012. 死地の狭間で転生(4)
「あはは、驚かせちゃってごめんね。別に驚かすつもりはなかったの!」
そう言って、話しかけてきた彼女はニコッと笑って見せる。
そう言って話しかけてきた彼女の名前は立花智香。茶髪のショートヘアにして、制服はかなり着崩している。スカートも短く、胸元のボタンは外して谷間がちらちらと見えていた。
なんというか見た目は完全にギャルだなと思った。
「えっと、何か用?」
俺がそう言うと彼女は俺の前の席の椅子を反転させて座る。そして、俺の方に体を向けて口を開いた。
「いや、誰も話しかけないからさ。寂しがってんじゃないかなーって思ったの」
「心配ありがとう、でも俺は一人でも大丈夫。立花さんだっけ。君は俺の事は気にしないでいいよ」
俺がそう言うと彼女は「むぅ……」と唇を尖らせる。ひとつひとつの挙動がオーバーリアクション過ぎて絡まれてるこっちが恥ずかしい。そして、不貞腐れたように俺に言う。
「その、立花さんって呼び方が嫌なんだけど、よそよそし過ぎない?」
「いや……、悪い。気に障ったなら謝るよ」
俺はそう言い訳をして謝ると、彼女は「ふーん」と言いながらジト目で俺を見つめてくる。
「ま、いいや。やっと学校帰ってきたんだからね」
そう言って彼女は俺の手を強引に握って握手するとそのまま教室から出て行ってしまった。俺はその様子に呆然としながら彼女の後姿を見ていたが……。
「何だったんだ?」
困惑してそんな言葉が漏れてしまった。
立花智香という人物は見た目と性格が一致しており、騒がしく、周りを和ませる能力に秀でた人物だと思った。昼休みが終わり、放課後になると彼女は嬉しそうに俺に話しかけてくる。
「ねぇ、守月くん。一緒に帰らない?」
彼女はそう言って誘ってくるが、俺はそれを軽く受け流す。
「悪いな。ちょっと用事があるんだ」
俺がそう言うと、彼女は不満そうに頬を膨らませる。
「えぇ……、つれないなぁ。まぁいいや、じゃあね!」
そう言って教室から出ていくと、俺も荷物をまとめて教室を出る。高知駅から自宅に向かって歩き始めると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。
そう言って走ってきたのは彼女だった。諦めたんじゃなかったのかよ……。俺が立ち止まり振り返ると、彼女はニコニコしながら偶然を装いながらさも当たり前のように隣に並んだ。
「なんでついてくんだ」
俺がそう言うと、彼女は飄々としながら、
「別に偶然出会っただけじゃん。あっ、変な下心はないから安心してね。私は純粋に守月くんに興味があるだけなんだから」
そう言ってくる彼女の真意は分からなかった。ただ単に興味を持ったから話しかけてきただけなのか、それとも何か別の目的があるのか……。
少なくとも俺が転生した、昨日、今日でそれが起こったとは考えにくい。
「守月くんさ……、少し変わったよね」
「……、どこが?」
俺がそう聞き返すと、彼女は俺のことをジッと見つめながら話を続ける。
「なんか雰囲気が丸くなったというか、優しくなったというか……。だって、昔は話しても全然喋ってくれない人だったのに、今は普通に話してくれるし」
内心ギクッとしながらも俺は「そんなことないだろ」と否定する。だが、彼女はすぐに首を左右に振ってそれを更に否定した。
「いやいや、全然違うよ。なんかさ……、今の守月くんの方がなんか話しやすい」
なるほどな、彼女の話を聞いているうちに、本来の体の持ち主である「守月裕樹」という人物像がなんとなくだが分かってきた。残念な奴だな……。
「もう俺は行くから」
そう言って彼女の横を通り過ぎると、彼女は俺の袖を掴んでくる。
「ねぇ、守月くん。一緒に帰ろうよ!!」
「……はぁ」
俺はため息を吐いて、彼女に言う。
「分かったよ……、一緒に帰るから手を放してくれ」
俺がそう言うと彼女はパッと手を離した。俺はそのまま歩き始め、彼女は俺を追いかけるように並び、歩幅を合わせながら嬉しそうに話しかけてくる。
「そういえばさ……、守月くんはなんで学校に来てなかったの?」
そんなの知るものか、と言いたい所だが……。俺は考え込んだ後、適当にでっち上げた話を彼女にする。
「別に、特に理由はない」
俺がそう言うと彼女は少し納得がいかないような表情を一瞬浮かべたがすぐに笑顔に戻る。
「そっかぁ~、まぁそういう時もあるよね!」
彼女はそう言って俺の肩をポンポンと叩く。アホなのか、コイツは……。そして、そのまま他愛もない会話を続けていくうちに彼女の家に到着したようだ。
この近辺だったということは、小学校も一緒だったのかもしれない。
「じゃあね、守月くん!」
そう言って手を振る彼女に軽く手を振り返してから俺は再び歩き始める。
「俺も帰るか」
歩きながら俺は呟くと、スマホを取り出す。交友関係はないと踏んでいたが、立花智香が絡んできたことで俺の生活は少しだけ変わりそうだ。
「ま、どうせすぐ飽きるだろ」
アホそうだしな……。そう考えながら、俺は自宅までの帰路をたどった。