037. 配信者の大会(3)
翌日の放課後、いきなり鳴り始めたスマホを片手に校舎の外に出る。
着信相手の電話番号を確認すると……、そこには「見知らぬ番号」が表示されていた。校舎の外の誰もいない場所で俺は電話に出ることにした。
「もしもし……」
俺がそう言うと、電話口から微かに声が聞こえるが、はっきりとは聞き取れない……。
それからしばらくするとスマホのスピーカーからなんとなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。その声は俺のよく知っている声だった。
「結城ミク主催大会の運営、牧野隆史と申します。音声届いておりますでしょうか?」
その声の響きに妙な懐かしさを感じる。最後にその声を聞いたのは……、同じように電話口であの時は張り裂けそうなほど悲痛な叫び声だったっけ。
「あっ、もしもし、こっちの音声聞こえてますか?」
「はい、聞こえてます!」
「良かったです。大会の抽選結果についてご連絡させていただきたいと思いまして……」
「抽選結果は週末だと思ってたんですが……」
牧野は「実は……」と切り出すと、抽選結果として出るのは週末だったが、締切は昨日で募集が全て出揃っていて、運営側で協議した結果――、俺たちが参加することになったという。
決め手は俺が参考情報で記載したあの動画サイトのURLだという……。
「運営側であのクリップが話題にあがりましてね……。もし、参加してくれるというのであればぜひお願いしたいという形で今回は選ばせて貰いました!」
そんな選び方でいいのだろうかと思ったのを牧野は察したのか……。
「抽選の方法については内緒でお願いしたいです。一般枠の参加者もなるべく実力が分かる選手を選ぶようにと……、実は主催者から注文を受けていまして」
主催者の意向なのであれば……、まあ仕方がないだろう。
聞く話によると「結城ミク」という配信者が主催するこの大会はこれが五回目らしい。回を重ねるごとに規模が大きくなり……、今回は大手企業のスポンサーがバックについているという。
その言葉だけで牧野の言いたいことは理解できた。
電話口で話す牧野はこっちがそれを理解しているとは思ってないだろうが……、こうして企業が大会のスポンサーとしてバックにつくのは業界を発展させたいからという意思のもと行われているものではな全くないのである。少しはあるかもしれないが……、
主な理由としては、金の匂いがするから、スポンサーがバックに付くのである。
企業は大会を盛り上げて、できる限り自分たちの商品やサービスなどを宣伝させたい。だから、有名で強い選手が大会に参加して盛り上げて欲しいと思っているはずだ。
そして、主催者の結城ミクは――、「全員が有名な人だと常に代わり映えしなくてつまらないから一般参加枠を設けている」と昨日調べたネット記事でのインタビューで答えていた。
お互いの意見をぶつけ合った結果がこの選考内容なのだろう……。
「い、色々と大変そうですね……」
「まあ、大変ですけど楽しいですよ。新たな発見もありますし」
まさか、こんな形で前世の仲間と再会するとは思ってなかった。何より嬉しいのはまだこの業界に関りを持っていたということだった。
「参加の代表者の名前は……、守月裕樹さんでいいんですよね?」
「はい、代表者は自分で残りは同好会のメンバーで参加しようと思ってます」
「分かりました。当日の通話グループには後日招待します。動画投稿をやってるということなんですけど、当日大会のプレイを配信はする予定はありますか?」
特に配信する予定はなかったのだが……。運営である牧野が「個人的な興味本位ですが……、大会の様子を配信して欲しいです!」と言ってきたので承諾した。
「牧野……、さん、はもうゲームはやられてないん……、ですか?」
「えっ、あぁ……、『競技』という意味なら、もうやってないですね。数年前に引退しました。ただ、ゲームそのものは実業務に支障が出ない程度に触っていますよ」
牧野が引退したのはNRTが解散してから割とすぐだった。残りのメンバーの情報も聞き出そうかと思ったが……、流石にこの話題を持ち出すのは怪しまれそうなのでやめておいた。
「なるほど、そうだったんですね……」
俺はそう言うと、牧野は「また何かあればお電話しますので……」と言ってから電話を切った。
(牧野が大会の運営ねぇ……。仕事は的確にこなすだろうなあの性格なら)
俺はスマホをポケットにしまって教室に戻った。教室に帰ると、芽依が「さっきの電話、誰からだったの?」とどこか楽しそうに聞いてくる。
大会運営の奴からの電話だったとだけ答えた。
芽依は納得したように「そうなんだ」と答えると、俺をまじまじと見つめてきた。
「どうしたんだ……?」
俺がそう尋ねると、彼女は微笑みながら口を開いた。
「なんか、守月君が電話から戻ってきたら少し笑ってたからさ」
「……笑ってた?」
俺が首を傾げると、芽依は「うん」とだけ言って首を縦に振る。そんな自覚はなかったが、どうやら俺は電話の相手があの牧野だったのが嬉しかったんだろう。
前世で俺と戦った戦友との思いがけない再開に……。
「それで、大会は大丈夫そうなの?」
芽依が俺にそう尋ねてきたので俺は首を縦に振る。
「なら、良かった。じゃあ、昨日の反省会しよっか?」
芽依はそう言って椅子から立ち上がる。俺もそれに倣って席から立ち上がり、彼女の隣に並ぶように歩いた。ようやく本格的に動き出していけそうだ。
【コラム】
前世でのNRTメンバーは各々個人で活動していますが、今回は牧野が出てきましたね。牧野はNRT解散後に別チームに移動して「THE WORLD」の競技で数年間活躍した後に競技からは引退。翌年から所属チームのストリーマー部門で活躍しながら個人配信者の大会運営等も手伝っています。




