ベビコン2話 いべんと!
わっと歓声が上がる。
正午からスタートした子供服コンテストの告知イベント。
今日告知して今日開催というゲリラ的イベントにもかかわらず、かなり多くの人間が集まっている。
現在地は四十二区の港。
生花ギルドの面々と、ベルティーナに連れられた教会のガキどもも見に来ている。
あ、寮母のおばちゃんたちもいるのか。
なんか、やたらと真剣な眼差しだな、寮母のおばちゃんたち。
「寮母さんたち、コンテストに参加するんだって意気込んでいたんですよ」
今朝、そんな話をしたのだと、ジネットが隣で教えてくれる。
俺たちは今、急遽港に設けられた特設ステージの舞台袖にいる。
ウーマロのヤツ、ムム婆さんの家のそばに寮を建てつつ、今日はイベントのためにステージの組み上げとバラシとついでに運搬までやってくれるらしい。
あいつの体力に限界はないのか?
「……ふむ。今日のステージも、よき」
「マグダたんに気に入ってもらえて、オイラ感激ッス!」
あの程度でご褒美になるんだから、安いよなぁ、ウーマロは。
とはいえ、さすがになぁ……ったく、やれやれ。
「今日は少し暑いな」
「そうですか? ……あ、そうですね」
俺のつぶやきを拾って、ジネットがぽんっと手と打つ。
「頑張ってくださったウーマロさんのご褒美には、マグダさんのアイスクリームがいいですね」
「お前がそう思うんなら、それでいいんじゃないか」
俺は知らんけど。
「まったく」
舞台から降りてきたエステラが肩をすくめて俺の前へとやって来る。
「素直に、頑張ったウーマロにアイスを食べさせてあげたいと言えないのかい、君は?」
「食べさせたいと思ってないからな。この街で嘘を吐くなんて、恐ろしくて恐ろしくて」
「君ならバレない嘘を平気な顔して吐いていそうだけどね」
まぁな。
指摘さえされなければ問題ない。『精霊の審判』はザルだからな。
「観客の反応は上々だね。この後、コンテストの参加方法をナタリアが説明するから、それが終わったら移動しようか」
舞台上でコンテストの概要を説明しつつ実際に子供服を身にまとったモデルを見せて会場をわかせたエステラは役目を終えて舞台を降り、現在はナタリアがモデルたちの間に立って詳細を説明している。
参加者は、コンテスト前日までに服を仕上げて領主の館に作品を持ち込むこと。
その際、作品の裏側、見えない場所に自身の名前を明記した布を縫い付けておくように――そんな内容だ。
名前がないと、誰が作ったのか分からなくなるからな。
あと、表にデカデカと「ウクリネス作」とか書いちゃうと審査員が素直に服だけで審査できなくなるかもしれないので見えない位置に縫い付けてもらうことになった。
「わたしも、今晩から頑張って作ります」
「ジネットちゃんも参加するんだね」
「贔屓すんなよ」
「しないよ」
こいつだけは、誰が作った服なのか確認できるからなぁ。
ジネット贔屓をして特別賞とか与えそうだ。厳しくチェックしておかなければ。
「ちなみに、優勝賞品はなんだ?」
「それは見てのお楽しみだよ」
「見たら楽しいもの……パンツか!?」
「そんなワケないだろう!?」
「楽しさを最大限活かすなら、事前に穿いておいて『てってれ~♪』という音楽とともにスカートを捲り上げ『これが賞品で~す!』って感じがベストだ!」
「ベストじゃない!」
「じゃあ、バストだ!」
「何がさ!?」
「『てってれ~♪』」
「バストが見えるほど捲り上げるな! しないから、そんなこと!」
なんだよ!
見て楽しい賞品って言ったくせに!
「見てのお楽しみって言ったんだよ、ボクは! 内緒ってことさ」
「ナ・イ・ショ・の賞品!?」
「子供たちのイベントで卑猥な発想をしないように!」
もし優勝賞品がパンツなら、ジネットのサポートを全力でしようと思ったのに。
「ヤシロさんのお手伝いは必要ありません! もう、懺悔してください!」
サポートを、本人自ら断られてしまった。
パンツの山分けはお気に召さないらしい。
「やちろー!」
たたたっという足音に続いて、んばっと飛びついてきたレオパードゲッコー。
――の、着ぐるみを着たシェリル。
「やちろ、にあう? にあう?」
「あー、はいはい、可愛い可愛い」
「えへへ~」
ずっとこの調子だ。
二つ返事でOKしてくれたヤップロック夫妻。というか一家。
テレサとシェリルの晴れ舞台を見るために総出で応援に駆けつけている。
「えーゆーしゃ」
シェリルから遅れること数秒。
テレサもドレスのスカートを持ち上げて、階段を駆け下りるシンデレラよろしく駆けてくる。
「あーしも、あーしもー!」
両腕をこちらに伸ばしてぴょんぴょん跳ねるテレサ。
陽だまり亭ではそんなに甘えてこないのに、シェリルが先に甘えていると羨ましくなるらしい。
「モテモテだね、ヤシロ。人生最大のモテ期がきているんじゃないのかい?」
「こんな未発達どもでモテ期を浪費してたまるか」
俺のモテ期は、ばいんばいんのぼいんぼいんにもみくちゃにされる時にピークを迎えるのだ。
まだかな、まだかなぁ~♪
「あー!」
「たーっ!」
テレサを左腕で抱え上げ、両腕にちびっこを抱えていると、最後にウェンディとセロンに抱っこされたヒカリとマモルがやって来た。
赤ん坊用の衣装を着せるモデルとしてこの二人に依頼したところ、こちらも二つ返事で了承をもらった。
ちなみに、マモルがドレスでヒカリがレオパードゲッコーを着ている。
……ヒカリにドレスを着せようとしたらギャン泣きされたんだよ。
先にレオパードゲッコーを着ていたマモルに向かって手を伸ばして「あ゛ー! あ゛ー!」って。
男の子にドレスって……と思ったんだが、ヒカリの泣き方が尋常じゃなくてなぁ……
仕方なく衣装を換えたら、もうにっこにこなんだ。どっちも。
……マモル。お前まさか、その年齢にしてもう?
