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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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482話 情報操作

「…………」


 鳴り止まない拍手の中、オットマンが引き連れてきた部下たちと共に渋い顔をしている。

 ほほ~ぅ、あの辺はお仲間さんたちか。

 あ~らら、みんな同じような顔しちゃってまぁ。


「いやぁ~、素晴らしかったなぁ、王様のあの威厳。先見の明があり、懐が深く、実に人徳者であらせられる。今日こんにちの繁栄も、あの時の英断があればこそ。そう思わないか?」


 隣で煽ってやれば「ぐぬぬ……」って歯ぎしりしてやんの。


 あぁそうそう。

 隣の席に座ってやったんだ。

 危険じゃないのかって?

 大丈夫。

 反対の隣は、情報紙発行会のタートリオだから。


 俺に何かあれば、すぐさま情報紙が事実を国中に発信してくれる。

 下手なことは出来ないよな?


「今回は、たまたまこのような内容だったようですな」

「そ、そうですな。たまたま。いや、こういうこともあるのですな」

「なるほど、一辺倒ではないということか」


 オットマンのお仲間が苦しそうに発言を始める。

「今回はたまたま王族を称賛する内容だっただけだ」と。


「もしかしたら、悪い噂が広まったので慌てて軌道修正をされたのかもしれませんなぁ」

「なるほど。では、この余興は日ごろの悪評の目くらまし……おっと、失礼、ガス抜きというところですかな」


『余興』ね。

 意地でも『芝居』と認めたくない感じが滲み出てるな。

 えっと、どこの誰さん?

 あ、マーゥルが知ってるの? じゃあ、リストアップよろしく。


「まぁ、そうであるな。三十五区がこれまで行ってきた余興の内容はすでに知れ渡っている通りであるし、それは今さら何をしようが覆せるものではない」


 オットマンは部下を引き連れて三十五区へ乗り込んできた。

 おそらく、今日ここで見たことは報告するのだろうが……「何を報告するか」はオットマンの胸先三寸、つまり言いたい放題だ。

 都合の悪いことは「報告しない」、これを徹底していれば、自身の訴えを否定する要素はなくなる。


 まったく、都合のいい考え方をしてやがる。


 デマを流すヤツなんてのは大抵そうなんだが、恣意的に自分の論調に沿った部分だけを大々的に喧伝するものだ。

 なので厄介なわけだが……


「伝えなくてもいいけど、伝わると思うぞ~」


 頬を引きつらせるオットマンに言っておいてやる。


「これだけ多くの領主や貴族が目にした、新しい『芝居』だ。あの美しい造形の人形たちを見ろよ。すごい作り込みじゃないか。昨日言って今日急遽差し替えたような芝居じゃなく、準備には十分な時間を要してたことが窺える、そう思わないか?」


 本当はベッコが今日一日で作り上げ、修正しまくった人形だが、そんなもんは言わなきゃ分かんないわけで、「思わないか?」って言っておけば「ずっと前から準備してたんだ」と向こうが勝手に勘違いしてくれる。


「この素晴らしい芝居の内容が、幸運にも王族のどなたかのお耳に入れば、統括裁判所の話とは随分と違うではないかと、疑問を抱かれるかもしれない、よな?」

「ふ……ふん! 尊き御方々が、このような卑しい余興にお心を煩わせられるはずもない」


 まぁ、王族に興味持たれて見に来られても迷惑だから、それでもいいけどさ。


 でも、これで大っぴらに三十五区劇場の芝居を非難は出来なくなったよな。

 だってさ~ぁ?


「いやぁ~、でもまぁ、根も葉もない噂を流すロクデナシもいるらしくて、三十五区の芝居に対し『見る価値がない』とか『品性に欠ける』とか言ってるらしいんだけど、ここにおられる領主様や貴族の方々の中の誰かお一人でも今回の芝居の内容を中央区で話題に出せば、まるで先見の明があり懐が広く、今日の繁栄の礎を築いた王族の活躍を広く伝え称えるこの芝居を『見る価値がない』と言っていると捉えられかねないよなぁ。そうなれば、まるで王族を『取るに足りない』って非難しているように聞こえないか、それが心配でなぁ~……いやぁ、気の毒なことにならなければいいのだが」


 俺がそう言ってやれば、オットマンをはじめお仲間さんたちは言葉を吐き出せなくなったようだ。

 帰り道ででも悪し様に今回の芝居をくさそうとしていたのだろうが、それは「王族の活躍なんてクソだ」と言っているように聞こえちゃうよ……っていうか、そういう意味なんだって受け取り側の解釈を変えちゃうよという脅しだ。


 お前らが仕掛けてきている情報操作なんか、こっちだって簡単に出来るんだよ。


 怖いだろ?

 これだけの数の領主が揃ってるんだ。

 誰が、どこの誰とつながっているか、お前らは完全には把握してないもんな。

 自分から仕掛けた悪評攻勢が、自分の首を絞めかねないとなれば、その口をつぐむ以外にないよな。



 あぁ、そうか。

 もう一個あったか、お前らの逃げ道が。



 まぁ、そっちは逃げ道に見せかけた罠、なんだけどな。



「確かに、今回の芝居は素晴らしかった。それでもまぁ、いささか人魚に肩入れし過ぎているように見えたがね。人魚の王が尊き御方々の言葉を疑うシーンが何度も出てきた。それはいただけない。王族のお言葉は絶対。素直に従えばよかったのだ」


 その人魚も王族なんだよ。

 人魚は人魚で、「なんで人間はさっさと聖女王を信用しないんだ」ってやきもきしてたろうよ。


「まぁ、このような余興を尊き御方々がご覧になることはないとは思うが、あまり中央の王族に近しい方々のお耳にも入れない方がよろしいでしょうなぁ。とりわけ、人魚の王族と肩を並べる場面など、不敬に受け取られかねぬと私は肝を冷やしたほどだ。間違ってもご紹介などはいたしかねますなぁ、えぇ、私ならば、ですがね」


