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『密林』と『始まりの村』

 


 しばらくして森を抜けると見晴らしの良い丘の上に出た。

 丘下は見渡す限り森林に覆われており、奥は霧がかって先が見えない。話には聞いてたが、中々に深い森林地帯である。


「迷ったら帰ってこれなそうだなこりゃ」 


 なんて、俺は安易に森に入らないよう苦笑いしているとリリーエが樹海の丸く空いた場所を指を差した。


「あった、多分あれが目的の村ね!」


 指差した場所に目を凝らすと何軒か建物があり、朝飯の準備をしているのか大量の炊煙が上がっている。


「ようやく着いたわね、えっと、あの村の名前はなんだっけ? ウィスタリア?」

「旧ランヴェルス領・ナチャーラ村ですね。人口は五十人程度の小さな村で、村人は主に森に住む鹿や猪、狼などを狩り、その毛皮などを町で売って生活しているようです」

「なるほどね、村の規模は五十人程度らしいけど、軍師はどう思う?」

「恐らくだけど、百人近く村の中にいると思う。多分ランヴェルスの兵士達だと思うけど」

「ふふ、やっぱりここに集まっていたって本当だったのね、早速向かうわよ!」

「と、その前にリリーエ! ちょっと待った!」


 今すぐにでも村に駆け出しそうなリリーエを俺は両手で引き留めた。


「なんで止めるの? 速く兵士達と合流しなきゃじゃ!?」


 リリーエが足踏みしながら俺の制止に苦言を呈する。しかし、今すぐにでも村に入りたい気持ちは分かるがそれはまだ早い。


「いきなりリリーエが村に入るのは危険だから止めたんだ」

「危険? なんで??」

「ハルト殿の言う通りです、姫様。あの炊煙を出している人間が、本当にランヴェルス兵なら良いのですけれど……」

「そういうこと、あの煙を出してるのがドミナシオンの兵士なら村に入った瞬間に一貫の終わりだからな。まずはそれを確認しないとダメだ」

「う、確かにその通りね……」


 リリーエが自分の行動が軽率だったと反省する。


「だから、先に俺が村に入って様子を確認してくる。二人は村の近くで俺が戻るのを待っていてくれ」

「軍師が一人でって、大丈夫なの?」

「心配するな、ちょっと行って確認するだけだから」


 俺は二人置いて先に村に向かうべく、坂道を一気に駆け下りる。

 すると、リリーエが「忘れてた!」と叫び、坂を降りきった俺を呼び止めた。


「軍師! これ!!」


 丘上のリリーエから何かを投げ渡され、俺はそれをキャッチする。


「そのお金で新しく服を買いなよ! 流石にその服じゃあ他の町で目立っちゃうから!」


 そういって、リリーエが笑顔で手を振った。

 投げ渡されたのは五百円玉くらいの金貨が一枚、金貨の値段は分からないが、服が買える程の価値があるのだろう。


「あぁ、ありがとう! リリーエ!!」


 リリーエの気遣いに感謝し、俺はナチャーラ村へと続く道を駆け出した。


「さーて、ウィスタリアさーん?」

「は、はい! な、なんでしょうか!?」

「ふふふ~、ちょっと聞きたいことがあるのよ、ねぇ?」



 

 ナチャーラ村に続く道程を、俺は転びそうになりながら駆けていた。基本的に狭く草が生い茂り、石や砂利が転がり、時折木の根っこに足を取られてしまう。獣道といって過言ではない悪路だ。