いやいや、きっと何も分かっていないだけだろう。
乙女の扉を開いたわけではない……と、思う。たぶん。
「あー!」
「たー!」
で、俺の前まで来て、俺に向かって両腕をぴーんと伸ばしてくる双子の赤子。
「どう見ても満席だろうが」
「あー!」
「たー!」
「あー!」じゃねぇよ!
「たー!」でもねぇよ!
わがまま抜かすな。
「モテモテで羨ましい限りだね、ヤシロ」
ニヤニヤしてこっち見んな、エステラ。
全員もれなく未発達だから、嬉しくないんだわ、そのモテ期。
「あらあら、二人とも、英雄様にご迷惑をかけてはいけませんよ~」
「おかーしゃ!」
「あい!」
舞台袖にウエラーが来ると、まずテレサが俺の腕から降りて駆け寄った。
追いかけるようにシェリルも母親のもとへ向かう。
やっぱり母親が一番ってわけだ。
「あー!」
「たー!」
お前らも母親が一番であれよ。
今抱っこされてんだろうが、母親に。
あまりにやかましいので、ヒカリとマモルも抱っこしてやる。
いい加減、腕がダルくなってきたから、ちょっとくらい落としても文句言うなよ。
「テレサちゃん、ドレス、とっても可愛かったわ。シェリルも、レオパさん可愛いねぇ」
「えへへ~」
「んふふ~」
褒められて満足気に胸を張る二人。
なんか、本当に姉妹みたいだな。
両方妹っぽいけど。
「テレサちゃん、こうかんっこ!」
「うん。こうかん、ね!」
元気よく言って、テレサとシェリルが着ている服を脱ぎ出した。
「ちょっ、二人とも! ここで脱いじゃダメだよ!」
急に服を脱ぎ出したちびっこ二人を、エステラが慌てて止める。
だが、大丈夫だ、エステラ。
「でもこれ、みえてもいいパンツって、やちろがいってたよ」
「みえても、へいち、ょ?」
「……ヤシロ?」
「待て、そんな不審者を見るような目を向けられる謂れはないぞ、俺は」
俺が何を言おうが信用しそうにないので、ジネットに説明役を任せる。
「こちらは、えっと……あんだーすこーと? というものらしく、ヤシロさんの故郷では激しい運動をされる女性が、下着が見えないようにとスカートの下に穿かれるものだそうです」
「……スカートで激しい運動しなきゃいいじゃないか」
「お前だって、スカートでナイフ投げたりするだろうが」
「……まぁ、するけど」
スカートを履いている時であろうと、全力を出さなければいけない時もある。
そんな時、パンツが見えるから本気出せないなんてことにならないように穿くのがアンダースコート、アンスコだ。
「コンテスト本番は、ガキのモデルが大勢いるんだ。全員が大人しく着替えの順番を待っていられると思うか?」
「それは……」
確実に、今のシェリルのように服を「ぽーん」と脱ぎ捨てるガキが出てくる。
あまつさえ、そんなあられもない姿でステージの上に「てってけてってってー!」と駆け出していくかもしれない。
「そんなことになったら一大事だろう?」
「そうだね……」
「それに、まだもうしばらくは、木こりギルドのギルド長も必要だろ?」
「そんなピンポイントでの決めつけはやめてあげなよ……ボクも、擁護までは出来ないけれども」
パンイチ幼女が出没したら、ハビエルが大はしゃぎして……狩られる。
一切の手加減などしてもらえないだろう。
さらばハビエル。お前のことは速やかに忘れよう。
……ってなるのが目に見えているから、アンダースコートを用意させた。
理由を説明したら、ジネットもベルティーナもウクリネスも、「それは必要ですね」と賛同してくれた。
ガキが大人しくしていられないことを、よ~く理解しているからなぁ、コイツらは。
まぁ、アンダースコートというより、ぴたっとした短パンみたいなもんだけどな。
「デリアのショートパンツみたいなもんだな」
「そう考えると、おしゃれでかわいいよね。上のは?」
「キャミソールだ」
肩紐の細いキャミソールにしたのは、衣装の邪魔にならないようにだ。
そんな説明をすると、ウクリネスが「素晴らしいアンダーウェアです」と絶賛してくれた。
今後、モデルにはこういうのを着せるらしい。
……ふふふ。
そうして、「見せてもいい下着」「見られてもいい下着」が浸透していけば、やがて日本のように「あえて見せる下着」が爆誕するに違いない!
へそ出しキャミソールにショートパンツって、「それもうほとんど下着じゃん!」って格好で外を出歩くギャルとか、この街にも誕生するかもしれないなぁ!
うわ~い、未来が楽しみだ~♪
「パンチラの可能性が下がる発明にもかかわらず、ヤシロ様が上機嫌…………これは、何か裏がありそうですね」
ぼそっとつぶやかれたナタリアの言葉は、聞こえないフリをしておいた。
それから大通り広場、東側運動場と場所を変えて告知イベントは行われた。
会場が変わる度にテレサとシェリルは衣装を交換していた。
あぁ、ついでにウーマロも会場が変わるごとに設営とバラシをしていたなぁ。
あいつ、働くの好きだなー。
「……ウーマロ、お疲れ様のアイス」
「むはー! 冷たくて甘くて可愛くて、まるでマグダたんのようなスイーツッスー!」
「あぁっ、棟梁がマグダたんから何かもらってる!」
「ずっりぃー! 俺たちもめっちゃ頑張って設営とバラシしてたのにー!」
「分けろー!」
「いや、寄越せー!」
「うっさいッスよ! お前らには十年早いッス!」
アイス一つで大工が賑やかだ。
つーか、ウーマロ。「マグダのような」の中に『冷たい』が入ってたけど、それは褒め言葉にならないんじゃないか?