 と、領主連中に「中央に情報は流すなよ?」と牽制する。


「しかしまぁ、それ以前の話でしょうなぁ。なにせ三十五区には、いささか耳を疑う噂が付きまとっておりますし」

「あぁ、あの件か。私も聞き及んでおりますぞ」

「いや、空恐ろしいというか……よくもまぁ、そのような有り様で、このような王族に媚びるような内容の余興を……」

「何が言いたいのかな?」


 突如話を変えて騒ぎ出したお仲間たちに、ルシアが冷静な顔で問いかける。

 もちろん、連中が言いたいことは分かっている。


 でも、あえて連中の口から言わせる。


 ルシアが、お仲間からオットマンへと視線を向ける。

 そうだな。

 しゃべらせるなら、代表者がいいだろう。


「いやなに、よからぬ噂を耳にしましてな」

「また噂か、うんざりだな」

「それが本心なのか、とぼけているだけなのか……火のないところに煙は立たぬというからな」


 オットマンが勝ち誇った顔で言う。

 ルシアが、白を切っていると確信している表情だ。

 確かな情報を掴んでいるのだろう。


「三十五区は王族へ、謀反の意思がおありなのかな?」

「まさか、考えたこともない。『精霊の審判』をかけてみるか?」


 ルシアが言うと同時に、屈強な男たちが「ザッ!」と身構える。

 連合騎士団の連中だな。


「よしておきましょう。領主相手に牙を剥くのは戦争の火種になる。それに……いくらでも誤魔化しようはあるからな」


 だから、なんでこいつは三十五区領主であるルシアにこんな上から物が言えるんだろうか?

 年齢が若いからか?

 女だからか?

 外周区だからか?


 その中のどれが理由だとしても、とんでもない見当外れ勘違い野郎なわけだが。


「謀反を図っていないとすれば、あり得ないような噂を耳にしましてな」

「ほほう? それが虚言でないというのであれば、今ここで申してみろ」

「よろしいのですかな? これだけの領主が揃っている中で?」

「構わぬ。申せ」

「では――」


 にやりと、オットマンは笑い、特大のスクープを口にする。


「三十五区は、秘密裏に――兵力をお集めですよね?」

「…………」


 一瞬、ルシアの頬が引きつった。

 うっかりすれば見落としそうなくらいの一瞬。


 そして、その表情の変化が微かであればあるほど、『敵の目』にはそれがくっきりと映る。



 勝ちを確信して、オットマンが口元を緩めた。


 言い逃れしようのない、絶対的なルシアの弱点。

 その証拠となる情報を――俺らに『つかまされている』とも知らずに。



 こいつ、素直なバカなんだなぁ。




「兵力というのは、連合騎士団のことかな?」


 と、ルシアがすっとぼける。


「それであれば、中央にも報告済みだ。三十四区と合同の騎士団を組織し、港の警備の強化を図っている。隣国の情勢が安定しているとは言えぬ状況なのでな」


 自区に毒薬が持ち込まれたことには言及せず、バオクリエアの情勢不安定を理由に挙げる。

 だが、『噂』を知っているオットマンには、それらはすべて詭弁に聞こえているだろう。


「連合騎士団のことは、我々も聞き及んでいる」

「では、何もやましいところがないことはお分かりいただけると思うが」

「ふふふ。実に、とぼけるのがうまい」

「口を慎め、等級なし風情が」

「「「なんだと!?」」」


 ルシアが煽れば、お仲間貴族がオットマンよりもいきり立ってルシアに食って掛かる。

 だが、連合騎士団の騎士たちが素早くルシアの前に身を乗り出してルシアを守る。


 おぉ、なかなかいい練度じゃねぇか。

 四十二区だったら、絶対ナタリアとマグダとノーマが前に出てエステラを守ってるシーンだな、今のは。

 で、デリアとイメルダが後ろから睨みを利かせていると。


 守り、完璧だな、四十二区。

 兵士はヘボばっかだけど。


 で、こういう時、下っ端が飼い主より前に出張っていきり立ってると、大物ぶって「まぁまぁ、落ち着けお前たち」って飼い主が諫めるんだが……


「口を慎むのは貴様だ、小娘が!」


 オットマンは、煽り耐性のないクソザコだったらしい。

 領主に「小娘」はダメだろう。


 あぁ、ギルベルタがブチギレてるから、ナタリア、ちょっと抑えてきて。

 ここで「お命頂戴」しちゃうとマズいんだよ。

 だから、辛うじて声こそ出してないけど、夥しいまでの殺気を迸らせてる三十五区民、全員落ち着け。

 こういう連中が来るって事前に言っといただろ!?

 あぁ、もう、お前ら全員先に帰れ! 邪魔!

「いいえ、います」じゃなくて、帰れ!

「我慢します」って、出来てないから!


 だが、そんな殺気がいい方向にオットマンたちの意識を向けてくれたようで。


「……ふっ、よほど痛いところを突かれたらしいな。見よ、領民どもが殺気立っておるぞ」


 領民が一丸となってルシアを守ろうとしている空気を感じ取ったようだ。


「これだけの人間が皆大人しく貴女に従うとは、なかなかしつけが行き届いているようだ」


 それは、ルシアが王族への謀反を企て秘密裏に兵力を増強している状況証拠になったようだ。あいつの中では。


 まぁ、こんだけの人数が一人の例外もなく領主に好感を抱いてるって、考えようによっては不自然なのかもしれない。

 いや不自然であるはずなんだよ。


 ……この街に来てから、領主大好き領民ばっかり見てるから、ちょっと感覚麻痺してきてるけども。

 本来、内閣支持率とか70%も80%もあったらおかしいんだよ。

 60%で高い方で50%~40%くらいが普通なんだって、マジで。


 四十二区と三十五区、たぶん領主支持率100%なんだろうけども!

 こっちがおかしいんだからな!?


