愛を求める
神は自らを想う者に力を与える。
少女とその両親は敬虔な信者だった。
毎日教会へ行き、家族で祈りを捧げていた。
少女は幸せだった。
父も母も全ての幸福は神の思し召しだと言った。
ある日少女の両親は強盗によって殺された。
教会で祈りをささげた直後の事だった。
幸い、少女だけは通りがかった衛兵に助けられて無事だったが、それは少女にとって幸福では無かった。
少女は神を呪った。
全ての幸福が神の思し召しなら、全ての不幸も神が与えるのだと。
ずっと、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとっずっとずっとずっと
少女は一瞬たりとも忘れる事無く、神を怨み続けた。
ある日、少女に力が宿っていた。
少女は嵐を呼び、雷を起こし、炎を放ち、空を飛び、傷を癒し、老いる事も無くなった。
そんな少女を人々は恐れ、排除しようとした。
だがその悉くを少女は返り討ちにして行った。
いつしか血と死に塗れた少女を人々はこう呼んだ。
「魔女」と。
魔女は愛情に飢えていた。
遠い過去、両親から与えられた愛情が恋しかった。
魔女は母に良い事をすれば良い事が帰って来ると教えられた事を思い出した。
そうだ、沢山の人達に良い行いをしよう。
そうすればきっと誰かが自分を愛してくれるはずだ。
魔女はその日から人々を助けて行った。
獣に襲われている旅人を助けた。
日照り続きの村に雨を降らせた。
疫病に苦しむ街を癒した。
人々を襲う多くの厄災を防いだ。
人々は魔女を崇め、敬い、祈った。
そして「魔女」は「女神」と呼ばれるようになった。
いつもの様に女神は人々を助ける。
そして少女は神を怨み続ける。
何年も、何十年も、何百年も。
どれだけ崇められても、敬われても、祈りを捧げられても、女神にアイは与えられない。
誰か私に想いを頂戴。
女神は悪人である男女に死を与えた。
二人は何人もの人を殺した悪人だった。
しかし、その場に一人の少年がいた。
少年は男女の幼い息子だった。
その無垢な瞳は、一瞬の内に憎悪に満たされた。
彼の瞳には「少女」しか映っていない。
女神は歓喜した。
少年は「女神」では無く、「魔女」でも無く、「少女」を見据え、純粋なその想いを一心に注いでいたのだから。
ああ、もっと私だけを見て。
私をもっと憎悪して。
その瞬間、「女神」は「少女」へと戻っていた。
少年の手には鈍く光るナイフ。
駆け出す。
少女は微笑み、受け入れた。