第78話 トライマストの町
トライマスト、そこはかつて真っ先に帝国の侵略を受けた町のひとつ。だからこそ城塞都市とまではいかなくとも、ローレシアの数少ない常備軍がこの町にはいた。
いまとなっては軍隊は撤退して、民間人、駐屯地をふくめたこの町すべてが帝国の支配下におかれている。
隣のグリムへめくばせし、俺はひとつ咳払いをした。
「あぁ、いろいろと立ち位置がおかしいと思ってるだろうが……まぁ物事はなるようにしかならないんだ。とにかく、一刻も早く俺たちはこの意味のない戦争を終わらせたいんだ」
睨みつけてくる騎士たちに言い聞かせるように俺は言った。
やはり恨まれているのだろう。
祖国へ大して訳の分からない殺意の塊のような攻撃を行ったことを。
グリムや、参謀の騎士たちが話を通すのをかたわらで見守りながら、俺はなんとも言えない、
もやもやした気持ちのままトライマスへと足を踏み入れることになった。
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トライマストの町中を馬車でいく。
窓から外を眺めれば、そこには多くのトライマストの民たちが、ひしめいて野次馬を作っていた。
みなが疲れきった顔をしているが、存外にまともな扱いを受けていそうではあった。
侵略戦争において、過去の帝国はおおくの非人道的行為を多岐にわたっておこなってきた。
手にいれた町や村の女に対する性暴力などは当たり前、捕虜とした兵士や民間人の虐殺など、かつての帝国のありようは野蛮を極めていたという。
古来より戦争と罪過は切り離せないものだ。
そのため、帝国は開き直っていたらしいが、だんだんと周辺国家ーー特にヨルプウィスト人間国と、グンタネフ王国より強い非難を受けたんだとか聞いたことがある。
今回、表面上穏やかなのはきっと、皇帝が他国からの非難を懸念しているのだろう。
それに先代が非戦争主義者だったのも影響しているのだろう。
「どちらにせよ、酷いことになっていなくてよかった」
「ふっ、我が軍は訓練された騎士のみで構成されている。そのような野蛮な犯罪などおかしはしない」
胸を張り自信ありげなバルマスト帝。
たしかに評価されるべき統率力だが、侵略戦争を仕掛けている時点でマイナス値のほうがはるかに上回っているのがデカすぎる傷だ。
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トライマストの駐屯地へとやってきた。
ここに繰り上がりで軍の指揮をとっているガンディマンと呼ばれる将軍がいる。
あとはこちらがその指揮官に皇帝を人質にしながら、軍を退かせるように仕向ければすべては丸くおさまる。
そして、この無意味な戦争でどれほどの利益を魔法王国が得られるかも、この交渉の場に掛かってくる。
何故ならグリムとともにいる参謀の騎士は、国王より代理人の役目を請け負っている近衛なのだ。
「陛下……、ご無事でしたか……!」
「両手両足に枷をかけられている状態を無事というのならば、無事であろうな」
敬う臣下に不遜な態度をとる皇帝の開口にて、交渉はスタートした。




