015. 狂戦士の復活(1)
答案返却期間が終わると、試験休みから一気に冬休みに切り替わる。十二月中旬の空は高く、空気が冷たく乾いていた。
推薦面接の日程は三学期が始まってすぐで、それが終わると高校受験が本格的に始まり、それが終われば卒業を待つだけの状態となる。
受験組は最後の追い込みに余念がない。まあ、かく言う俺もその受験組の一人であるのだが、正直なところ受験勉強というものをしていない。推薦に全てを賭けているわけではないが、推薦入試が落ちたらそんなに偏差値の高くない高校を受験する予定である。
今更対策も何もないだろう。
ということで、冬休みに入ってハマっていた電子の漫画もすっかり読破してしまった俺は、暇を持て余していた。この怠惰な生活もどこか物足りなくて、何かしたいという気持ちはある。
だが、何をすればいいのかも分からない。
ベッドの上で寝転ぶのにも飽き、布団の上であぐらをかいて座り直す。その時、いつも使っているデスクトップパソコンに目がいった。
今の今までずっと心の奥底で無性に「ゲームがやりたい」という気持ちを抑えてきたが……、もうそろそろ限界を迎えようとしていた。転生してからずっと心の中で、あいつらに対しての申し訳なさを感じいて、俺だけがゲームを楽しんでいいのだろうかと思っていた。だから、パソコンはあれど、今のゲームに手を出すことはしてこなかった。だが、遂にゲーマーとしての本能がそれを制してしまった。
「あぁ、結局のところさ、俺は根っからのゲーマーなんだよな……」
自然と口角が上がった。こんなに高揚感が湧き上がることは転生してから初めてだった。
守月裕樹はお金に不自由なかったようで両親から与えられている大量のお小遣いをちゃんと貯金してあった。そんなお金を使ってしまうのはどこか気が引けたが……、背に腹は代えられなかった。
(このスペックだと動かなそうだしな……、すまん)
心の中で謝りながら封筒に入れてある現金を握りしめて、パソコンショップへと足を運んだ。
元々持っているデスクトップパソコンはCPUはCore i7-9700、メモリ16GB、SSD512GBとネットサーフィンをするにはかなり高スペックな物だが……、この体の持ち主はゲームなんかに興味がなかったのだろう。ゲームをするうえで肝心なグラフィックボードがついておらずオンボード出力をしていて、モニターもゲーミングモニターではなく市販の60Hzしかでないモニターを使っていた。
これでは最新のゲームは快適に動かないだろうと、最新グラフィックボードを買いにきた。ネットで調べてみると自作パソコンのトレンドも大きく変わっていて、デバイスも昔と比べてかなり高性能な物がたくさん出ている。
GPUは速攻でMSIの「GeForce RTX 2080 Ti」にしようと決めた。モニターはBenQの「ZOWIE XL2546」にした。グラフィックボードの違いはよくわからないが、モニターはプロ時代に愛用していたBenQのモニターに絶対的な信頼を置いている。
買い物を終わらせると、俺は高知市街から自宅まで両手に大きな荷物をぶら下げて帰った。
家に帰るとすぐにパソコンを分解して、新しい部品を取り付ける。画面はこれまでのモニターが嘘だったかのように綺麗に映るようになった。
「おぉ、すげぇ!」
思わず感嘆の声を漏らす。これでやっとゲームができると思うと、胸の高鳴りが抑えきれない。
モニターの画面は見違えるくらい綺麗だった。解像度も今まで見たものより遥かに高くて、発色もいい。読み込みも速くて、ロード時間も短い。
さすが、最高峰のGPUと言ったところか……、圧倒的なグラフィック性能だった。
俺はすぐに巷で大流行しているバトロワゲームをインストールする。
ゲームのタイトルは「Start Battle」――、基本プレイ無料の3人~2人がチームとなって対戦するオンラインマルチプレイヤーバトルロイヤルゲーム。基本プレイ形態は1チーム3人の「トリオ」からなり、合計60人でのオンライン対戦が可能らしい。
ゲームをインストールし、チュートリアルを受けた瞬間に「あぁ、ヤバいわ」という感情が芽生えた。ゲームはグラフィックが綺麗で、操作も直感的、そして何よりバトロワの緊張感が半端じゃない。
「これ……、ハマったらヤバいやつだな……」
今までゲームをやってきた直感がそう告げる。バトロワのゲームは今まで何回かやったことがあるが、ここまで「楽しい」と思えたのはこれが初めてだった。
ゲームをやり始めて気が付くと今まで退屈で長く感じていた時間があっという間に過ぎていた。