「……マグダは所詮、冷たい女。……つーん」
「はぁあん! オイラのうっかり失言に可愛いおヘソを曲げるマグダたん、マジ天使ッス!」
なんでもいいのか、お前は。
なんでもいいんだな。うん、知ってた知ってた。
「大工のみなさんの分は、この陽だまり亭の元気娘ロレッタちゃんがちゃーんと用意してるですよー! 順番に並んで取りに来てくださいでーす!」
「さすがロレッタちゃん!」
「可愛い!」
「俺たちの天使!」
「普通の天使」
「お兄ちゃん! 大工さんたちに混じって『普通』って言わないでです! 気付くですよ、あたしはそーゆーの!」
ちっ、勘のいい。
「ナチュラルエンジェル!」
「ノーマルエンジェル!」
「それ、なんかなんとなく普通って言われてる気がするですよ、大工さんたち!」
「ゆーじゅありー、じぇねらりー、おーでぃなりー」
「そこら辺、全部『普通』って意味含んでるですよね!?」
「普通ナリ~」
「変な語尾になってるですよ、お兄ちゃん!?」
怒られたナリ。
う~ん、しかし英語と日本語の翻訳、どう使い分けてるんだ『強制翻訳魔法』は……考えるだけ無駄か、アホらしい。
「うまー!」
「冷たっ!」
「甘っ!」
「なにこれ!?」
「こんなの初めて!」
オッサンたちが大盛りあがりだ。
しかし、オッサンの「こんなの初めて」ほど気色の悪いもんはないな。
あいつのアイスにだけ種入ってればいいのに。「イチゴのアイスなのにめっちゃデカい種入ってた!?」ってびっくりすればいいのに。
「ちょっとロレッタ! なんなのよ、アレ!?」
「あ、パウラさん、ネフェリーさん」
告知イベントを覗きに来ていたパウラとネフェリーがロレッタに詰め寄っている。
あ、そういえば、アイスのこと知らないんだっけ、この二人。
「こういうのが出来た時はすぐに報告するように言っておいたでしょ! なんで今まで黙ってたのよ、あんたは!」
「いひゃい! いひゃいれす! ほっぺたつねらないれれす、パウラしゃん!」
みょいんみょいんと頬袋を引っ張られて、ロレッタが面白い顔になっている。
「あのユニークな顔のロレッタもメンコに……」
「いらないですよ、こんなユニークなメンコ!?」
ロレッタが頬を擦りながら釘を刺してくる。
面白いと思うんだけどなぁ。
ちなみにアイスは、アッスントから掻っ払って……もとい、アッスントが善意で置いていった簡易氷室(小)に入れて持ってきている。
大広場でのイベントのあと、屋台班のマグダとロレッタが取りに行っていたのだ。
おーおー、日も陰ってきてるってのに、飛ぶように売れていくわぁ。
「あとは、戸別訪問して終わりか」
「そうだね。屋台は……今日のところはもう引き上げてもらおうかな」
エステラが肩をすくめて言う。
まぁ、個人宅に屋台を曳いて押しかけるのもどうかと思うしな。
「じゃあ、マグダとロレッタは屋台を陽だまり亭に戻しておいてくれるか?」
「任せてです!」
「……このあとは店舗での通常営業。マグダのコテ捌きが光るディナータイム」
お好み焼き以外作る気ないだろ、お前。
マグダのお好み焼きならメインを張れるし、任せておいて問題ないだろう。
「ネフェリーたちも参加するのか、コンテスト?」
「うん、そのつもり。でも、間に合うかなぁ? 意外と日数少ないでしょ?」
「あぁ、ごめんねぇ。ちょっと他所との絡みで急ぐことになっちゃったんだ」
三十五区の連中を迎え入れるに当たり、子供服のレンタルを早々に始める必要が出てきた。
そのため、コンテストの開催も急いでいる状況だ。
「あたしは、今回……涙をのんで辞退するわ。時間がないからさぁ、仕事もあるしさぁ、いやぁ残念だわぁ」
「なに言ってるのよ。パウラは最初から『服を最初から全部作るのはハードルが高い~』って言ってたじゃない」
「あはは。だからね、今回はネフェリーと共作で参加するの」
「共作じゃなくて、『お手伝い』でしょ。まったく」
聞けば、基本はネフェリーがほとんど作って、飾りの部分をちょこっとパウラが手伝う予定らしい。
それでもきっと、ネフェリーなら共作ってことにしてやるんだろうなぁ。
「頑張れよ、二人とも。期待してるからな」
「えぇ~、ヤシロに期待されるとプレッシャー感じちゃうよ~」
「頑張って、ネフェリー! ネフェリーがすごいのを作ってくれたら、二人で大きい顔が出来るから!」
「だったらパウラも頑張るの!」
おんぶに抱っこで手柄だけおこぼれに与る気満々のパウラを、ネフェリーが「こらっ」っと叱る。
なんだろう、このほのぼの昭和空間。
銀幕の世界を見ているようだ。
「そういえば、ノーマは来てないんだね」
「デリアは、まぁ、なんとなく分かるけど」
パウラがキョロキョロと辺りを見渡し、ネフェリーが「デリアはお裁縫とかしないもんねぇ」と肩を竦める。
「ノーマは港でのイベントに参加して、もうすでに制作に取り掛かってるぞ」
「え、そうなの!?」
ネフェリーが若干焦った声を上げる。
「ちなみに、デリアもルピナスの助けを借りて参加するってよ」
「ルピナスさんの助けって、それもう絶対ルピナスさん主体じゃない! デリアなんて、パウラくらいしかお手伝いできないでしょ!?」
「ネフェリー……無自覚な言葉がぶっすり刺さって胸が痛いよ……」
ネフェリーの背後でパウラが胸を押さえてうずくまっている。
やっぱり、ほとんど役に立たないと思われているらしい。
強力なライバルの出現に、ネフェリーの余裕がなくなった結果だな。
「こうしちゃいられないわ! パウラ、私もう帰るね! ニットのポッケよろしくね!」
「あ、うん! 送ろうか?」
「いい! お店頑張ってねー!」
手を上げてネフェリーが駆けていく。
ニットのポッケか。
パウラ、編み物は出来るからな。ネフェリーの作った服に、パウラの編んだポケットを取り付けるつもりなのだろう。
うん。案外可愛らしいデザインになるかもな。
「パウラ。ポケットを編むなら、毛糸でぼんぼりを作って、それを紐で繋いでさ、ぷらんぷらん揺れるようにしておくと可愛くなるぞ」
「あっ、それいいかも!」
「アップリケで人形の形でも貼り付けといて、両手がぷらぷら揺れるとか」
「それ採用! あたしが使うから、他の人に教えちゃダメだよ!」
「指切りね」と、俺の小指を強引に絡め取ってブンブン振り、パウラも自宅へと駆けていった。
きっとデザインでもするつもりなのだろう。
ぼちぼちカンタルチカが夜の営業を始める頃合いだ。
忙しくなる前に思いついたデザインを書き留めたいんだろうな。
「ヤシロさんは、子供が喜びそうなことはなんでもお見通しですね」
「そんだけ単純なんだよ、ガキって生き物は」
「ふふふ。新米パパさんたちは悪戦苦闘するらしいですが、ヤシロさんなら安心ですね」
そのパパになる予定がないんだけどな、俺は。
違う方のパパなら……
「お小遣いが欲しいのかい? ほぅれ、谷間に挟んでやろう……うっしっし」……うん、アリ、かも?
