039. 配信者の大会(5)
主催者である「結城ミク」公式の生配信では、既に数万の視聴者がその結果の行方を見守っていた。特別スタジオのような場所で肩を並べる彼女と一緒に牧野はゲスト席に座っていた。
「さて、大会が始まりましたね。特別ゲストをお呼びしています。今回のゲストは活動者ではありません、裏方のスタッフさんを拉致ってきました!」
結城ミクはそう言いながら嬉しそうに牧野のことを指さした。
「裏方ゲストの牧野隆史です。よろしくお願いします!」
チャット欄を見ると、ほとんどが「パチパチ」という拍手のスタンプを送ってくれていた。こういう和やかな雰囲気のコメント欄は随分と久しぶりに見た気がする。
中には「えっ、牧野ってあの牧野?」みたいなコメントもあった。
「はい、今回はですね、かなり無理難題を言いまくって、大会の準備とかで裏方さんをめちゃくちゃ困らせました。そう、もう困らせちゃったのならしょうがないや……、ということで最後まで裏方を困らせてやろうと……」
そう、彼女はぶっ飛んでいるのである。だが、配信者としては満点だろう。彼女の信念は「当たり前のことはつまらないからぶっ飛んだことをやる」だからな……。
「当日何も知らない状態でゲスト席まで拉致ってみました!」
コメント欄は一気に牧野に同情するようなコメントで溢れかえる。開幕の掴みとしては上出来であり、要らない情報をペラペラ喋る彼女に頷くだけで場が進行する。
「ではでは、大会の行方を見ていきましょう。さぁ、注目のチームは???」
「注目のチームは、『今日のご飯は?』チームですかね」
「私の今日のご飯は、昨日作ったカレーですね。牧野さんは、カレーって何日までいけます?」
「そういうチーム名です……」
「私は三日食べると飽きるかなぁ、そう思いません?」
「すいません、真面目にやってください!」
どうやら彼女は真面目に実況する気はないらしい。今回のチーム分けは一般公募枠以外はチームバランスに偏りがでないように「ドラフト制」を採用している。
一般公募枠が上位に入賞したことはいままで一度もない。
それほど視聴者とそれを生業として活動するものとの間の実力は乖離している。牧野はその状況を崩してみたかった。だから、彼を捻じ込んだ。
実力が本物ならもしかしたら――、
「ということで、真面目にやると、『今日のご飯は?』チームですが、いまSNSで大注目を浴びている麻倉萌絵選手と名門プロチームに所属してるミハエル選手に注目です!」
急に真面目な口調でそう紹介する彼女に牧野は苦笑いを浮かべる。
「この二人は今までの大会にも参加してもらっていて『皆勤賞』ですが、魅力はやはり何と言っても基本に忠実であるということですね」
こういうカスタムをやると場慣れしている人間が上位に残っていく。
「ミクさんはどのチームに注目してますか?」
「私はねぇ、一般公募枠のこのチームかな。龍馬ゲーミングっていうやつ??」
「へぇ、ちなみに理由は?」
「一番未知数だから……。参加者の実力はほとんど知ってるし」
本配信の神視点――、いわゆる全体の動きを追うことできるカメラでは各々のチームが安全地帯に向かって移動を開始している最中だった。
「私の推してるチームが早速戦闘になりそうじゃないですか?」
その言葉と共に神視点は「龍馬ゲーミング」の動きを補足した。安全地帯からはかなり離れているため早めに移動したのだろう。奥側でまだ物資を漁っていたチームと接敵することになった。
さて、どういう勝負を仕掛けていくか、見物だな……。
「おー、仕掛けに行きましたね。ファイトまでの判断が非常に迅速ですね」
「指示出してる子が狂暴なのかな?」
「いや、そういうわけじゃないと思いますけど……」
だが、強気の判断なのは間違いない。「龍馬ゲーミング」に絡まれているのは、前回大会で惜しくも準優勝だった「トビモネ」を擁する、「突っ込まないよ!」チームである。
