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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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414話 すき○○

 夜明け前。

 明日の『お留守番しゃぶしゃぶフェア』に向けて、御用聞きに訪れたアッスントを見ながら「豚肉が食いたい」と言ったら盛大にドン引きされた。

 扱ってんだろうが、豚肉。寄越せよ。


「しゃぶしゃぶというのは、カニしゃぶのことですか?」


 あぁ、そうそう。

 ついうっかり、しゃぶしゃぶを広める前にカニしゃぶをやっちまったせいで、こっちの連中には『しゃぶしゃぶ=カニしゃぶ』という認識が定着しちまってるんだよな。


 焼肉の前後でやらなかったっけなぁ?

 やってないか。

 というか、肉といえば魔獣の肉なんで、なかなか肉料理にこだわることがなかったんだよな。

 何やっても美味いから、魔獣の肉。


 だって、ウチにはマグダがいて、魔獣の肉の方が安く手に入るんだもんよ。

 牛や豚よりも。

 鶏肉は、ネフェリー経由で安く融通してもらえるけども。


「本来は、肉のしゃぶしゃぶが先で、その派生としてカニしゃぶや鯛しゃぶが生まれたんだよ」

「鯛でも出来るんですか?」

「何でだって出来るよ」


 生でも食えるようなものなら、なおさら安心だな。

 牡蠣しゃぶとか、堪らんぞ。


「やってみたいですね、鯛しゃぶ」


 ジネットがきらきらしている。

 お星様のエフェクトが見えるようだ。


「しゃぶしゃぶに使うお出汁は、昆布だしが基本なんですか?」

「まぁ、いろいろ変わり種を作っても面白いだろうが、最初はベーシックに昆布だしでいいだろう」


 魚介系なら、魚のあらで出汁を取っても美味しいかもしれないが、その場合別の鍋で出汁を作って、だし汁だけを鍋に入れてやる感じになるので、手間っちゃ手間なんだよな。

 昆布なら、土鍋に水を張って昆布を放り込んでおけばそれでいい。


 あぁでも……


「すき焼き出汁のしゃぶしゃぶは美味いんだよなぁ」

「すきやき、とはなんですか!?」


 ジネットがめっちゃ食いついてきた!?

 あれ?

 すき焼きもやってないっけ?


