第2話「非合法秘密組織〜その2〜」
改造人間に何か具体的な定義があるわけでは無い。ただここ数年姿を見せるようになった人型でありながら人間離れした能力を持つ者の中で人々が「ロボットっぽくない」と判断した者をそう呼んでいるだけである。そのため見た目も知能レベルも能力もバラバラだ。実際、株式会社レイニーシャインが人間を改造して作った生き物なのだがそれを知る人はごく少数で、多くの人々はフィクションで見た改造人間のようだったからと言う理由でそう呼んでいるだけである。そのため、宇宙人や地底人、異世界の人間、新種の生物などなのではないかと唱える人も沢山いたが「日本語を話す」という理由から改造人間説が今の世間では一番支持されている。
今回の虎のような姿の男は人間離れした筋肉質で毛深い大きな体と硬く鋭い爪と人並み外れた治癒力を持っているようだった。そしてまともな日本語を喋り自分の意志で行動しているようだった。
「さてと。彼は僕らを殺そうとしている。そしてどうやらまともに考えることができる。これは殺さないようにと手加減している場合では無さそうだ。」
「そもそも私たちは手加減なんてできるほど強わけじゃないでしょう。あんたも私もあの爪に引っ掻かれるだけでお終いなんだから。」
余裕そうに呟くシャフトにラソルは静かにそう返した。
「そして何より急な出動だったんだから私は傘しか持ってないわ。義手も義足もお出かけ用よ。だから絶対安全でいくわよ。」
「確かに僕も今日は準備できてる魔法は少ないな…いや一個しか無かったわ。帰っていい?」
青年はそのラソルとシャフトの会話に「魔法?」と首を傾げながら虎男から目立たぬよう後ろで縮こまっている。
「いつまでもくっちゃべってねえで構えろ。来るぞ!」
そう言ってロクロは他二人より少し長い傘を小学生がチャンバラごっこをするときのように持ち、構えた。
「オラッ!死にやがれ!」
「死ぬかよ!」
虎男の爪をロクロの傘が受け止めた。後ろではラソルが傘を銃のように持って構えている。
「しゃがんで。ロクロ。」
ロクロがしゃがむと瞬間、4発の銃声と1発の銃弾を弾く音と3発の銃弾が硬い皮に当たる音と虎男のうめき声がした。
「クソ、同時に…!」
「バーンバーンバーン!」
計7発の発泡の結果虎男の両足の動きを止めることに成功した。しかしラソルたちの後ろは青年と壁、前には危険な虎男という状況は依然変わらない。彼の治癒力ならばすぐに再生してまた向かって来るだろう。
「どうするシャフト。あいつ致命的な箇所への攻撃は確実に防ぐし、このままじゃジリ貧だよ。ってかまずなんの魔法なら使えんのよ今」
「…爆破魔法」
「よりによって使いにくいやつだな。」
ラソルの質問に対するシャフトの答えにロクロは苦い顔をした。
「まあ良い。俺が引き付けるから“ばら撒く“とき合図しろ。ラソルは安全確保を頼む。」
「助かる。」
そうして今度はロクロの方から虎男に向かって行った。
「おらぁ!」
傘と爪の弾き合いが始まった。徐々に虎男の傷も癒えてゆき、やがてロクロは防戦を強いられるようになったその時。
「さあ!魔法の時間です!夜空を炎で照らしましょう。」
「それ、恥ずかしくないわけ?」
ビルの壁を頑張ってよじ登っていたシャフトがなかなかに恥ずかしい合図を送った。傘の中間辺りを持って魔法の杖のようにかかげている。それを受け取るとロクロは一歩下がって傘を差した。ラソルは青年のところまで行って二人の間に傘を差した。
「愛愛傘ね。」
「そ、っそっすね〜」
目の前の情報量の多すぎる展開に青年はただ流されるだけだった。
「急に傘なんか差して一体何をしようってん…」
虎男がそう呟くと同時に彼の元に大きなビンが投げつけられていた。とっさに砕いてしまったビンからは大量の液体が溢れ出た。虎男はその液体で全身を濡らしてしまう。「傘を差していたのはそのためだったのか」とは今更の感想であった。
「ファイア!!!」
そう言ってシャフトが彼にろうそくを投げつける。魔法の杖のようにかかげた傘は結局使っていない。ろうそくが当たった虎男は火だるま男になった。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアア」
そうして虎男は地面に倒れた。
「気絶だ。何せこいつは頑丈だったからな。」
黒焦げになった虎男を見てロクロはそう呟いた。
「封、印!」
降りてきたシャフトはそう言って後ろに手を組ませた虎男に手錠をかけた。
「ほんとにそのノリで行くの?」
ひとまず今回の闘いは終わった。
第2話です。前回よりちょっと長く書けたことが嬉しいです。また3話で会いましょう。




