003. 世界を目指す男たち(1)
2013年――、7月も中旬に差し掛かろうとしている。夏のうだるような暑さが本格的になり、その熱気を伴うようにNRTは世界選手権出場をかけた国内の予選トーナメントの予選を順調に勝ち抜いていた。
国内大会は2次予選まではオンラインで、決勝ラウンドとその予選からオフラインに切り替わる。対面のオフラインとゲーミングハウスで参加するオンラインでは雰囲気や熱量が全然違う。
去年は決勝で敗れてしまったので……、NRTは世界大会に出場することが出来なかった。
俺は実力的には世界に出れたと分析している。競ったチームとはスクリムでも苦手意識がなく、チーム内でも勝てる勝算はあった。しかし、勝負事に絶対はない。
本番の空気感、観客の熱量、緊張感――、これら全てが俺たちの判断力や本来持ちうる能力を大きく鈍らせた。大会というのは雰囲気に呑まれたら負ける。
俺は去年の悔しさを思い出しながら、会場での試合前ウォーミングアップをする。
(このチームで絶対に世界を目指す)
1次、2次予選は危なげなく突破することができた。というか、1次なんかで予選落ちしていたらもうチームは解散するとメンバーから言われるだろう。
また、勝ち上がってきたチームも最近は腕をあげてきているチームばかり。そして、世界大会の出場権は1位のチームしか与えられない。
ここにいる会場全員が「トップ」だけを狙っている。
さて、今日は7月27日で「THE WORLD」の決勝ラウンドに向けた予選がスタートする。幕張メッセに集まったプロチームは8チームある。
ここから、三位決定戦に進むチームと決勝に進むチームの合計4チームに絞られていく。去年はこの後の日程で非常に悔しい思いをした。だからこそ、今年にかける思いは強い。
そして、それはチームメンバー全員が同じだ。
「みんな、落ち着いていこう」
「あぁ、絶対に負けられない戦いだ」
「よし!、頑張るぜ!」
NRTのメンバーは全部で5名――、
NRTの創設者であり、海外プレイヤーを含めてもこのゲームでのフィジカルは五本の指に入るとネットでは専ら噂されている、前衛キャラを使う、俺――、柳町俊吾、年齢は20歳、身長は177cm体重は60kg。
IGL所謂司令塔を務め、後衛キャラを使う、Takashi.M(牧野隆史)、年齢は21歳、身長180cm体重80kg。今年からIGLを務めるチームの頭脳だ。
見た目はゴリゴリのマッチョマンで、とてもじゃないがゲームをやっているとは思えない体格……、これで頭脳派のプレイヤーだというのだから人間見た目で人を判断しない方がいいだろう。
続いて、Ryouhei.S(鈴木凌平)、年齢は20歳、189cm、87kg。彼はチームのムードメーカーであり、前衛と後衛どちらもこなすリベロである。
彼の強みは誰とでも仲良くできるというところにある。高校の頃はテニス部だったらしく、爽やかイケメンで、このチームの中で唯一の彼女持ちというリア充野郎である(だが、不思議なことに憎めない)
次に、Okaneko.K(岡田啓介)、18歳、165cm、55kg。彼は俺と同じく前衛をこなす。攻撃的なその姿勢から「狂犬」と言われている。
スタイルはエイムでねじ伏せるといった感じで、かなり好戦的なプレイをする。そんな彼のプレイに合わせて突撃するのが俺は大好きだ(たまに突っ込み過ぎで怒られるけど……)
そして、最後にHisanori.K(紅林尚成)、188cm、68kg。年齢は17歳で長身で細身な体型をしている。後衛キャラを使い、どんな状況にも即座に対応することができるというのが彼の特徴。まさに、縁の下の力持ちだ。
彼のゲームセンスは抜群で、どんなゲームでも上手いし、喋り上手だ。場を盛り上げることに長けている。ちなみに、最近動画配信を始めてチャンネル登録者が2000人を超えたとかなんかで喜んでいた。
そんな、個性豊かなメンバーと共に予選に臨んでいく。
対戦相手は「MMR」というチーム、相手も2次予選を突破してきただけあって手ごわい相手である。だけど、こっちだって負けてはいられない。
「よし、行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
対面ならではの緊張感が会場には走る。歓声が、声援が、観客の視線が俺たちに向けられている。ゲーム開始のカウントダウンが始まる。
俺は深呼吸をして、目の前の画面に集中する。
3……、2……、1……、スタート!!