 まぁ、三十五区は直前に「ルシアたん、か~わ~い~い~!」集会したから、今めっちゃ結束固い時期なんだろう。

 地元での支持率が低そうな貴族から見たら「そんな高支持率、あり得るか!」って感じなんだろうな。


「我が区の領民は兵士ではない。ただの一般市民だ。私が領民に好かれていることを邪推して、私が市民を兵に仕立て上げ王族に謀反を起こそうと画策していると? 馬鹿も休み休み言え!」

「口が過ぎるぞ、スアレス!」


 馬鹿と言われて切れるヤツは、もれなく馬鹿だ。

 俺なら、本当に休み休み馬鹿なことを言ってやるのに。


「え~……貴族の見栄の張り合いとかけて……新婚ラブラブ期のおっぱいと……解きます……そのこころは……どちらも確実にモメます!」とかな!


「ヤシロ、うるさい」


 エステラが、すっげぇ静かに突っ込んできた。

 スルーしてればいいものを!?


「兵を集めているという噂は、この者たちのことではない……そちらにおられる、四十二区の――」

「え?」


 俺を睨んでいたら、急に自分に話が飛んできて、素で驚いているエステラ。

 あ、今のいい表情だったぞ。

 ラッキーだったな。マジで驚いたおかげで、お前の大根芝居を見せずに済んだぞ。


 ほら、オットマンがにやりと口角を持ち上げた。


「聞いておりますぞ。なんでも、見るからに野蛮な者たちを大勢三十五区に送っておるそうだな?」

「やばんって……」


 エステラが頬を引きつらせる。

 まぁ、ウッセはともかく、大工や乙女は野蛮って感じじゃないもんなぁ。


「そして、四十二区の大工……なんという名前だったか……亜人が代表を務めている連中だが――」



 ドンッ――と、マグダが殺気を放つ。

 ノーマ姐さん、お願いしますっ!

 大至急!


 流血沙汰は困るんだってば!


 お前も、言葉には気を付けろよ、バカ貴族!

 死んでも知らんぞ!?


「亜人、なんて呼ばれる者はウチの区にはいませんが、あなたがおっしゃりたいのは、ひょっとしてトルベック工務店のことですかね?」

「あぁ、そのような名前だったか……その連中が、三十五区に集まって何やら要塞を作っているそうだな?」

「……えっと、誰からそんな話を?」

「隠しても無駄だ! 我々は、すべてお見通しなのだよ」


 ルシアより与しやすいと踏んだのだろう。

 オットマンとお仲間連中がターゲットをエステラに変更したようだ。


「随分と前から計画していたようだな」

「えっと……」

「あぁ、隠さなくて結構! す・べ・て、耳に入っておるのだ」


 エステラの言葉を遮り、オットマンは勝ち誇ったように言う。


「随分と前から三十五区と四十二区では領民のトレードを行っておったのだろう?」

「とれーど?」


 エステラがこちらを向く。

 あ、ごめん。その噂流したの、言い忘れてたわ。


「その男の入れ知恵なのかな?」


 すぐさま俺を見たエステラの行動を、「痛いところ突かれちゃった、どうしよう!?」というヘルプサインと見て取ったオットマンがご満悦フェイスで言う。


「三十五区の領民を大量に四十二区へ移住させ、その代わり四十二区から腕っぷしの強い男たちを大量に三十五区へ送り込む――そうして、三十五区の謀反に一枚噛み、上位貴族であるスアレス家の恩恵を受けてきたのであろう?」

「……上位貴族だの、スアレス家の恩恵だの、聞いているこちらが恥ずかしいわ……」


 と、今度はルシアが苦そうな顔でつぶやく。

 感情を隠せっつの。


「その狼狽ぶりを見るに、噂は真実であったか……」


 確信し、オットマンは舞台役者さながらのオーバーアクションで天を仰ぐ。


「なんと愚かな! 尊き御方々に牙を剥こうなどと、天に唾するにも等しい行為だというのに……若さ故か、はたまた……女だからか。思慮の浅いことだ」


 ざわっ!


 ――ってしないで、女性陣!

 確かに、今の失言、ここにいる女性全員にケンカ売ってたけども!

 今だけ! もうちょっとだけ我慢して!

 もう少しだから!


 あとちょっとで、こいつら二度と表舞台に立てないくらいに叩き潰せるから!

 武力で制圧した方が早いじゃんみたいな顔、こっちに向けてこないでエブリワン!

 それしちゃうと、こっちが悪者にされかねないから!


 あはは~、マグダ、イネス、デボラ~、証拠残さなきゃOKじゃないんだぞ~、分かるな? 分かれ。


 あぁ、もういいや!

 ルシア、そこで例のセリフ!

 もう言っちゃえ!

 で、ここを離れるぞ!


「…………潰すぞ、小物が」


 違ぁーう!

 それじゃなーい!

 もうちょっと穏便な方のヤツー!


 あぁもう!


「え、え~、ルシアって、要塞なんか持ってたっけ~?」


 どうだ、俺のナイスアシスト!


「……ヤシロ、さすがに酷過ぎだよ」


 うっさい、大根エステラ。

 お前にだけは言われたくねぇわ。


「…………」


 で、そんな渋そうな顔でこっちを見るな。

 お前が暴走しかけたからアドリブをぶっ込んだんだろうが。


「はぁ……。要塞など、あるわけがなかろうが」

「おやぁ? おやおやおや~?」


 よっしゃ、食いついた。

 ……ったく、ハラハラさせんな。

 準備は万全なんだから、脱線させんなっつーの。


「それはおかしいですなぁ?」

「おかしいと言われようと、ないものはない。なんなら『精霊の審判』を――」

「それには及びますまい」


 にやぁ~っと笑い、オットマンがルシアに死刑宣告を突き付けるように言う。


「海岸にそびえたっておる、あの要塞は何なのですかな?」


 ウーマロとノーマが、多大な犠牲を払って完成させた、三十五区の新施設。

 どこからどう見ても要塞だ。


 だが、建っている場所がおかしい。


 海岸――っていうか、砂浜に建っている要塞って、どこからやって来る敵を想定してんだ?