「紙幣の方が折りたたんで差し込みやすいのだが……まぁ、差し込みにくい硬貨でもそれはそれで、いや、むしろ……うんうん、しょうがないよなぁ、硬貨しかないんだもんなぁこの街、『おぉっと、入れにくいからつい指が触れちゃったぁ~、でへへ……』うん、しょうがない」
「何をブツブツ言っているのか知らないけれど、おかしなことをするつもりならコンテストの日まで牢屋に閉じ込めるよ? 幸い、今は牢屋が全部空いているから、好きな独房を選ばせてあげるよ」
何が幸いなものか。
妄想で投獄なんぞされてたまるか。
「そもそも、谷間もないくせに」
「よし分かった。地下の独房にご招待しようじゃないか。そこで黙々とコンテスト用の服を作り続けるといいよ」
冷たい目で俺の腕を掴むエステラ。
こいつはどこまで冗談か分からないから怖いよなぁ。まったく。
そもそも、俺はコンテストには参加するつもりはない。
サンプルを三つも作ったんだから十分だろう。
あとは、裁縫上手たちにお任せだ。
「ヤシロさん」
ぽふっと、ジネットが俺の肩に手を乗せる。
「懺悔してください」
ま~ぁ、ほっぺたぱんぱん。
お顔がまん丸くなってますわよジネットさん?
はぁ……しょうがない。
「懺悔の代わりに、ちょっと頑張って可愛い服を作るから、それで免除してくれ」
「では、一緒にお洋服づくりをしましょうね」
懺悔は労働をもって免除された。
アイスが売れていくさまを見ていたせいか、ちょっと肌寒いんだよなぁ。
こんな日に懺悔なんか、したくないもんな。
しゃーない、しゃーない。
「お兄ちゃんは、コンテストに参加する理由もこじつけなきゃ気が済まないんですかね」
「……それが、ヤシロという生き物」
向こうで屋台班がなんか言ってたけど、聞かなかったことにした。
つーか、まだいたのか。
さっさと帰って陽だまり亭オープンさせとけよ。
……ったく。
告知イベントが終わり、モデルを務めたお子様にはご褒美のお子様ランチをごちそうし、赤子二人にはジネットがふわふわ素材のよだれかけをプレゼントしていた。
いつ作ったんだよ、ジネット。
つーか、イベント運営の見返りなら領主が準備しろよ、報酬。
全部陽だまり亭の持ち出しじゃねぇか。
「俺とジネットも頑張ったんだから、ご褒美が欲しーなぁー! ねー、りょーしゅさまー!」
「これみよがしに圧をかけないでくれないかな? 感謝はしてるし、報いるつもりはあるけどさ……何が欲しいのさ?」
「女風呂フリーパス」
「そんなもの、ボクの一存で渡せるわけないだろう。大衆浴場の利用回数券ならいいよ」
「女湯か!?」
「当然男湯だよ」
「見ず知らずのオッサンの肌色に、何の価値がある!?」
「じゃあ、よく見知っているオッサンと一緒に入りに行けばいいじゃないか」
違ぇわ!
見ず知らずのオッサンだから価値がないんじゃねぇんだよ!
よく見知ったオッサンの肌色に、俺が価値を見出してたら怖いだろ!?
大問題だろうが!
「とにかく、ボクに用意が出来て、且つ、君とジネットちゃんがどちらも嬉しいものだったら、ボクは惜しみなくそれを進呈しようじゃないか」
「ジネットは、お風呂大好きだもんな~?」
「懺悔してください」
ちぃ!
女湯フリーパスなら、ジネットだって喜んでくれると思ったのに!
お風呂好きなくせに!
「まったく、しみったれ領主め。これじゃあ、コンテストの優勝賞品も期待薄だなぁ~っと」
「そんなことないよ。すごくいいものを発注したんだから」
発注……ねぇ。
「これで、賞金や商品券じゃないことが確定だな」
「う~ん、実は子供服レンタルの年間フリーパスっていう案もあったんだけど、ナタリアに却下されてさ」
そりゃそうだ。
服を作りたい層と子育て世代は必ずしも合致しない。
ムム婆さんやシラハが優勝したとして、子供服の年間フリーパスなんかもらっても使い所がないからな。
「さすがナタリア。賢明な判断だ」
「むっ。ボクだって真剣に考えたんだよ?」
「で、真剣に考えた結果、何にしたんだよ?」
「それは言えないなぁ~。当日までのお楽しみさ」
「トルソーです」
俺の背後に立ち、ナタリアが正解を教えてくれる。
「わぁ! なんで言っちゃうのさ!?」とエステラがほっぺたを膨らませているが……
トルソー……?
