043. コーチ活動の交渉(2)
高知市街の道路は意外にも舗装されていて走りやすかった。
彼が通っている「土佐高校」は市街から少しだけ離れた場所にある。高知龍馬空港から高知駅の市内の大通りを抜け、川を渡った先を右折する。
県道274号は意外と狭く、対向車も割と速度を落とさず突っ込んでくるので、注意しながら車を走らせていた。田舎のドライバーは慣れてるのかスピードを落とさないな……。
山を抜けると再び大通りに出る。大通りが続くと思いきや、左折した瞬間にまた細い山道に戻っていった。春野広域農道から少し外れた山道の上に学校はあった。
「普段はバスで来てるんだよね。この道は歩けなさそうだし……」
彼は「そうなんです」と苦笑いを浮かべる。その表情からは普段の苦労が滲み出ている。学校がこんな山の上にあると流石に不便そうだなと思った。
「高校生ってしがらみが多いな……」
牧野はそうぼやいた。高校生という存在でできることには限りがある。彼らがやろうとしていることは、金銭面はもちろんのこと、大人の協力が不可欠だと個人的に思う。
「ゲームをプレイする場、設備は最大限に保証するよ。まあ、なかなか周囲の賛同を得るのは難しいけどそこは説得と実力を示していけばいい」
牧野はそう言うと、助手席の扉を開けて彼を車から降ろす。彼は「そのつもりですよ」と力強く宣言して見せた。その心意気が妙に心地よかった。
では、行こうとしようか、まずは説得からだな……。
(柳町、お前の意思は継がれている。俺もその一人になるためにここにいる)
牧野は心の中でそう語りかけた。彼が持つ最高のポテンシャルを引き出すためには、色々とやっていくことが沢山ある。そのための一歩がここからだ。
牧野は事務員の人から外部の人のために用意された入館証を受け取り、靴をスリッパと履き替えて学校の廊下を歩いて目的の場所へと向かう。
向かったのは、職員室だった。
「ご連絡させていただいた、牧野隆史と申します!」
職員室に入ると面談用の部屋に通される。同席したのは、教頭先生と事情を知っている美和先生、そして代表者である守月くん、牧野という面子である。
「学業に支障が出ない範囲で活動していく方針だと言ってますし……、牧野さんは、その、なんと言いますか……」
中野美和と名乗った女性はどこかで見たことあると思ったら数年前に柳町の葬式の席で顔を合わせたことがある女性だった。確か……、高校の恩師って言ってただろうか……。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが……、柳町俊吾という人をご存知でしょうか?」
ビクッと中野先生の肩が揺れるのが分かった。
「えぇ、高校の時の教え子でした……」
「実は彼と自分はチームメイトとしてゲームの競技を戦ってました」
中野先生の大きな瞳が驚いたように見開かれた。
「本当に偶々なんですが……、ここの生徒さんが、昨日行われていた企業がスポンサーについている大会に参加されていまして」
教頭先生と中野先生の視線が守月に集まった。
「昨日の大会は非常に盛り上がり、彼らも好成績を残していました。これからの彼らの活動は、やり方次第では大きな話題を生むと思います。彼らがもっと上に行くには当然コーチが必要になります。美和先生もご存知の通り、私は元プロで柳町と一緒に世界を目指していました。ノウハウはあります。もちろん、学校的にも彼らが活躍すれば他の部活同様に名が売れるチャンスですし、この学校は『先進的な学校なんだな』と世間から認知されるきっかけにもなると考えているのですが……」
牧野の要求はただひとつだった。
この学校は、部活動のみ学外からのコーチを要請することができ、同好会にはその権限がない。学外からコーチを呼ぶには部への昇格が絶対条件となる。
現在のゲーム同好会はその基準を満たしていないので、牧野を外部のコーチとして呼ぶことはできないということになっている。
端的に言えば、用件満たしてないけど実力あるから認めろということである。
「私は、折角東京からコーチとしてわざわざ来られているんですから……、認めてあげてもいいと思います。どうでしょうか、教頭先生」
美和先生がそう言うと、教頭は「ですね……」と言葉を漏らす。
「では、今日から正式にコーチとしてやらせてもらいますね」
牧野がそう聞くと、教頭は「分かりました、時間だけは守ってくださいね」と付け加えた。隣の席に座る、中野先生は少し苦笑いしながら守月くんを見ていた。
「守月君もそれでいいんだよね?」
中野先生がそう聞くと、守月くんは即座に答える。
「はい、もちろんです」
こじれるかと思ったが割と簡単に話はついた。教頭先生は「本当に今回のは特例だからね?」ともう一度釘を指す。牧野は笑いながら「ありがたいです」と返した。
職員室を出ると、今度はコンピューター室へと向かう。




