415話 情報の鮮度
「わたしは子供たちのお世話をしますので、シスターのことはヤシロさんにお任せしますね」
と、一番の難題を丸投げされた俺in教会。
とりあえず、飯を食い終わったアッスントに今ある平鍋を持ってきてもらい、教会ですき焼きをやることになった。
陽だまり亭でやった時のように、テーブルをくっつけていくつかの島を作り、各島にそれぞれ鍋奉行が配置された。
俺とジネットとノーマに、ロレッタとマグダのセットで合計四奉行だ。
……四奉行って!? ねぇーわ、そんな単位。
カンパニュラとテレサは各島を回ってお手伝いをすることになっている。
ん? エステラ?
ガキどもに、いかにすき焼きが美味いかを語って聞かせてるぞ。
あいつとマーシャは戦力にカウントしてはいけない。
ちなみにレジーナは、迫りくる裁縫の恐怖で少々寝不足だということで、陽だまり亭の客間で仮眠を取っている。
……起きるのか、あいつ?
起きたら起きたで、ランドリーハイツ御一行がわんさかいてゲンナリしそうだけどな。
「鍋は熱いから、触んじゃないさよ」
「卵は清潔なものを用意してもらったですけど、念のため大人の人に殻を割ってもらってくださいです」
「……失敗した卵は、生で食べないように」
鍋奉行たちから諸注意が飛ぶ。
問題はないと思うが、念のため卵の殻が入った生卵は食わせないようにする。
加熱すれば問題ないから、持って帰って卵焼きにでもするつもりだ。
「では、特別なご馳走、すき焼きを始めますよ~」
「「「「はーい!」」」」
ジネットの宣言に、ガキどもが元気よく手を上げて返事をする。
「はい! 美味しくいただくことを誓います!」
そして、どのガキよりも元気にベルティーナが返事を寄越してくる。……俺一人では荷が重いって。
「イロハさんや、新しくご近所さんになる虫人族のみなさんと、仲良くしてくださいね~」
「「「「はーい!」」」」
まぁ、一応、何もなしでご馳走なんか食わせるとガキどもがつけあがるので、ランドリーハイツ御一行が来たらよろしくしてやってくれと依頼し、その見返りとしてすき焼きを提供するという『てい』になっている。
何も言わなくても、ここのガキどもは誰とでも仲良くなっちまうだろうけどな。
「仲良くします。ピクニックの時、お弁当が三倍美味しく感じられる絶好のお弁当ポイントだって教えちゃいます」
わくわくと、ベルティーナが目を輝かせている。
マズいな。三倍も美味く感じると、三倍多く食いそうだ。
ベルティーナの場合、そこそこ美味しく食えるポイントで弁当を食ってもらった方がいいに違いない。
「みなさん、ご静粛に。これが、すき焼きの音です!」
「「「「おぉー!?」」」」
向こうでは、今朝俺がやったような流れでジネットが鍋奉行をしている。
ガキどもがうっきうきだ。
ノーマやマグダたちも問題なくやれていそうか。
じゃ、俺は目の前の大ボスを満足させてやるかね。
「ほら、まずは肉を味わってみろ」
「いただきま美味しいです!」
早いっ!
早いよ、感動が、そして感想が!
「生卵に、まだこのような可能性が秘められていたなんて……あの、山と積まれた生卵……足りるでしょうか?」
「どんだけ食う気だ?」
その前に食材が底を尽きるわ。
「ほら、野菜も食え。ネギがシャキシャキして美味いぞ」
「はい。とてもいい歯ごたえです。煮込んでくたくたになった甘いおネギも美味しいですが、この甘いスープの味の中では、これくらいキリッとしたキレのあるおネギが一層引き立ちますね」
まともな食レポみたいなことを言い出したベルティーナ。
量も食うし、味も分かる。
どんだけ食に特化してんだ、こいつの能力は。
あと、スープじゃなくて割り下な。
「本日お見えになるみなさんにも、こちらの料理を?」
「ん~……そこなんだが」
一応、普段通りの食事をってことで話はまとまったのだが、今現在、ジネットがめっちゃ作りたそうなんだよな。
正直、やらせてやってもいいかもしれないと思っている。
「ベルティーナならどうだ? 初めて行く場所で緊張しながら食べる飯は、豪勢なご馳走と、ほっとするいつもの飯と、どっちがいい?」
「両方出てくると嬉しいですよ、私は」
わぁ、聞く相手間違えた。
「みんな、お前ほど量を食えないんだよ」
「うふふ」と笑い、お肉を寄越せと小鉢を差し出してくるベルティーナ。
ほれ、今まさに最高のポテンシャルを発揮している肉を喰らえ!
「美味しいですね、お肉」
薄切りながらも、十分な大きさの肉を口いっぱいに頬張って、ベルティーナはいつもの静かな笑みで呟く。
「大切なのは、何を食べるかではなく、どのように食べるかだと思います」
肉を飲み込み、白米を二口食べて、味噌汁を飲んでから、改めて口を開く。
「楽しいな、美味しいなと思える食事であれば、きっとみなさん喜んでくれますよ」
そりゃそうか。
「なら、大丈夫だな。そういうのは、陽だまり亭の得意分野だ」
「はい。陽だまり亭であれば、特別でもいつも通りでも、きっと楽しい思い出にしてくれます」
一度箸を置き、背筋を伸ばして、少し顔を横に向ける。
「ジネットを見ていて思います。今の陽だまり亭は、以前にも負けないくらいに素敵な場所なんだなと」
ジネットの奮闘を見つめていた瞳がこちらを向いて、柔らかく弧を描く。
「ヤシロさんと出会ってから、あの娘は本当によく笑うようになりました。それも、以前よりもずっと素敵な笑顔で」
そうか?
俺が出会った時から、あいつはよく笑ってたぞ。
……今と負けず劣らず、素敵な笑顔でな。
「パイオツ・カイデー」
ふぁっ!?
「ジネットが、大切にしている言葉だそうです」
にっこり笑って、小鉢を差し出してくる。
しゃべったらお腹が空いたのか?
