第5話「来訪者」
その場所に誰が居るかを確かめるのは入ってみない限り難しいが、人が出入りしている場所とはそれなりに簡単に見つけられるものだなと横川はUMBRELLAの基地の前に立ち、考えた。基地と言っても人気の少ない場所にあるただの倉庫でしか無いのだが。
ドアがあってそこにはインターホンもついていたのでとりあえず呼び出してみた。
キンコーンッ
と、軽い音がなった後20秒くらいしてインターホンから「はい」と女の声がした。
「警視庁から来ました。横川というものです。少しお話を伺いたく、こちらまで参りました。」
と言いながら横川はカメラが付いてるのかは分からないがインターホンに警察手帳を向けてみた。
「あー。ちょっとまっててくださいねー。」
と、女の声。
一方室内では。
「大変よ!みんな起きて!ついに非合法秘密組織に警察が来たわ!あ、あれよあれ!ハジキを隠せ〜!」
とNo.39が半分パニックになりながらみんなを起こして回っていた。
起きた三人を「リビング」と呼んでいる場所に集めて話し合いを始めた。
「まずそもそも出るかこのままインターホンで話を進めるかだね。」
「相手は何人だったんだ?」
シャフトの提案にロクロが状況の説明を求めた。
「それは確実に一人よ。周りもそれなりの距離は確認したけど包囲されてる様子とかは無かったわ。本当に今回は様子見に来たんだと思うわ。」
とNo.39。
「じゃあ出ちゃって良いんじゃない?上手くコミュニケーション取れずに大群に押しかけられるよりは、オープンな感じにして穏やかに進めた方が良いだろうし。」
とラソルが返したことにシャフトもロクロも頷いた。
「じゃあ私出てくるわね。ってかここに上げちゃうけど良いでしょ?」
「まあ。」
そう言って立ち上がったNo.39の質問に彼らはまた頷いた。
ドアが開いた。「どうぞこちらに。」と女に案内されるのに従い入口の近くの部屋に入っていった。部屋に入ると低い四角い机の周りを三人が囲っていた。
「ボロい椅子で申し訳無いです…。あ、お茶熱いのと冷たいのどっちが良いですか?」
「冷たいのをお願いします。」
No.39は冷蔵庫からラベルのついてない2Lペットボトルを取り出し、烏龍茶なのか麦茶なのかどっちか分からない色の液体をコップに注いだ。
「あ、ありがとうございます。」
受け取ってとりあえず一口飲んだ。麦茶だった。
「それで、本日はどういったご要件で?」
お茶を飲む横川にシャフトが尋ねた。
「端的に言うとあなた達についての調査です。」
「ほう。」
「私は警視庁の特殊事件捜査課というところでまあ変な怪人だとかロボットだとかの事件を調べてるんですがね、そうしてるとチラホラとあなた達の存在に出会うわけでして。今回は私が一人で動いているだけですし、ナイショ話でも構いません。よろしければあなた達の活動の概要を教えてほしいのです。」
シャフトは少し周りを見た。そうして姿勢を少し前に傾け話し始めた。
「我々秘密組織UMBRELLAはSNSなどの情報からその変な怪人だとかロボットだとかに襲われてそうな人を探し出し、こういうのもなんですが、まあ、その人達を助ける仕事をしています。」
「色々詳しく聞きたいことがあるが一つ聞かせていただきたい。」
「どうぞ。」
「動機はなんだ?あなた方は自分たちのやっていることが命の危機と隣合わせなことを理解しているはずだ。その割にはやっていることが金儲けというよりはボランティア。こんなの相当な動機が必要だ。」
「______。」
シャフトは少し詰まった。三人を動かすものは一緒だが事情はそれぞれ複雑なためである。
「いいわよ。」
「俺もだ。」
「ええ。私も。」
ラソル、ロクロ、No.39はシャフトのその様子を見て、そう言った。シャフトは少し頷いて
「復讐、ですかね。」
「あなた方がどういった事情なのかを聞かせて頂いても?」
三人はもう一度シャフトに頷くことで了承の意思を示した。
「私は恋人を殺されました。彼、ロクロは娘をさらわれました。彼女、ラソルは右目と右手と右足を実験によって奪われました。そして彼女、サンキューは逃げて来たレイニーシャインの研究員です。」
「はい。」
「ラソルの改造を担当する研究員だったサンキューはそのあまりの非人道さに二人で脱走。その後娘をさらわれたロクロと出会い匿ってもらっていたが、彼女らはレイニーシャインに身元が割れていたので逃げた報復に家族を殺され、そうして戦う覚悟を決めました。その後に私が合流し、今に至ると言うわけです。」
「なるほど。よくわかりました。しかし、殺人鬼をナイフで襲うことが許されてないのが日本です。あなた方の行っている行為は法的な権利の無い人の報復とも取れますし、そもそも使っている武器がおそらく銃刀法違反です。」
シャフトの説明を受け、横川はそう述べた。リビングにはピリピリとした空気が流れた。
「そうと知ったあなたはどうす…」
「ですが。」
シャフトの言葉を遮りつつ横川は強く言った。
「それで報復へ向かうのではなく人々を守ろうとするあなた方を私は否定したくはない。」
一瞬の張り詰めた空気はこうしてすぐに解けた。
「ましてや警察でさえ正直手に負いきれていない特殊な犯罪者たちにあなた達は有効的な戦闘のノウハウを持っている。」
そう言いながら横川は立ち上がる。
「決めました。私が率いる特殊事件捜査課はあなた達を秘密裏ではありますがサポートすることをお約束いたしましょう。」
そう言って横川は手を差し出した。
シャフトは立ち上がってその手を握った。
二人は固く握手を交わした。
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