 そこにまで思い至れれば回避できた罠なのだが……

 まぁ、これ見よがしに、その場所に筋肉の群れを集結させておいたからな。


 よかったよ、まんまと食いついてくれて。


「はて? 要塞……? なんの話をされているのか、皆目見当がつかぬな」

「それは通じないぞ、スアレス! 海岸に貴女が作らせた巨大な要塞だ! まさか、海岸に作れば人目に付かず隠し通せるとでも思っていたのか?」

「思うも何も、要塞などはないのでな」

「では、内部を見せてもらってもよろしいかな?」

「どこのだ?」

「海岸の要塞だと言っている!」

「海岸の……あぁ、あの新しい施設か。あそこであれば、貴殿らの入場は許可出来ぬ」

「なに!?」


 分かりやすく憤るオットマンに、ルシアは涼しげな笑みを湛えてはっきりと言い放つ。



「貴様らの入場は、何があろうと許可は出来ぬ」




 完全無欠の拒絶。

 さぁ、どうする、オットマン?




「内部を見られては、よほど困るらしいな」


 にやぁ~……っと、オットマンが笑う。

 うわぁ、絵に描いたような悪人面。

 ベースがイケメンな俺には到底真似できない面だわ、あれ。


「どのような因縁をつけられようと、この区の安寧と平和を守るのが私の使命だ。誰が何と申そうと、貴様らの入場は絶対に認めぬ」


 そうだ。

 きっぱりと拒絶しろ。

 そうすれば、連中はもっとも効力の高い切り札を切ってくる。

 もうすっかり、切り慣れているであろう、必殺の一撃をな。


「では、統括裁判所の名において命じる。疑惑の砦の中を検めさせよ」



 ――よし。

 あとは、きちんとワードを引き出せよ。確実に。言い逃れが出来ないくらいに、はっきりと、公言させるんだ。



「統括裁判所の名を持ち出すのか? 貴様のくだらぬ見栄のために意固地になっているようにしか見えぬが?」

「ふざけたことを申すな! これは個人のプライドのためではない! 国家の安全のために申しておることだ!」

「国家を背負うのか、その背に?」

「無論だ。統括裁判所は国王様がお認めになられた唯一無二の法の番人。すなわち、統括裁判所の決定は王族の決定に等しい! 我らを拒むということは、王族に楯突くことと同義であると心せよ!」


 びしっと言い切り、オットマンはじめ、お仲間たちが勝ち誇った顔を見せる。

 とても満足げに。

 これが、連中の必勝パターンなんだろう。


 だからこそ、何がなんでも統括裁判所という肩書きに固執する。


 ハーバリアスに無能扱いされて、切り捨てられたら、統括裁判所に居場所がなくなるかもしれないもんな?

 ただでさえ、雑用を押し付けられるような下っ端中の下っ端だ。

 難癖付けた相手に特大のしっぺ返しを食らって、あまつさえ大物貴族の名前にまで泥を塗ったとなれば死に物狂いで三十五区を潰しに来るよな?


 そして、「悪いのは全部三十五区と四十二区だった」と責任転嫁したいよな?


 だからこそ、絶対にお前はそのカードを切ると踏んでいた。

 切らざるを得ないってな。


『王の御旗』、それが、お前が使える唯一にして最大の武器だ。



「……王族に楯突くつもりはもとより持ち合わせておらぬ」


 王族の名前を出されては、いくら領主といえど折れざるを得ない。

 まして外周区の、年若い、女の領主など、取るに足らない存在なら尚のこと――って、思ってるんだろ?


 今、さぞ気分がいいだろうな。

 反抗的だった小娘が、為す術をなくし、しおらしくなった。

 勝った勝った、完全勝利だ――って、頭の中じゃお祭り騒ぎだろう。


 あとは、あからさまに怪しい、悪い噂が絶えない疑惑の施設に踏み込んで悪事の証拠を掴めば、お前の株は上がり、謀反を企てた大悪党を捌いた大手柄を得られる。

 おまけに、邪魔なルシアを排除して、ルシアが推し進めていた劇場を壊せば、ハーバリアスの留飲も下がるだろう。そすれば、上位貴族からの覚えもめでたくなる。


 いいこと尽くめで超ハッピー。


 そんな未来予想図を思い描いているのだろう。


 じゃあ、見に行こうか。

 お前らの思い描く未来と、この後実際に訪れるであろう現実の差ってやつを。


「案内しよう」

「ふん。最初からそうしていればいいものを」

「心証は最悪ですからな、情状酌量は期待しないことだ」

「なぁに、何を言ったところで、悪事の証拠は払拭できるものではない」

「今後の身の振り方でも、今のうちから考えておくことだな」

「そなたもだぞ、クレアモナ。あぁ、そうだ。四十二区の統治であれば適任者に心当たりがある。今度紹介してやろう。なに、遠慮はいらん。気のいい方だ、犯罪者であろうと話くらいは聞いてくださるだろう。はっはっはっ!」


 オットマンとゆかいな仲間たちが言いたい放題だ。

 エステラを犯罪者とまで口にしやがった。


 これだけ多くの観衆の前で。


 こいつら、『会話記録カンバセーション・レコード』って知らないのかね?

 あぁ、そう。『統括裁判所』って肩書きがあると、誰も自分たちには逆らわなかったのか。そうかそうか。だから攻められることに対して鈍感なんだな。


 ……自身の不用意な一言ですべてが終わることを知らないなんて、愚かだな。


 というわけで、ネフェリー、パウラ。一般庶民代表として、よろしく。


「ルシアさん!」

「あのっ、私たちも一緒に行っていいですか!?」

「るしあさんのこと、しんぱい……だょ」


 おぉっと、ミリィまで参加してくれたか。

 効果は抜群だ。


 だから、ルシア。「ぐはぁ! かわヨ!」って言いかけてるその口、死ぬ気で閉じとけ!

 死んでも開くな!


「……無論だ」


 よく呑み込んだ。

 今だけは褒めてやろう。


「私に後ろ暗いところは何一つとしてないからな。見たい者は見に来るがよい」


 ルシアの言葉に、劇場を埋め尽くしていた観衆が一斉に立ち上がる。

 全員で見に行く。

 ルシアを心配して?


