2/18
親切
テストの最中、消しゴムを落としてしまった。
使い古してすっかり丸くなった消しゴムはよく転がり、どこへ行ったのか分からなくなってしまった。
――参ったなあ。
ペンケースを覗き込んだが、予備の消しゴムは入っていない。
まだ答案は半分がようやく埋まったところだ。一切の書き損じ無く解答欄を埋められる自信は無かった。
そっと手を挙げるも、監視役の教師は腕を組みながら船を漕いでいる。
ますます困り果てていると、隣からそっと消しゴムを渡された。
「あ、ありがと」
小声で礼を述べて、消しゴムを受け取る。
背筋が粟立った。
私が座っている席は窓際だ。消しゴムは、その窓の方から差し出された。
こわごわ、視線を横へ向ける。
枯れ枝のような灰色の手が、サッシ枠の向こう側にさっと引っ込むのが見えた。