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『雷鳴』と『剣』


 ラシュムールの城門に重い空気が流れていた。

 ラムセス配下の屈強な将兵達が、馬に乗った数人の使者を囲み殺気だたせている。


「オリエン、いや、トライゾンからの使者だと聞いたが」


 それら兵士達の間を縫ってラムセス将軍が現れ、使者の前に仁王立ちした。

ラムセス将軍も将兵達以上の覇気と殺気で使者を威圧する。


「い、如何にも、我々はトライゾン様からの言伝てがあって参った」

「ほう、『言伝て』か、ランヴェルスを裏切った張本人が、良い身分になったようだな」

「わ、我らの殿は貴殿らの武勇に一目置いておられる。そ、それ故、早くドミナシオンに降伏なされよとのことだ」

「貴様ら! 言葉を慎重に吟味し発しろ! それが最後の言葉になるやもしれんぞ!!」

「ひ、ひぃいっ!」


 ドンッ! と、大剣を持ったカイドウがラムセス将軍の隣に並び、剣の切っ先を地面に突き刺した。長身のカイドウから脅された使者達は思わず後退る。


「やめろカイドウ、お前が凄んではこやつらが何も喋れなくなるだろ」

「も、申し訳ございません、殿!」

「すまんな、うちの部下はみんな血の気が多くて手が焼いている」

 ラムセス将軍が軽く謝り、使者達に改めて問い掛けた。

「俺達が降伏してその先はどうなる? まさか、俺達の首を跳ねるのでは無いだろうな」


 冗談気味に言うが眼が笑っていない。使者の一人が事務的に、淡々とその問いに答えた。


「それなら御安心を。ラムセス殿の地位と領地の安堵、更にはランヴェルス西部の完全な自治をと、仰せつかっております」

「完全な自治だと?」


 兵士達にどよめきが起こる。『完全なる自治』とはつまり、ランヴェルス西部が全てラムセスの物となり、ラムセス将軍の国が誕生するということだ。

 これには流石のラムセスも度肝を抜かれた。


「ほう、自分達が滅ぼした敵国の将軍にそこまでやるか」

「それほど、将軍の名声は天下に轟いているということです、この件につきましては、既にドミナシオン王も合意なされました」

「合意しただと? 誰が王に献策した?」

「──オリエン城主・トライゾン様です」


 突然、上空の雨雲に一筋の閃光が駆け巡ると、少し遅れて雷鳴が響き渡った。


「そうか奴め、ハナからそのつもりか!!」


 ラムセス将軍は眼を見開いて腰に差した剣を庭の大樹目掛けて投げ、剣は大樹の幹に深く突き刺さった。

 そして、ラムセス将軍は人目も憚らず吼えるように笑った。


「と、殿?」

「すまぬがその話は事が大きすぎる。少し考えさせて欲しいと、トライゾンに伝えてくれ」

「……かしこまりました、そのように伝えておきます」


 用件を済ませた使者は、素早くこの場から離れるよう馬首を返す。


「あ、そうそう、最後にラムセス殿にお伺いしたいことが……」


 使者は、最後に何かを思い出したかのように城内を見渡した。


「先日、この近くのナチャーラ村にてランヴェルスの姫・リリーエ様を捜索していた我が兵士が襲撃に遇いましてな、生き残った者に聞いてみると、リリーエ様を見つけたが返り討ちにあったと申しておりまして、将軍は何か御存知か?」

「いや、俺は何も知らんな、姫が生きていること自体初耳だ」

「そうですか、もし姫を発見出来たなら教えてくだされ、ランヴェルスの生き残りは絶さねばならぬ故」


 告げ終えると、使者達はさっさと城を出ていった。

 それと同時に、ポツリポツリと雨が降りだし、あれよと言う間に土砂降りとなった。

兵士達も急な雨で武具を濡らさぬように、それぞれ屋根のある場所に駆け出した。


「殿、先ほどの要求、如何なされますか?」


 カイドウが大剣を握り、雷光を見つめるラムセス将軍に尋ねた。


「考えるまでもない、姫を裏切るような要求を飲めるものか」

「しかし、使者には考えさせてほしいと言ってましたが……?」

「そうでも言わんとお前らが使者を殺していただろ? 俺はこの城を血で染めたくないんだよ」


 主のぶっきらぼうな言い方にオウドウは胸を撫で下ろした。


「殿ならそう言うと思っておりましたぞ! では、また何かをあれば!」


 カイドウは大剣を地面から抜き、自分の部屋に帰っていった。

将軍は独り、雷が走る天空を眺め、その場に残った俺にほくそ笑んだ。


「主に伝えとけ小僧、俺はお前達に危害を加えるつもりは無いとな」

「大丈夫、最初から疑ってなかったから、リリーエも、俺も」

「嘘つけ、ならここにお前が来る必要はないだろ」

「情報収集は戦略を練るためには必要だから」

「いっちょまえに、まだ初陣を済ませたばかりの小僧が何言ってやがるんだか』


 俺は大樹に突き刺さった剣を抜き、将軍の側に立つ。


「危うく、この剣が当たるところだった」

 剣を将軍に差し出すが、彼は見るだけに留まり、そっと囁いた。

「その剣は、お前にやろう」

「良いんですか? 結構使い込まれてる剣に思えるけれど」

「俺はその剣を投げちまったからな、もう、それの主に相応しくない」


 将軍は剣に手を伸ばすことは無く、雨も気にせず悠々と部屋に戻る。


「それはお前が持っておけ、俺はもっと綺麗に研がれた新しい剣を使うからな」


 ガハハとラムセスは豪快に笑うが、どこか寂しいそうなラムセス将軍の声に、それが強がりになんだと感じた。


「さてと、それじゃあ早速、オリエン攻略の策を練るか、付き合え小僧」


 俺は視線を剣から、そさくさと部屋に帰る将軍の背中に移し、彼を呼び止めた。


「大丈夫、将軍が策を練る必要はない」

「なんだと……?」


 将軍が驚嘆し、俺に振り返った。


「まさか、お前……?」

「あぁ、思い付いたんだ、オリエンを落とす策を」


 将軍から貰った剣を腰に、俺は雷雨に負けぬよう高らかに言い放った。


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