 いいや、違う。


 この腹立たしいバカ貴族たちの末路を、その目で見るためにだ。


「ただし、彼らは『王の名の下に』施設へ立ち入られるのだ。くれぐれも、粗相のないように。荒事などはもってのほかだ。彼らの仕事の邪魔はせぬよう、心せよ」


 ルシアがそう言うと、オットマンたちは満足げな表情を浮かべていた。


「――で、あろう?」


 と、ルシアがオットマンを見る。

 オットマンは得意げに、鷹揚に頷く。


「その通りだ。統括裁判所は『王の名の下に』存在する組織。故に、我々の行動も『王の名の下に』行われているということだ」


 オットマンが数多いる観衆へ視線を向けると、観衆は誰一人、何も言えずに口をつぐんだ。

 反論がないことに気分をよくしたオットマンが高らかに笑い、歩き出す。


『王の名の下に』って言葉、すげぇ効果だろ。

 誰も逆らえない。

 すげぇ強力。


 そんな強力な武器なら尚のこと、取り扱いには気を付けないとな。


 じゃあ行こうか、『王の名の下に』――新しい施設へな。



 ルシアを先頭に、俺たちは劇場を出て港を横断し、砂浜へとやって来た。

 砂浜を歩いていると、そこに一種異様な要塞が見えてくる。


「ふっ。これで隠したつもりになっていたとは……」


 誰に聞かせるでもなく、でもかなりデカい声で、オットマンが嘲笑する。

 どっからどう見ても要塞。

 激しい戦火に焼かれても、最後まで建ってそうな頑強な砦だ。……これ、仮設なんだけども。


 どっからどう見てもいくさ用の、物騒で物々しい砦。

 その前に、俺たちは到達する。


「念のために確認する」


 砦の前で立ち止まり、入り口を背に庇うようにして、ルシアがオットマンたちを振り返る。


「ここには、そなたらが思い描くようなものは何もない。本来であればそなたらのような者の立ち入りを許可することは出来ぬ場所だ。それでも、本当に中を検めると申すのか?」

「くどい!」

「この期に及んで見苦しいですぞ、スアレス!」

「もはや言い逃れは出来ぬ。おとなしく観念することだ!」

「これは統括裁判所としての決定! すなわち王の意思なのですよ!」

「『王の名の下に』、そなたらはこの中へ踏み込むと、そう申すのだな?」

「そうだ! 『王の名の下に』、我らは動いておるのだ! 分かったなら、無駄な足掻きはやめてそこを退け!」


 焦れたオットマンがルシアを押しのける。


 あ~らら。

 女領主に手ぇ出しちゃった。


 ギルベルタ。よく我慢した。

 今度陽だまり亭で『よく我慢しました会』を開催してやるよ。

 悔しかったな。

 でも、もう終わりだから。


「踏み込むぞ!」

「お気を付けください、オットマン様。中に野蛮な兵が潜んでいるはず!」

「御身に傷一つでも付けようものなら、関係者全員に極刑を言い渡してやりましょうぞ!」


 威勢のいい声を上げて、堅牢な砦の中へと踏み込んでいくオットマン一行。



 ――合掌。



 俺が静かに手を合わせた直後、砦の中から悲鳴が聞こえてきた。



「「「「きゃぁあああ! 覗きよぉぉお~!」」」」



 それはそれは、とっても野太い声で。


「ど、どどどど、どういうことだ!?」

「なんなんだ、ここは!?」


 転がるように這い出してきたオットマン一行は、全身びしょ濡れで、ほのかに湯気を立ち上らせ、投げつけられたのであろう木桶を頭に載せていた。


「なんだも何も、ここは海水浴客へ開放している『シャワールーム』だ」

「「「しゃわー?」」」


 そう。

 俺が「出来たらいいな」と設計図を描いていたシャワーを、ここに作り上げたのだ。

 クルージングの時に、ここに海の家が欲しいとも考えていたからな。


 大変だったぞ~?

 オットマンやその手下がいつやって来るか分からないからさぁ、いつ踏み込まれてもいいように、女性には使わせなかったんだよ。


 もう、ルシアが「早く使わせろ、まだか」ってうるさくってさぁ。


 お前が使ってる時にオットマンが踏み込んできたら、一大事どころじゃすまない大騒動になってたろうが。


 というわけで、オットマンが踏み込む今、この瞬間まで、ここのシャワーは『乙女専用』となっていたのだった。



 地獄を耐え抜いた乙女たちへの、ささやかなお礼。

 そして――


「も~う、なんなのよ、この痴漢!」

「乙女の柔肌を覗くなんて、サイテー!」

「え~ん、もうお嫁にいけな~い!」



 ――痴漢逮捕のためのオトリになってもらう、代償だ。



 いや~、乙女も嫌がってなぁ~、見ず知らずのオッサンに覗かれるなんてヤダ~ってさ。

 納得してもらうために素敵やんアベニュー年間フリーパスまで用意したからな。

 そうだよ!

 これのためにリカルドに頭まで下げたんだよ、俺は!


 オットマンたちに『乙女の入浴』を見せつけるために!



 どうだ、参ったかオットマン!

 数週間ずっと夢に見てうなされ続けろ、バァーカ! ザマァ!




 ……で、こっからが本番だ。



「いやぁ、びっくりだなぁ」


 怒れるルシアの隣に、俺は悠然と歩み寄り、何がなんだか理解していないオットマンたちに現実を突きつける。


「『王の名の下に』だっけ?」


 お前らは確かにそう言った。

 口にしてしまった。


「つまり、王族が、お前らに命令して、乙女の入浴を覗かせたと、お前たちは主張しているわけだな?」



 覗きが見つかった時に「違う、王様に覗いて来いって言われたんだよ!」って言い訳したんだよ、お前らは。

 順序なんてどうでもいい。

 自分ではっきりと言ったんだ。

『王の名の下に』って。

 お前らは絶対入れないと領主が宣言した施設(乙女が使用中のシャワー室)へ入らせろって、お前ら自身が、その口で言ったんだよ。



 これ、大問題だよな?