すげぇ燃費悪いな、おい。
「……ほい、焼き豆腐」
「お肉を――」
「いいから、食え」
「はい。では、とびっきり美味しいお肉を期待していますね」
小鉢に入った焼き豆腐をはふはふと食べるベルティーナ。
とりあえず、ベルティーナがこれ以上危険な発言をしないようにじゃんじゃん肉を食わせよう。
口にいろいろ詰め込もう。
……ベルティーナが使い始めると、『強制翻訳魔法』が本当の意味を理解しやがりそうだからな。
なんか、ちょっと贔屓して、ベルティーナの使う言葉は正確に、とか。うわ、しそう、超しそう。
精霊神、やな感じ~。
「とにかく」
口の中のものを飲み込んでから、ベルティーナは静かな声で言う。
「新たな友人たちを歓迎してあげようと思うのであれば、共にいる時間を楽しいものにしてあげるのが一番だと思います」
「分かった。ジネットにそう伝えておく」
連中を歓迎したがっているのは、俺じゃなくジネットだからな。
「ヤシロさんでしたら、いつも通りにしているのが一番だと思いますよ」
だから俺じゃねぇってのに。
「いつも通りってことは、おっぱいを見てはしゃいでいればいいのか?」
「ヤシロさん。まだもう少し食べていたいので、懺悔を少し待ってくださいね」
すき焼きに負けるような懺悔ならやる意味ないだろう、もはや。
……冗談だと理解しているから、警告程度で許してやろうってことか。そりゃどーも。
「明日はしゃぶしゃぶフェアをなさるそうですね」
「情報早ぇな」
漏洩源はジネットか?
まさか、第六感で察知とかしてないだろうな?
「その情報への嗅覚、実に素晴らしいぞい、シスターさんや」
談話室の窓から聞き覚えのある声がして、そちらに目を向ければもこもこのボンバーヘッドが外から室内を覗き込んでいた。
「タートリオ」
「ほっほっ、よい朝じゃぞい、冷凍ヤシロ」
情報紙発行会会長、タートリオ・コーリン。
細いひょろ長な爺さんなのに頭だけボンバーヘッドという独特な風貌のジジイが、嬉しそうな顔で俺を手招きしていた。
……が。
「食事中のベルティーナが俺を解放するわけがないだろう。お前が入ってこい」
「はぅ、ひどいですよヤシロさん。そこまで意地汚くはありません」
んじゃ、俺が席を外していいのか?
割と長くなるぞ、きっと。
ほら、こうして話している間にも空になった小鉢を差し出してきてるじゃねぇか。
「ですが、そうですね。こんなに美味しいお料理ですから――よろしければご一緒にいかがですか?」
「ほぅ、陽だまり亭の新商品か……では、折角なのでいただくぞい」
にっこぉ~っと笑って、タートリオが玄関へと回る。
あいつには、三十五区のメンコ職人の受け入れを頼まなければいけないし、ちょうど話をしに行こうと思っていたところだ。
向こうからやって来るとは都合がいい。
……しかし、こんな朝早くからわざわざ訪ねてくるなんて、何かあったのか?
とりあえず、話を聞いてみるか。
「こりゃ美味い!」
声をひっくり返らせて、タートリオがすき焼きを絶賛する。
「牛の肉にこれほどのポテンシャルが隠されていたとはのぅ。よく知るものであっても、まだまだ未知なる部分は多いということかのぅ」
「すべてを知るには、人生はあまりに短過ぎるからな」
「ほっほっほっ、違いないぞい」
肉の食い方一つとっても、追求し尽くすことはないだろう。
その道の専門家が、人生のすべてをかけて突き詰めていけば、きっとまだまだ誰も知らない前人未到の領域が広がっているはずだ。
「私も、みなさんよりほんの少しだけ長く生きていますが、毎日新しい発見に出会って驚いてばかりですよ」
ガキの世話なんかをしていると、自分の想定を大きく超えた出来事なんていくらでも出てくるだろう。
ベルティーナですら驚くくらいだもんな。
……で、ベルティーナ? 「ほんの少し」?
「なんですか?」
「なんでもないです」
そうそう。
ほんの少し、ほんの少し。
十年二十年なんて誤差誤差。
「それで冷凍ヤシロよ」
すき焼きはもう十分堪能できたようで、タートリオは箸を置き、メモを取り出した。
「もうよろしいのですか? まだ少ししか召し上がっていないようですが」
「いや、もう十分じゃぞい。非常に美味いが、年寄りには少々味がくどくてのぅ」
まぁ、朝っぱらからすき焼きは重いよな。
爺さんならなおさらだ。
「しかし、生卵もまだ一個目で、それもまだまだ卵の色ですよ」
すき焼きを食い進めていくと、生卵が黄色からどんどん茶色になっていって、で、新しい生卵と交換するとはいえ……何を食った量のバロメーターにしてんだ。
「お前、まだ卵一個目じゃねぇか」なんて測り方、そうそうしないぞ。
「シスター様、卵のおかわりはご入用ですか?」
「ありがとうございます、カンパニュラさん。一ついただけますか?」
「お割りいたしますね」
こんこん、ぱかっと器用に卵を割るカンパニュラ。
最近になってキレイに割れるようになったカンパニュラは、現在卵を割りたい病を発症しているのだ。
ジネットのそばにいて、卵の出番になると「お割りいたします」って手を伸ばしてくる。
ジネット的に、その仕草がとても可愛いようで、心持ち卵料理が増えてるんだよな、最近。
「お上手ですね、カンパニュラさん」
「ありがとうございます。ですが、私などまだまだです。目標はヤー君ですので」
「ヤシロさんはお上手なんですか?」
「はい。とても鮮やかで、それだけでなく片手で割ってしまわれるのですよ。すごいのです!」
若干興奮気味のカンパニュラ。
どこで尊敬されるのか、分かんないもんだよなぁ、人生なんて。
「というか、卵初心者でも、そんだけ割ってりゃ多少はうまくなるだろうよ」
ベルティーナのそばには、山と積まれた卵の殻が。
何個目だよ、その生卵。
「いい加減にしておかないと、腹の虫が『ぴよぴよ』って鳴き始めるぞ」
「ふふ、それはとても可愛いですね」
いや、実際「ぴよぴよ」鳴いたら「なにごと!?」って、辺り一帯騒然となるから。
