034. 彼女の憧れは身近に(3)
保健室のベッドで寝ている芽依が目を覚ましたのは、保健室に運び込んでから数十分経った頃だった。ゆっくりと目を覚ました芽依が体を起こし始める音で気が付いた。
「芽依、大丈夫か?」
芽依の意識が戻ったことを確認すると、俺は彼女に声を掛ける。
「ごめん……、迷惑掛けちゃったね」
「何言ってんだよ。迷惑なんて掛かってないから気にするな」
俺が芽依にそう言葉を掛けると、彼女は申し訳なさそうな表情をする。顔色はすっかり戻っているが……、その表情にはいつもの元気はなかった。
「私さ、昔から病弱で病院でほとんど入院生活を送っていたの」
俺は黙って芽依の言葉に耳を傾ける。芽依は少しずつ、ゆっくりと言葉を選びながら俺に自分の過去を話し始める。その話を聞きながら、実際に昔の光景が頭に蘇ってくる。
体が弱くて、病院に入院してばかりいた女の子の記憶が……。
「そんな時さ、隣のベッドでいつも一緒にゲームに付き合ってくれる男の人がいてね……」
懐かしい記憶だ。俺は入院している芽依のお見舞いのために、高校時代は毎日足を運んでいた。体が弱いけど、明るくて、優しい心を持った女の子だった。
今と何も変わらない……。
「その人は……、芽依にとって大事な人なんだな」
俺がそう言葉を掛けると、芽依は「うん……」と小さく頷いた。その後の結末にはあえて踏み入れなかった。自分自身がその答えを知っているからだ。
「私さ、そんな感じで病室で生活してから周りがさ普通に過ごしてるのが羨ましかったんだよね。だから、周りに心配かけたくなくてさ……」
そう弱々しく呟く彼女は、病室で入院していた時と被って見えた。あの時の芽依も病室の外に見える同学年の小学生を見て「羨ましいなー」と言っていた。
そして、みんながみんな、同じ道を歩めるわけじゃないけど、それでも私は羨ましい。だって、それが周りにとっては当たり前だったんだから……、とも言ってたっけ……。
病室でいつも独りぼっちだった彼女からすれば、自分のやりたいことを目一杯にやれる子供たちが羨ましかったのだろう。
「俺はさ、別に誰かと一緒じゃなくても、自分が自分らしくいれればそれでいいと思うんだ。誰かと同じじゃなくても、楽しいことや嬉しいことがあればそれでいいと思う」
俺は芽依にそう言葉を掛ける。きっと、芽依が心の中で思い描いている「価値観」と俺の「価値観」は根本的に違っていると思う。
それでも――、俺がずっと思っていたことは、あの頃からずっと変わらない。
「誰かと一緒にいて楽しいならそれはそれでいいと思う。他の誰かとは違う、芽依は芽依だからな……」
俺は芽依にそう言うと、彼女は笑顔を浮かべて頷いた。それは、あの頃と何も変わらない屈託のない笑顔で、見ているこちらが癒されるようなとびっきりの笑顔だった。
「そっか……、そうだよね。ありがとう、守月君!」
芽依はそう言って笑うと、少し元気を取り戻したのか、ベッドから体を起こす。俺が手を差し出すと、芽依はその手を取ってベッドからゆっくりと降りる。
まだ、本調子ではないようだが……、顔色は悪くないので一安心だ。
「ねぇ、守月君はなんで……」
保健室を出ると、芽依はそう言ってから、言葉を詰まらせた。彼女は「ううん、やっぱりなんでもない」とだけ言って……、俺の隣を歩いていく。
「そういえば、今日の部活なんだけど……」
「うん、何するの?」
部活について話し始めると、芽依は俺の方を振り返ってそう尋ねてくる。俺を見つめる芽依の眼差しはどこか昔の俺に向けられていたような……、そんな懐かしい何かを感じた。
【コラム】
この話は筆者が転生物語を書くなら絶対に入れたいなと思っていた話です。芽依はこれから俊吾の影を守月裕樹に感じながら学校生活を送っていきます。違和感の正体を確かめようにも怖くて確かめられない。そんな甘酸っぱい青春ストーリーを展開しながらeスポーツの今を描いていきたいと思います。




