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いーすぽっ!  作者: ともP
♠ プロローグ
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001. 少女は病室で彼を思い続ける(1)


挿絵(By みてみん) 


 2013年といえば、田中将大が日本プロ野球新記録の開幕から16連続勝利投手、有馬記念でのオルフェーヴルの引退レース、流行語には「今でしょ!」が流行ったそんな時代だった。


 そして、この年は俺やeスポーツ界隈にとっても大きな変わり目の年だった。


 NRT(No Respect Trigger)というeスポーツのプロチームを自らの手で設立し、俺はそのチームのエースだった。高校時代からずっとゲームをやっていて、部活もせず、勉強もしないで遊んでいただけの自分がゲームのプロとして認められた。それは本当に信じられない出来事だったし、夢なんじゃないかと当時の自分は思った。だが、それは嘘ではなく紛れもなく現実――、


 ゲームのタイトルは「THE WORLD」といい、戦争をモチーフにしたFPSのゲームだ。プレイヤーは人間の兵士となり、銃を使って敵を倒す。このゲームの特徴は、兵士一人ひとりに個性があり、性格があり、スキルがあることだ。銃の使い方はもちろんのこと、索敵や医療行為を行う兵士、戦闘において常に前に出て戦う兵士、遠距離射撃が得意な兵士など様々いる。また、プレイヤー同士の連携プレイも必要であり、一人のミスがそのままチームの壊滅に繋がる。


 NRTには5人の選手がいる。


 彼らは年齢も職業も全部バラバラで……、趣味も女のタイプも好きな食べ物も違っていた。ただ、僕らには一つだけ共通点があった。それは全員が全員、このゲームを愛していて、誰もがこのゲームに情熱を捧げてこの世界に足を踏み入れたということだった。そして、それは俺――、柳町俊吾も同じだった。


(ゲームは好きだ……)


 それでも、世間からは厳しい言葉を向けられることが多かった。特にeスポーツの界隈というのはちっとも世間に知れ渡っておらず……、大学でゲームのプロをやっているという話をしても「えっ、ゲームにプロなんてあるの?」みたいな反応が返ってくる始末である。


 しかし、それでも俺はNRTの仲間と一緒に毎日練習をして、大会に出場して、大会を勝ち抜いてきた。辛いことがあっても、苦しいことがあっても、楽しいことがあれば嬉しいし、仲間がいるだけで心強かった。


「よし、今日はここまでにしておこう。みんなお疲れ様!!」


 そんな掛け声と共に、今日の練習が終わる。時計を見ると時刻は午後6時半を指していた。夏に差し掛かろうとしている夕方の風はどこか生暖かく感じた。


「そういえば明日ってオフだけど何すんの?」


 メンバーの一人がそう言う。明日は珍しく練習がなく、休日になる予定の日だった。


「俺、彼女とデート行く予定だな」

「マジかよ!リア充爆発しろ!」


 そんな他愛ない会話をしながら帰路につく。こんな日常が続くことが幸せだった。


 eスポーツを競技として理解できるのは、この業界では選手として実際にプレイしている自分たちしかいない。日本という国は諸外国に比べてeスポーツ事業の発展が遅れていて、「THE WORLD」も韓国のゲーム会社が作ったものであり、結果を残しているプロの選手は海外の選手ばかりだった。日本の選手はまだまだ知名度が低く、世の中では「eスポーツ」という言葉すら知らない人が多いのが現実だ。


 俺らは公式の大会である予選トーナメント突破を目指し、IeSF(International e-Sports Federation)世界選手権へ出場することを目指している。この大会で優勝することはプロとして認められるための通過点でもある。


 そのためにも、俺たちには更なる技術の向上が必要だ。どんな状況でも対応できる力を身につけなければならない。


「じゃあ、また明後日ね!」

「おう、またな」


 別れの挨拶を交わした後、メンバーはそれぞれ最寄り駅に向かう。駅前でメンバーと別れ、俺は噴水広場の前で人を待っていた。


「あっ、柳町くん……」


 後ろから声をかけられる。声のした方向を振り返るとそこには高校時代にお世話になった教師の先生の姿があった。


「……どうもです」


 俺は軽く会釈をした。すると彼女はこちらに向かって歩いてきて、目の前に立った。要件は分かっているので無言で先生の隣を歩く。


 教師の名前は中野美和(なかのみわ)といった。高校3年生の担任であり、こんなゲームしか取り柄のない馬鹿な俺を付きっきりでサポートしてくれて進路を決めるのを手伝ってくれた。だから感謝をしているし、尊敬もしている。


 そして、彼女には10歳の子供がいる。夫が外国人ということもあってか髪の色が黒ではなく、亜麻色の綺麗な髪をしていた。顔立ちも整っていて、将来はきっと美人になるだろうと思った。


 ただ、彼女はずっと病弱でろくに小学校も通えておらず、今までの人生約八割を病院で過ごしているという。


 俺も高校時代から面識があり、彼女はゲームが好きで、よく一緒にゲームをしていた。


「最近はだいぶよくなってね。芽依も柳町くんに会いたいっていうから……」

「はい、もちろん大丈夫です」


 断る理由もない。それに、自分の大会の調整なども重なってなかなか彼女とは会う機会もなかったしな……。


「今日も練習だったの?」

「えぇ、まぁ……」

「私もあれから芽依に言われてゲームの大会とか調べてたんだよ。この前のインタビューだってみたし」

「あ、あれは忘れてください……」


 あの時のインタビュー記事はネット上にアップされており、黒歴史だ。自分がゲームを愛していることは伝わってくれればそれでいいのだが……、如何せん口下手で言葉足らずなところがある。そして、受け答えもちぐはぐで見られたものじゃない。


(正直、もう二度と見返したくない……)


「いや、凄く良かったと思うよ。ひとつのことに熱心になれるのは凄いことだと思う。芽依だって目をキラキラさせてインタビューの動画見てたし」

「そうなんですか……?」

「うん、芽依はいつも病室で一人ぼっちだから……、少しでも誰かと繋がっていたいんだと思う。学校もまともに行けなかったから友達もいないし……、本当に感謝してるのよ」


 そんなことを言われると照れてしまう。中野先生は空を見ながら目的地の病院を見上げた。その瞳には何か思いつめたものを感じた。


「実は来年からさ……、私転勤で高知に行くことになったのよね」

「高知ですか?」

「そう、割と前から決まっていたんだけど……、実家が高知でね。そこで教師することになってだから芽依と最後に会って欲しかったの」

「そうだったんですか……」

「びっくりさせちゃってごめんね。でも、柳町くんにだけは言っておきたくてさ」


 中野先生は苦笑いを浮かべながら謝った。俺は何も言わずに彼女の隣を歩いた。そして、病院のエレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。扉が閉まり、動き出す。


(俺も……、そろそろ将来のことを考えないとな)

【専門用語集】


1. IeSF(International e-Sports Federation)


国際eスポーツ連盟のことで、IeSFは2008年8月11日に韓国、デンマーク、オーストリア、ドイツ、ベルギー、オランダ、スイス、ベトナム、台湾のeスポーツ協会により設立された。毎年世界選手権が2009年から実施されているほか、アジアインドア・マーシャルアーツゲームズのeスポーツ競技の運営も行っている(WiKi引用)


(IESFホームページ:https://iesf.org/)

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