「はい、知りません! ヤシロさんのお顔を見るに、とても美味しいお料理なんですよね!?」


 やめて、人の顔を見て味を悟るの。

 まぁ、めっちゃ美味いけど。


「ただ、すき焼きはちょっと手間なんだよ」

「難しい料理なんですか?」

「いや、準備は簡単なんだが……」


 さて、なんと説明したものか。


「鍋奉行が生まれる」

「なべぶぎょう?」


 我が家では、すき焼きの時のみ、女将さんが手を出せなくなっていた。

 親方が鍋奉行になっちまってなぁ。

 なんでも、すき焼きを作るのは大黒柱の務めだとかなんとか。


 牛脂を引くところから、肉を入れて割り下で味をつけて、入れる野菜の順番まで事細かにルールが設けられていた。

 女将さんは張り切る親方を見てにこにこしてたけど、俺としては「どんな順番で食っても美味いだろうに」と思ってたんだよなぁ。


「何かいいことがあった時のお祝いに食われるような料理でな、ちょっと贅沢だからわくわくしながら食った思い出の料理なんだ」

「そうなんですか」

「といっても、味よりも張り切る親方と、そんな親方を嬉しそうに見つめてる女将さんの顔ばっかりが思い浮かんでくるんだけどな」

「うふふ。それは、とても幸せな思い出なんですね」


 まぁ、楽しかったんだろうな、あの特別感が。


「ちなみに、ですが……そのすき焼きというお料理、ご馳走していただくわけにはまいりませんか?」


 アッスントがうかがうような顔でうかがってくる。

 めっちゃうかがってるな、お前。


「いい牛肉を仕入れてくれ」

「おや、豚ではないのですか?」

「豚はしゃぶしゃぶ用だ。すき焼きは牛に限る」


 豚肉は冷しゃぶにしてみようと思ってな。

 豚肉の冷しゃぶをたっぷりのレタスと一緒にポン酢であっさり食うのが美味いんだ。

 好みで、細切りのきゅうりを入れてな。

 あのシャキシャキ感が堪らん。

 隣に添えられたプチトマトの色味も美味さに拍車をかける。


 豚肉のビタミンBが夏バテに効くからって、夏場によく出てきた思い出の逸品だ。


「では、至急お肉を調達してまいります」

「ついでに、ネフェリーのところから新鮮な卵も頼む。生で食えるヤツ」

「ほっほっほっ。ネフェリーさんのところの卵なら、どれでも生食が可能ですよ」


 得意げに言って、アッスントは勝手口から出ていく。

 めっちゃ小走りで。

 すき焼きが食いたくて仕方ないらしい。


「しゃぶしゃぶのテストをするつもりが、すき焼きに塗り替えられちまったな。意地汚い豚め!」


 などと、SMの女王様みたいなセリフを吐いていると、ジネットがくすくすと肩を揺らして笑う。


「いいじゃないですか。美味しいものはみなさん大好きですから」


 とか言いながら、そわそわと浮き立った感じで教会への寄付の下拵えを進める。

 お前も、「作ってみたい」って気持ちが迸ってるぞ。


「量があるようなら、教会のガキどもにも食わせてやるか」

「それはいいですね! えっと、鍋物……ですよね、すきやきって? なべぶぎょう、とおっしゃっていましたし」

「あぁ。ただ、他の鍋とはちょっと手順が異なるけどな」

「では、子供たちみんなで作って食べられますね」

「肉ばっか食いそうだな、あの悪ガキども」

「ちゃんとお野菜も食べるように注意しないといけませんね」

「ベルティーナは心配ないな」

「はい。シスターは好き嫌いがありませんから。……いえ、好きなものしかありませんから」


 言い直したねぇ。

 好き嫌いがないって、確かにベルティーナには似合わない言葉だよな。

 みんな好きなんだもん。

 コーヒーは嫌いみたいだけど。


 でもサザエの汁は飲むんだよな。

 苦いのが苦手かと思いきや、物によるんだよ、あの食いしん坊シスターは。


「じゃあ、ジネットには、今のうちにしっかりと作り方を覚えてもらわないとな」

「はい。頑張ります!」


 アッスントに試作品を食わせて、いい牛肉を大量に貢がせよう。

 しゃぶしゃぶは……すき焼きと一緒に食うわけにはいかないよな。


「さて、どっちをやるべきか……」

「大丈夫ですよ。シスターがいますから」


 ま、食材が残る心配は皆無だな。


 すき焼きは美味いが少々くどい。

 しゃぶしゃぶはあっさりしているし、さくさくと肉が食えるのでガキどもなら楽しめるだろう。

 別にしゃぶしゃぶが見劣りすることはないか。


 むしろすき焼きが負けるかも?

 日本人的には、すき焼きは鍋物界の王者なんだけどなぁ。


「んじゃ、出汁の準備でもしておくか」

「はい」

「下拵えしたものが無駄になっちまうが」

「営業用に回せば無駄にはなりませんよ」

「そうか」

「それに、営業の下拵えがここまで出来ていると、朝はゆっくり出来そうです」


 じゃあ、教会ではちょっとゆっくり出来そうだな。


「それじゃあ、昆布をはじめ鯛やカニなどの魚介類を確保しに行くか」

「ふふ、そう言うと、なんだか今から漁に出るみたいですね」

「手強い守護者の目を盗んで奪い取ってくるんだから、難易度はこちらの方が上だ」

「お願いすれば、すぐに渡してくださいますよ」


 まぁ、要するに、昨日泊まっていったマーシャの水槽から分けてもらうわけだ。


「ぼちぼちロレッタもやって来るから、マグダを起こしてすき焼き講習会といこう」

「はい。みんなで試食会ですね」


 講習会だっつーのに。

 朝からすき焼き。重い。


 でもなんでかな、余裕で食えそうな気がする。

 よく考えてみれば、久々のすき焼きだもんな。

 腕が鳴る。そして、腹が鳴る!


「あ……いっけね」


 すき焼きに使う鉄鍋がねぇや。


「平鍋が必要なの忘れてた」

「平鍋でしたら一つありますが?」

「あれだとちょっと大きいんだよ」


 陽だまり亭の平鍋は結構でかい。

 四人前のパエリアが作れるくらいデカいんだ。

 まぁ、今回はそれでやるしかないか。


「本来なら一人前~二人前程度のもっと小さい鍋でやるんだよ。各テーブルに鍋を置いて作りながら食うから」

「なるほど。では、金物ギルドさんに依頼しておかなければいけませんね」

「ノーマが鍛冶場に戻っちゃうぞ」

「ふふふ。今回はじっと我慢していただきませんとね」


 鉄の平鍋なら何度も作ったことがあるだろうし、新しい商品ではない……から、大丈夫だと思いたいが。ノーマだからなぁ……


「きっと、家庭用の平鍋があると思いますよ」


 そうだな。

 在庫があればそれを買えばいいか。

 別に、すき焼きをメニューに載せると決まったわけでもないし。


「やっぱ、明日はしゃぶしゃぶフェアだな」

「そうですね。すき焼きは、今後のお楽しみということにしておきましょう」


 まだ食べたこともないのに、楽しそうに未来の計画を練るジネット。


 とりあえず、野菜を切って、出汁と割り下を作っておこう。

 あぁ、葛切りがないからちょっと物足りない。

 せめて糸こんにゃくは欲しいよなぁ。モーマットに言ってコンニャク芋でも作らせるか。

 あるかなぁ、コンニャク芋。


 そんなことを考えながら、俺は久しぶりのすき焼きに思いを馳せ、知らず知らずうきうきと心を弾ませていた。


 まさか、俺が親方バリの鍋奉行になるなんて、この時は思いもしなかった。

 やっぱ、親子は似てしまうものなのかもなぁ。




 それからほどなくして、従業員が全員集まった。

 ――ので。


「一同の者、おもてをあげぇ~い」

「なんですか、この仰々しい感じ!? なんであたしたち床に正座させられてるですか、今!?」


 いや、やっぱ形から入るべきかと思って。

 鍋奉行。

 奉行といえば「面を上げい」。

 うん、間違ってない。


「しまった、桜吹雪の入れ墨をしておくべきだった」

「よく分かんないですけど、もう立っていいですかね!? 床、冷たいです」


 言って、許可なく立ち上がるロレッタ。

 頭が高い! 控えおろう!


「食材、お持ちしました~」

「……ロレッタ、遊んでないでテーブルの用意をして」

「あたし、好きで遊んでたわけじゃないですよ!?」


 ちなみに、床に座らせたのは、有無を言わせずに済むロレッタと、なんでも楽しそうに遊びに変えてしまうテレサと、テレサの保護者カンパニュラだけだ。

 ジネットとマグダとノーマには、すき焼きの準備をしてもらっていた。


「なんか、ヤシロがやたらと張り切ってるさね」

「ふふふ。鍋奉行というらしいですよ。今回、わたしは手を出さず見学なんです」

「店長さんにやらせないつもりなんかぃね?」

「何か、とても大切な思い出があるようですよ」


 すき焼きの準備をしながら、ジネットがノーマと楽しそうに話している。


 あぁそうそう。

 親方も、こういう準備の時までは動かないんだよ。

 女将さんと俺がしゃべりながら野菜とか持ってきて、準備が整ってから「じゃ、始めるか」って嬉しそうに宣言してなぁ。

 いいとこ取りじゃねぇか、まったく。


「ヤシロさん、準備が出来ましたよ」

「うむ。じゃ、始めるか」

「いいとこ取りじゃないかさ、ヤシロ」


 ノーマに呆れられた。

 ……が。なるほどな、これが当時の親方の気分なのか。

 悪くない。


「ヤシロく~ん、カニの出番は~?」

「今はまだない」


 カニすきってのもあるが、まずはベーシックなすき焼きを浸透させる。

 しゃぶしゃぶの二の舞いにはならんよ。


「それじゃ、ちょっと狭いが、全員鍋を囲むように座ってくれ」


 今回は、テーブルをくっつけて八人掛けにし、一面を俺が占領して残りの三面に全員を座らせる。


 鍋奉行は、焼けた肉を全員の小鉢に放り込むところまでやるのが責務なのだ。


「いや、自分で取って食べるですよ!?」

「黙れ、下郎!」

「なんかひどいこと言われたです!?」


 お奉行様に楯突くたぁ、市中引き回しの上、磔獄門だぞ!?


