023. eスポーツ同好会(1)
翌日、教室で授業を受けているとスマホが振動した。画面を確認すると芽依からのメッセージが届いていた。授業中にメールなんて悪い奴だな……。
『放課後、どうするか話し合いたいから時間あればでいいんだけど少し話できる?』
『大丈夫だ。それと、授業中はちゃんと授業に集中しなさい……』
『うん、分かった。守月君って意外と真面目なんだね』
芽依はクスッと笑うスタンプを送ってきた。可愛いな……、おい。俺は思わず頬が緩みそうになるのを抑えて、机に突っ伏す。俺、ちょっと気持ち悪いかもしれない……。
放課後になると、芽依は生徒が自由に使える会議室を借りたらしくそこに集合した。
「まずは部室についてだけど、守月君はどこか候補ある?」
「同好会として認めてくれるならコンピューター室とかがいいんじゃないか?」
「あー、確かにそれもいいね。後は部室棟の空き部屋とか」
部室棟とは普段授業を受けている建物の隣にある校舎のことだ。一階には職員室や事務室があり、二階には理科室や音楽室など特別教室がある。
三階は部活や同好会で使う部室になっており、主に文化部が使っているようだ。
「それこそ部室棟は許可とか必要なんじゃないか。部室棟という選択肢は部に昇格してからでいいな」
「う~ん、そっか。じゃあ、とりあえずはコンピューター室で申請しようかな。同好会だから2人いれば申請はできるしね」
申請書を書いて先生に提出するとあっさりと「OK」が出た。これで俺たちの同好会としては正式に承認されたことになる。同好会に関してはかなり設立にはハードルが低く、部員数が2名以上であれば誰でも作ることが出来るのだ。
活動内容は基本的に自由なのだが、既に高校内で「部活動」として認められているものに関しては、同好会として申請を出すことはできない。
部活動に昇格するためには、最低でも5人以上の部員を集める必要があり、なおかつ顧問の先生が1人以上必要になってくる。当然、部費を貰うには生徒会会議で予算を確保する必要がある。
「コンピューター室のパソコンってさ、なんかスペック低いよね」
「まぁ、古い機種だし、これは仕方ないな……。今はメーカーが出してるゲーミングPCとかもあるけど、そういうのを買う金はないだろうしな……」
「同好会に部費なんてないからね。う~ん、どうしようか?」
コンピューター室にあるパソコンのスペックはかなり低く、オンラインゲームをするには少し厳しいレベルの環境である。
「なかなかに厳しいね。とりあえずさ、今日は申請まで終わったから家に帰ろうか……」
「そうだな」
この調子だと同好会として活動していくにはまだまだ難しい課題がたくさんありそうだ。まずは環境面。そして、実力面と人数面にも課題が出てくるはずだ。
「ねぇ、もうちょっとだけ時間あったりする?」
「あぁ、別に構わないぞ。何か用事か?」
「うん、ほら、家にだったら環境あるし、私がどういう風に普段ゲームやってるとか見せようかなって思って……」
返事する間もなく芽依は楽しげな笑みを浮かべて俺の手を引いた。もう見慣れた高知駅の改札が目の前に見える。芽依はICカードを取り出して改札口を通る。
JR四国の土讃線に乗り、円行寺口駅で降りるとそのまま駅前から歩いて10分くらいの場所に芽依の自宅があった。芽依の家は一軒家で庭付きで駐車場も完備している。
玄関で靴を脱ぐと芽依の部屋へ案内された。ちなみに、俺はリビングで待っていて欲しいと言われてしまったので、リビングで待機している。
部屋の片づけをしてくると芽依は言っていたので、しばらくすると戻ってきた。
「芽依もやっぱりゲーミングPC使ってるのか?」
「うん、これだよ。私は結構色々パーツ交換したりしてカスタムしてるけどね」
芽依が見せてくれたのは白を基調としたシンプルなデスクトップ型のゲーミングPCだ。部屋のインテリアとして飾っているようにも見えるが、中身はしっかりとしたゲーム用のマシンになっている。
凄いのはマウスパットからデバイスまで全て白かピンクに統一されているというところだろう。
「これ結構な値段したんじゃないか?
