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『図書館』と『珍しい客』



 昼間のオリエン市街は活気に満ち溢れていた。


 世界有数の商業都市なだけあって、見たこともない野菜や果物、淡水魚を売る店が数多く建ち並び、武器屋や娯楽施設も至る所に点在し、それらを求めて人々が街を愉しげに闊歩する。

 俺はそんな街の空気と、トライゾンの屋敷にあった緑色のマントを肌で感じながら、前を往く少女の背中に語りかけた。


「やっぱり賑やかだなぁ、オリエンは」

「当たり前よ! 我が国が誇る大都市だもの!!」


 真っ白なワンピースに麦わら帽子を被ったリリーエが例の如く自慢気に振り返った。今までずっと防具を纏った姿だったから、私服のリリーエを見るのは新鮮だ。


「あぁ、リリーエ姫、今日も美しいわねぇ」

「そうねぇ、あのトライゾンから街を取り返したんだから、大したものよ」

「頭も良くて武勇に長ける。しかも美人だなんて……良い王女様になるだろうなぁ」


 ふと、通りすがりの人々の声が耳に入る。

 トライゾンからオリエンを奪った事実ははすぐに街中に広まり、街の民は新しい統治者としてリリーエを歓迎してくれた。

 元々トライゾン自体の人気が無かったのも、すぐに受け入れられた理由でもある。

 そんな住民達の視線も気にせずリリーエは突然立ち止まると、興奮気味に屋台を指差した。


「ねぇ軍師! あの店に焼きトウモロコシが売ってるみたいよ! ちょっと百本くらい買っていこうよ!!」

「ちょっとじゃねーよ! そんなに買ってどうするんだ!?」

「どうするって、持って帰ってみんなで食べるに決まってるじゃない?」

「百本も要らねーよっ! それよりお前ちょっとこっち来いっ!!」


 屋台に突入しようとしたリリーエの腕を掴み、その場からさっさと連れ出した。


「子供みたいにはしゃぐんじゃない! リリーエはこの国のお姫様なんだか、もっと上品に振る舞ってくれよ!」

「あはは……街を出歩くことなんて無かったし、ああいう屋台で買い食いをするのに憧れてたからつい、ゴメンね?」


 そう、上目遣いで悪気のない笑顔で謝ってきた。

 くそっ、そんな顔されたら怒る気持ちが失せてしまう、本当に卑怯な表情だなそれ。


「はぁ~、屋台に行くのは良いけどさ、ここに来た目的を忘れたんじゃないよな?」

「目的って、私と二人っきりでデートしたいんでしょ?」

「あぁ~もう俺一人でなんとかするわ、じゃあなリリーエ」

「イヤー~!! ストップストップ!! 謝るから! 街中で独りにしないでぇっ!!」

「ならちゃんと案内してくれ、寄り道で時間を潰すつもりは無いからな?」

「うぅ、軍師がだんだん私に冷たくなっていく、これが反抗期ってやつかしら……?」

「何か言ったか? リリーエ?」

「何でも無いです、軍師様」


 しゅんと縮こまるリリーエに俺は深い溜め息をついた。

 俺がリリーエと二人きりで街を出歩いているのは、彼女にある場所に案内してもらっているからだ。本当はオリエンの地理に詳しいウィスタリアに頼みたかったが、


「屋敷の掃除やら雑務があるから」


 と丁寧に断られたので、仕方なくリリーエに頼ることにした。

 ちなみに、ヨイチは愛用の八人張りの弓を手入れして貰うべく、街の武器屋に消えていった。


「てか、本当にこの先であってるのか?」

「大丈夫、前来た時から場所が変わってないならあってるはず!」

「前来たって、いつの話だよ」

「う~ん………………十年くらい前?」


 凄い不安になってきたぞ、このガイドさん殆どうる覚えだろ。


「ま、この大通りの突き当たりを右に曲がれば目的地の筈だから、多分!」

「んじゃーさっさと行くぞ、道草してる暇はないからな」

「あ、ちょっと待ってよ軍師!」


 リリーエを置いて道なりに進み、言われた通り大通りの突き当たりを右に曲がってみる。

 そして、俺は目的の場所を視界に捉え、息を呑んだのだ。


「これが……!」


 飛び込んできたのは宮殿とおもしき巨大な建物と、一面に広がる緑豊かな公園だった。