「作りながらでかまわんので、少し話を聞かせてくれるかの、冷凍ヤシロよ」
羽ペンにインクを付けて、鋭い視線が俺を見る。
こいつは、会長になってもまだ現場で取材をしてるのか。
どんだけ好きなんだよ、現場が。
まぁ、そういう男だから発行会の連中も慕ってついていくんだろうけども。
「ランドリーハイツが完成したそうじゃの」
「昨日、家具の搬入をしたらしいから、正真正銘の完成だな」
「その辺のことを詳しく聞かせてほしいぞい」
「そういうことは、ウーマロに聞けよ」
「昨日聞きに行ったら、お主に拉致されて三十五区へ行ったと言われたんじゃぞい」
あぁそうか。
しかも、トルベック工務店の主力はほぼ三十五区に遠征に行ってたから、詳しい話を聞けなかったんだな。
タートリオは「関係者によると」みたいな、関係性の薄い人間の話を記事にはしない。
噂を聞きつけたら、自らの足で当事者に接触し、本人の口から聞いたことを記事にしている。
捏造も偏向もしない、まっすぐなジャーナリストなのだ。
「とはいえ、融通利かねぇな。作業従事者なら現場にいただろうに」
「トルベック工務店棟梁の話を聞かずして記事なんぞ書けんわい。記事が軽くなるからのぅ」
そういうとこが融通利かないって言ってんだよ。
「で、その棟梁じゃなくて俺に話を聞いて、どうするんだよ?」
「トルベック以上の責任者といえば、お主じゃろう? のぅ、冷凍ヤシロよ」
思いっきり部外者なんですけども。
携わってないしね、まず。
「いいじゃないか。発起人として、話を聞かせてあげなよ」
俺の不幸が大好きでたまらないらしいエステラが、嬉しそうな顔で寄ってくる。
「語れることなんざ、なんもねぇよ」
「今日、入寮者たちが体験宿泊に来るのじゃろ?」
「耳が早ぇな、タートリオ」
「ほっほっほっ、ワシを誰じゃと思ぅとるぞい?」
俺ですら、昨日聞いたところなのに。
お前、さては記者を張り付かせてたな?
「出来れば、これから四十二区に住むことになる者たちへ取材をしてみたいところじゃが、アゲハチョウ人族の関係者たちであれば、それもまた難しいかもしれんのぅ」
かつて、アゲハチョウ人族はシラハとオルキオの結婚でいろいろあって、人間を避けるように暮らしていた。
貴族であるタートリオからすれば、自分は最も避けられる人種だと認識しているだろう。
……あ、一応貴族なんだよ、このボンバーヘッド。
あほの一つ覚えみたいに青い服しか着ないけど。
遠目で見たら歩くカラオケマイクにしか見えないけども。
「あまり騒がしくしなければ、話くらいは聞かせてくれると思うよ」
イロハの連れてくる面々と会話したことがあるエステラによれば、そこまで人間に対する忌避感のようなものは感じなかったらしい。
三十五区も様変わりしたし、シラハも今じゃすっかり幸せ満開だし、アゲハチョウ人族たちも考え方が変わっているはずだ。
少なくとも、人間を恐れたり「酷いことされる!」なんて思い込んでいたりするヤツはもういないだろう。
「ふむ。それなら、様子を見て話を聞かせてもらおうかのぅ」
控えめに、タートリオが呟く。
やっぱ、世代的に悲劇のアゲハチョウ人族事件を肌身に感じていたのだろうか。随分遠慮気味だ。
「それで、昨日は何をしに三十五区へ行っておったのじゃ?」
「なんだ、情報掴んでなかったのかよ。大丈夫か、情報紙発行会?」
「じゃから今、情報収集をしておるんじゃぞい」
ちょっと煽ってやれば、タートリオは分かりやすくへそを曲げる。
わっさわっさ頭を揺らすな。
どんな抗議だ、煩わしい。
「タートリオ、三十五区の噴水は知ってるか?」
「無論じゃぞい。完成祝賀会が近々開かれると聞いての、領主様より先に情報紙が情報を広めるのはよくないと、自粛しておるところじゃぞい」
情報は得ているが、祝賀会が終わるまでその情報は流さないつもりらしい。
確かに、祝賀会より前に情報を流すと、見に行くヤツが増えそうだしな……いや、増えた方がいいんじゃないのか?
「祝賀会はまだだが、お披露目会は完成した日にやったから、情報は流していいと思うぞ」
「そうなのかの? ふむ、一度領主様に確認を取ってみるかのぅ」
情報は流したいのだろう。
まだまだ噴水の存在を知らない者は多い。
きっとたまげるぞ。
「ちなみに、こっちの頼みを聞いてくれれば、ベッコに噴水のイラストを提供させてやるぞ」
「おぉっ、モコカ絵師の師匠さんか! それは是非欲しいぞい!」
モコカは情報紙にイラストを寄稿している、ある程度人気のある絵師だ。
その師匠なら需要は大有り、むしろ喉から手が出るほど欲しいイラストになるだろう。
「あと、追加ですごい情報をくれてやる」
「ほほぅ。では情報……の前に、その頼みとやらを聞かせてもらおうかの」
「よし、きた。実はな――」
俺はかいつまんで、メンコ職人のスキルアップについて、ルシアやベッコと話していた内容を伝えた。
ちょうどエステラもいるし、まとめて説明をしておく。
「その話、ボク初耳だよ。昨日、君もベッコもいたよね?」
「うっかり☆」
「まったく……。それで、どうかな、タートリオ? 原画を預かって印刷とか出来るのかい?」
「出来るか否かで言えば可能じゃのぅ。非常に大変ではあるが……して、それに見合うだけの情報があるのじゃろう? さぁ、吐け、冷凍ヤシロ!」
ふふふ……聞きたいか。
ならば教えてやろう!
「実はな、ルシアが三十五区に人形劇のステージが早急に欲しいと言い出してな」
「なるほど。それでトルベック工務店を担ぎ出して三十五区まで行っておったわけか。……して、その劇場はいつ完成する予定なんじゃ?」
「昨日完成させてきた☆」
「ふぁ!?」
「もっとも、仮設劇場はもうちょっとかかるだろうけど、仮設劇場の前に仮設の仮設ステージを作ってきたから、今日から公演始めてんじゃないかな」
「ちょ、ちょっと待つんじゃぞい、冷凍ヤシロ!? …………仮設の仮設ステージ?」
ちょっと意味分かんないだろ?
実際見てみ?
