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第4話 採用試験

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 ハゲ男に通された扉の先。

 天井はやや高く、奥行きは驚くほどにひろい、広大な地下空間だった。水のしたたる音も聞こえる。


 明かりのほとんどない、黒岩の露出する天然の洞窟には、何人もの魔術師然とした者たちがすでにいた。


 10人前後が、色とりどりのローブを着ている。

 所属する組織はバラバラだろう。

 皆がここに集められたわけか。


 平均年齢がずいぶん高そうだが……ん、唯一いる若いのが近づいてきた。


「やぁ、キミもこのボクと同じで、なかなか若いね。ボクはトム・マークス、よろしくね」

「俺はサラモンド、サラモンド・ゴルゴンドーラだ。よろしく、トム」


 握手をするため、手を差しだす。


 トム・マークスは俺の手を見下ろし、「いやいや、待ってくれよ」と、肩をすくめて言うと、指をひとつたてて眉根をあげた。


「握手ってことは、まさかボクとキミが対等な存在だと、思ってるのかな? ボクは今年で22歳だけど、もうすでにマークス家を継いでいる。わかるかい、その意味が?」


「……すまん、俺は家ってものが、よくわからないんだ。親には目が開かないうたに捨てられたし、最近まで家だと思っていた場所からも、追いだされたしな」


「はは、冗談だろ? 勘弁してくれ、手を取らなくて本当によかったよ! 

 いいか、教えてやるよ、家無し。マークス家は、魔法王国ローレシアの由緒正しき魔術師の家系だ。

 この地で100年も前から魔術の研鑽と発展に貢献してきた。

 それを家のない……あ、そうだ、さすがにここに呼ばれって事は、魔法学校くらいは出てるんだろう?」


 見透かしたように、涼しげな声で聞いてくる。


 やれやれ、大陸に4つしかない魔法学校をでられる魔術師が、いったいどれだけいると思ってるんだ……。


「学校は出てない。魔術は独学だ」

「おいおい……マジかよ……お前、なんでここにいるの? ここは名門魔術大学の校長につかえる、家庭教師を選ぶ場だ、お前はふさわしくないだろう」


 トム・マークスは「冗談よせよ」と、脱力したようすで首をふり、高笑いをあげながら下がっていく。


 部屋にいた老齢の魔術師たちも、鼻で笑いながら、興味をなくしたように地下空洞のおくへ。


「それではまず、皆さまがお嬢様を守るだけの実践魔術をつかえるどうかを、確かめさせてもらいます」

「あ、エゴスさん……」


 暗い洞窟のなか、突如としてあらわれた黒服のバトラーへ、魔術師たちは視線をあつめた。


「皆さまには、あちらの大岩を風属性、あるいは火属性の魔法で撃っていただきます」


 エゴスは手元のファイルを確認しながら、「うん、撃ってもらいます」と、ふたたび口ごもって言った。


 トム・マークスがローブのふところから魔術の杖をぬいた。


「風穴開けちゃったらゴメンねぇー……≪汝穿(なんじうが)火弾(かだん)≫!」


 力強いは詠唱トリガー。

 空気の温度がわずかに上昇し、わざわざ両手をつかって、剣をおしこむように、気取ってかまえられた杖先から、朱い、朱い炎の槍が跳びだした。


 ーージュワァァァアッ


 洞窟内にそびえ立つ10メートルを越える大岩へ、火属性魔力は砕け散り、霧散して「現象」を終了した。


「ッ」

「この黒石は極めて密度が高く、頑丈な鉱物です。ゆえに、穴をあけるのは叶いませぬ。

 ですが、悪くない火力でしたよ。ほら、岩の表面が温かくになっていますね、肉でも焼けるのでは?」


 エゴスは皮肉まじりにそう言って、ペンを走らせて、ファイルになにかを書き込んだ。


「んっん、それじゃ次はワシがーー」

「どいてろ、ジジイども」


 俺はため息ひとつ、腰のホルダーにかかった杖をぬく。


「貴様ッ! これだから教養のない魔術師もどきは! それに、なんだそのみすぼらしい杖は! そんなモノでまともな魔術などーー」


「≪火炎弾(かえんだん)≫」


 わずかの魔力をやどし、触媒として辛うじて機能する杖のさきに火属性の魔力が集約。


 手で魔力を操りながら、発射までの1秒で形をととのえる。


 オレンジ色から、赤へ、そして、青くなり、真っ白な色に瞬く間に変貌を遂げた、火の球は、俺の合図とともに、衝撃をともなって撃ち放たれた。


 本来なら貫通力をもたない≪火炎弾(かえんだん)≫は、圧縮した火の魔力で、黒の大鉱石を溶解し、赤々とした軌跡をのこして洞窟のはるかおくへ消えていった。


「……やはり、茶番でしたな。ゲオニエスの宮廷魔術師の実力は、伊達(だて)ではないと言うことですか」


「ッ! きゅ、宮廷魔術師っ! その男がっ! あの帝国の魔術師の最高峰の座にいたとでもッ!?」

「ま、魔法学校も出てない野蛮な魔法使いが、な、な、なんで……ッ!?」


 どうもくするほかの魔術師たち。


 エゴスは「試験は終了です、お疲れ様でした」と言うと、ファイルを破りをすてて、未だ火の灯る大岩の穴へ投げ入れてしまった。


「では、行きましょうか。サラモンド殿。パールトンの家を案内いたします」


 固まる魔術師たちをおいて、俺はエゴスに連れられ、地下洞窟をあとにした。



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