「足場が悪いな、リリーエから靴を貰っておいて良かった」


 リリーエから貰った靴のお陰でこんな悪路でも幾分か走りやすい。使い古された感があるが、大きさもちょうど良いし、なにより足に馴染む。


「良いものを貰った、金貨の件といい、後で彼女に御礼を言わないと」


 木々の枝を掻き分け、慣れない悪路を道なりに進んでいると、ナチャーラ村の入り口らしき門が見えてきた。

 といっても、それらしい扉があるわけでなく、柱が道の両端に二本建っているだけ、見張りが一人だけの粗末なものだ。


「止まれ! 何者だ!!」


 門を通る寸前、門番の如何にもな台詞で止められた。が、俺の格好を一瞥した門番が「あぁ……またか」と呟いた。


「また? なんの事だ?」

「お前、転移者(イティネラー)だろ?」


 もう見飽きたと言いたそうに、門番は「通って良いぞ」とすんなり道を開けてくれた。


「そんなに簡単に通して良いのか?」

「もう長年ここで見張りをしてると判るんだよ。そういう服装の移転者は基本的に無害だとな」


 ふむ、転移者がこの村に来るのは珍しくないって事なのかな。

 俺は素直に「ありがとう」とだけ言ってさっさと門を潜った。


「んじゃ、情報集めといきますか」


 村に入った俺は、とりあえず村全体を歩いて回ることにした。


「あれが集まってる兵士か、予想より少し多いな」


 そして、村の広場らしき場所で炊き出しを行う一団を見つけた。 

 見た感じ百人は優に越え、そのほとんどが防具を着込んでいるものの大半が怪我人なのか何処かしらに血や怪我の痕がある、まさしく敗残兵といったところか。

 雰囲気はランヴェルス兵っぽいが、一応何者なのか調べるとしよう。


「それじゃあ、服を新しくするついでに、店主にあの兵士達が何者なのか聞くとしようかな」


 村で店を営んでいるなら、この村の情報を仕入れやすいと思ったからである。俺は何でもありそうなよろず屋を見つけたので、その店のドアを開いた。


「らっしゃい! て、あんた転移者か? この世界の服でも買いに来たかい?」


 入店早々、店主らしきでっぷり太ったちょび髭の親父が俺に話し掛けてきた。冷めた目付きなのは俺が転移者だってすぐにわかったからだろう。


「親父の言う通り、この服じゃ色々と目立っちゃうからな。とりあえず、頑丈な服はあるか?」

「頑丈な服ねぇ、それは良いがお前さん、服を買えるだけの金はあるのかい?」


 親父が訝しんだ顔をする。

 まぁ、俺の格好じゃあこの国の金を持ってるようには見えないだろうな。


「いくらかは分からないが、これならある」


 俺はリリーエから貰った金貨を差し出した。すると、親父は目を見開いて文字通り腰を抜かした。


「お、お前さん! それ、純粋なラン金貨じゃねえか!? 何処で拾ったんだそんなもん!?」


 親父の驚きようはただ事ではない、この金貨はそんなに凄い物なのだろうか。


「これはそんなに凄い物なのか?」

「何言ってやがる! その金貨一枚でこの辺の家が一つ買えちまう位に価値があるものだぞ!?」

「マジかよっ!」


 なんてもの投げ渡してんだよあのお姫様! てか、こんなちっぽけな金貨一枚で家が買えるってどうなってんだこの世界!?


「いやぁ、まさかお前さんがこんな金貨を持ってるとは驚いたなこりゃ」

「あぁ、正直俺も驚いてる……」

「それで悪いんだがこの金で服を売ることは出来ねぇ、残念だがな」

「え、家が買えるくらいに価値があるのに服は買えないのか?」

「そうじゃなくて、ここいらの地域じゃ基本的に悪金で取引しててな、純粋なラン金貨を渡されてもお釣りを払えねぇから、店の物を売るのことは出来ないんだ、すまねぇな」

「あぁ、そういうことね」


 親父の説明のおかげで金貨一枚で家が買える理由がなんとなく理解できた。

 日本でも室町時代辺りでは質の悪い偽金が多く出回り、そのせいで正式通貨の価値が跳ね上がっていた歴史がある。おそらくこの世界でも同じ現象が起きているのだろう。

 俺は渋々服を買うのを諦め、本来の目的である広場の軍が何者なのかを尋ねることにした。


「そういう事なら仕方ない、服を買うのは諦める。それはそうと、あの広場に集まってた兵士達は何者なんだ? 妙に怪我人が多いけど?」

「あぁ、アレは元ランヴェルスの兵士達だ。戦に負けて逃げ出した兵士がここに集まったみたいなんだよ」


 やれやれと親父は頭を掻く。なるほど、ならあの兵士達がランヴェルス兵ならこの村にリリーエを入れても大丈夫そうだ。

ついでにもう一つ、リリーエ達が村に入るにあたって俺はあることを思いついた。


「それと親父、最後に一つ良いか?」

「ん? まだ何かあるのかい?」

「実は他にも欲しいものがあってだな……」


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