第23話 怒らせたみたい
顔のよく似た2人の緑髪の少女たち。
ポルタの横なぎの長腕を、危うさを感じさせずに飛び越えると、2人は息のあった動きで数本のナイフを投じた。
「グロゥウ!」
醜い咆哮が魔の森に響きわたる。
鋭利な投射。
ポルタは意にも返さず、動かない。
それは投じられたナイフが、紅鱗を突破する威力を秘めていないと悟っていたからか。
あるいはその鋭き遠投軌道のさきに、己が肉体がないと気付いていたからなのか。
どちらにせよ、一手速い紅のポルタは、着地した緑髪の少女たちへその骨と皮だけの長腕をのばした。
「無駄、無駄なんだぞっ」
「所詮は魔物、ひとの技を知らないの」
余裕の顔でたちつくす少女たち。
俺は目を見張り、とっさに木の影から飛びだそうとする。だが、それが杞憂だったとわかるのに1秒もかかる事はなかった。
「グロゥウ、ゥッ!?」
とまった、動きがとまった。
なんの前触れもなく、ポルタは身を震わせて硬直してしまったのだ。
緑髪少女、彼女たちの蒼翠の瞳のすぐさきまで、紅くながい五指を向けているのに、最後の数センチが届かない。
苦しそうにうめき声をあげるばかり、隙だらけもいいところ。
「ヌク、ハゲ、そこをどけぇえーっ!」
威勢の良い青年の声。
獣道を抜けて、抜身のブロードソード片手に、あのポルタ級冒険者パーティのリーダーが走りこむ。
「よっとだぞっ!」
「その呼び方やめるの!」
飛びのいて道を開ける緑髪の少女たち。
両手で剣幅のひろいブロードソードを、まっすぐ槍のように構えた青年。
紅のポルタの無防備な頭部へ開かれた道を、全速力、勢いのすべてを乗せた致命の一撃がうがつ。
「おりゃあァアッ!」
「グロゥウォッ!」
ーーギィンッ
硬質な金属のぶつかる音。
ーーバギィッ
「ッ!?」
ほぼ同時、硬質なそれが砕ける音が聞こえた。
紅鱗をまえに銀色の破片と、木々の間からそそぐ陽光を受けてするどい切っ先がひかる。
「俺の剣気圧が負けたってのかっ!?」
「アースッ、なにボサッとしてんのッ!」
「っ!」
つんざく仲間の声に、青年は我にかえる。
「グロゥウっ!」
だが、遅かった。
紅鱗の隙間から、寒色の波動がほとばしる。
純粋な魔力の特徴である青紫に煌めく奔流が、骨と皮だけの長腕に血管の筋をはしらせる。
どうやら、ポルタが怒ってしまったらしい。
「グロゥウォォォォオオッ!」
ーーバゴォンッ
一閃。
空気の振動があとを追いかける。
「うぐぅ!」
襲いくる風のみだれに、飛びそうになるアヤノとレティスのもとへ。体を木の幹おさえて固定する。
紅く長い腕先が消えたと思った、次の瞬間。
なにかが勢いよくふきとんでいき、ドレッディナの巨木たちを半ばでへし折っていった。
「サラモンド先生、い、今のは一体……?」
「サリィ……あの男の人どうなっちゃったの……?」
震える声で、現場から目を離さず、女子たちが見上げてくる。
これはまずい。
あの青年の剣気圧で、あの攻撃に耐えられたのか全く見当がつかない。
下手したらとっくに肉塊だ。
そうそうに助けに入らなければ、俺の判断ミスで死人を増やすことになる。
「レティスお嬢様、アヤノさん、絶対にここを動かないでください」
念のため、アヤノの頭に手をおいて魔法をかける。
「ハゲタカぁあ!?」
ーーバゴォンッ!
強烈な振動、吹き飛ぶ木々。
あ、まずい、また死んだかも。
「こっちを見ろ、俺が相手だ、≪風打≫」
単純な魔術式、出の速さ。
速攻魔法でもって、ポルタへの宣戦布告としようではないか。
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〜 用語解説 〜
・「剣気圧」
戦士たちが身にまとう気の層。
鍛錬によって身につけることができ、筋力を向上させる「剣圧」と、皮膚表面に層をまとうことで耐久力を向上させる「鎧圧」2つに分類される。
剣気圧を修めていないと視認できない。
練度次第で剣気圧をまとってないように見せることも可能。
・「鎧圧」
皮膚表面にまとう剣気圧のこと。
体外剣気圧とも呼ばれる。
耐久力を向上させ、あらゆる攻撃耐えられる無敵の盾となる。
練度次第では、鎧圧の形を変形させて刃にしたり、器用な芸当も可能。
また気の層には重さがあり、この鎧圧をまとうほどに、使用者の体重は増加することが知られている。
魔法攻撃にはよわく、その防御力はほとんど意味をなさない。
鎧圧は、他者の鎧圧との接触にも弱い。
・「剣圧」
肉体の内側にまとう剣気圧のこと。
体内剣気圧とも呼ばれる。
筋力を向上させ、戦士たちに超人的運動を可能とさせる。
また武器にまとわせることの出来る剣気圧のことも、攻撃の剣気圧ということで剣圧と呼ばれる。具体的には武器表面にまとわせる剣気圧は、鎧圧だが、慣習的にこう呼ぶことが多いようだ。