「微妙……」
「えぇ、なんでさ!?」
トルソーというのは、服を着せてディスプレイするためのもので、まぁ言ってしまえば首と手足のないマネキンだ。
「俺はいらねぇなぁ」
「でもさ、洋服作りが趣味だったら、自分の作った服を飾っておけるのって嬉しいんじゃないかな?」
「人によるだろう」
誰かに着てもらって、喜んでもらいたいってのが一番なんじゃないか?
自分で作った服を、自分の家に飾っておくってのはなぁ……
「えぇ……ダメかなぁ?」
物凄く悲しそうな顔をするエステラ。
そして、振り返ってみれば、ナタリアがなんとも言えない表情でうつむいている。
なんとかやめさせようと説得したけれど、エステラの熱量がすごかったのか、他にまともな案が出てこなくて妥協したのか、その両方か、とりあえずこれでいいか……みたいな感じで決まったんだろうなぁ、優勝賞品。
「優勝賞品としては弱いな」
「そうかなぁ?」
「誰に依頼したんだ?」
「ベッコ」
「なんで蝋で作ろうとしてんだよ……」
服、汚れんだろうが。
せめて木工細工師に依頼しろよ。ゼルマルのジジイとかでもいいからさぁ。
「大体、パウラが優勝したら、置くとこないぞ?」
「大丈夫だよ。パウラは優勝しないから」
そーゆーこっちゃねぇんだよ。
で、さらっとヒドイな、お前。
お前もどっこいどっこいの腕前だろうが、裁縫。
「もう素直に金を渡しておけよ。服作りは材料費も馬鹿にならないんだし」
「そりゃあ、賞金は多少出すけどさぁ……」
「あとはトロフィーとかでいいだろう」
「ミスコンみたいな? ……う~ん、まぁ確かにアレはもらうと嬉しいかもしれないね」
「場所も取らないしな」
「そっかぁ……ウチだったらトルソーをいくらでも置けるから、場所を取るって視点はなかったなぁ」
「お前ん家、四十二区で一番デカいじゃねぇか」
領主の館を基準に考えるな。
世間知らずのお嬢様か。
「じゃあ、トルソーはやめておこうかな」
「そうしとけ。今からゼルマルとノーマに言ってトロフィー作ってもらっとけ」
「分かった。そうする」
ここで言うトロフィーは、いわゆる盾だ。
木の台座に鉄のプレートをはめ込む。
その鉄に模様を刻むのは……まぁ、ベッコにでもやらせるか。
「たぶん今頃、ベッコが必要もないトルソー作ってるから『遊んでないでイベントに協力しろ!』って彫刻を任せるといい」
「いや、さすがにそれは……心が痛むから、ちゃんと謝っておくよ」
まぁ、おそらくもう完成してしまっているであろうトルソーは、イベントの時にでも活用してやればいいだろう。
あ、そうだ。
「じゃあ、そのトルソーは、ウクリネスの店でお手本のドレスとレオパードゲッコーの着ぐるみを飾る時に使ってやれよ」
「あ、そうだね。注目度はガタ落ちになっちゃうけど……ベッコ怒るかな?」
「大丈夫だ。ベッコは何をしても怒らないし、何をしても死なない」
「そんなことはないと思いますので、優しくしてあげてくださいね」
ん?
ジネットがよく分からないことを言っている。
よし、スルー!
「ありがとうございます、ヤシロ様」
ナタリアが深々と頭を下げる。
「強硬に却下するほど的外れではないものの、『いやぁ、それはないだろぉ』というレベルのしょーもないチョイスをどう諌めたものか思い悩んでいたのですが、おかげさまで思いとどまっていただくことが出来ました。これで『ぷぷぷっ、微笑みの領主のセンス……っ!(笑)』と民衆にうしろ指さされずに済みました」
「そんな言われ方するほど酷くはなかったよね、トルソー!? 欲しい人は欲しいと思うんだけどなぁ、トルソー!」
「私はトルソーよりチョリソーの方が好きです!」
「うまいこと言ったつもりかな、それで!?」
俺もチョリソーの方が好きだなぁ。
「でも、エステラさんがおっしゃるように、出来上がった自作の服を眺めていたいと思う気持ちは多少ありますよね」
「だよね、ジネットちゃん! ほらご覧よ。君たちは裁縫愛が足りないから分からないだけさ」
エステラの負け惜しみがとどまるところを知らない。
ジネットの精一杯のフォローだっつーの。
見ろ、ナタリアが酸っぱそうな顔してんぞ。
よぅし……だったら。
「ジネットも、完成した自作の服をちょっと離れた場所から眺めてみたいな~とか思うのか?」
「はい。普段はベッドに広げて、少し離れて全体のバランスを確認しているんですが、トルソーのように立体物に着せられると、より見栄えがするだろうな~と、時々思います」
「そうかそうか」
ちょっと引きで眺めるってのは、結構重要だもんな。
自作の服なら、きっと眺めているのも楽しいのだろう。
「じゃあ、今回のイベントに協力したご褒美は、そういうのにしておこう」
「トルソーが欲しいのかい? 二人にならあげてもいいよ。ちょうど、トルソーが余りそうだから」
賞品としてボツになったものを流用するんじゃねぇよ。
感謝の気持ちって、そーゆーところで面倒くさがると一切伝わらなくなっちゃうんだぞ。
「トルソーをもらっても、置く場所に困る。それよりも、別のものがいい」
「……高いものはやめてね?」
しみったれめ。
「金はかからん。お前が保有しているものを少しの間貸してくれるだけでいい」
「なるほど、パンツですね」
「ナタリア、黙って! そしてヤシロは懺悔するように!」
俺はパンツなんて言ってねぇだろうが!