「サイテー」


 ネフェリーがぽつりと呟く。


 そうしたら、それが呼び水であったかのように、一斉に観衆が噂話を始める。


「おい、聞いたか? 乙女たちが使用中の浴室に、オッサンが数人で突撃したんだってよ」

「え、なにそれ!? 女湯に男が突撃していったの?」

「しかも、『王の名の下に』とか言って、権力を振りかざして――」

「マジかよ!?」

「マジもマジ! 王族の名前を出して、反対する領主様を黙らせて突撃していったんだってよ!」

「とんだド変態だな!?」

「待てぃ、貴様ら!」


 加速する観衆の声に、オットマンが大声でがなり立てる。


「何が女湯だ!? どこが乙女だ!? 中に入っておったのは、オッサンばかりじゃないか!」


 と、バスタオルを体に巻き付けただけの、しどけない乙女たちを指さす。


「貴様らには、これが乙女に見えるのか!?」


 と、近くにいたネフェリーに詰め寄るオットマン。


「見えるも何も、乙女さんたちじゃない。ねぇ?」

「うん。乙女さんたちじゃん」

「なっ、何を言ってるんだ、このバカ娘どもは!?」

「はぁあ!? だったら『精霊の審判』かけてみなさいよ! 断言してあげるわ! あそこにいるのは、四十二区の乙女だって!」

「言ったな、亜人の小娘が! いいだろう、かけてくれる!」


 と、パウラを指さすオットマン。


「待てよオッサン! かけるならあたいにかけろ! あいつらは全員、一人残らず、ウチの区の乙女だ!」


 デリアが割って入り、オットマンを睨みつける。


 それを皮切りに、四十二区からやって来ていた連中が口々に「あれは乙女だ! さぁ『精霊の審判』をかけてみろ!」とオットマンに詰め寄る。

 ついには、ランドリーハイツに研修に来ている連中までもが「乙女さんで間違いないです!」とか言い始める。


「この……庶民どもがっ! 貴族を愚弄するとどういう目に遭うか、カエルになって思い知るがいい!」

「いいんだな?」


 頭に血が上っているオットマンの背後から声をかける。

 茹で上がった顔をこちらに向けたオットマン。

 そのバカ面に、はっきりと言っておく。


「統括裁判所の人間なら知っているだろう? 狩猟ギルドの前ギルド長が失脚した理由を」


 統括裁判所も関係していたはずだぞ、前ギルド長の失脚には。

 メドラに対し『精霊の審判』をかけ、それで猛反発をくらい、統括裁判所へ訴えられ、結果、貴族という肩書きを取り上げられたみじめな老人。

 耳にしたことくらいはあるんじゃないのか?


「メドラ。あそこにいる覗きの被害者は、乙女で間違いないか?」

「あぁ。このアタシ、狩猟ギルドギルド長のメドラ・ロッセルが断言しよう。このゲス貴族に入浴を覗かれた気の毒なあの被害者たちは、紛れもなく、一人の例外もなく、乙女だ!」


 メドラの登場に、オットマンが喉を鳴らす。

 いや、言葉が出てこなかったというべきか。


「じゃ~、海漁ギルドのギルド長、マーシャ・アシュレイも断言するね~☆ その子たちは、み~んな可愛い乙女だよ☆」

「なら、木こりギルドギルド長であるワシ、スチュアート・ハビエルも断言してやろう。そこにいる被害者は乙女だ」

「さぁ、アタシら三人に『精霊の審判』をかけてみな!」


 三大ギルド長があり得ない証言をしている。

 ここで、ギルド長三人がカエルになったら、この街はパニックに陥るだろう。

 少なからず、統括裁判所は襲撃されるだろうな。血の気の多い、この三大ギルドの全構成員に。


「ギルド長で足りないなら、ボクの証言も付けてあげるよ」

「私も名乗りを上げてやろう」

「エステラ様がおっしゃるなら、私も賛同いたします」

「まぁまぁ、レディはこんな泥臭い舞台に上がる必要はないよ。四十区領主の私がこの場にいる全員を代表して証言しよう。そこの被害者たちが乙女であると」

「では『BU』はこのドニス・ドナーティーが代表させてもらおうか」


 エステラにルシアにトレーシー、デミリーにドニス、そして、名乗りこそ上げなかったが外周区と『BU』の領主たちがオットマンたちに相対する。


 絶対の自信の表れ。


 ここにいる誰一人として、自分がカエルになるなどとは思っていない。

 それがはっきりと伝わったのだろう。

 オットマンは驚愕の表情のまま、何も言えなくなっていた。


 これだけの人間に『精霊の審判』をかけてしまえば、もう後戻りは出来ない。

『精霊の審判』は拳銃の引き金と一緒だ。

 一度使えば、なかったことには出来ない。

 相手がデカければデカいほど、その反動も大きくなる。


「ウチの領民に『精霊の審判』をかけると言い放ったんだ。ボクにかけてみなよ、オットマン」


 エステラが冷たい声で挑発する。

 出来るはずもないことを、やってみろと。


 ぐぅの音も出ない。

 完全にはめられた。

 今回は引き下がるしかない……とか、思ってんだろ?


 甘ぇよ。


「つまりこういうことか?」



 お前らには、もう、逃げ道は残ってねぇんだよ。


「統括裁判所は、『王の名の下に』女湯を覗きに来たってことか。王様がそんな命令を本当に下されたのか、確認しないとなぁ。なにせこっちは、複数の乙女たちが被害に遭ってるんだ。有耶無耶には出来ないよなぁ!?」

「いや、違っ、それは、噂が――」

「なんなら、統括裁判所に確認してもいいんだぞ? 『お宅の職員が、王族の名を掲げて、女湯を覗きに来たんだが、これは本当に統括裁判所が「王の名の下に」命令したことなのか』ってな」

「だ、誰もそのようなことは申しておらぬではないか!?」

「『会話記録カンバセーション・レコード』!」


 俺が言えば、その場にいた者たちが一斉に『会話記録カンバセーション・レコード』を出現させる。


「これだけの証人がいるんだ。『言ってない』は通らねぇよ」


 お前は、この観衆の前で、反対するルシアに、『王の名の下に』という言葉を振りかざし、この施設へ強引に踏み込んだんだ。

 それを、なかったことにはさせない。


「ち、違う……そ、そうだ! 三十五区が砦を作り、兵力を集め、謀反を企んでいるという噂があったから――!」

「砦なんてどこにあるんだよ? ただのシャワールームだぜ? お前らのようなヘンタイ野郎どもが覗かねぇように、頑丈に壁で囲ってあるだけの、ただのシャワールームだ。この壁の必要性は、奇しくもたった今、証明されたな?」


 これで「紛らわしい」とも「過剰過ぎる」とも言えないだろう?