「え、なんやて? 『Cカップこねくり回しの上、プリケツごっくんもの』?」

「おい、誰だ。朝から食堂に悪玉菌持ち込んだヤツは!?」


 なんでかレジーナが紛れ込んでいた。

 こいつ、普段なら絶対まだ寝てる時間だろうに。


「ちなみに、さっきのな、『C乳』でCカップを表現しよう思ぅたんやけど、いきなり造語を放り込んでも理解が及ばんと、『え、なに?』って思考が止まってボケの邪魔になるかと思ぅて『Cカップ』で妥協したんや」

「まぁ、確かに、『市中引き回し』なら『C乳こねくり回し』の方が語呂は似てるか。でも、ボケの初っ端で『あれ?』って詰まっちまうと、その後のボケを全部聞き流されちまうから……うむ、妥当な妥協だと思うぞ」

「せやから、次回からは『C乳』で」

「そうだな、次回からは」

「もう、なんのお話をされているんですか、お二人とも」


 コッ、コッと、俺たちの前に生卵の入った小鉢を置いて、ジネットがほっぺたを膨らませる。


「それで、レジーナさん。どうされたんですか? 急ぎの用でしょうか?」

「いんや。ちょっと匿ってもらおぅ思ぅてな」

「匿う、ですか?」


 ちらりとドアの外へ視線を向け、レジーナはテーブルの陰に身を隠す。


「ほら、ウチ、子供服コンテスト、完全にスルーしたやん?」

「物の見事にボイコットしたよな」

「そういや、あの期間、一切見かけなかったさね」

「ヤシロさんですら、お誘いできませんでしたもんね」


 まてまて、ジネット。

 俺は別に、輪に入れないお友達を誘ってあげる気の利く学級委員的ポジションじゃないからな?

 なんだよ、「ヤシロさんですら」って。


「レジーナを誘ったら、網ブラジャーとか作る羽目になってただろうな」

「え、そんなんあるん? ほなら出たらよかったなぁ」

「ありません、そんなものは! もう、懺悔してください」

「待て待て。網ブラジャーの生みの親はマーシャだぞ?」

「え~、ヤシロ君じゃなかったっけ~?」

「お兄ちゃんの発想ですよね」

「ヤシロの考えそうなことさね」


 くぅ!

 本当にマーシャ発信のアイデアなのに!

 これが日頃の行いというやつか!


「そんで、子供服コンテストがどうかしたんかぃね?」

「そうそう、ほんでな? ウチは別に全然頼んでへんのやけど……『お裁縫、練習しましょうね』って、ご近所のおばちゃんらぁが……」


 わぁ、顔真っ白。

 表情、かっさかさだな。


 なんでも、家にいると「今、暇かしら?」と、ご近所のおばちゃんが裁縫道具を持ってやって来るらしい。


 居留守を使おうにも、薬を買うついでに「裁縫、覚えましょ☆」ってお茶目なおばちゃんが複数いるらしく、断るのに苦慮しているのだとかなんとか。


 はは……お節介なおばちゃんが多いからな、この街は。


「ほんで、陽だまり亭に避難しとったら、『店長はんに教わっとる』って言い逃れできるんちゃうかなぁ~思ぅてな」

「うふふ。では、折角ですので少しだけお裁縫の練習をしてみませんか?」

「わぁ、ここにもおったわ、裁縫やらせ隊」


 レジーナがげんなりした顔になる。

 まぁ、ジネットは無理やり強要したりしないから安心しとけ。


「しょうがないさね。アタシが直々に教えてやるさよ」


 こっちの、優勝者はどうか知らないけどな。

 今のノーマは、裁縫魂が燃えまくりだから。


「え、なんでキツネの鍛冶師はんがこんな張り切ってはるの?」


 あぁ、そうか。

 その辺のことも知らないのか。


「レジーナ。トラップだ」

「なんのやねんな!?」


 裁縫上手で、無遠慮に踏み込んでこないであろう人物としてジネットを選んだのだろうが、ここには教えたがりのノーマがいたのだ。

 まさにトラップ!


「諦めて、網ブラジャーの編み方でも教わっとけ」

「それ、裁縫なんかいな?」

「アタシも知らないさね、そんなもんの作り方は」

「よし分かった! すき焼きやめて、網ブラジャーの試作会を始めよう!」

「すき焼きを作ってください! もう」


 ジネットに菜箸を渡された。

 編み物の話をしてたから、一瞬編み針かと思っちゃったぜ☆

 ……ん? 網ブラジャーは編み物じゃないの?