注目していた戦闘はすぐに終わってしまった。
「えっ、私いま何が起こったのかよくわかんなかったんだけど……」
序盤はダメージによる体力加算がないため、壊滅されやすいとはいえ……。たった数秒の間に「龍馬ゲーミング」が「突っ込まないよ!」を壊滅させてしまった。
「ヘッドショットであっという間に制圧しましたね。このエイム力は驚異です。この『龍馬ゲーミング』というチームは一般からの公募ですが、高校生チームと聞いています」
えっ、私より若いんですけどと呟いた彼女の言葉を華麗にスルーして、牧野は先程の衝撃的なプレイについての補足をする。視聴者もかなり困惑しているようだった。
彼が使ってる「リボルバー」という武器は、非常に玄人好みの武器で一発のダメージが大きい代わりに装弾数が七発しかなく、武器の中で一番命中させるのが難しい。
それを容易く頭に当てるものだから末恐ろしい……。
「高校生かぁ……、未来あるね。将来有望、やっぱり私の眼に狂いはない」
「将来有望なのは確かですね」
「あぁ、ほらどんどん攻めていくよ。止まらないよ!!」
安全地帯に向かう部隊を片っ端から潰していく「龍馬ゲーミング」はまるで戦車のように敵を轢き殺していく。
一見すると、無理やり突破口を開いている攻めのように見えるが……、ちゃんとタイミングも漁夫の警戒も怠っていない。なるべくして、一方的に蹂躙するような形になっている。
(司令塔をしっかり置いて戦況を分析しているな……)
司令塔は恐らく火力を出している選手じゃないだろう。判断に迷う場面も多々あるが、それは大会慣れしていないが故だろう。戦術の選び方や判断は悪くない。
「順調に『龍馬ゲーミング』と『今日のご飯は?』が優位ポジションを争っていますが……、ポジション的には『今日のご飯は?』が有利でしょうか?」
牧野は「そうですね」と言いながら残り三部隊となった試合の行方を分析する。自分だったら残った部隊を引き合わせて最後のタイミングで突っ込むけど……。
「おっと、行きましたね。『龍馬ゲーミング』が奥側の有利ポジを取る『今日のご飯は?』に突っ込みましたね。結構大胆に行きますね」
神視点が戦闘の様子を捉える。両者のエースの睨み合い。
「ミハエル君、なかなか顔を出しませんね。キルログを見てビビったんですかね?」
「あんなキルログ見たらそりゃあね……」
そんなことを話しているといきなりミハエルが先に切り込んだ。ジャンプをしながらスライディングして加速する。この動きで弾を当てるのは無理だ。
ミハエルの真骨頂はこの動きで弾を交わし、サブマシンガンで殺すというもの――、
「右から行った。これは流石に反応できない……」
ギュンと音が出そうなほど速い動きで右に移動するミハエル。この動きは熟練度の高い彼にしかできない動きだ。だが、そのあり得ない動きに、あり得ない反応速度で彼の銃口が反応した。
「えっ、何それ。意味わかんなくて怖い」
結城ミクがそんなことを呟いていたが……。
(なんだあの反応速度は、反応速度だけじゃない。あれだけ速いキャラの動きだったのに標準は頭をしっかり狙っていた。なんだコイツは……、異常だ。これじゃあまるで……)
「牧野さん、牧野さんってば……、どうしたんですか?」
「あっ、はい……。ちょっと、凄すぎて言葉を失ってました、すいません」
牧野の脳裏に浮かんだのは、NRTのエース「柳町俊吾」のエイムだった。アイツの撃ち方にそっくりな奴が現れた……。それにまだ高校生だというのだから……。
年齢的に言えば柳町以上の才能かもしれない。
「あー、熱い展開でしたが……、漁夫来ちゃいましたね」
「そうなりますよねって感じです。これは勝負ありましたね」
最後に残っていたチームが傍観しているわけもなく漁夫で勝利を捥ぎ取った。一試合目の勝者は「兎とメイドと龍」という名前のチームだった。