 これだけやっても、被害が起きちまったんだからな。足りないくらいだ。


「兵力を集めて――ってのは、もしかして、このシャワールームを作るために派遣されてた大工たちのことか? おい、お前ら。戦争すんのか?」

「そんな暇ないッスよ! こっちはまだまだ抱えてる仕事が山ほどあるんッスから!」

「男手が必要だからって、俺ら狩猟ギルドまで駆り出されるくらい人手不足なんだろ? そんな暇がねぇのは誰の目にも明らかだな」


 と、ウッセを前に出させて、狩猟ギルドがここにいる正当性も主張しておく。

 もちろん木こりギルドは、自分たちの仕事をしていただけだ。


「誰がそんな噂、流したんだろうな?」


 ここで、大勢いる群衆に問いかける。


「この中で、この建物がシャワールームだって知ってたヤツ~?」

「「「は~い!」」」


 集まっている群衆が一斉に手を上げる。

 だって伝えてあるもん。みんな知ってて当然だ。


「この見た目だけで『砦だー!』なんて勘違いするのは、ここがシャワールームだと知らなかったヤツくらいか……」


 と、オットマンを見る。

 手を上げてないのはオットマンとお仲間貴族だけだ。


「えっ、まさか、女湯を公然と覗きたいがために、そんな噂を流したのか? 統括裁判所の名前を使えば堂々と踏み込めるから!? 事実と違っていても『紛らわしい噂のせいで』って言い訳できるから!? えっ!? そんなことのために王族の名前まで使っちゃったの!? そういえば、劇場ではここを見せろって必死だったっけなー!?」

「違う違う違う!」


 煽れば喚く。

 だが、もう遅い。


「じゃあ、『精霊の審判』をかけてもいいか? 違うってんなら受けて立てるよな?」

「無論だ! その代わり、身の潔白が証明された時は、貴様、覚悟しておけよ!」

「あぁ、いいとも。じゃあ、質問するから、それに正直に答えろ」


 答えられるものならな。


「お前や、お前の仲間、関係者は、教会からクレームが入った日から今日までの期間で――、三十五区を貶めるためのありもしない噂を発信したことはないな?」


 砦や謀反のことだけじゃねぇ。

 劇場で上演されている芝居が人魚礼讃であるとか、王族に人魚の血を入れろとルシアが主張しているとか、そういったバカげた噂を、お前らが捏造して広めた事実は、本当に存在しないんだな?


「そ、それらの噂と、今問題とされている噂は、別物ではないか」

「『あの噂は流したけど、この噂は流してません』なんて、誰が信用すると思う?」

「そ、そこは『精霊の審判』で――」

「それとも、お前らがばら撒いたデマカセは、三十五区を貶めて自分たちが領主にとって代わろうという野心からのものか? それこそ、国家に対する謀反じゃねぇか」


 お前は今、デマカセを吹聴したことを認めちまったからな。

 言い訳も出来ないだろ?


「…………」

「黙ってねぇで、答えろよ」


 親切に期限まで切ってやったんだぜ?

 この限られた期間に、三十五区を貶めるデマを吹聴してなきゃ、「もちろんだ」と答えてみろよ。


「選ばせてやるよ――」


 今さら、謝ったって許すつもりはない。


「『王族は覗きを強要するヘンタイだと侮辱した貴族』と噂されるのと、『おのれの欲求を満たすためにデマカセを流して領主を追い落とそうとした野心家』と非難されるのと、どっちがいい? それとも『統括裁判所の肩書きをスケベな欲望のために悪用したヘンタイ貴族』ってのがお好みか?」


 どれにしたって、国家の名に泥を塗る行為だ。


「も、申し訳ない! ただこれだけは信じていただきたい! 決してスアレス家を追い落とそうなどという野心はなかった! ただ、……そう、教会を使ってまでこちらの名に泥を塗ったことに対して意趣返しを試みたというか……き、貴族なら、おのれのメンツを守るために誰でもやるような、そういう軽い報復で………………へへへっ」

「言いたいことはそれだけか?」


 ルシアが、北極グマでさえ音を上げそうな冷たい声で言う。


「も、申し訳なかった! ほんの出来心で……すまない! 今回は手を引く、だから、どうか……っ!」

「『ふん。最初からそうしていればいいものを』」

「『心証は最悪ですからな、情状酌量は期待しないことだ』」

「『なぁに、何を言ったところで、悪事の証拠は払拭できるものではない』」

「『今後の身の振り方でも、今のうちから考えておくことだな』」


 泣き落としにかかったオットマンたちに対し、ネフェリーたちが『会話記録カンバセーション・レコード』を音読する。

 さっき、連中がルシアに言い放った言葉だな。

 きっと、その時からやり返してやろうと企んでいたのだろう。

 見事に決まったじゃないか。


「値する、万死に。ルシア様に対する狼藉は」


 静かな怒りをあらわにするギルベルタ。

 よく我慢したよ、本当に。


 ルシアが一瞬嬉しそうな表情を見せ、そして冷酷な顔でオットマンたちへ向き直る。


「貴様らが広めたのと同じ速度で、噂は広まるであろう。人の口に戸は立てられぬ。これだけの観衆の前で失態を演じたのだ。我が領民や友人たちに『精霊の審判』をかけるとまで脅し、我が劇場を握りつぶそうとしたその愚行――到底許せるものではないわ!」


 完全無欠の決別宣言。

 示談は、望むべくもない。


「精々弁明に走り回るのだな。統括裁判所と王族の名を、好き勝手に振り回した報いを受けろ」



 強過ぎる武器は、その反動も大きい。


 いい勉強になったろ。

 少々、高くつき過ぎたようだけれどな。







あとがき




というわけで、


オットマン、退場~

\( ̄▽ ̄)/


意外とあっさりと(^^;


まぁ、小物でしたので☆


そして、

謎の要塞の正体は――


シャワー室でした!