「しょうがない。レジーナ、朝からちょっと重いけど、食ってくか?」

「ん~……ほな、適当によばれるわ」

「じゃあ、アッスントは残念だけど……」

「いや、食べさせてくださいよ!?」


 でも、テーブル八人がけだし。

 四人がけのテーブルをくっつけて、一面を俺が占領してるから、対面に四人、両サイドに二人ずつで八人席なんだよ。


 ジネット、マグダ、ロレッタ、カンパニュラ、テレサ、ノーマ、マーシャ、レジーナで八人だ。


「ヤシロさんのお隣が空いているじゃないですか、割と広く!」

「貴様に奉行席は十年早い!」

「そんな名称なんですか、そこ!?」

「知らんけど!」

「適当なこと言いましたね、今!?」


 ワーワー騒ぐアッスントに、ジネットが自分の席を譲る。

 そして、俺の隣へ来て立ち、「では、わたしは特等席で作り方を見学させていただきます」とにっこり微笑んだ。

 くっ、断れないタイプの笑顔だ。


「じゃあ、一応椅子持ってきとけ」

「ヤシロさんは座らないんですか?」

「鍋奉行に座っている暇などない」

「では、わたしも立っています。鍋奉行見習いとして」


 こいつは……

 しょうがない。じゃあ特等席で見ているといいさ。

 俺の奉行姿を。


「それじゃあ、とくと味わっていただこうか。俺の故郷の、御馳走四天王の一角を!」



 まぁ、他の三つが何かって言われても、ちょっと決めかねるけどな。


「ヤシロさん、お手伝いしましょうか?」

「まぁ、最初は見ていろ」


 親方が女将さんにしていたように、「ぴっ」と手で動きを制し、一同を睥睨しつつ呼吸を整える。


 すき焼きは、食べる瞬間に最も美味しくなるように逆算して焼いていくのが鉄則!

 それは、食べる側の準備も含めてだ。


 溶き卵の入った器に最高の状態の肉を入れたにもかかわらず、食べる側の準備不足で無駄に長時間卵の中に肉が浸かり、折角の旨味が脂と一緒に流れ出て、温度も冷めて生ぬるくなる――なんてことがあってはイケないのだ!


「いいか、お前ら。すき焼きを食う時は、命がけだと心得ろ!」

「あぁ、なるほど。こういうのが鍋奉行って言うんだね」


 何も分かっていないエステラが「どんな風に食べても美味しいものは美味しいじゃないか」とか言っている。

 分かってない! 分かってないな、お前は!


「……って、いつの間に紛れ込んだ、エステラ!?」

「いや、ついさっき、ジネットちゃんに案内してもらってこの席に座ったじゃないか」


 俺に気取られないように俺の向かいの席に座るとか、お前はナタリアか!?

 いや、美味いものを食う時にはしれっと参加しているベルティーナと言うべきか。


 よく見れば、カンパニュラとテレサがきゅっと身を寄せ合ってスペースを空けてやっている。

 まぁ、お子様だから多少席を寄せても狭っ苦しいということにはならないか。


「では、私の時もそれでよかったのでは?」とかなんとか、アッスントが恨みがましそうに言っているがまるっと無視する。

 お前、カンパニュラたちが機転を利かせて席を空けたことに文句言うとか、見下げ果てた大人だな。


「罰として、今回の牛肉はアッスントのおごりだ」

「いや、罰を受けるような覚えはありませんよ!? まぁ、今回の分くらいでしたら、サービスさせていただきますけども」

「よし、ベルティーナを呼んでこよう!」

「待ってください! 今、この場にいる方のみ、御馳走させていただきます!」


 しみったれめ!

 ベルティーナに食べ放題をプレゼントして破産すればいいのに!


「ねぇ、ヤシロ。始めないならボクがやっといてあげるよ。その出汁を入れればいいの?」

「触るな、素人が!」


 割り下に腕を伸ばそうとしたエステラを迎撃する。

 ……しまった。菜箸で手をはたいてしまった。

 あ、ごめん、ジネット。新しい菜箸をありがとう。使わせてもらうよ。


「すき焼きで、先に割り下を入れるヤツがどこにいる」

「え~、お鍋でしょ? っていうか、割り下ってなに?」


 割り下も知らないヤツが無闇に手を出すな!

 ……命がいくつあっても足りなくなるぞ?

「そんなわけないじゃないか」じゃねぇんだよ、エステラ。すき焼きは命がけなの!


「いいか、お前ら。すき焼きというのは――」

「それ長くなりそうだからあとにして」

「エステラ。ヤシロはこうなると長いんだから、変に反抗するんじゃないさね。ある程度流れを掴んでから質問するようにしなね」

「はぁ~い」


 なんか、俺が面倒くさい人扱いされてるな、今。

 ノーマ、さらっとひどいぞ。


「すき『焼き』って言ってんだから、焼くんだよ。先に割り下を入れたら煮込みになるだろう」

「あ、そっか」


 俺の真ん前の席で楽しそうに目を煌めかせるエステラ。

 こいつは、本当に食い物のこととなると意地汚いよな。


 しかし、そのきらきらした瞳はなかなかいいぞ。

 そうなんだよ。

 すき焼きってのは、そういう目で、楽しみに待つものなんだよ。


「エステラ。いい心がけだ。最初の肉を食う権利をやろう」

「え、何が評価されたの、ボク?」

「……おそらく、意地汚さ」

「目がキラキラしてたです」

「ヤシロ君って、楽しみにしてくれる人のこと、結構好きだよね~☆」

「ヤー君は、人を甘えさせる天才ですからね」

「えーゆーしゃ、やさしいの!」

「そーゆーんじゃねぇーよ」

「はい。そうですね」


「そうですね」って言いながらくすくす笑わないでくれるか、ジネット?

 全然「そうですね」感、出てないから。


「まぁいい。俺も早く食いたいから始めるぞ」

「わー」


 っと、拍手するエステラ。

 すげぇな、お前。昭和の貧乏家庭のノリ、完璧じゃねぇか。

 拍手が起こるんだよな、たまの贅沢の時には。

 いい心がけだぞ、エステラ!


 ……あ、ちなみに、親方の家はそこまで貧しくなかったからな?