「マップ中央によって敵を抑えてくれ」
「了解」
「THE WORLD」というゲームには勝利の条件が三つある。
一つ目は敵の殲滅、二つ目は爆弾を敵陣に設置し爆発、三つ目は制限時間切れ。ちなみに、制限時間切れは"防衛側"の勝利となる。
そして、前衛と後衛には役割がそれぞれある。前衛は敵陣の守りをぶち抜くアタッカー役、後衛は爆弾を設置し、爆発までの時間を稼ぐ。
このゲームの前衛は当然キルできる人間が当てられる。
防衛側である「MMR」は俺らのことをよく研究している。狂犬である岡田を警戒し、戦場になりえるエリアからちょっと引いた場所で守っている。
つまり、俺たちは多少無理をしてこの警戒網を突破しないといけないわけだ……。
(だが、岡田にそんな小細工が通じるわけがない。だってコイツは何も考えてないんだから)
「よっしゃー! ぶち殺してやるからみとけよ」
そう言って、彼は一直線に敵陣に突っ込んでいった。当然、俺も彼に付いていくのだが、少し後ろを気にしながら進む。
岡田の何も考えていない突撃により、入念に組み込んだはずの陣形も崩れてしまっていた。
想定外のケースが起こった場合、人間が取りうる行動は大きく分けて二つしかない。一つは現状維持、もう一つは陣形を崩してその場を対処しようとする。
そして、彼らがとった選択肢は後者だった。
MMRのプレイヤーたちは隠れていた場所から頭を出す。
岩場から顔を出すその一瞬を俺は逃さなかった。岡田は無事に蜂の巣にされたが俺は一気に前衛にいた三人の頭を順番に撃ちぬいてキルを取る。
「いやー、ナイス!」
隣に座っている牧野の顔が少しだけ晴れたような気がする。
相変わらずの突撃思考……、「狂犬」を制御するのも大変だ。だけど、彼のおかげで敵陣が崩壊し、人数有利を作り出す。それを見逃すような甘いメンバーはここにはいない。
俺はFPSをやる時には頭にしか狙わない。常にヘッドラインを意識し、敵を薙ぎ倒していく。これは昔からずっと変えていないプレイスタイルだ。
ちなみに、俺は「THE WORLD」でのヘッドショット率が五割と異常な数値を叩き出している。これは、海外プレイヤーの中でもトップの数字だ。戦場内のインファイトだけに限って言うのであれば、国内で俺の右に出るものはいない。
NRTは去年度は国内大会で負けた……。それは、俺と岡田の連携があまりにも取れていなかったからだ。IGLが俺であったこと、雰囲気に呑まれたこと、様々な要因が重なって負けた。
だが、今回のIGLは牧野だ。岡田と俺が牧野の指示でラッシュ、最初のラウンドで選手を取り、後のラウンドで敵を撹乱するという戦法で勝ち続けてきた。
「よし、ここから岡田が突っ込むかどうかは全て『牧野』の指示で決める」
「あぁ、敵も警戒するからな……」
周りの戦況を見ながら指示を出し、前衛を張るのは非常に難しく、去年は指示ミスが多かった。今回の俺の役目は"敵を倒す"――、これだけに絞った。
こうやって結果がでると、如何に去年の自分の戦法が無茶苦茶だったのかよく分かる。
「攻撃パターンはさっきと同じ。だが、岡田がラッシュかけた場所はきっと更に人数を増やして守りを固めてくるはずだ。だから、今度は別の場所からエントリーして攪乱する」
牧野は同じ戦法を取る選択をする。そして、彼は再び敵陣に突っ込んでいき、俺はそれに追従する形でエントリーする。岡田と俺の侵攻を止められない限り、敵に勝機はない。
結果として一度もMMRは一度も止められず、NRTは防衛側の際も岡田と俺が敵陣の裏を取り、陣形を思いっきり崩すことで"快勝"した。
【専門用語集】
1. スクリム
プロだけで行う練習試合のことをスクリムといいます。公式が主催する大会に向け、プロのチーム同士が研究目的で試合形式で練習することを指します。
2. ラッシュ
複数人で一ヶ所を攻めることを指します。例えば、AラッシュだとA地点に複数人で攻め込むことを指します。失敗した場合には流れが悪くなりますが、NRTのように連携が上手くはまりラッシュが成功し勢いに乗ると一方的な試合になったりもします。




