020. 新生活の幕開け(1)
卒業式を終え、俺は中学生活の僅かな時間を振り返る。転生したのは2019年の11月中旬――、俺は守月裕樹として中学最後の学校生活を終えた。
2020年になり、俺は志望校である私立高校に推薦試験で合格し、晴れて高校生になった。転生してからまだ数ヵ月という短い期間だったが、それなりに新たな環境での生活は馴染んできた。
春休み期間はスタバトに全身全霊を注ぎ、レートポイントを維持し続けた。動画投稿もコツコツと続けたおかげで界隈ではかなり有名な存在となってしまっている。
そんなゲームでは順風満帆な俺だったが、新しい高校生活には少し不安があった。田舎の学校というのはコミュニティが狭く、中高一貫校ということで内部進学の生徒もいる。
内輪ノリや縦社会、そして既に形成されている仲良しグループでの争いなど面倒なことに巻き込まれるのではないかと心配していた。
しかし、蓋を開けるとそうでもなかった。
新入生と内部進学の生徒は半々でクラスが分けられていて、掲示板に貼りだされているクラスの名簿を見ると、ちゃんと判別できるようになっている。
このクラスで上手くやっていけるかも気になるが、一番気がかりなのはやはり内部進学した生徒たちとの関係性だろう。もう既に仲良しグループが形成されてそうだしな……。
校舎の階段をのぼり、2階の教室へと向かう。クラスは1学年3組だけ、俺は1年A組だった。教室に入ると黒板に席順が書かれている。自分の名前を探すと窓際の列の前から4番目の席だった。
(まあ、ここまで来たら神様の悪戯としか思えないよな……)
教室に入ると異様に目を引く亜麻色に輝く長い髪の女子生徒がいた。彼女の名前は――、田中芽依。この学校で唯一俺が知っている人物。とはいっても、前世での記憶だし……、この体としては推薦試験でちょっと話したくらいの関係性だが……。
「あっ、同じクラスだったんだね。よろしくね!」
彼女はこちらに気づいて笑顔を見せる。まさか同じクラスになるとは……。
「ああ、よろしく……、えっと田中さん」
「芽依でいいよ。みんな芽依って呼んでるからさ!」
彼女は大袈裟に笑いながら言った。病院で入院していた時の彼女よりもどこか明るく無邪気な性格になったなと感じた。まだ、ゲームは好きなんだろうか……。
そんなことを考えているうちに入学式が始まる時間となり、体育館へと移動する。推薦試験で回った時にも思ったが広いし綺麗だ。さすが私立と言ったところか……。
体育館に規則正しく並べられているパイプ椅子に座り、しばらくすると校長先生の話が始まった。入学式は粛々と進んでいき、隣で寝息を立てて寝ている奴をどうしようもない様子で眺めている俺がいた。これがどうでもいい男子生徒なら肘内を喰らわせてやれるが……、隣に座っているのは芽依だからな……。まさか、彼女を叩くわけにもいかないし……。
そして、入学式のプログラムが全て終わり、教室に戻る。
(ていうか……、美和先生が担任なのか……)
今までどこか疎外感を感じていた現実が一気に晴れやかにそして忙しなく動いていくような感覚に陥った。教室に戻ると自己紹介の時間となった。
出席番号順に名前を言っていくだけの簡単なものだ。
「守月裕樹です。趣味はゲームです。これからよろしくお願いします」
こんなものでいいだろう。特に面白いことも言えないし……。ただ、ここで一つ問題があった。隣の席にいる芽依がこちらを見つめていたのだ。
「ねぇ、さっきはごめんね。もたれ掛かっちゃって」
彼女は小声で囁くように話しかけてくる。
「別に気にしてないから大丈夫……」
「あっ、そういえばさ……、守月君はゲーム好きなの?」
唐突に質問を投げかけられ、戸惑う。あのレベルの境地までくるとこれは好きなのか、どうかすら分かんなくなってくる。だが、まあ好きなんだろうな狂ってるレベルで……。
「まあ、好きだよ。最近はスタバトにハマってるんだが……」
そう答えると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべる。その表情を見て確信した。あぁ、変わってないなと……。そして、彼女の口からとんでもない言葉が飛び出す。
「あっ、実は私もスタバトやってるよ。あのさ、良かったらでいいんだけど――」
「田中芽依さん??」
芽衣の言葉を遮るように聞き覚えのある声が聞こえる。声の主の方へ視線を向けると眉間に皺を寄せた美和先生が立っていた。
「あっ、なんでしょうか!?」
芽依はどこか慌てた様子でそう言った。美和先生が机をコツコツと叩いている。この癖……、懐かしいな雷が降ってくる前触れだったっけ。
「人が自己紹介してるんだからちゃんと聞いてあげなさい!!」
そう言うと、芽依は頭を抱えて縮こまる。本当に変わってないな……。
「まあ、そんなに怒らなくても……」
俺は思わず呟いた。すると、美和先生はこちらに視線を移し睨む。
「守月君もですよ! 芽依が話しかけたんでしょうけどそういうのは後にしなさい?」
飛び火がこっちも来た。美和先生に怒られるとなんだか懐かしさすら覚える。
「はい……。すみません。以後気をつけます……」
俺は素直に謝った。まあ、美和先生には正直頭があがらない。その理由は追々話すとして、それからは何事もなく、生徒が自己紹介をして初日は終了する。
「じゃあ、今日はこれで終わりだから明日までの提出物忘れないようにね!」
帰りのホームルームが終わると美和先生がそう言い、生徒たちは鞄を持って続々と教室から出て行く。これから部活紹介を体育館に見に行く生徒がほとんどだろう。
まあ、俺もその一人だが……。芽依はどうするのだろう……。そんなことを考えていると彼女は俺に向かって手招きをしている。どうやら俺を呼びたいらしい。
(なんだ……?)
俺は不思議に思いながらも彼女の元へ歩み寄る。
「ねぇ、一緒に部活紹介見に行かない?」
上目遣いで彼女は俺の方を見つめてきた。まぁ、特に断る理由はない。俺も芽依がどんなものに興味があるのかについて興味があるからな……。
「ああ、別に構わないぞ」
「やったー!! ありがとう!!」
彼女は無邪気に喜ぶ。やっぱり芽依は変わらないな……。




