部ですか?」
「そうそう、これをこれから部室に運ぼう!」
牧野はそう言いながらトラックの荷台を開けると、大きな段ボール箱を何個も取り出していく。俺はそんな様子を後ろから見つめていたが、箱の中身が気になり始めた。
「これは、なんなんですか……?」
「ゲーミングチェア、パソコン、組立式のデスク、あとはモニターとか……。ゲームやるのに一応要りそうなものをひとしきりかな」
俺は牧野が持ってきた段ボール箱の中身を確認する。中身を見て、俺は心の中で驚いた。かなり本格的なスペックのものが一通り揃っている。
どうやら、牧野は本当にこのチームを全力でサポートする気でいるらしい……。
「あとは活動してみてから足りないものを補充かな」
牧野はそう言いながら段ボールを荷台に積んでいく。俺もその作業を手伝い、部室に運んでいく。中身を出すのは、菜希と芽依に手伝ってもらった。
「思ったより早く終わって助かったよ」
全て運び終えるの頃には日が傾きかけていて、牧野は俺たちにそう言った。
「それにしても……、かなり本格的な感じですね」
俺は素直に感想を言う。ゲーミングデバイスが一式揃った空間はどこか学校の一室だというのを忘れるほどには雰囲気がある。
「これは……、すごい」
菜希が感嘆の声をあげる。芽依も声こそは出さないが、その目は輝いていた。
「さてと、今日はこれで解散にしよう……。明日からはデバイスのセットアップかな」
俺たちはそれぞれ返事をし、荷物を持って部屋の扉を閉めた。明日から新たな環境で、本格的に始まるゲーム同好会の活動に、俺は今から胸を躍らせていた。