「まぁ、そうだね。私もお小遣い貯めて買ったから結構値段かかったかな……」
芽依の部屋はいかにも女の子って感じの部屋の中に、ゲーミングPCが鎮座していた。なんか、ゲーミングPCがインテリアのように見えてしまう……。
ピンクとか白のデバイスって汚れるから敬遠するようなイメージがあったが、こうして明るい色で統一されているとそこまで気にならないし、綺麗に掃除してるんだろうな……。
(NRTの汚部屋とは雲泥の差なんだよな)
NRTの部屋が目に焼き付いてる俺にとってこの部屋はもう新鮮以外の何物でもない。それに、使ってるパーツは結構ガチガチなものを使ってるので、かなり本気でやりこんでそうだった。
「とりあえずさ、私のゲームプレイ見てもらえる?」
「あぁ、分かった」
芽依が折り畳み式の椅子を用意してくれるたのでそこに座り、パソコンの前に移動する。芽依はスタバトを起動しながら白いアームカバーを右手にはめた。
マウスパッドの摩擦などが気になる人はつけているプレイヤーもいると聞いたことがある。
2013年にはそんな便利グッズはなかったので、俺も最近プロで手元配信をしている人が使っているのを見て知った。俺も使ってみようか検討中である。
「じゃあ、始めるね」
「あぁ、よろしく頼むよ」
まずは訓練場でボットを撃ってエイムを見せてもらった。芽依のマウス捌きは驚くほど滑らかでかなりやりこんでると分かるレベルだった。
ゲームの視点移動はなんか牧野に似てる。なんだろう荒々しい動きというよりは、丁寧にクリアリングしていくような感じがどことなく似ている。
ただ、芽依の方が指の動きは繊細でもっと細かいように思える。女性だからかもしれないが……。
「どうかな……、なんか改善点とか気になる点とかあったりする?」
「動きに関しては何もいうことないな、綺麗なエイムをしてると思う。普段使ってるのはSMGだと思うけどトラッキングもちゃんとできてるし……」
(少なくとも素人ではないな……)
想像していたよりもレベルが遥かに高い。基礎はかなりできてるから鍛えたらかなり良い感じになるんじゃないかと思った。
「とりあえずさ、私の実力は伝わったかな?」
「あぁ、十分伝わった。芽依の実力は申し分ない。もし、大会に参加するならもう一人必要になると思うけど……」
「ちょ、ちょっと……、待って!」
「あ、あぁ、すまん。つい興奮してしまった……」
「あのさ、私もあんまり偉そうなこと言えないけど、守月君の実力を全然知らないんだけど……。できれば、私にも同じように見せて欲しいなって」
あぁ……、完全に熱中してて忘れてたが、俺にはもう「プロゲーマー」という肩書はないんだった。芽依がそう言うのも一理ある。
今の俺は芽依にとってはただのゲーム好きを公言するクラスメイトでしかないからな。
「分かった……。じゃあ、今度は明日俺の家に来てくれ。そこで俺の普段のプレイを見せるよ」
「う、うん、わかった。楽しみにしてる」
その後、俺は芽依に頼み込んで日常的なゲームプレイを見せてもらった。
(芽依に俺のプレイを見せたらどうなるんだろうな?)
俺は前世の俺のプレイを良く知る芽依の反応を見るのが少しだけ怖かった。流石にプレイだけでバレるなんてことはないだろうけど……。
(考え過ぎだろうか……)
「ねぇ、どうしたの?ボーっとして」
「いや、なんでもない。ちょっと疲れただけだ」
「そっか……。もうこんな時間だしね、今日はこれくらいにしとこう」
「そうだな。今日はこの辺で帰るとするよ」
俺は芽依に別れを告げると、芽依の自宅を後にする。帰りの電車で俺は今日のことを振り返っていた。芽依の実力は申し分ない。
見せてもらったプレイに対して、俺は試合終了と同時に説明してもらう機会を作った。あの場面でこの動きをなぜしたのか、そういう質問を飛ばすと……、彼女は自らの考えを的確に言語化して見せた。
戦況を分析し、周りに言語化する能力の高さというのはゲームにおいてはかなりの才能である。芽依は俺にはない才能を持っている。
(当時、牧野にIGLをやらせて成功した時のような感覚を覚えるな。天性の才能は恐ろしい)
彼女のゲームに対する理解力の深さは本当に底が見えない。客観的に戦況を見る眼というのは間違いなく芽依の武器の一つになるだろう。
【専門用語集】
1.トラッキング
FPSのゲームは敵に標準を合わせ続けることで高ダメージを与えられる場面が多いです。特にフルオートの銃はいかに敵の動きに合わせてマウスを追うことができるかが重要です。トラッキングとは敵に照準を合わせ続けるエイムのことを示しています。
2.IGL(In Game Leader)
チーム内でゲーム中に作戦を決めたり、状況から次に行うべき行動を判断し、チームに指示を出す役割を担う人です。チームの指揮官的なポジションの人物のことです。




