無言の新人
捜査課は蔵崎が警察学校へ旅立った後、何か足りない雰囲気が漂っていた。
「やっぱ、居なくなるとさみしくなるもんですね。」
島が下を向きながら眼鏡の鼻当てを親指で押し上げる。
「まあ、人一人転勤になってたぐらいで落ち込んでたら、もっと大変な事があったらどうにもならんぞ。」
課長が扉を開け部屋に入ってくる。
「課長、おはようございます。」
みんなが挨拶をする。
「さっそくだが今日新人が来る。早くから転勤は決まってたからな。まあ、来るのは午後だ。それまではとりあえず仕事だ。」
課長が手を叩くとみんなは持ち場に散らばった。
時間がたって昼。
「新入りってどんなやつ来んのかな。」
菊池が親子丼を食べながら春日部と島に話しかける。
するとカレーを食ってた春日部が
「噂によるとまだまだ若い奴らしいぞ。」
「エリート系だって聞きましたけどね。」
ざるそばを汁に突っ込みながら島が言う。
「どうなんだか。問題児じゃないといいんだが…」
菊池は呟いた。
みんなが部屋に戻ってソワソワしていると、ガチャりと扉が開いて課長が入ってきた。
「今日からみんなの仲間になる樫山霧跳だよろしくたのむ。」
課長からの紹介が入り、全身真っ黒な服に身を包んだ男が入って礼をする。
みんなへー、と言う顔をして
春日部から
「春日部巡だ。よろしく。」
「菊池競です。よろしく。」
「島優生です。よろしくお願いします。」
3人も礼をする。
「そうそうですまないが、巡、一緒に会計課の備品係行って拳銃受け取ってきてくれ。」
課長が扉を指さし頷く。
「わかりました。行くぞ樫山。」
2人は捜査課を出て会計課へ向かった。
「えーっと、拳銃はこいつとこいつだね。」
会計課の担当が銃身の長い銃と短い銃を取り出す。
「へー、コルトローマンの2インチとS&W M29の8インチか。」
横からのぞき込みながら春日部が言う。
樫山は無言でホルスターを着けると、銃を収納する。
「お手並み拝見と行くか。」
樫山を射撃室に連れて行く。
弾をシリンダーに入れる。
まずコルトローマンを構えると三発発砲した。
するとマトの直径5cm以内に穴が開く。
同じくS&WM29を構えると三発放つ。
同じく真ん中付近に穴が開く。
次に両方の拳銃をホルスターにしまうと、すっとコルトローマンを抜いて三発発砲した。
こちらは直径10cm以内に穴が開く。
コルトローマンをしまうと、すっとS&WM29を抜き出し三発発砲する。
やはりこちらも直径10cm以内に穴が開いた。
「ほぉ、すげぇな。」
肩に手をかけて春日部が話しかけるが、樫山は反応せずまた弾を込めてホルスターにしまった。
するとそこへ島が駆け込んできて
「カベさん城山銀行蒼葉支店で銀行強盗です!」
それだけ伝えると島は走って行ってしまった。
「俺達も行くぞ。」
と言って春日部も出ていく。
玄関に出ると、
「とりあえずお前は今日これ使っとけ。」
樫山に車の鍵を投げつけ、止まっている深緑の62スプリンターリフトバックを指した。
樫山が運転席、春日部が助手席に乗り込み赤色灯をつけると現場へ急行した。