もっと意味分かんなくなるから。
「とにかく、すでにステージが出来ていて、人形劇の新作公演が始まっている。三十五区の領民しか知らない最新のホットなニュースだぞ」
「こ、これは……ワシ自らが取材に行かねばならんぞい!」
「いや待って、タートリオ!? ランドリーハイツの取材は!?」
「別の記者を寄越すぞい! そっちでよろしくやっといてくれぃ!」
ばたばたわっさわっさとタートリオが帰り支度を始める。
マジで、今日取材に行くつもりだな、こいつ。
「んじゃ、ベッコの弟子に弟子入りの話承諾させといてくれ」
「まだ免許皆伝ももろぅとらんあの娘に弟子を取るような気概はないと思うがのぅ……」
「劇場のイラストもつける」
「やってやれんことはないぞい! ワシが承諾させてみせるぞい!」
よし、これで三十五区のメンコもなんとかなるだろう。
「エステラ。ちゃんと金取っとけよ。ルシア、たぶん劇場で大儲けするだろうから」
「そんなにすごいことになってるの?」
そうなるように仕込んできたからな。
「な、マーシャ?」
「大ヒット間違いなし~☆」
マーシャが両手を上げて成功を保証してくれる。
「私もまた見たいな~☆」と楽しげだ。
「それじゃ、ワシはもう行くぞい! 噴水の件もついでに尋ねておこう。冷凍ヤシロ、一通手紙を頼めんかの? 領主様に面会できるように」
「手紙なんぞ書かんでも、『メンコの量産について、ヤシロと話をしてきた』って言えば会えるだろうよ」
チャレンジャーズのメンコは、きっと今日あたり飛ぶように売れるだろうから。
「あとは、弟子を引き受ける話をしてやれば、噴水の情報解禁くらい許可するだろう」
今は、三十五区に観光客を呼び込みたい時期だろうしな。
……三十七区に嗅ぎつけられる前に、差をあけておきたいだろうから。
「では、ワシはこれで失礼するぞい。素晴らしい情報、感謝するぞい、冷凍ヤシロ。また何かあれば、気軽に訪ねてくるがよい。ワシとお主はマブダチ……いや、マジチチじゃからの☆」
可愛くもないウィンクを残してタートリオは談話室を出ていった。
忙しないジジイだ。
「なんでわざわざ言い直して間違えるかなぁ」
「いなくなってから言っても、あいつの病気は治らないぞ」
「知ってるよ。同じ症状の人間がここにいるもん」
って、こっちを見るな、エステラ。
あんなもんと一緒にすんな。
「とりあえず、マブダチの代わりに懺悔を受けてきなよ」
お断りだっつーの。
「さ、あとはベッコに事後報告しとかなきゃ」
「なんの躊躇いもなく、無許可で勝手な約束するよね、君は」
だって、ベッコが言ってた案だからな。
自分で言い出したことなんだから渋るわけないだろ。
「海の見える劇場ですか」
シメのすき焼き風たまごかけご飯を完食して、小鉢に新しい生卵を割ってもらっているベルティーナ。
あれれぇ、おかしいぞぉ~?
シメを食べたあとにおかわりの準備してるぞ~ぅ?
「とても素敵そうですね」
「明日、その劇場を見に行くんですよ」
ガキどもを軒並み満腹にさせたジネットがやって来る。
「ヤシロさん。代わります」
あぁ、助かった。
薄切りの牛肉なのに、何往復もしているうちに「これ、鉛で出来てんじゃねぇの?」ってくらい重たく感じ始めてたんだよな、今。
無尽蔵なのかな、目の前のシスターの胃袋は。
「シスター。マーシャさんがカニをくださったので、カニすきもしてみましょうね」
「ありがとうございます、ジネット。まだまだたくさん食べられます」
限界って言葉、この世界には存在しないのかな?
あれ? カニって別腹だっけ?
「今、大食い大会やったら無敵だな」
「あのような場所は緊張してしまいますので、普段の半分くらいしか食べられないかもしれません」
普段の半分でも莫大な量だろうと突っ込むべきか、ベルティーナの限界値の半分も食べられなくなるのかって心配するべきか悩むな。
「明日は何時から行くのですか、ジネット?」
「今日体験宿泊に来られるみなさんと一緒に三十五区へ向かいますので、寄付のあと、そう遅くないうちになると思います」
まぁ、そうだな。
三十七区も見ていくとなれば、時間に余裕があった方がいい。
「予定では、日の出とともに出発することになっております」
キリッ――と、ナタリアがベルティーナの隣の席でメガネを「くいっ」と持ち上げる。
「「ナタリアさん、いつの間に!?」」
隣にいたベルティーナも、向かいにいたジネットもびっくりしている。
とうのナタリアはこの上ないドヤ顔だ。
「とても美味しそうですね、この、私の知らないお料理」
「ナタリアさんの分も、ちゃんと用意してありますよ」
昨日のカニ餡かけミートボール丼に続き、エステラがきちんとストックを予約していた。
なんなら、もう一回最初の脂を引くところからやり直してやってもいいぞ。
「見るからに、とても美味しそうですね」
「はい。見た目以上に、とても美味しいですよ」
ベルティーナがにこにことカニを頬張っていく。
「となれば、エステラ様やロレッタさんがついうっかり『昨日のすき焼きは、本当に美味しかったぺったん』『そうですね』『また食べたいぺったんね~』『そうですね』とかいう会話をしてしまいそうですね」
「主に対する敬意をどこに捨ててきたんだい、君は!?」
「折角名指しされたのに、反応がずっと普通だったですね、ナタリアさんの中のあたし!?」
楽しかったことがついつい口からぽろりしそうな二人がナタリアに食ってかかる。
でもまぁ、特徴はよく捉えられていたよな、うん。
「もし可能であれば、今日の空いた時間にでもイメルダさんやデリアさんにも御馳走してあげてくださいませんか?」
「そうですね。では、みなさんの都合がいい時にもう一度すき焼きを振る舞いましょう」
「なんか、イロハたちにもすき焼きを振る舞いそうだよな、この流れ」
「はっ!? そうでした、イロハさんたちには、普段通りの、御馳走ではない、落ち着くご飯を召し上がっていただくんでした。で、では、イロハさんたちが帰られるまで、すき焼きの話は内密ということで……」
いや、たぶん無理だろう。
「まぁ、説明をして、食いたいってヤツには食わせてやればいいんじゃないか」
「そう、……ですかね? 変に気を遣わせてしまったりしないでしょうか?」
「何が起こるか分からない。ふとした拍子に新しいものが誕生している――というのが、一般的な陽だまり亭に対するイメージですので、気負わず自然体で迎えてくだされば問題ないかと思います」
「えっ、そんなイメージなんですか!?」
俺もびっくりだ。
陽だまり亭のイメージって言えば、のんびりしていて、帰ってきたくなるような場所って感じなんだけど……
「主に、ヤシロ様のせいですね」
「人聞きわっるー」
俺のせいで陽だまり亭のイメージが棄損されてるとでも言いたいのか?
