第26話 そういう意味だったの
「んぁ? こらぁこらぁ、今朝の旦那でねぇか。もう暗くなってきたのに、何してんだっぺ?」
「え、あぁ……ちょっと道に迷ってしまいまして」
「またでか。こらぁ、方向音痴な方こった、はっはっは」
イチゾウは手をたたいて快活に笑う。
「イチゾウさんの方こそ、今朝といい、どうしてひとりで森に出向いているんですか?」
「……探し物やなぁ。必ず見つけなくちゃいけねぇもんがあんだ……それにしても、このエルダートレントは立派なもんだ。魔法屋の旦那、時代生だからってあんまトレントたち、いじめんでくんでよ」
イチゾウはそう言うと、エルダートレントをひと撫でして、ゆっくりとクルクマ方面へ歩きはじめた。
「不思議なおじいさんでしたね」
「探し物か。いったい何が目的だったのか……ただ、拡大する魔法界にともなって、量産される杖にトレントが使われることには反対してるみたいですね」
イチゾウの背中を見送り、俺たちへ安心して魔法陣を使うことにした。
「あれ、そう言えば、今朝のおじいさんは迷子だったらすぐ助けてくれたのに、今回は置いてけぼりにされてしまいましたね」
下唇に指をあて、なんとなしに呟くアヤノ。
「……気分の問題ですよ、たぶん」
俺もまた深くは考えずに答えた。
ただ、一握の違和感を抱えながらも、俺はそれ以上はなにも言葉をたす事をしなかった。
⌛︎⌛︎⌛︎
翌日のパールトン邸。
ーーバタンッ
華奢な少女に押し開けられる背後の重厚な木扉。
「エゴス、レティスは学校に行くわ!」
「お嬢様ぁぁぁ、よくぞ、よくぞ頑張られましたぁぁ、その決断にいたっただけでも、わたくしめは感服の極みにこざいまずぅッッ!」
水色ドレスと青髪ポニーテールをふりふり。
執事室に押し掛けながらのレティスの宣誓に、俺からの昨日の報告をうけて、書類を作成していたエゴスが万年筆と紙を放りなげて泣きはじめた。
レティスが復学の話をしはじめた。
いろいろ気になるけど、今は邪魔しないほうがよさそうだ。
俺はわきにはけて、レティスに執務机のまえを空けた。
『エゴス様、おめでとうございます』
レティスとあとに続いて、静かに入ってきたメイドたちは美しい微笑みをたたえながら、そろって小さな拍手をしだす。
「これで、これで奥様もお喜びになられまずぅ! ぅぅ、このエゴス、感涙のーー」
「エゴス! だけどひとつ条件があるわっ!」
「っ、はは! なんでしょうか!」
エゴスは一瞬で涙をぬぐいさり、レティスへ深くは平伏。
「サリィをレトレシアに入学させなさいッ!」
「……ぇ?」
「お、お嬢様、いったいそれは、なにゆえなのか、尋ねてもよろしいでしょうか……?」
一緒にいくって言ったけど、まさかレティスは俺が一緒に授業を受ける学生になると思ってたいたは。
俺は目を見張り、いつの間にか大学に入学させられそうになってることに、ただただ驚嘆するしかなかった。
「なにゆえ? なにゆえですっえー!? エゴス、あなたは最低よっ!」
「ぐへぇー!? ぉ、お嬢様、な、なじぇ、そのようなひどいことを……っ!
壁に背を打ちつけて、血反吐をはくエゴス。
「サリィは学校生活に憧れてるのよ! 青春とかなんとか語って、すっごくいきたそうに言ってきたんだから!」
「ぐっ! な、なるほど、サラモンド・ゴルゴンドーラ、存外にあなどれぬ、やつだ……ぐへっ……!」
最後に敵へ塩をおくるをような目を俺にむけ、執事長エゴスは息絶えた。
妄想と理想を語ったのは間違いないけど、まさかあれが俺がいきたいって意味にとらえられるとは……レティスお嬢様は、油断できないひとだ。
にしても視線が痛い。
またこれ、メイドたちから嫌われたよ。