 女将さんが節約のプロだったから、明日食うものに困るような生活ではなかったと、親方の名誉のために言っておこう。


 まぁ、生活は厳しい方だったけどな、どっちかって言うと。

 あの人たち、誰でも彼でも助けちゃうから……お人好しが服着て歩いてるような人たちだったなぁ。


「ジネット、火を付けてくれ」

「はい」


 テーブルの上に用意した背の低い七輪に火を付けてもらう。

 ジネットは火付け布の扱いがうまいから、余計な炎は上がらない。

 無駄のない炎だ。


「鍋奉行は、他人に何もやらせないんじゃなかったのかい?」

「準備まではいいんだよ」


 俺が火付け布下手なのをいじってくるエステラ。

 お前に渡す肉、みんな小さいやつにするぞ、コノヤロウ。


 火の付いた七輪に平鍋を載せる。


「全員、今のうちに卵を溶いて準備しとけ。準備の出来てないヤツに肉は振る舞われないと思えよ」

「厳しいんだよ、いちいち」

「いいから、言う通りにするさね。ヤシロなりに、何かこだわりがあるんさよ」


 もんくを垂れるエステラを、ノーマがなだめて準備をさせていく。

 世話係がいてよかったな、エステラ。

 危うく美味い肉を食いそびれるところだったぞ。


 ざっと一同を見渡し、全員の準備が整ったことを確認する。


 さぁ、すき焼きを始めようか。


「まずは、牛脂を載せて、薄く脂を広げていく」


 熱せられた牛脂からキレイな脂が溶け出し、鍋の表面を潤していく。

 お、いい香りだな。

 いい牛脂じゃねぇか。でかしたアッスント。


「脂を引いたら、まずはネギを入れて焼く」


 こうすることで、脂にネギの香りがつくのだ。

 ネギの香りがついた脂で肉を焼くと、美味さが一段アップする。


「すき焼きの鉄則は、焦げ付かせないことだ」


 鍋が焦げ付くと肉が張り付いてぼろぼろになるし、割り下の味も濁る。

 なので、焦げ付く野菜やしいたけはしらたきなどの上に載せて、直接鍋底に触れないようにして熱していく。


 今回はしらたきがないので春菊を下敷きに使う。


「春菊は葉野菜だが、余分な水分が出ないので割り下の味を薄めることはない」

「なるほど。それで春菊なんですね」


 ジネットが頷いている。

 鍋物に春菊が好まれる理由の一つだな。

 春菊なら、大量に入れても出汁の味を薄めることはない。


 白菜や大根は水分を出すが、逆に出汁を吸い込むことで旨味を野菜の中に閉じ込め、旨味ごと野菜を食えるので鍋物には向いていると言える。


 ただ、すき焼きには不向きだ。


 本当はお麩とかあるとテンション上がるんだけどなぁ。

 糸こんにゃくと一緒に探してみるか。

 材料さえあれば作れる。


「春菊の上に、しいたけ、焼き豆腐を載せたら、いよいよ肉を焼く」


 肉は一枚ずつ、鉄板に載せていく。

 人数分入れるとなると、結構ギッチギチになるが、まぁ、仕方ない。


「肉を載せたら絶対に肉を動かしてはいけない」


 動かせば、肉が鍋底に張り付いて破れてしまう。


「表面に焦げ目がしっかりとつくまでじっと待つ」


 肉の焼ける音を聞いて……よし、ここだ!

 肉が焼けたらそこへ割り下を注ぎ入れる。


「全員静粛に! よく聞け……これが、すき焼きの音だ!」


 割り下が鉄板に触れて「じゅー!」っとたまらない音を奏でる。

 くわぁ~いい音っ!

 食欲そそられるわぁ!


「肉をしっかり焼いたあとに割り下を入れることで、割り下が肉を浮かび上がらせてくれるんだ」


 焦げ目を付けた肉は、こうして破れることなく鉄板から剥がれ、ぐつぐつと甘辛い割り下の中でさらに熱せられる。


「よし、いいだろう。エステラ、器を出せ。早く!」

「う、うん!」


 エステラの器に肉を放り込み、「さぁ、食え!」と促す。

 エステラが出来立ての肉を生卵に絡めて、一口で頬張る。


「んっ!?」


 頬張った瞬間、エステラの目が見開かれ、もくもく、もきゅもきゅもきゅもきゅと口が細かく動く。


「美味しい! これ、すっごく美味しいよ!」

「だろ? よし、みんな器を出せ! ほら、早く!」


 最高の時間はほんの一瞬なのだ。

 ぼやぼやしている暇はない!


 差し出される器に、順番に肉を放り込んでいく。


「んー! これは、たまんないさね!」

「……美味」

「割り下の甘みの向こうに、お肉のしっかりとした旨味があって、味の波状攻撃をしかけてくるです!」

「なるほど、ロレッタ姉様のおっしゃることがよく分かります。生卵を絡めることで、とてもまろやかなお味になるのですね。このような食べ方は初めてですが、とても美味しいです」

「おいしい、ね!」

「うんうん。これ、お魚でやっても美味しいかも~☆」

「あぁっ、売れます! これは絶対大ヒットしますよ!」

「ブレへんなぁ、後ろ二人は」


 皆、一様に美味さを表現している。

 概ね好評なようで何よりだ。


「どうだ、ジネット?」

「はい。割り下は少しくどくなるのではないかと思いましたが、生卵とお肉の甘さを考慮するとこれくらいがちょうどいいんですね。柔らかくて熱いお肉がまろやかな生卵と合わさって、お口の中でわっしょいわっしょいしています」


 うん。

 とりあえず合格が出たようだ。


「じゃあ次、野菜行くぞ。器出せ」

「えぇ~、またお肉がいい」

「肉も焼くから、その前に野菜を食え! 俺の言う順番で食うと絶対美味いから!」

「ヤシロ。あんた、さっき言ってた親方さんの鍋奉行っぷり、そのまんまさよ」

「ヤシロさんは、親方さん似なのかもしれませんね」


 ノーマとジネットが楽しそうにおしゃべりする中、俺は肉が一番美味く食えるタイミングを逆算して次の食材を焼いていく。

 好きに言っていればいい。

 それよりも今は、すき焼きを最も美味く食うことの方が重要なのだから!




