夏の終り、破壊されし世界にて
タグがよく分からなかった…
太陽光発電の電光掲示板は、"気温38度"と告げる。
降り続けた雨の後の水溜りが割れたコンクリートに残り、もう役目を果たす事のない信号機が映る。
人類が滅び去った世界、最期まで足掻こうとした痕跡が爪痕や遺物として残った──そんな、世界。
全ては砂となり、雨によってその姿を消した。
そんな中、人類が滅亡した世界で一人の少女が歩いていた。
陽炎によって揺らぐ世界、片手には時を刻むのを止めた時計、片手には──一丁の拳銃。
ボロボロのワンピースを身に付けた少女は少女は哀しげに放置された車を覗き込む。
雨を免れた砂の塊、人の形を残したそれは──子供を護ろうとしたその姿のまま、固まっていた。
「……また、無理だったのか」
「煩い」
心配そうなその声に、少女は吐き捨てるように答える。
「…大体何よアンタ
私にしか見えないし、人じゃないし…」
そう言って振り返る。
そこに立っていたのは、人とは違う生き物。
人には無いもの、頭の上にある三角形の耳。
黒く濡れた鼻と…その下に少しだけ見える、鋭い牙。
尻尾を垂らし、二足で立つ──そう、彼はウェアウルフ。
この世界に堕ちて来た、この世界の住民とは似て非なるモノ。
この世界の住民からは何も認知される事は無い。そして何かを言われる事も、その存在すら理解されず──人は人が造った"モノ"で砂となり消え去る。
そしてその度に生き残った彼は時を巻き戻した。
人が間違いを正す事を願い、そしてもしかしたら存在をわかってもらえるかもしれないという、淡い期待と共に。
──そうして何度目かの繰り返しの中で、少しだけ他の住民と"ズレ"ていた少女とウェアウルフは出逢った。
少女はウェアウルフと話、触れた。
そして少女もまた──その繰り返しを、生き残ってしまった。
少女を救う為、人を救う為ウェアウルフは少女に力を与えた。
──少女の身体的な"死"をトリガーに、時間が戻るようにしたのだ。
自分よりも彼女の方が、人類を救えると判断したから。
少女は記憶をそのままに、人を護る為に動いた。
ウェアウルフの姿は人類が滅亡しなければ見える事も触れる事も出来ない。
そして少女はギリギリまで行くのだが──最後の最後に、失敗する。
そうして二人は再会するのである。
──もう誰も存在しないその街で、ウェアウルフは言う。
「…今回は惜しかった
あと少しで、救えたの…ッ」
少女はグッ、と唇を噛む。
そして持っていた拳銃を頭に押し当てた。
「…また、繰り返すの?」
「そうよ
…そうしなきゃ、これで終わりじゃない」
──そして、沈黙が流れる。
何時もなら彼女はすぐに引き金を引く。しかし今日は──引かなかった。
「…ねぇ?」
「何?」
「…私が人類が滅亡しなきゃ貴方が見えないのって、貴方がくれた力のせいよね?」
その言葉に、ウェアウルフは頷く。
「…なら、もし世界を救えたらどうなるの?」
「大丈夫、その時は力は消えるから」
「…そしたらまた貴方に逢える?」
──その言葉に、彼は無言で頷く。
少女は安心した表情を浮かべ──引き金を引いた。
パァン
「……嘘だよ
僕は……消えるんだ」
少女の頭からは血が飛び散り、陽炎は全てを揺らす。
「…でも、良いんだよ」
ウェアウルフは微笑う。
「君が幸せに生きれるのなら」
──自分を友達だと、言ってくれたから。
世界は揺らぎ、過去へと戻る。
再び少女は世界を救う為に奔走する。
"世界を救い、ウェアウルフと生きている世界で再会する"
世界を救った後、その望みが叶わない事に彼女が気がつくのは何時になるのだろうか?
──ただ、陽炎だけが変わらない夏を告げていた。
えんど