(≧▽≦)/


そうです!

以前ヤシロが描いていた設計図で、ノーマが食いついていたシャワーです!


あれが、ここで利いてきました!



ノーマとウーマロがノリノリで作っていたのも納得ですね☆

また新しい設備がこの街に誕生しました☆


シャワーの詳しい原理は、また次回☆

今回はただ、セクシーな乙女たちのバスタオル姿をご堪能ください☆



え?

いえいえ、乙女ですよ!

乙女さんのバスタオル姿!

好きでしょ!?

よいでしょう!?

まぁ、『ウチの』乙女ですけども!(笑)



――と、このあとがきの中でも、きっとおそらく

『乙女のバスタオル姿』というのがきっちりとネタとして昇華されていることでしょう


「いや、オッサンどものバスタオルやないかい!」と


つまり、この場所でも

『乙女=金物ギルドのオッサン』という認識が浸透しており、

もしこの発言に『精霊の審判』を使用されても我々はカエルにはなりません


だって、乙女さんたちですし!

( ̄▽ ̄)むふふ~ん♪



というわけで、こんな決着でした。

……ふぅ、オットマン、小物でしたねぇ



実は、前回登場した時、

マグダにオモチャにされてて、統括裁判所内にいる面白いオッサンとしていつかレギュラー化するかな~と薄っすら感じていたんですが、

やっぱり駄目でしたねぇ

権力側に寄り過ぎていたようです


エステラに上からいって、全給仕に泣かされかけてましたから

きっとその時からオットマンはそういう人物だったのでしょう。


この後、オットマンがどんな風になったかというのは、ウィシャートのようには描きませんが、もしかしたら後々どっかでグレイゴンみたいに「こうなったんだって」ってエステラさん辺りが情報を持ってくるかもしれません。


まぁ、統括裁判所の名前を使って好き勝手動いた結果、盛大にその名前に泥を塗ってきたわけですので……ろくな目には遭わないでしょう。――という感じです。


あと、オットマンに対しては、

マーシャとマーゥルがすごく怒っていたので、ヤシロが知らないところでこっそり何か罰が与えられるかもしれませんが……

(;゜‐゜)こわっ



それで今回、ヤシロがさらっとやってのけたテクニック

というか、相手を陥れるために利用してた認知バイアスがありまして――


『ダニング・クルーガー効果』というのがありまして

これは、能力の低い人ほど自分を高く評価してしまうというものなんですが


イラストとかって、描きはじめのころ、ちょっと上手くなってくると「うわ、俺上手くね?」ってじゃんじゃん公開したり、人に見せたり出来ちゃうんですけど

経験重ねて上手くなるほど「自分はまだまだだ!」って冷静に客観視できるようになるもの、ですよね?


この初期の「俺めっちゃ上手いじゃん!」がダニング・クルーガー効果が働いている状態です。

これ自体は悪いことではないんです、

上手くなる過程で誰しもが通る道ですので

ただ、ここで暴走すると後々黒歴史が…………うっ、なぜか心が痛い!(>△<;)


は、はぁ……話を、戻しましょう



細かく説明すると論文みたいになっちゃうので要点だけ書きますが、


『ダニング・クルーガー効果』

 能力の低い人ほど自己評価が高く、能力の高い人ほど過小評価する傾向にある

 能力が低いので自分の無能に気付けていない状態


『確証バイアス』

 自分に都合のいい情報のみを信じ、都合の悪い情報は無視する

 自分の好む情報ばかりを優先してしまう心理


『正当世界仮説』

 世界は正義に味方し、悪は必ず報いを受けるという発想

 翻って、正しいことをしている自分は、必ず報われるはずだと考えてしまう



という三つの認知バイアスが働いておりまして


オットマンは、もともと大した能力もないのに自己評価が異常に高く

自分のやることは正義だと確信しており、自分にとって都合のいい情報ばかりを集め、

集まった情報を見て「ほらやっぱり、俺が正しい!」と思って行動をしていた


という人物なので、まんまとヤシロにはめられたと、そういうわけです



結構あっさりと罠にかかってしまったので

「あ、こいつバカなザコじゃん」っていう感想だけで終わってしまうかもしれませんが

実は、ヤシロさんの方が高度なことを仕掛けていたんですよと、

まぁ、それに気が付けずにまんまと踊らされたオットマンが小物であることに変わりはないので

「バカなザコ」って評価でも構いませんけれどね

(*´ω`*)致し方なし!



これを、

もっとテンポよく出来たら、

もっとカッコいいのに!


頑張れよ、自分! 宮地さん!

コンパクトに!

目先の笑いを拾いに行かないで!


……まだまだ精進が必要なようです(^^;


目先の笑いが、欲しくて欲しくて……(笑)



とりあえずオットマンを退けましたので

また街の発展の方に移行したいと思います!


まずは、この街のシャワーがどんなものなのか

見てみてください☆


ぽろりもあ――あ、ないんですか?

そうですか……シャワーなのに?

そうですか……残念です


非常に残念ではありますが……


次回も、よろしくお願いいたします

宮地拓海


 Σ(゜Д゜;)ぽろりがないからって、悲しい終わり方すな!?


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― 新着の感想 ―
ポロリありますか!?ポー新ありがとうございます!高めのオットマン氏御退場!退場するまでに大分やらかしましたねー!これ程までに危険な漢はみたことがありません!地雷原でコサックダンスのうえにタップダンスに…
マーシャとマーゥルを怒らせた男の行く末はろくなもんにはならんでしょうねぇ
( ◜ཫ◝)ヴッ 文字からメンズフレーバーの香りがっ
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