反論できないから、やめて。
「とはいえ、まだお鍋が足りませんし、作り方も少々特殊ですから、お店に出すのはもう少し熟考したいと思います」
だな。
ジネットが一つのテーブルに付きっきりになることは不可能だから、やっぱ陽だまり亭には向かない料理だ。
「すき焼き風牛鍋とか、すき焼き風うどんなら出来るだろうけど」
「「それはどのようなお料理なのでしょうか!?」」
「自重する気がまったくないようですね、ヤシロ様も、店長さんも。シスターは言わずもがな」
うふふと笑って、ナタリアが小鉢を持ち上げる。
自分にも食わせろというアピールか。
「ベルティーナ。一度鍋を替えるぞ」
「では、今鍋に残っているものは私が責任を持っていただいておきます」
七輪ごと鍋を横に避けて、少々体を斜に構えてスペースをあけるベルティーナ。
次の準備が整うまでそれで食いつなぐつもりなんだろうなぁ。
「じゃあ、ジネット。ナタリアにもすき焼きを食わせてやってくれ」
「はい」
で、俺はエステラとロレッタを連れてテーブルから離脱する。
「一応、パウラやネフェリーにも声をかけておいてやれ」
「そうだね。生卵をもらいに行ったから、きっとネフェリーは何かあるって勘付いているはずだし」
「アッスントさん、いいことがあると分かりやすく顔に出るですからね。ウチの弟妹たちも分かりやすいって言ってたですよ」
ハムっ子にまで感情読まれてるとか、アッスント、腕鈍ったんじゃねぇの?
「平和ボケしやがって」
「いいことじゃないか」
「他所の区の行商ギルドに乗っ取られでもしたらどうする?」
「その時は、頼りにしているよ、ヤシロ」
なんで俺が、アッスントのピンチを救ってやらなきゃいけないんだよ……
「だって、彼は君の右腕だろう?」
両翼に続いて右腕までいるのかよ……誰一人認めてねぇっつーの。
「待つさね。……そのポジション、決定するにはまだ早いんじゃないかぃね?」
ほ~ら、ノーマがギラついた目で食いついちゃった。
ノーマはこういうの、冗談でもムキになるんだから、気を付けろよな。
……まったく。
「安心しろ。ノーマは俺の右乳だ☆」
「あんたに乳はないんさよ」
ツレない!?
にべもない!?
「むべなるかな」
「うっさい、エステラ。俺の心の声に合わせてちょっと言ってやった感出してんじゃねぇよ!」
どーゆー能力だ!?
「とりあえずロレッタ。妹たちに言って、その辺の人たちをご招待してあげてよ。忙しいようなら無理はしなくていいからって」
「分かったです。午前中なら、パウラさんもきっと暇してるですから来てくれると思うですよ」
嬉しそうに言って、ロレッタは談話室を飛び出していく。
「ホント、パウラのことが好きだよね、ロレッタは」
「お前がジネットを好きなのといい勝負だ」
「いや、そこは負けてないよ。ボクはジネットちゃんと口論なんてしないし」
「じゃあナタリア」
「ん~…………絶妙なところを突いてくるよね」
口論もするし、たまにぶつかりもする。
でも絶対仲違いはしない。
そんな感じだろう。
「私とキャルビンみたいなもんかなぁ~☆」
「いや、それは全然違うよ、マーシャ」
「お前らの関係で近しいのは、デリアとオメロくらいだ」
「でも、絶対逃さないよ~、私がこの激務から解放されるその日まではね★」
海漁ギルド副ギルド長、キャルビン。
マーシャの執務と激務と雑務を押し付けられるために生まれた男。
全体的にぬめぬめしているから同情は一切出来ないけれども。
「それに、たまにぶつかるし、口論もするからね~☆」
「一方的な蹂躙の話はしてないんだ、俺たち」
マーシャとキャルビンがぶつかったら、キャルビンがぶつ切りにされるだけだろう。
酢味噌で和えても食えそうにないな、半魚人は。
タコ以下か、半魚人!
「時間があるようなら、人形劇の劇場も一緒に見に行きたいな。たぶん、噴水完成祝賀会の時はそれほど一緒にいられないと思うから」
他所の区から領主がわんさか集まってくる祝賀会。エステラは領主連中の相手に忙しくなるだろう。
平凡な民草は、貴族様とはあまり関わり合いにならない方が身のためだ。
「じゃあ、俺は留守番してようかなぁ」
「祝賀会の話かい? それなら君は強制参加だよ。四十二区と三十五区の領主連盟で名指しするから」
こいつら、俺に対しては一切躊躇しないよな、権力振りかざすことを。
「三十三区領主と話が合いそうなのは、君だからね」
「どこでそんな勘違いを抱いたんだよ?」
「田んぼって呼び方にこだわったり、お米が異常なほど好きだったり。あと、鉱石とかにも詳しそうだしさ」
勝手なイメージを。
俺の米好きは別に異常じゃねぇよ。
平均的日本人程度だっつーの。
けどまぁ、三十三区領主には会ってみたい気がする。
そいつを攻略すれば、ガラス製品が安く手に入るようになるかもしれない。
「じゃあまぁ、とりあえず。帰ったらすき焼きパーティー第三弾だな」
「じゃあ、食材がなくならないうちに、シスターを止めないとね」
その後、俺たちはすべての食材を食いつくそうとするベルティーナを甘いもので釣ったりしつつ、なんとか食材の確保に成功した。
美味過ぎる料理も考えものだなぁ。
教会での寄付を終え、陽だまり亭に戻るとイメルダがいた。
「聞きましたわ」
「早ぇなぁ、おい」
妹たち、どんな速度で情報伝達したんだよ。
「エステラさんとロレッタさんが思わずぽろりしてしまうほど美味しい料理が出来たのですって?」
「人聞きが悪いよ、イメルダ!?」
「あたしたち、ご飯食べてぽろりすることなんかないですよ!?」
話題がな。
ついつい口からこぼれ落ちるんじゃないかって意味のぽろりな。
でも、思わずぽろりしてくれるなら、俺はどんどん美味いものをこの街に導入していこうと思う!
