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第50話 ひさしぶりの故郷

 

 パールトン邸の魔術工房。


 魔力触媒を含有した特別なチョークで、地面に記された魔法陣のいきさきを、『2839・クルクマ』から『2835・ゲオニエス』に書き換える。


「さてと、準備完了」


 俺は魔法陣の構築にミスがないか見直しをして、黒いマントを羽織った。


 高級魔法の使用に適した中杖は持っていかない。


 マントの内側に杖といくつかの魔道具を隠して、俺は魔法陣のなかに足を踏みいれた。


 トールメイズ砦がありえない時間で突破された事。


 帝国の無茶苦茶な戦力には何らかの理由がある。


 心当たりはある。


 だが、砦からの報告にも()()()()の報告はなかった。


 この目でたしかめなければなるまい。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 キーンっと、耳の奥に残る細かな振動。

 俺はふらふらと膝をつきながら、ゆっくりと目を開ける。


 視界に入ってくるのは、埃かぶった作業机と廃れた数々の器具、無骨な石の床と壁。


 暗くじっとりした空間。


「相変わらずだな。師匠の工房は」


 めまいから回復して、立ちあがり、俺はマントについた埃を払いながら歩きだす。


 幼き日の記憶を頼りに、壁に手をあてて歩けば、うっすらと光の漏れる木製の扉にたどり着いた。


 取手をつかみ、押す。


 動かない。


 古典魔術≪怪腕(かいわん)≫。


 ーーメキメキメキィイッ


「よいしょ」


 腐りかけた木製扉をわきにおいて、薄暗い廊下をあかりの(しるべ)にしたがって進む。


 ーーメキメキッ


 またひとつ鍵のかかった古い扉を破壊すれば、もうそこは外だった。


 深い霧につつまれた街。


 視界を狭めるのは、左右に見える垂直に伸びた()()()


 ここは谷底の底、うえを見上げても濃い霧が谷上の大都市を隠してしまっている。


 いや、どちらかというと隠されているのは、この谷底の街か。


「ただいま、帝都ゲオニエス」


 静かに挨拶して、俺は濃い霧のなか、かつての記憶を頼りに歩きだした。


 帝国の首都にして、帝の城、魔法省、その他の重要政府機関のそろったゲオニエスの心臓。


 巨大な渓谷に建設されたゴシック様式の街並みは、旅人の記憶に、人類の夢と希望とともに深く残るといわれている。


 大陸全土で最高の都市を自称するだけあって、谷底から天高く霧の空にきえていく摩天楼は、帝都以外ではお目にかかれないダイナミックさだ。


 そんな、摩天楼の根本でたむろする暇そうな兵士たちを避けて、薄汚れた谷底スラムの連中に絡まれないようにそそくさとある一点を目指してあるく。


 俺が帝都ゲオニエスに来た目的はいくつかある。


 そのどれを達成するにしても、こんな谷底にいては達成できない。


 まずはうえに上がることだ。


「んっ、銀貨1枚だ」


 ぶっきらぼうな当番に、黙って銀貨をわたす。


 谷壁にくいこむように建設された巨大な設備。


 魔力原動機(まりょくげんどうき)搭載式(とうさいしき)垂直往復機(すいちょくおうふくき)ーー通称、往復機とよばれている。


 上界と下界をつなぐ、特にこれといった捻りもない名称の機械に乗りこむ。


 これでうえまで直行できる。


「ん、あんたぁ……どっかで見た顔じゃの」

「っ」


 突如かけられたのはしわがれた声。


 キュッと縮まる心臓。


 俺はマントのフードを深く、深く被りなおしながら、声するほうへと振り返った。



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