「ジネットが喜ぶもんだよ」
「ジネットちゃんが? ん~……なんだろう?」
エステラの隣で、ジネットも一緒に首を傾げている。
だからさ、自作の服を、ちょっと離れた場所から眺めたいんだろ?
立体物に着せて。
「エステラ。お前、俺とジネットが作った服を着て、陽だまり亭で客寄せしてくれ」
「えぇええ!?」
「わぁ、それは素敵ですね! わたしが作った服をエステラさんが着てくださるなら、とっても嬉しいです!」
な?
ジネットも喜ぶし、金もかからない。
お前がすでに保有している「エステラの体」を少しの間貸してくれるだけでいい。
簡単なことじゃないか。
なぁ?
「いや、ジネットちゃんはいいけど……ヤシロも?」
「ちゃんとジネットのOKが出たものしか着せねぇよ」
「そうですね。エステラさんに破廉恥な格好はさせられませんからね。安心してください、エステラさん。変な服はわたしが全部ダメですって言っちゃいます」
むんっと腕を曲げて頑張りますアピールをするジネット。
「まぁ……ジネットちゃんがそう言うなら……」
「じゃあ、決まりだな。俺とジネットそれぞれで作るから、二日間体を空けてくれよ」
「えぇ、二日も!?」
「お前、服を一着作るのがどれだけ大変か分かってるのか? 今日の衣装を作るのに一体何日かかったと思ってんだ!?」
「半日じゃないか!」
ん、正解!
「はぁ……でもまぁお陰で今日のイベントは大成功だったし、分かったよ」
「あの、エステラさんもお忙しいでしょうから、午前と午後で衣装を変えて、一日でも構いませんよ?」
「ううん。せっかくだから二日間陽だまり亭でのんびりさせてもらうよ。よろしくね」
「はい、エステラさんと一緒にいられるなら、わたしも嬉しいです」
にっこりと笑い合うジネットとエステラ。
エステラ。
お前はまだまだ甘く見ているんだよ、ジネットという人間を。
ジネットOKが出れば絶対安心だと思っているだろう?
だがな……ジネットの感性は、ちょっと独特なんだぞ……ふっふっふっ。
まぁ、衣装の完成を楽しみにしているがいい。
「お兄ちゃーん! テレさーにゃとシェリルちゃんをお家まで送ってくるですー!」
向こうで、今日頑張ったテレサたちを囲んでわいわいと今日の感想を言っていたマグダやロレッタたち。
教えてやればきっと食いつくだろうな、着せ替えエステラちゃん企画。
その日はきっと、売上が上がるだろうなぁ~。ふふふん♪
イベントの翌日。
早朝。
「君は……本当に仕事が早いよね」
朝から陽だまり亭に顔を出したエステラが頬を引きつらせて新しい衣装のお披露目をしている。
「早く着てほしくて、頑張っちゃった☆」
その日のうちにマグダやロレッタ、ジネットと話してデザインを決め――と言っても俺が提案したものがほぼそのまま採用され、あとは「アレも追加したい」「こういうのも欲しい」という意見を採用したわけだが――大至急縫い上げた自信作。
その衣装を微笑みの領主様が着てくれるっていうんだから、張り切っちゃうよね☆
……ぷぷぷっ。
「にやにやしないでくれるかな!?」
「エステラさん、とても可愛いですよ」
「可愛い……の、方向性がさぁ……」
ジネットには強く出られないエステラ。
ジネットの称賛には、裏の意図も悪意も何もないからな。
現在、エステラが身にまとっているのは、白いブラウスの上に真っ赤なジャンパースカート。ヒザ下の真っ白いソックスに赤いエナメルの靴。
そして、狩猟ギルドと、紹介してもらった革加工職人の三者で協力して作り上げた渾身のランドセル!(夕飯後に押しかけて、超特急で仕上げて来たぜ☆)
まるでどこかの小さいまる子ちゃんか、強風でオールバックになっちゃう女の子のような、ザ・小学生! な、出で立ちだ。
あと、マグダとロレッタの強い希望で、後ろ髪は赤いぼんぼり付きヘアゴムを使用して二つ結びのお下げ髪にしている。
三つ編みはせず、ぴよんっと跳ねる尻尾髪だ。
エステラの髪は三つ編みをするには短過ぎるからな。
「可愛いです、エステラさん!」
「可愛いよ、エステラちゃん……ぷっ」
「ヤシロうるさい」
ロレッタと同じことを言ったのに、俺だけ怒られた。
なんて理不尽な。
「本当にお可愛らしいですよ、エステラ姉様」
「う~ん……カンパニュラは素直に褒めてくれているんだろうけど……正直、ちょっと微妙な気分になるんだよねぇ……」
「……可愛さ余って憎さ百倍」
「なんでさ、マグダ」
憎むな憎むな。
子供服コンテストの告知イベントに子供服のサンプルを提供した見返りとして、俺とジネットはエステラに好きな服を着せて陽だまり亭で客寄せパンダになってもらう権利を得た。
というわけで、俺が用意したのがこの昭和の女子小学生にいそうなスタイルだ!
とっても似合ってる!