「ふぁ……、美味しかった」


 割り下で薄まった溶き卵を白米にかけて一気に掻き込む、すき焼き風卵かけご飯をシメに平らげて、エステラが膨らんだ腹をさすりながら満足げな息を漏らす。


「これは確かに贅沢な食べ物さね」

「お肉、柔らかくて美味しかったですね、テレサさん」

「うししゃん、おいし! いいこ!」


 テレサに褒められたら、食われた牛も本望だろうよ。


「あの、ヤシロさんはお腹が満たされましたか? 配るばかりで、あまり召し上がっていないようでしたが」

「鍋奉行とは、そういう役割なんだよ」


 親方も、俺と女将さんが腹一杯になるまでずっと鍋奉行してたからなぁ。

 自分は合間合間にちょこちょこ食うだけで。

 で、俺たちの飯が終わった後、残った肉や野菜を突っつきつつ、酒をちびちび飲むんだ。


「この残った野菜で酒を飲むのが好きだったんだよ、親方は」

「ふふ。きっと、美味しそうに食べるヤシロさんたちのお顔を思い出しながら飲まれていたんですね」


 確かに、美味そうに肉を食う一同の顔を余すことなく堪能できる特等席ではあるな、この奉行席は。

 ジネットが好きそうなポジションだ。


「じゃ、俺はマーシャのカニをもらってカニすきでもするか」

「あ、ズルいよ、ヤシロだけ!」

「カニなら、アタシもまだもうちょっと食べられるさね!」

「私は、カニの分ちゃ~んとお腹に余裕残してたもんね~☆」


 じゃじゃーんっと、水槽からカニを取り出すマーシャ。

 そのカニを横から掻っ攫って、隣のテーブルで手早くカニを捌いていくジネット。


 すげぇ手際いい!?


 硬いカニの甲羅が、まるでミカンの皮のようにするする剥けていく!?


「では、殻は割り下に沈めないように気を付けて煮込みますね」


 鍋の縁にカニの足を並べていくジネット。


 そうだな。

 殻を出しておくと、持った時にベタつかなくていいよな。

 で、ジネットがキレイに殻を向いてくれているから、身を口に入れたら「ほろっ」っと中身だけが口の中に滑り込んできてくれるわけだ。

 こんなに食いやすいカニすき、ここでなきゃ食えないぞ。


「では、ヤシロさん。こちらのカニは食べ頃ですので一番にどうぞ」

「鍋奉行取られた!?」


 あっという間に取って代わられたな!?

 下剋上だ、下剋上。


「ぅっ……んんまぁぁあああ!」

「わぁ、いいないいな! ジネットちゃん、ボクにも!」

「アタシにも頼むさね」

「店長さん、こっちも~☆」

「はい。たくさんありますから、いっぱい召し上がってくださいね」


 差し出される器に、順次カニを放り込んでいくジネット。


「うふふ。この景色が見たくて張り切っておられたんでしょうね、親方さんは」


 なんて、「分かるわぁ~」的な共感の笑顔を浮かべてせっせと鍋奉行に徹する。


「ちなみにお兄ちゃん、これを魔獣のお肉でやったらどうなるですか?」

「それは俺も試したことがないからなぁ。割り下の味を多少変えないとくどくなり過ぎるかもしれん」


 なにせ、魔獣の肉は肉が持つ旨味が強烈だからな。

 あの肉に何か味を付けるのは諸刃の剣になりかねない。

 美味過ぎるがゆえに、扱いも難しくなるのだ。


「そうですね、脂の甘みが牛肉とは異なりますので、砂糖を減らして……あとは海鮮の出汁で少し薄める感じにしてみるとお肉の甘みを引き立たせてくれるかもしれません。あとは生卵ですね。これに浸した時にまろやかさが負けることがないよう、お肉の切り方にもこだわりたいです」


 わぁ、もうほとんど正解が見えてるっぽい。

 ジネットに任せておけば、魔獣の肉のすき焼きが食えるようになるかもしれない。

 ちょっと、楽しみにしておこう。


「しかし、こうなってくると……家庭用の平皿の量産が必要になってくるさね。一人用から四人用あたりまで、各種サイズで作っておかなきゃ、情報が漏れた瞬間市場がパンクしちまいかねないさね……ちょいと鍛冶場へ行ってくるさね!」

「火事になるぞ、鍛冶場が」


 今は、よく燃える布製品を抱えたお前の追っかけが街中を徘徊してるんだから、鍛冶場には近付くな。


「味もさることながら、イメージ戦略として『鍋奉行』システムは優れているかもしれませんね」


 腹が満たされた途端、頭の中を金勘定で埋め尽くしているアッスントが何かをメモしながらそんなことを言う。


「一家の大黒柱が家族のために振る舞うご馳走――というコンセプトは受ける気がします。特別な日には家族みんなですき焼きを食べる、そんな習慣が根付けば、この料理はこの先何十年も愛され続けるでしょう。それに、『鍋奉行』をされるヤシロさんを見つめるみなさんのお顔を拝見して確信しましたが、『すき焼きを食べる』という行為そのものが特別な思い出となっていくことでしょう」