「とりあえず、中へお入りください。まだ開店準備前ですので、落ち着かないかもしれませんけれど」
「気にしませんわ」
いや、そこは「お気遣いなく」って言うところだろうが。
自分主体で語ってんじゃねぇよ。
あと、気にしろよ。
「今朝は随分とのんびりですのね」
「はい。実は、新しいお料理のおかげで下拵えをする手間が浮いてしまいまして」
教会の寄付用に下拵えしていた食材がそのままオープン用の下拵えとして流用されることになっている。
おかげで、教会で随分とのんびりしてしまった。
いつもなら、とっくに陽だまり亭に戻って開店準備をしているような時間だ。
そんな話をしながら陽だまり亭に入ろうとしていると、遠くから元気な声が飛んできた。
「おはよ~!」
「あ、よかったぁ。間に合ったみたいだよ、パウラ」
パウラとネフェリーが手を振りながらやって来た。
間に合った?
「妹たちが、今から新しい料理のお披露目会やるって」
「今からとは言ってねぇよ……」
「ふふ。いいじゃないですか。みなさんが忙しくないなら、今からまたすき焼きをしましょう」
「となると、デリアを呼んでこないと――」
「来たみたいさよ」
ノーマが煙管で指す先には、デリアとルピナス夫妻が仲良く歩いてくる姿があった。
ルピナスとタイタも来ちゃったか。
そして、来客はそれ以外にも。
「お招きに従い、参上したでござる!」
「おはようございますッス! マグダたんが作ってくれる料理が出来たって聞いて、午前の仕事を圧縮して時間を作ってきたッス!」
「うわぁ、ウーマロまで来ちゃったかぁ」
「あれ!? 拙者見えてないでござるか!? ここにいるでござるよ!」
両腕を上げて、存在を猛アピールしてくるベッコ。
煩わしいから、ちょろちょろ視界に割り込んでくるな!
「おねーちゃーん!」
そして、ロレッタのとこの次女と――弟妹多数。
「みんなでお呼ばれに来たよー!」
「多いですよ、あんたたち!?」
「絶対足りないな」
「そうですね……では、アッスントさんに追加注文をしましょうか」
そうだな。
アッスントには、明日のしゃぶしゃぶ用の肉を大量に用意してもらうよう依頼してあるし、それを今日に回してもらって、午後にもう一回走り回ってもらうか。
「ロレッタ。ひとっ走りアッスントのところへ行ってきてくれるか」
「妹たちに頼むと、また来客が増えそうですし……分かったです! ぴゃっと行ってぽっと伝えてくるです!」
どぎゅんっと発進する長女ロレッタ。
その後ろ姿を見送り、マグダがぽつりと呟く。
「……『アッスントさん、ぽっ、です』」
「本当に『ぽっ』とだけ伝えて帰ってきたらアイアンクローだな」
「ロレッタ姉様でしたら、過不足なく情報伝達をしてくださいますよ、きっと」
「ロレねーしゃ、ちっかりもの!」
「ロレッタはちゃっかり者だってよ」
「しっかり者って言ったんだよ、テレサは」
エステラに訂正される。
マジメか!?
「こんにち……わっ!?」
のんびりとした歩調でやって来たミリィが、庭先に溢れかえるハムっ子の群れを見て声を上げる。
「みりぃ、遠慮した方がぃい、かな?」
「気にすんな。こんだけいりゃ、ミリィ一人分なんて誤差だから」
妹に呼ばれて来てみれば、思いのほか大所帯で遠慮しようとするミリィ。
ミリィを帰すくらいなら、ベッコを追い帰してそこにミリィを滑り込ませるさ。
「だから、ミリィは何も気にしなくていいぞ」
「ぅん、ありがとね、てんとうむしさん」
じゃあと挨拶を残して、ミリィはジネットに挨拶をしに行ってしまった。
「それにしても、ちょっと負担が大きくなりそうだね。少し寄付するよ、さっきいっぱい食べちゃったし」
エステラの「いっぱい」なんか、ベルティーナやヒューイット弟妹に比べたら可愛いもんだけどな。
「教会は仕方ないとしても、ヒューイット弟妹の方は問題ない」
あいつら、数が多いからこういう試食会に参加すると結構食材を消費する。
それが分かっているからなのだろうが、弟妹が参加した試食会では、ロレッタが金を持ってくるのだ。
なんでも、ヒューイット基金なるものがあり、ロレッタを含む弟妹は稼いだ金の一部をそこに集め、貯蓄しているのだとか。
そして、こういった楽しいイベントの時に思いっきり楽しんで参加するために主催者に材料費や人件費などの補填としていくらか寄付してくるのだ。
ジネットは気にしなくていいと言っているのだが、正直出してもらえると助かる。
ロレッタに言わせれば、年少組や年中組の連中は仕事のお手伝いが遊びや趣味のような感覚で、構ってもらえるだけで大満足。給金はオマケみたいなものなのだとか。
貯まるばっかりで使うところがないので、こういう時に寄付させてもらえると、ヒューイット家的にも気が楽になるのだそうな。
数が多いと何かと消費するし、そのすべてを『善意』って言葉で免除され続けるのは、ロレッタとしても心苦しいのだろう。
一部を負担することで負い目がなくなり、弟妹が心置きなくイベントに参加できることの方が嬉しいと、ロレッタはにこにこ顔で言っていた。
「なので、陽だまり亭的にはさほど痛手ではない。……教会は、もう仕方ないとしても」
「二回言ったね。……まぁ、教会は、うん、仕方ないよね」
ジネットの育ての親だからな。
教会の寄付に関しては、何があろうとジネットがやめないもん。
祖父さんが始めたことでもあるし、教会のガキどもと触れ合える時間でもあるし、ベルティーナが嬉しそうに美味しそうに食べてるし、ジネットがやめる理由がどこにもない。
教会への寄付が始まったきっかけがジネットだったりもするからな。
きっと一生、ジネットは教会への寄付をやめないだろう。
「とはいえ、食い過ぎだけどな」
「ボクの目には、君が率先してシスターを甘やかしていたように見えたけれどね」
「すき焼きにはマナーがあってな、俺の故郷を代表する身としては、そこは譲れなかったってだけだよ」
「あはは、はいはい。美味しそうに食べてもらえてよかったね」
全然分かってないだろ、お前?