特に胸元の控えめ具合がとっても小学生☆
「エステラ。お菓子あげるから、おじさんと楽しいところに行かないか?」
「そういう不審者が寄ってきそうな衣装を、嬉々として着せないでくれるかい? ……まったく」
「はい、エステラさん。ミリィさんのぺろぺろキャンディです」
「いや、ジネットちゃん……今お菓子をもらうのはっていう話で…………ありがと」
ジネットの行動には、裏の意図も悪意も一切含まれないのだ。
エステラには拒否することなど不可能。
……ぷっ。
「覚えてなよ、ヤシロ」
ちょっと涙目で睨んでくるが、その衣装だと可愛さが勝ってにやにやしちゃうぞ。
「まぁ、エステラ一人でこの格好は、もしかしたら嫌がるかと思ってな――妹たちにも着てもらった」
「「新しい、お洋服やー!」」
エステラとまったく同じで、ワンサイズからツーサイズ小さい衣装を身にまとった妹(年中・年少組)が登場する。
まぁ、よく似合う。
時間の都合で、二人分追加するのがやっとだったけどな。
「みなさん、とっても可愛いですよ」
「「えへへ~」」
「…………」
エステラ以外が喜んでいる。
ほら、エステラも喜んで。ほら、ほら。
「小さい子と並べられると、なんかますます……」
ほっぺたがまぁ~るく赤に染まる。
大丈夫大丈夫。
胸元はみんな同じくらい…………あ、年中の妹が…………ドンマイ、エステラ☆
「こうして、ご兄弟や姉妹でお揃いの服を着るのって、楽しそうでいいですね」
「じゃあ、ロレッタが着なよ、この服……」
「あたしにはちょっと、幼過ぎるですよ」
「ボクは君より年上だからね!?」
誤差、誤差。
「そう文句を言うなよ。ジネットOKも出たんだし」
「くっ……、そこに気が付けなかった昨日の自分を叱りたい……っ!」
ジネットフィルターはな、エロいものは堰き止めても可愛いものは素通りするんだぞ。
あと、忘れてるかもしれないが、ジネットの感性はなかなかに残念な仕上がりだ。
……あの英雄像を未だに虎視眈々と狙っているくらいにはな。
「別にお前にロリ服を着せて面白がるのが目的じゃないんだぞ、その衣装」
「半分くらいはそれが目的のくせに……」
「バカモノ! 八割だ!」
「もうほとんどじゃないか!?」
いや~だって、エステラが予想通りの、いや、それ以上のいい反応をしてくれるからさぁ。
欲しいリアクション、くれるよねぇ~。
でも、それだけじゃない。
「子供服のレンタルと言いつつも、大人も着られる服がレンタル出来るようになれば、いろいろと助かる場面もあるだろ?」
「大人は服をダメにしたりはしないじゃないか。わざわざ何をレンタルするのさ?」
「ウェディングドレスとか」
「あぁ……、なるほど」
他にも、ちょっとしたパーティーに着ていく服とか。
「確かに、新調するとなると尻込みしてしまいますが、レンタル出来るのであれば気軽にドレスが着られるかもしれませんね」
と、ジネットは言うが、お前のドレスは毎回ウクリネスが新調して贈ってくれると思うぞ、今後も。
いい宣伝になるからな、お前らがおしゃれすると。
「案外、式典が多いからな、四十二区は」
「君が何かにつけて、事を大事にするからね」
「お前だろ、俺のちょっとした思いつきに他区を巻き込んで大事にしてるのは」
バザーなんか、その最たるものじゃねぇか。
俺は教会の庭先でこぢんまりと開催するつもりだったのに、ルシアやデミリーまで巻き込みやがってよぉ。
「今回もルシアを巻き込んで大事にするんだろ」
「今回のことに関しては、君が大事にしたんだよ。なんでもかんでもボクのせいにしないように」
ぷいっとそっぽを向くエステラ。
背中でランドセルが揺れる。
「あ、でもこのカバンいいね。頑丈だしいっぱい入るし、それに形も色も可愛いし」
真っ赤なランドセルは、昭和の小学生を想起させる。
ランドセルを背負って瞳をキラキラさせてると、ピカピカの一年生に見えるぞ。
「これ、優勝賞品にしようかな?」
「持つ人を選ぶだろうが。まかり間違ってウッセが優勝したらどうするんだよ?」
ゴリゴリムキマッチョが真っ赤なランドセルを背負ってる姿は、視覚的暴力だろうに。
「でも、なんか『これはすごい!』っていう賞品をプレゼントしたいんだよねぇ。……ねぇ、ヤシロ。何かない?」
実は、ある。
ある、が……今回は絶対口外しない。
子供服コンテストと聞いて、真っ先に思い浮かんだ賞品はミシンだった。
レジーナがゴムを持ち込んだおかげで、ゴムベルトが作れるようになった。
ノーマがいろいろこだわったおかげで、金物ギルドはかなり精度のいい歯車を作れるようになっている。
そして構造は俺が知っている。
なので、足踏みミシンであれば現在の四十二区の技術で作れるのだ。
ミシンがあれば、服飾関係は目覚ましい進歩を遂げるだろう。
まさに、産業革命と呼ぶにふさわしい大躍進になること間違いない。
だからこそ、今回は見送った。
……ノーマが、死ぬ。
ミシンが登場すると、確実に注文が殺到する。
ゴムの研究もまだレジーナがやってるだけの小規模なものだし、金物ギルドもいろいろな仕事を抱えている。
……自転車だって、すげぇほしいけどまだ内緒にしているってのに、ミシンなんて作ったらミシン専門店になってしまう。
下手したら向こう数十年ミシン以外の仕事は受けられないなんてことにだってなりかねない。
だから、ミシンのことは秘匿する。
まぁ、そのうち、追々な。
金物ギルド、それとな~く人員増やすように誘導しておこうかなぁ。
あぁ、でも確実にノーマが張り切っちゃうから……
……うん、そうだな。
ノーマの私生活が充実して落ち着いてからにしよう。ミシンを持ち込むのは。
ノーマに素敵なお相手が見つかるのは……果たしていつになることやら。
あとがき
どんとうぉーりー、あいむ、うぇありんぐ――
パーー\(゜▽゜)/ーーンツ!
少し遅れてしまいましたが、
先日の8月2日は、
国民の祝日
パンツの日でしたね☆
おめでとうパンツ!
ありがとうパンツ!
男女で贈り合う風習、根付け!