 長々と語った後で、「人は、その物に込められた思いにお金を出す生き物ですから」とドヤ顔で宣う。


「ウチの親父、すき焼きの時ばっかり張り切っちゃってさ~」なんて話は、案外どこのご家庭でも語られる定番の笑い話だったりするのかもしれない。

 少なくとも、俺は親方の張り切る姿を今も鮮明に覚えている。

 やっぱ、すき焼きを食う度に思い出しちまうんだよな、あの時の光景を。


「わたしも、きっと今日のこの光景をずっと忘れないと思います。楽しそうにお肉を振る舞うヤシロさんの横顔も」


 からかうように笑って、煮えたカニを俺の器へ入れてくるジネット。


「ヤシロさんは、まだまだ食べられますよね?」なんて、よく見てるな、ホント。


 張り切ってるのは、いつもお前の方だろうに。


「確かに、今日のヤシロはイキイキしてたよね」

「よっぽど思い出深い料理なんさねぇ、このすき焼きってのは」

「ヤシロ君、ずっと楽しそうだったもんね~☆」


 向かいの席でくすくす笑う女性陣。

 こっち見んな。

 そこまでハッスルしてねぇわ。


「……ヤシロが楽しそうで、マグダも楽しかった」

「ですね! あんなに張り切ってるお兄ちゃんはちょっと珍しかったです」

「私も、ヤー君のご家族の思い出に、少しですが触れられた気がして嬉しかったです」

「えーゆーしゃ、にこにこ、ね」

「美味いもん食ってる時は、みんなそんな顔になるんだよ」


 あんま言うな。

 今さらになって、ちょっと恥ずかしくなってきたわ。


「このお料理を、イロハさんたちに召し上がっていただけないのが残念です」

「まだ鍋がないからな」

「ちょっくら量産してくるさね!」

「また今度でいい!」

「あぁ、それでもノーマさん、比較的早急に量産をお願いしますね。このすき焼きの情報が漏れる前に、ある程度の在庫は確保しておきたいですので」


 情報が漏れても、各家庭に普及するにはまだ時間がかかると思うぞ。

 割り下も作れないだろうし。


「きっとヤシロさんがあっという間に広めてしまうでしょうし」


 勝手なことを言うな、アッスント。

 なんで俺が。


「あぁ、確かに。陽だまり亭にはちょっと向かない料理だもんね」


 エステラが、そう思う理由を述べていく。


「付きっきりで給仕しなければいけない料理は、従業員の負担になるからあまり導入されない。けど、みんながこれほど喜ぶ料理はもっと気軽に食べられるようにしてあげたい。そうなったら、『しょうがねぇなぁ』とか言いながらレシピを公開するじゃないか、君はいつもね」

「んなことねぇよ」


 俺はただ、俺の足枷になりそうなものはうまいこと言いくるめて他人に労力を押し付けているだけだ。


 陽だまり亭でアイスクリームを作り続けなきゃいけないのは負担が大き過ぎるからアイスを他所に広めて労力を分散するようにな。

 俺はな、他人が儲けたことで自分が損をしたとは思わないタイプの人間なんでな。

 自分が儲けられれば、他人がおまけで儲けることなどどうでもいい。


 まぁ、その儲け分で調子に乗ってこっちに攻撃を仕掛けてくるようなバカがいたら、全力で叩き潰すけどな。

 幸いにして、お人好しの住む街、四十二区ではそういった事例は発生していない。

 だから、俺がもたらした情報で街が活気づいたり、うまいこと回っていたりするように見えるのはたまたまなのだ。


「なら、平鍋の量産は急いだ方がよさそうさね」


 ノーマが俺の顔を見てにこにこしている。

 視線を動かせば、エステラも、マーシャも、ジネットも、この場にいる全員が笑ってがやる。


 これは、要するにあれだ。

 すき焼きがそんだけ美味かったってわけだ。

 だからこいつら全員、テンション上がってそんな顔になってるんだろう、きっと。

 そうに違いない。


 まったく、すき焼き一つで大はしゃぎしやがって。







あとがき




す・き☆

(*ノωノ)きゅっ!


宮地です☆



というわけで、

胸きゅんなサブタイトルでしたけれども、

はい、『すき焼き』です☆


……いや、『スケスケ』じゃなくて!


『すき〇〇』ってサブタイだったでしょう!?

なんで『〇〇』に文字入れたら最初から見えていた文字まで変わっちゃってるんですか!?


まったくもう……


では、気を取り直して、

スケスケのお話をいたします☆


 まんまと引っ張られた!?Σ(゜Д゜;)


まぁまぁ、どっちが好きかと言われればスケスケの方が好きですからねぇ


好き・透け☆

(☆>ω・)



さて、すき焼きですが

皆様、食べたことありますか?


 (# ゜Д゜)おっ? バカにしてんのか? お?


実は私、

ちゃんとしたすき焼きって食べたことなかったんですよ


いえ、正確に言うと、

未就学児に親戚の集まりで食べたことあるんですが

その時って、お肉とお麩と白滝くらいしか食べないような感じでして……


そんな感じじゃないですか、子供って

(^^;ね~?


なので、ちゃんとすき焼きを食べたのかと言われれば、

まぁ、おそらくNOだったんだろうなぁ、と


なんか、うち、

祖父が羽振りのいい人だったのか、

未就学時代に物凄い贅沢なことがあった記憶があるんですね


桐の箱に入ったサクランボをいただいたり

木の箱に入ったマスクメロンをいただいたり

デッカイ発泡スチロールの箱を開けたら箱いっぱいのデカい伊勢海老が鎮座していたり


私が小学生になるころには、

そんなことは一切なくなったんですが……没落?(・_・;

ウチの祖父、何者?(;・Д・)ごくり……



小学生以降は実に慎ましい生活を送り

BB戦士は買えるけど、ミニ四駆は高くて買えない(本体だけじゃなくていろいろパーツ交換とかすると千円二千円があっという間に飛んでいくんです)みたいな生活水準でした。


ちなみに、BB戦士は300円で

ミニ四駆は680円でしたっけねぇ?

……480円くらだったかも?

まぁ、四捨五入で500円ですよ、アレは

小学生にとって、500円オーバーって、結構勇気いるんですよね


……作るの失敗するリスクもありましたし( ̄_ ̄;



まぁ、そんなことはいいとして、

すき焼きをちゃんと食べたことがなかったんですね


うちの母は、料理があまり好きな方ではなかったので

結構大雑把料理が多かったんですよねぇ……


我が家のすき焼きと言えば、

割り下を鍋にドボドボ入れて、肉と野菜を一斉に放り込んでぐつぐつ煮込むという

……うん、甘辛い出汁の鍋ですね(^^;


という感じで、

成人してからは、すき焼きと言えば

吉野家さんやすき家さんの牛鉄鍋がメインでした



で、今回!

すき焼きを陽だまり亭でやるということで

書く前に行ってきました!


