041. 配信者の大会(7)
久しぶりの大会は、大きな胸の高まりから始まった。
弾けるような高揚感と共に、脳が冴えていくような感覚。視界がクリアになり、自分の心臓の鼓動が聞こえてくるのを、鮮明に覚えている。
芽依の声が、菜希の声が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
「ごめん、なんか途中から自分の指示に自信持てなくて……」
大会が終わると、芽依が弱々しくそう呟いた。
「それはみんな同じだよ。わたしもなんか自分の声が聞こえなかったっていうか、全然声出てなかった気がするし……」
菜希も、少し自信がなさそうな声で言う。
「これも経験だ。いきなり全部上手くいくわけないんだから、次に向けて頑張ろう!」
芽依の指示は総合的に見て良かった。問題は、後半の動きに自信が持てなかったところだ。攻めを意識させ過ぎて、引き際が分からなくなってしまった。
これはもう経験しかない。
「本番はもっと先だしね。私、上手くいくかな……って超緊張したし……」
「そうだね、わたしも最後の方はほんと緊張した」
菜希と芽依が続けて言う。後半の戦闘は無我夢中で憶えてない。
「最後は負けちゃったけど……、何が悪かったのかちゃんと分析したい!」
芽依は悔しそうに言う。その心意気は良い。本当は……、このまま今日のアーカイブから反省会をしたかったが、残念ながら今日はもう時間が無い。
「明日は試合の反省会、したいんだけど……。二人とも、空いてる?」
「私は空いてるよ!」
「わたしも」
「じゃあ、明日の放課後に反省会だな!」
そう約束して、通話を終了する。各々が感じたことはきっとあるはずだ。ひとまずは、一人で考えてからみんなで考えよう。
(課題はしっかり浮き彫りになったな……、芽依にアドバイス送るの難しいな)
ベッドに横たわり、ぼうっと天井を見つめる。
大会が終わっても高揚感は抜けなかった。戦い抜いた心地良さと疲れは感じるが、不思議と眠気は襲ってこない。……明日の反省会、何から話そうか。
そう考えただけで、自然と笑みが溢れる。
「なんか腕の動きも、全体的に良かったよな……」
本気で腕を動かしたのは、この体では初めてだった。まだ、少しだけ違和感のようなものは抜けないが……、この体でも十分なパフォーマンスを出せることが分かった。
「さて……、もう寝よ……」
そう呟いて目を閉じようとした時、スマホの着信が鳴り響いた。
「……なんだ?」
画面を見ると、発信元はまたしても知らない番号だった。
「はい、もしもし?」
少し警戒しながら返事をする。
「もしもし、夜分遅くにすみません。大会運営の牧野です!」
「あ、牧野さん? どうも……」
聞き馴染みのある声がスマホのスピーカーから聞こえる。
「大会お疲れ様でした。……どうでしたか?」
「いや、まあ、その……。良い経験になりましたよ」
少し言葉に詰まったが、本心で思ってることを牧野に伝える。
「そうですか、良かったです!」
牧野は少し安心したような声でそう言った。
「実は、ちょっとご相談があって電話させてもらいました」
牧野は、少し遠慮したような口調で言う。
「自分をコーチとして指導させて貰えませんか、という相談なんですが……」
「……え?」
「突然、こんな連絡をしてしまって申し訳ないんですが……。明日、会ってお話させていただけないでしょうか?」
「えっ、会うって……、高知県ですけど、本気ですか?」
「はい、本気です」
「え、でも……」
そんなの、流石に……。いや、でも牧野ならやりかねないか?
「実はですね、もう空港のチケットも取ってしまってて……」
どうやら本気らしい。……なんかもう、すごい展開になってしまって頭が追いついてこない。だが、必死に回答を振り絞って牧野に返事をする。
「……はい、分かりました。明日、空港に迎えに行きます!」
「着くのは夕方になるので、また連絡します」
「はい、待ってます!」
そう返事をして通話を終えた。正直、まだ頭が混乱していた。寝ぼけていた頭が一気に覚醒して心臓の鼓動が早まっていく。
牧野に会える。しかも、自分をコーチとして指導したいという話だ。
「マジか……」
もう夢みたいだが……、現実らしい。正直、未だに実感は湧いていないけど……。とりあえず、明日空港で牧野に色々と聞きたいことがある。
(なんか……、疲れたな)
寝よう。そう決めて布団に潜る。
(明日になったら全部夢でしたーとかならないよな……?)
そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りについていた。




