序章 -階級ー
初めまして。春野あかねと申します。
知人に勧められ、この度「小説家になろう」様で書かせていただくことになりました。
初心者丸出しの文章になってしまうかもしれませんが、お楽しみいただけるように頑張りますので、よろしくお願いいたします。
小さい頃は誰しもが、大人に憧れていた。
いつか自分も…大きくなったら…。
そしたら大人になれるんだって思っていた。
好きな仕事について、好きな人と結婚して…
幸せな家庭…明るい食卓…
そんな誰もが夢描く日常は…
いつしか…
当たり前ではなくなっていた…。
-----------------
「” ”!!早く走れ!!」
十歳くらいの少年が炎にまみれた道を懸命に駆ける。その後ろには妹だろうか、少年よりも幼い少女が必死に後を追っている。
「お、お兄ちゃん!ま、待ってよ!待っ…きゃぁ!!」
バタンッ!
瓦礫に躓き転ぶ妹に、兄は踵を返し駆け寄る。
「何してんだよ” ”!早くしないとあいつらが…く……る…」
私を起こそうと手を差し出した兄の顔がみるみる変わっていく。
「お…兄ちゃん?」
私の後ろを指さし青ざめていく兄。
その先を見ようと振り返る私の頭を何者かが布で覆った…
-----------------
「…ッ!!!」
目の前には白い天井。
窓の外からは、小鳥のさえずりと、朝ごはんのいい匂いが入ってくる。
それは変わらぬ朝の光景。
「また…あの夢…」
毎日同じ夢を見るの。小さいころの私の夢。
でも、私にはその頃の記憶はない。
この学園にやってくるまでの記憶はどうしてだか、一つもなかった。
あの少女は私のはずなのに、本当にあった出来事なのか、それともただの夢なのか…
何度も見ているし、起きてからもこうしてはっきりと覚えているのに、未だに思い出せない。
それに、夢の中にいつも出てくるお兄ちゃん。本当のお兄ちゃんなのかな…もしかしたら、この世界のどこかに私の家族はいるのかもしれない…。でもそれもただの憶測でしかなくて、本当のことは私には分かりっこない。だって、私自身のことも何も知らないのだから…。
ふと、時計を見ると目覚ましがなる十分前だった。
もう一度寝てしまえば確実に遅刻になってしまうので、もったいない気もしたけれど顔を洗う為にベッドを出た。
この部屋は私の一人部屋で、誰からも邪魔されずに自分の時間が過ごせるのだけれど…
本来であればBクラスである私にはこんないい部屋は与えられるはずがないし、そもそもなんでβの私がBクラスに配属されたのか…私自身疑問に思っている。
私の通うこの学園、全寮制教育機関『パラディソス』には【階級】がある。
現在S~Fクラスまであり、【α】と呼ばれる能力や、頭脳、体力など…秀でた才能のあるもの程上級クラスへ配属され、逆に無能力者である【β】や知力、体力共に劣っているものは下級クラスへ配属となる。
歴史の本に乗っていた、遥か昔に存在したとされる教育施設とは違い、この国を治めている【機関】と呼ばれる集団が14歳から18歳までの子供を集め、国のためによく動く駒を作るための教育を行っている施設となっている。
その為、クラスごとにカリキュラムが用意されていて、日々の時間割はもちろん、使える施設や用具の種類も上級クラスと下級クラスとでは雲泥の差で、こんな階級があれば上級クラスの生徒が下級クラスの生徒を下に見ているのも無理はない。
実質、下級クラスに人権はなく、E・Fクラスの生徒は、S・Aクラスの生徒から奴隷の様に扱われている。
だけど私は、
自分たちは偉い…
自分たちには才能がある…
と、他でもない自分自身に言い聞かせるためにそうしているように感じる。
そうでもしないと、ここの大人たちには認めてもらえないし、下手すればクラスを下げられてしまう。
大人の求める大人になるためには人を人と思わない心も必要なんだと、ここでは教わるのだから。
でもそれが私、『皇 愛音』の現在の居場所…。
-----------------
顔を洗い、ピンと張った制服に袖を通す。
この制服も階級によってデザインが違う。
権力の赤、静寂の青、虚無の黒…それが機関のカラーとなっていて、この学園の制服にも取り入れられている。
基本は白地で全クラス一緒だけれど、そこに入るラインが違う。S・Aクラスは赤いラインの入ったデザイン、B~Dクラスは青いライン、E・Fクラスは黒いラインになっている。
誰でも一目見たら上下関係が分かるようになっていて、月に三度の休息日以外、敷地内での着用が義務付けられている。
いつもよりも早く起きたからと、ゆっくりしすぎてしまったみたい。
そろそろ食堂に行かないと朝食がなくなってしまう。
最後のチェックを全身鏡で済ませると、部屋を出た。
「愛音!」
部屋を出ると男子生徒に声をかけられた。
「あ、凪。おはよう。」
彼は『朧月 凪』
私のクラスメイトで親友でもある。
彼とは入園式で出会った。
それまでの記憶がなく、人と上手く関わることができなかった私に声をかけてくれたのが始まり。
今では私の唯一の理解者だ。
どうやら朝食に誘うために待っていてくれたようだ。
そうでなければ、B棟の一番端にある私の部屋に来るはずもないのだ。
「ほら!行くぞ!」
「え?」
私の腕をスッと掴むとそのまま食堂へ向かい走り出す。
その顔はいたずらに成功した子供のようで、思わず笑ってしまった。
-----------------
「愛音が遅いからあんまり食えなかったなぁ…。」
しゅんと肩を落とした凪が前の席でうなだれている。
あの後急いで食堂に向かったものの、朝食のピークタイムを過ぎていたため、凪が満足できるほどの量は残っていなかった。彼からすれば小食の私は十分おなかいっぱいになったのだけれど…
「そんなに言うなら先に食べてればよかったのに…」
待っていてくれた人に対して、自分でも冷たいなと思った。記憶が無いせいなのか、素直な気持ちをうまく言えない時がある。でもそんな私にも、いつでも優しいのが凪である。
「別に怒ってねぇって!俺が愛音と食べたくて、約束もなく待ってただけだからさ!あ、でもランチはいっぱい食べたいから早めに行こうな!」
今日はから揚げ定食の日なんだぜ!と、にこっと笑う。
もちろん私が特別という訳ではなく、他の人にもまんべんなく優しい。
15歳という年齢の割に幼く小柄で、どちらかと言えば可愛いという言葉が似あう容姿。
加えてこの性格である…人気が出ないわけがない。かといって記憶の無い私には、恋愛感情というものがいまいちよく分からないため、周りの女子たちにライバルだとすら思われていない。おかげで平和な日々を過ごしている。
「凪は私とばかりいていいの?他にも凪と一緒に居たいって人いるみたいだけど…。」
いつも視線を感じているのは確かで、そのほとんどが凪へのものだろう。
でも、こういうことを聞くと
「他の奴といると気ぃ使って疲れるし…俺は愛音がいればいいんだよ。」
といったような返事がいつも返ってくる。
他の女子の前では絶対に聞かないでおこうと誓った。
チャイムが鳴り今日のカリキュラムが始まる…
各々自分の席に戻り、教官を待つ。
いつもと変わらない光景…
こんな日常がずっと続いていくんだと、この時の私は信じて疑わなかった…
この先、どんなことが起こるのか…
どんな運命が待っているのか…
そして私は何者なのか…
私はまだ何も知らなかった…