いいお店!

創業ン十年の老舗すき焼き屋さん!


そこそこお高いお店!


行ってきました!\(≧▽≦)/


まぁ、ランチですけどね☆

(>ω・)ちょっとお手頃♪



そしたらですね、

予約の段階で、ラスト一席だったんですよ。


そんな混むの!? Σ(・ω・ノ)ノ!

高いすき焼き屋さんなのに!? Σ(・ω・ノ)ノ!

12時を避けて早い時間にしたのに!? Σ(・ω・ノ)ノ!



日本が不景気なんて話は、嘘なのかもしれません

めっちゃ金持ってますよ、皆さん



で、早めのランチでお邪魔したら――



給仕さん「お肉、焼かせていただきます」

宮地「鍋奉行付き!?」



そんなオプションは付けてないんですが、

どうやら、基本的に全部やってくれるらしいです


……マジか、老舗すき焼き屋……

貴族の扱いか……



で、本編でヤシロがやっていたようなことを

本当にやっていただいたんです。



給仕さん「耳をすましてください――これが、すき焼きの音です」

宮地「(うわ、それめっちゃ言いたい! 書こ!)」



すごく参考にさせていただきました。

(*´ω`*)


で、食事の間、

全部、説明してくださるんです。

しかも、野菜も、お麩も、白滝も、小鉢にドンドン放り込んでくるんです


「こっちのペースで食べさせて!」とか、口が裂けても言えない雰囲気でした。



宮地「あの……私、シイタケ嫌い……いえ、なんでもないです、美味しいです!」



給仕さんの迫力たるや……

逆らってはいけない人でした。

たぶん、ナタリアと近しいオーラ出てましたね



で、最初お肉を食べて、野菜を一通りいただいたら――



給仕さん「では、ごゆっくりお召し上がりください」



――って、給仕さんが席を離れていったんですね

野菜とかお麩が半分くらい残ってる状態で


なので、「あ、最初の一回だけ、一通り食べさせてくれて、ここから自分でやるんだ」と思いまして、

ツイッター(現:X)用に、お肉が載っている状態の写真を撮らせてもらおうと思いまして自分でお肉を載せていったんです


……いや、だって、



給仕さん「時間との勝負ですよ! ほら、よそ見してないで、卵を溶いておいてください! 油断しない! 気を抜かない!」



って圧かけられている状態で

「写真撮っていいですか?」とか言えなかったんですもの!


なので、給仕さんがいなくなったタイミングで、お肉を鍋にのっけて、すき焼きの写真を撮りまして

じゃ~、あとはのんびりお肉焼いて食べようかな~って思っていたら



別の給仕さん「担当者が、お肉を放置して席を離れたんですか!? 申し訳ございません!」



って、血相を変えて別の給仕さんが飛んできて

物っ凄い形相で謝られてしまいまして


Σ(゜Д゜;)いや、ちがっ、あのっ!?



宮地「いやいやいや! 一通り焼いてもらって、こっから自分でやるんですよね?」

別の給仕さん「いいえ。当店では最初から最後まで焼かせていただいております」

宮地「でも、ゆっくり食えって」

別の給仕さん「お野菜がなくなりましたタイミングで、次のお肉を焼かせていただく流れでございます」

宮地「老舗のルール、難しい!」(>△<;



最初に言っといて!


――って思いましたが、

祇園のお茶屋でも、ルールは客が事前に知っておくもの、なんですよね

それが『粋』というもの


今回の私のミスは『不粋』というものだったんですねぇ……(^^;


あまりに慌ててしまって、

鉄鍋に手が触れて火傷しちゃいましたからね……

給仕さんに見つからないように必死に隠しましたけれども!

めっちゃ痛いのに素知らぬ顔してましたけれども!

食べてる間中、なんなら家に帰った後もずっとジンジンしてましたけれども!

隠し通しましたよ!



宮地「(……バレたら絶対給仕さんに怒られる!)」(>_<;



そんなこんなで

とても美味しいすき焼きを

とても贅沢にいただいてきました


創業ン十年の老舗さんで

内装も、いい意味で古く、趣と威厳があって

日本古来より伝わる伝統のようなものも感じられて

すごく贅沢な空間でした。


……ただ、メニューに書かれていた『和牛A5ランク』っていう文字だけ

なんか古式ゆかしい雰囲気とは合ってませんでしたけれども……


でも、凄まじく美味しかったです和牛

私がいただいたのはA4でしたけれども

私のコースより高いのだとA5ランクになるそうで

今度はそれをいただきに行きたいですね



宮地「よし、焼くぞ!」(≧▽≦)/

給仕さん「手を出すな、素人!」(# ゜Д゜)



皆様も、機会があれば本物のすき焼きを堪能しにお店に行ってみてください。


一度本物の味を知ってしまうと

もうそこら辺の『すき焼き風~』なんて……



まぁ、ぶっちゃけめっちゃ美味いですけどね!



牛鉄鍋膳は革命だと思います!\(≧▽≦)/



そんなわけで、

実体験を盛大に参考に書かれた今回のすき焼き回!


お楽しみいただけたでしょうか!?

食べたくなったら、お店でもお家でも吉野屋さんでもすき家さんでも

お好きな場所で、お好きなように楽しんでみてください☆



次回もよろしくお願いいたします!

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
サブタイトル見たときは好き避けだと思ってました… ヤシロは似るというか伯父夫婦へのリスペクトが強いから無意識に真似たがってそう
どうも。すき焼きが食べたくなりました。ヤシロさん達と宮地先生が羨ましいです。 異世界詐欺師の料理回は美味しそう過ぎて、時に残酷です…………幸せな残酷です。 なので、アッスントのおごりですき焼きをくださ…
京都やったら割下使わんやろ!1枚目は醤油と砂糖で焼いて食べるんや!2枚目からは野菜も入れて酒と水を入れて蓋をして・・・・(以下奉行語り)。 作者とは違ってヤシロは関東人だから、ということなんですかね。
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