 黒い制服姿の少年少女が草むらに寝そべって本を読んだり、仲間と雑談している姿が映り、公園の中央にある噴水には石で出来た巨大な本のオブジェクトが飾られていた。


「これが、オリエン図書館!」

「そう、我がランヴェルス国が誇る蔵書数三千万点を越える書物が全て借りられる大図書館、これだけの規模の図書館は世界の何処を探したって他にないわ!」


 リリーエの祖国自慢に、流石に今度の俺は感嘆した。

 オリエン図書館は世界で唯一、歴史的重要書類を一般人でも(厳重な審査と許可が必要だが)借りられる図書館で、公園に学生服を着た若者が多いのは、各国の学生はここに短期もとい長期滞在し、オリエン図書館で勉学に励むのがこの世界では一般的だそうだ。


「懐かしいわぁ、子供の頃よくお父様に連れてこられたのよ、勉強の為にね」

「そりゃあー勉強は大切だからな! うん!!」

「図書館を前にしてなんでそんなにテンション高いのか、私には理解できないわ」


 三千万近い書物が読み放題とか、図書館巡りが趣味だった俺には天国みたいな場所だ! やがおうにもテンション上がるに決まってる!


「でも、こんなところに何でまた?」

「図書館に来たらやることなんて一つしかないだろ!」


 俺は早々と図書館の敷地内へ足を踏み入れる。


「図書館に来たら、本を借りる以外に無いだろ!」


 高鳴る鼓動を抑えて、俺は長い石甃の道を歩き出す。図書館の入り口付近の階段がうっすらと陽炎で揺らめいていた。



───────────────────────



 現在、私は図書館入り口で本を読んでいる。

 膝に載せたスカーレットの腹部を撫でながら、時折吹く風に任せて自身の髪を踊らせている。

 ほむ、今日のスカーレットは機嫌が悪いねぇ。何時もなら私に抱かれようと、自ら私の脚に寄ってくるのに。


「どうしたんだいスカーレット、私の太股が嫌いになったのかな?」


 私はスカーレットの小さな身体を持ち上げて自分の鼻先に寄せる。

 目線を尖らせ、訴えるように喉をゴロゴロ鳴らすスカーレット。やっぱり、今日の彼女はご機嫌斜めのようだ。


「こんなに良い日和なのに何が不満なのか、君は本当に興味深い生物だよ」


 ニャ~と鳴いて、私に何かを伝えようとするスカーレット。

 残念ながら、猫の言葉を理解するには私の一生は短すぎる。その分野では私は無能なのだよ、許してくれよスカーレット。

 二度目の鳴き声でひょいと私の両手から抜け出して、スカーレットは石柱の日陰に座って瞼を閉じた。


「ほむ、スカーレットは真夏の太陽が苦手のようだ」


 まだ暖かみのある太股に本を数冊置いて、一番上の茶色い本を手にとった。


「今日はこれか……」


 適当に選んだ本は、若い女子生徒が「よく当たる」と噂している占い本だった。

 私自身の勘は信じるが、不特定多数に当てはまるなんの確証もない未来予知は、残念ながら好みでは無い。

 けれど、軽く読む分にはうってつけな内容なのは認めよう。


「今日も、風がよく働いてくれるな」


 オリエン図書館の入り口前は風の通り道だ。

 ページが風に流されて読みづらいが、日陰で冷やされた空気を風が運び、夏場にしてはひんやりとしていて心地よい空間だ。

 私はそれが好きで、夏の間はここのベンチに座り、読書に更ける事にしている。

 草木の擦れる音や公園の木に留まった蝉の求愛行動に耳を傾けるのもまた一興だ。


『今日は珍しい客が現れ、退屈しない日になるだろう』


「ほむ、なるほど、あれかな」


 無作為に選んだページに書かれていた占いの内容は偶然にも、私が今思ったことと重なった。

 此方に近付いてくる見知らぬ少年が一人、それと、麦わら帽子を被る見覚えのある少女が一人。

 恐らく、この二人がその『珍しい客』なのだろうと私は直感した。


「今日は退屈しない日になるそうだよ、スカーレット」


 スカーレットは何も応えず、黒い尻尾を一定の間隔で弾ませた。


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