「それじゃ、みんなにも美味しいすき焼きを振る舞ってあげなよ、代表者さん」
笑って言って、ナタリアに何事かを耳打ちするエステラ。
たぶん、マジでいくらか寄付してくれるんだろうな。
……しょうがない。当面の間は『タダ飯喰らい』呼ばわりを控えてやるとするか。
当面の間、だけな。
「ねぇ、ヤシロ! 早く早く! もう準備整ったって!」
「ジネットが呼んてきてくれって言ってるよ」
パウラとネフェリーが陽だまり亭から顔だけ出して俺たちを呼んでいる。
ここからは見えないけど、きっとパウラの尻尾はわっさわっさ揺れていることだろう。
「お兄ちゃ~ん! 取り急ぎ、お肉の一部をもらってきたですよ~!」
4kgくらいありそうなデカい肉の塊を頭上に掲げて戻ってきたロレッタ。
このあと、また追加の肉を届けてくれるらしい。
「あと、お野菜もこのあと届くです!」
そう言ったロレッタの後ろから、春菊とネギを大量に抱えたモーマットがやって来た。
本当だ、野菜が届いた。農家ごと。
「おぉ、悪いなモーマット。じゃ、帰れ」
「そう言わずに、俺にも参加させてくれよ、試食会!」
このワニは……タダ飯の時ばっかり顔出しやがって。
普段はカンタルチカとかトムソン厨房で酒ばっか飲んでるくせに。
「シイタケはあるんだろうな?」
「おぅよ! 見てくれ、この肉厚のシイタケ! 今年のシイタケは美味いぞ~! 収穫量が安定したから、いろいろ細かいところにもこだわれるようになってな。お前が来てからいい方向に循環してんだ。ヤシロ大明神様々だな。がはは!」
無遠慮に俺の背中をバシバシ叩くワニ。
「――そんなモーマットが、まさかあんなことになるなんて……この時の俺たちは想像もしていなかった」
「縁起でもないモノローグを声に出してんじゃねぇよ! 何も起こらねぇよ、この先も! ずっと順調だから!」
この先何が起こるかなんて誰にも分からないだろうがとか、ずっと順調とか一歩間違えたら嘘になりかねないことを不用意に口にするなとかいろいろツッコミどころ満載だな、お前は。
「ちょっとでも不調になったらカエルにしてやろっと」
「やめろよ!? そういうこと言うなよぉ、友達だろ!?」
「はっはっはっ。さぁ、すき焼きの準備だ!」
「肯定は!? 肯定してくれよ、そーゆーのはさぁ!」
嘆きワニをかわしてさっさと店内へと入る。
エステラがモーマットの肩をぽんぽんしてるのが視界の端に見えた。
あんま甘い顔するなよ。お前も、勝手に友達認定されるぞ。
「ヤー君。ウチからもお金出すから一緒に食べさせてね」
店内に入ると、ルピナスがデリアとタイタから離れて小声でそんなことを言ってきた。
さすが元貴族。タダより高いものはないってこと、よく理解しているようだ。
こういう警戒心を持っとけよ、四十二区民。お前らは全員、ルピナスを見習え。
「折角だから、作り方教えてやるよ。平鍋さえあれば家でも出来るから」
「あら、そうなの?」
「俺の故郷では父親が張り切る料理として有名でな――」
とはいえ、いささか気を遣い過ぎなルピナス。
その厚意は無駄にしないようにしつつ、もう少しだけ肩の力を抜かせてやる。
俺の家の昔話を聞かせつつ席へ誘導し、そのまま第三次すき焼き試食会を始めた。
デリアたちのテーブルは俺とカンパニュラが付き、作り方を教えながらすき焼きを楽しんだ。
ミリィとパウラとネフェリー、そしてウーマロとベッコとモーマットのテーブルはロレッタとマグダのコンビが担当して、「ロレッタ、肉のタイミング遅いわよ!」「いや、これでいいんですよ!? パウラさん初心者なんですから、口挟まないでです!」とか、「はぁああん! マグダたんが焼いたお肉は極上の美味しさで、一切れ食べただけでこれまでの疲れが全部ベッコの方に飛んでいったッスー!」「ちょっ、こっちに飛ばさないでくだされ!?」とか、実に賑やかだった。
そして、最も大変なヒューイット弟妹は、ジネットとノーマというツートップが、実に六つの平鍋を使い二人で手際よく捌いていた。
凄まじい手際のよさで、なんか、顔が三つ腕が六本ある阿修羅が二人並んでいるようにすら見えた。
「店長さん。この平鍋なんだけどね、ここんところをこんな形状にしたら――」
「あ、それはやりやすくなりそうですね」
わぁ、しかも雑談するような余裕すらあるっぽい。
なにあの二人?
この道一筋数十年のプロか何か?
