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落ちていた天使 ~これ、拾ってもいい?~

 こっそり闇神殿を抜け出して、ぬきあし、さしあし、しのびあし。

 マリベル様たちが、私を探してたいへんそうだったけど、おとなの人じゃ通れない垣根の隙間をぬって、お外に出たの。


 わぁ。


 広いのね。風が気持ちいい。

 こわいから、そんなに遠くまでは行かないけど、公園に行ってみようかな。


 闇神殿は息が詰まるの。

 闇巫女である私の癒しを求めて、心身を病んだ人ばかりが毎日のように訪ねてきて、癒しても、癒しても、終わりがないんだもの。

 悲しくて、苦しくて、痛いから、誰かを憎んでいたり、怒っていたり、怨んでいたり――


 私の闇魔法でやすらいでくれた人達の笑顔を見るのは好きだよ。

 みんなを助けてあげられるのは嬉しいの。

 だけど、やっぱり、たまには。

 お外の爽やかな風を受けながら、おひさまの優しい光の中で、ひなたぼっことかしていたい。

 マリベル様、お仕事さぼって、ごめんなさい。



 公園までてくてく歩いて行ったら、あの子がいたの。

 子供だよ、子供だよ。

 あの子ね、少し前まで、午前中によく公園で、草取りや水やりをしていたのに、最近は見かけなかったの。

 また会えて嬉しいな。


 お話するのは、初めて。


「どうしたの?」


 今日はね、どうしたのか、うずくまって泣いてるみたいに見えたの。


「けが、いたい?」


 ふり向いたその子が、すごく、驚いた顔をしたの。

 だって、痛そうだもん。

 どうしたのかな。

 あちこち青アザだらけで、誰かにひどく殴られたみたいだったの。

 だから、ヒールしてあげたの。


「なおった?」


 ――わぁ。

 澄んだ翠の瞳がキラキラして、とっても綺麗。


「うん、すごいね。もう、痛くない」

「ねぇ、なにしてるの? デゼルとあそんで」

「えっと……」


 野草を採って、魚を獲って、夕飯の支度(したく)をするんだよって教えてくれた。


「デゼルにもとれるかなっ」

「これ、同じのわかる?」


 その子が見せてくれたのと、同じのを探してみた。


「これっ?」

「うん、それ」


 ――わぁ。

 その子がね、笑ってくれたの。とっても綺麗で、可愛いの。

 私があんまり、じーっと見詰めたからかな。

 その子が、困った顔で私を見たの。


「えと、なに?」

「おなまえは?」

「サイファ」

「さいふぁ、きれいなおなまえ! デゼル、さいふぁがすき」

「えっ……」


 ――わぁ。

 澄んだ翠の瞳がキラキラして、とっても綺麗。

 嬉しいのかなっ?


「あの、ありがとう。僕も――」

「さいふぁも?」

「あ、その……デゼルのこと、僕も――」


 あれ。

 どうして、私のなまえ知ってるのかな。


「これ?」


 サイファの笑った顔を、もう一回、見たかったから、さっきのと同じ野草を探したの。見つけたよ。


「うん、それ」


 わぁ、わぁ。

 サイファが笑ってくれた。

 とっても綺麗で、可愛いの。


「デゼル、さいふぁがすき」


 嬉しくて、サイファの笑った顔を、もう一回、見たかったから、さっきのと同じ野草を探したの。見つけたよ。


「これ?」

「えっと、それは似てるけど違うんだよ。毒があって食べられないんだ」

「どく……」


 私、一生懸命探したのに、サイファが笑ってくれなかった。

 泣きそうになって、むくれてほっぺをふくらませたの。

 さっきのと、どこが違うの?

 デゼル、わかんない。


「デゼル、さいふぁがきらい」


 あ。

 サイファがおかしそうに笑った。

 何が楽しいのかなっ。


「えぇー、デゼル、僕のこときらいになったの?」

「うん、なったの。デゼル、さいふぁがきらい。さいふぁかなしい? さいふぁなく?」

「やだな、僕、デゼルに嫌われたら悲しいよ? 泣くよ?」


 えへへ、わぁい。

 嬉しくって、ぴょこぴょこ跳ねたの。

 サイファ、私に嫌われたら悲しいのね。泣くのね。


「じゃあ、すき」

「よかった」


 こんなに楽しいのって、初めて。

 道が悪いところはだっこしてもらったりして、サイファに手を引かれていろんな野草を集めたの。

 サイファが優しくて、私、にっこにこよ。

 すごく、オーラが澄んでるの。

 あんなにひどいケガをしてたのに、いいみたいなの。

 誰のことも嫌いじゃないサイファのだっこは、すごく心地好かった。

 サイファがずっと、いつでも、デゼルをだっこしてくれたらいいのに。


「楽しかったね」

「うん! またあそぼうね、デゼルかえるね」

「送るよ、デゼルのおうちはどこ?」

「ええとね、やみのかみさまのしんでん」


 サイファが軽く目を見張った後、少しだけ、翠の瞳を寂しそうに(かげ)らせて私に聞いたの。どうしたのかな。


「ねぇ、デゼル。僕のこと、好き?」

「うん、すき」


 ――わぁ。

 とっても、嬉しそうにサイファが笑った。

 可愛くって、すごく綺麗。


「さいふぁ、またあそんでね!」


 神殿まで送ってもらったら、マリベル様につかまっちゃった。怒られるかなぁ。

 マリベル様の肩越しにサイファに手をふったら、ふり返してくれたの。


 また、会いたいな。

 私、サイファが大好き。

 サイファが傍にいてくれるとラクなの。オーラが澄んで綺麗なの。

 いつか、サイファもデゼルを好きになってくれたらいいのにな。



 公園に落ちてた天使様のおなまえは、サイファっていったのよ。

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