エステラ「はい、新品の男性用パンツ」
ヤシロ「エステラ、お前はふざけているのか?」
エステラ「それはこっちのセリフだよ」
正しい風習がコンプライアンスに捻じ曲げられる未来しか見えない!
あぁ、もどかしい!
……あ、いえ、大丈夫です
本作は、コンプライアンスに則り、
清く正しく清々しい健全な内容を心がけております。
(なお、あとがきは本編ではないため除外するものとする)
今回、ベビコンではエステラさんに頑張っていただこうと思いまして
ロリっぽい服、着せちゃいました☆
はるか昔、
書籍一巻の電子書籍限定特典SSかなんかで
エステラをうまくノせてロリっ子に仕上げる、みたいなお話を書いたような気がしないでもないのですが
今回はもっと広く楽しんでいただけるようにと、本編でロリっ子ファッションをしていただきました☆
ランドセル、いいですね☆
きっと、革加工職人たちも
自分たちの仕事を誇りに思うでしょう
後世に語り継ぐことでしょう
歴史書に名を残すことでしょう!
ランドセルは、いい!
可愛いんですよね、あのフォルムとか
走るとぽんぽん背中で弾む感じとか
男女問わず可愛らしいですよね、ランドセル
しかも案外高機能!
車にはねられた子供が、ランドセルのお陰で軽傷で済んだとか
ため池に落ちた子供が、ランドセルのお陰で溺れずに済んだとか
いろいろ噂を耳にしております
ランドセルに固執したあまりに社会的信用と家族と未来を失った駄目な大人の噂も耳にしておりますが……
しかしながら、そんな駄目な大人はマイノリティ!
少数派です
ほんの一握りです
滅多におりませんのでご安心ください。
普通の目で、
「かわいらしいな~」って微笑ましく見つめているだけなら何も問題は起こりません。
あ、そういえば先日はパンツの日でしたね☆
ランドセルって、可愛いですよね☆
あぅっち!
Σ(゜Д゜;)
並べると駄目だ!
駄目な大人でしかない!
なぜパンツの日の話とランドセルの話を並列で語ってしまったのか、私っ!?
Σ(゜Д゜;)
本能か!?
本能がそうさせたのか!?
本能が変!
――って、やかましいわ!
Σ(゜Д゜;)
信長「えっ!? この状態からでも入れる保険が!?」
とか、言ぅてる場合か!?
∑\( ̄□ ̄)
健全にいきましょう
子供服のお話なんですから、今回は!
子供パンツの着用ボーダーラインって中3くらいですよね☆
……うん、違うな。
薄々気付いていましたけれども
たぶん違う
そういうことじゃないですね
健全って、難しいですね……
一度パンツから離れて
違う話をしましょう
先日、知人とこんな話をしましてね――
知人「もし、お菓子に生まれ変わるなら、やっぱブルボンがいいよね」
宮地「いや、私は――カバヤ!」
知人「その手があったか!?」
カバヤさんには、幼少期にとてもお世話になりました
プラモがついたお菓子とか
とにかく、子供心がくすぐられるお菓子が多かったんですよねぇ~
生まれ変わるなら、カバヤさんのお菓子になりたいです☆
どうにかして、『異世界詐欺師チョコ』とか出していただけないものでしょうか……
オマケはパンツとかスポブラとか入れておけば、なんとなくそれっぽい雰囲気になりますから
ね?
ね!?
いや、いっそのことワコールさんやグンゼさんと……
女性用ショーツ・ジネットモデル
ヤシロ「穿く難易度が高い!」
ジネット「そんなことありません!」
そんなコラボ、してみたいなぁ~
(*´▽`*)
原作者さん特権で、賞品を一通りいただけると嬉しいです☆
あ、すみません。
ちょっとだけ待ってていただけますか?
え~っと……け・ん・ぜ・ん――検索っと
・健やかで異常がない様
・片寄らず堅実なさま
なるほど……
つまり
ブレない思春期は、むしろ健全!?
\(≧▽≦)/
……あぁ、異常があると健全じゃないんですか、そうですか、残念です。
しかしまぁ、
パイの日とパンツの日とハミパンの日
三日続けて国民の祝日になっている国の生まれですからね
これくらいは普通と言えるでしょう
……え?
だって、子供たちがみんなお休みしてますよ
祝日じゃないわけないじゃないですか
(*´艸`*)まったくもぅ
……さて、次回は去る8月3日『ハミパンの日(当然国民の祝日)』のお話をしようかと思っていたわけなのですが……
これ以上羽目を外すと、なんかいろんな人に叱られそうなので、ぼちぼち真面目にあとがき書きましょうか……
真面目なあとがき!?
(;゜Д゜)
あれ?
とんと身に覚えが……
と、とりあえず
アカウントが知らないうちに消滅してしまわないようにバランスを取っておきましょう
世界が、愛と平和で満たされると、いいよね☆
世界中の子供たちが、幸せな未来を歩める世界を我々大人が力を合わせて築き上げていこうじゃないですか!
子供たちは国の、いや、世界の財産!
私は、そんな子供たちが大好きですよ☆
\(≧▽≦)/
……はい、
今スマホに手を伸ばした人、
スマホを置いてください
通報の必要はございません
大丈夫です、私を信じて☆
え?
あぁ、まだガラケーの人もいるんですか?
じゃあ、ガラケーの人も、一旦ケータイを置いてもらえますか?
え?
黒電話?
黒電話の人も、一旦受話器置きましょうか
……いや、オルゴール鳴る方じゃなくて!
保留ボタンがなかったアナログ時代に電話の横に置いてあった、受話器を載せるとオルゴールが鳴り始めるヤツ、懐かしいですけども!
エリーゼのために流れてますから!
受話器を電話本体の上に置いてください!
まったく、
物持ちいいんですから……
次回こそは健全に
ブルボンのお菓子でも食べながらあとがきをお送りしたいと思います☆
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