「なぁ、兄ちゃんよ。俺にもちょっとやらせてくれねぇか? なんか出来そうな気がするんだ」
オメロに影響されて俺を「兄ちゃん」と呼ぶタイタが、身の程も弁えずに新しいオモチャを見つけたガキみたいな顔で言ってくる。
が、すぐさまルピナスがタイタの腕を掴んで下げさせる。
「あら、ダメよ。あなた、料理なんかまったくしないじゃない」
「母様のおっしゃるとおりですよ、父様。火傷の危険などもありますので、大人しく座って待っていてください」
「娘がしっかり者に成長して、嬉しい反面ちょっと悲しいなぁ、おい!」
「かにぱんしゃの、おとーしゃ。なくの、ないない、よ?」
「優しいなぁ、カンパニュラのお友達はぁ!」
と、このテーブルだけは、なんか平和だった。
基本タイタがやかましかっただけで。
やっぱ、父親ってのはすき焼きを焼きたくなる生き物なんだろうな。
今度こっそり、肉の焼き方のこだわりポイントでも教えてやろう。
あとがき
夢見る宮地じゃいられな~い♪
どうも、相川宮地です
いえ、宮地です。
最近、また夢をよく見るようになりまして
おそらく眠りが浅いのかと……
ぐっすり眠りたい_(:3 」∠)_
先日ですね、
競輪選手の太ももくらいはあろうかというバッタを捕まえる夢を見まして
いっぱいいるんで、とにかく捕まえてカゴに入れなきゃいけないんですが
なにせ大きさが競輪選手の太ももサイズ
二匹捕まえたら両腕いっぱいなんです
それで、「どうしよ~!?」っていう夢を見まして
で、その翌日、
抱き枕くらいあるでっかい『いもむぅ』を発見して捕まえようとしたら
「あたち、毒もってるょ! 毒だょ!」っていもむぅに威嚇される夢を……
Σ(゜Д゜;)いや、いもむぅ可愛いな!?
Σ(゜Д゜;)で、絶対嘘だし、毒もってるとか!
で、抱き枕みたいに「ぎゅー!」って捕まえる夢を見まして、
立て続けにデカい虫を捕まえる夢を見たな~と思って
何気なく夢占いを見てみたら、
「虫を捕まえるのは幸運を捕まえる暗示☆」みたいなことが書かれていまして
宝くじ買ってみましょうかね!\(≧▽≦)/
一切学習していない!?Σ(゜Д゜;)
でまぁ、春先の話になるんですが、
私、
警察官の格好をして不法投棄をしていたんですね
あ、夢で、ですけども
夢の中で、「よし、不法投棄しに行こう」って
軽トラの荷台いっぱいの粗大ごみを山奥の川に捨てに行くんですけど
見つかっちゃまずいなと思いまして、警察官の格好をするんです
これで見つかっても目撃者には「あぁなんだ、職務中か」って思わせられるし、
いざとなったら「公務執行妨害か!?」って脅して黙らせられるな☆
……ゲスの極みだな、夢の中の私!?Σ(゜Д゜;)
で、不法投棄してたら、
ご近所さんなんですかね?
お爺さんが一人やって来られて、
「こんな場所に不法投棄するな!」と、至極真っ当なことを言ってきまして
指摘されて、私は「あぁ、この人の言うとおりだな。私は間違ったことをしているな」と思いつつも、
「じゃかましい、ジジイ! まっとうなこと言ってんじゃねぇぞ、こら!?」と逆切れしまして
……地獄の鬼も唾吐く所業!?Σ(゜Д゜;)
それで、その真っ当なお爺さんと、逆切れ不法投棄ニセ警官の私が殴り合いのケンカをするという夢を見まして……100%私が悪い!?Σ(゜Д゜;)
でもでも、女子は多少わがままでも、いいよね☆
……お前女子じゃないだろ!?Σ(゜Д゜;)
いや、なんなの、そのハマカーンさんのツッコミオンパレード!?Σ(゜Д゜;)
リスペクト!\(≧▽≦)/
で、「いや、100%私が悪いじゃん!?」って、目が覚めたんですが、
起きた瞬間、物凄く気持ち悪いんですね。
寒気がして、頭くらくらして
起き上がれないくらいにしんどくて
一体何なんだと思いつつ、なんとなく夢占いを見てみたら――
「老人とケンカする夢は体調を壊すサイン。注意してね☆」
いや、遅ぉーい!Σ(゜Д゜;)
もう、完全に体調崩してるね、これ!?
注意する暇なかったよね!?
もう一日早ければ、温かくして寝たのに!
皆様、
不法投棄とご老人への暴力は、絶対ダメですよ!
風邪ひきますよ!
いや、それ以前に倫理的にNG!Σ(゜Д゜;)
ただ、そのお爺さん、
『喝っ!』って、口からエネルギー弾みたいなの飛ばしてきてめっちゃ強かったんです
たぶん、『↓↘→ + パンチ』で出せる必殺技ですね、アレ。
そしておそらく『→↓↘ + パンチ』で対空攻撃してきましたよ、あのお爺さん。
倒れたところにキックで追撃とかしてきますよ、きっと!
お爺「フライング爺ドロップ!」
宮地「フライングニードロップなら聞いたことあるけど!?」
私至上、最強の敵でした。
……と、この不法投棄のお話、どっかのあとがきで書いたっけなぁ……人に話しただけでしたっけねぇ……もう、記憶が定かではなくて……
若者「もうジジイじゃん!」
宮地「なにおぅ!? くらえ、フライング爺ドロップ!」
若者「使いこなしてる!?」
夢に出てきたお爺さんは、十年後の私だったというオチ…………いや、十年であんなしわしわにはならないですよ、まだまだ!?
というわけで、最近は夢を見たらすぐ夢占い調べて
面白い結果が出たらあとがきネタメモに書き残すというルーチーンになっております。
……ん?
ルーティーンですか?
いえいえ、私の時代はルーチーンでしたよ。
だって、コンパイラってマンガでも「ルーチン」って言ってたし
あれですね、ディ〇ニーをデズニーって言うようなものですね
シックスチーン、セブンチーン、
チーンエージャーですよ(*´ω`*)
……チーンエイジャーは、ないな。
という感じで、
前回すき焼きの話をあとがきで書いたら、
今回もまだすき焼きの話で
「そんなにすき焼きエピソード持ってないよ!?」という状況に追い込まれた末の
最近人に話してそこそこ反応がよかったネタを持ち込んでみた感じのあとがきでした☆
人に話して聞かせた時に、
私の不法行為が増える度に「いや、犯罪犯罪!」ってそこそこ盛り上がったので
皆様にも伝わるといいな☆
あくまで夢ですので、
不法投棄も暴力もニセ警察官もダメですよ☆
あ、いっけね、免許持ってないのに軽トラ運転しちゃってた☆
無免許運転も犯罪だった☆
(・ω<)てへっ
さて、本編と前回のあとがきを読んだせいで
久しぶりにすき焼きが食べたくなってしまいました
なので、牛丼チェーン店に行ってきたいと思います☆
牛鉄鍋膳は、日本の食事の救世主!\(≧▽≦)/
次回もよろしくお願いいたします!
宮地拓海




