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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第三幕

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573/821

373話 動き出す新たな計画

 パメラが不安そうな、それでも真剣そのものの目で尋ねてくる。


「昨日、ヤシロ様がそのように申してくださったと、我が主オルフェン様のダメ兄貴がほざいていたなのです」


 ……ん?


「改革の英雄様であれば、そのような慈悲の御心をお持ちなのではないかというほのかな希望と、所詮あのクズがのたまった戯れ言であろうという信頼できない感情が入り交じり、なんとも判断しかねているなのです」


 え~っと……


「ヤシロ様は、我々に救いの御手を差し伸べてくださるのですか? それとも、やはりあのゲロシャブ野郎の口から出任せなのですか!?」

「うん。敬意と侮蔑の比重が極端過ぎて乗り物酔いしそう」


 とりあえず、アヒム。お前どんだけ嫌われてるんだよ。


「あ~……まぁ、これから先の三十区を助けてくれるってんなら、アイデアくらいは出せなくもないが――」

「あぁ、精霊神様! 運命の巡り合わせに感謝を! もしお望みであれば、この命を差し出しても悔いはないほどに感謝しております。ですが、これから先荒れるであろう領地を支えるため、私はまだ役目を果たさなければなりません! どうしても命が必要と思し召さば、我が区で一つ余っているあのバカ兄貴の穢れた命を地獄へ突き落としてくださいませ! 何卒! 一番苦しい地獄へ!」

「待て待て待て! 途中から感謝が願望になってるから!」


 なんか、可哀想になってきたよ!

 今度会ったら優しくしてやろうかな、アヒム!?


「私の両親は三十一区に大農地を持つ貴族なのですが、先々代――オルフェン様のお父上様がご当主だった時代より不作が続き……現在はまったく作物が育たない枯れた農地となってしまったなのです……」


 え?

 こんな、年中収穫真っ盛りな無敵の土を持つオールブルームで、枯れた農地なんかが存在するのか?


「先々代は収穫量の激減した我が家に温情をかけてくださり、生活の足しになればと、母や我が家の使用人を給仕として雇い入れてくださったり、父上には領内の警備の仕事を宛てがってくださったりと親身になってくださったなのです」


 大農地を持っているなら、かつてはそこの食料に頼っていたのだろう。

 持ちつ持たれつってヤツだな。


「なのに、代替わりするや否や『作物も作れぬ農地には何の価値もない』と我が家をさっさと切り捨てやがってあの腐れ外道!」

「マグダー! 大至急ハニーポップコーンを! 甘い物で心のササクレをまろやかにして差し上げて!」


 話を聞けば、三十一区には大きな家を持つ貴族が領主一族以外に四家あり、その四家ともに大きな農地を持っていたらしい。

 地主みたいなもんかな。その土地持ちの貴族が小作人に畑を貸して作物を作っていたそうだ。


 ……じゃあ、モーマットもうまくやれば貴族になれたんじゃね?

 やってること一緒じゃん。

 あぁ、そうか。獣人族は貴族にはなれないのか。


「農地持ちは、重宝されるはずなのです、普通なら……ですが」


 食料は、何物にも代えがたい物資だからな。

 食い物がなければ、いくら金と武力を持っていてもその街は滅ぶ。



 ……そこを怒らせちゃダメだろう、アヒムよぉ。



「ここ数十年、三十一区の貴族は、作物も作れぬ無能と蔑まれ続けて冷遇を……」


 どこも似た状況らしい。

 けどやっぱ変だよな。

『BU』は自分たちで生産量を抑えていただけで、不作になったという話は聞いていない。

 事実、増やそうと決まった瞬間から生産量は爆発的に増えている。

 そして、酒のための田んぼが広がっているという三十三区。

 そこが不作になったなんて話は、近隣区のドニスからも聞いたことがない。


 三十一区だけが不作に悩まされている。

 ……ウィシャートに首根っこを押さえつけられていた、三十一区だけが、な。


「そんな四貴族を、オルフェン様は気にかけてくださり、農業とは異なる仕事に就けるよう配慮くださったなのです」

「それで、生活は出来ているのかい?」

「……正直、貴族としての誇りを保てるような生活は……私が生まれた時にはもうすでに見る影もなかったなのです」


 二十年、三十年、それくらいの単位で困窮しているようだ。


「四貴族が雇っていた小作人たちは困窮して、アヒムやウィシャートの先兵のような仕事に手を染める者もおりましたが、我ら四貴族は、金はなくとも誇りはなくすまいと己を奮い立たせ、泥を啜るような思いで生きてきたのであります……っ!」


 その生き方が、相当つらかったらしい。


「……んっ……んんなぁぁぁああ、思い出しただけでムカつく! アヒムのばーか! チービ! 変なヒゲー!」


 悪口がダイレクト!? で、雑!


「貴族の矜持、ね」


 俺のつぶやきに、エステラがなんとも言えない表情で口を開く。


「貴族の捨てられないプライド――なんて言うと、ヤシロは笑うかもしれないけど、それを捨てることは自分を否定することになるんだ。……つらいよ」

「ま、俺にとってプライドなんてもんは、高値で売れる商品の一つでしかないが……譲れないものを守りたいって気持ちは、分かるよ」

「……そっか。ありがと」


 なんでお前が礼を言うんだよ。

 お門違いだろうが。


「たとえ、衣食住が保証された生活であろうと、巨乳が一人もいない街に閉じ込められるとすれば、俺は逃げ出すだろうからな!」

「ごめん、さっきの感謝、返却してくれる?」


 なんだよ、共感だろう!?

「分かってくれるんだ」って感動しろよ、そこは!


「ちなみに、レジーナ」

「あるで」


 俺が何かを問う前に、レジーナは回答を寄越してくる。

 穏やかな声とは裏腹に、眉間には深いシワが刻まれている。


「最も簡単に他所の街を侵略する方法は、毒物をバラ撒くことや。住民が全部おらへんようになれば、その街は自由に出来る。せやけど、その街の技術や人間が必要な場合は毒物が使われへん。代わりに使われるんが――土を殺す薬や」


 作物が育たないようにすれば、その街は食料を輸入しなければいけなくなる。

 その輸入先を先に押さえておけば、街を住民ごと乗っ取ることが出来る。


「……もし、ウチが想像しとる薬が使われとったとしたら、その土地では向こう百年は作物が育たへんようになっとるはずや」

「ひゃっ!? ……く、ねん、なのですか?」


 パメラが目を見開く。

 二十年三十年苦しみ続けてきた実家が、この先その三倍以上苦しみ続けると聞かされりゃ、絶望的な気分にもなるだろう。


「大丈夫だよ。『BU』が豆を解放して外周区との間で作物のやり取りは頻繁に行われるようになったんだ。食料危機は起こらないよ」

「だが、外から入ってくるばかりでは、農地を持つ貴族は収入を得ることは出来ぬぞ」

「……ですね」


 三十一区が飢えることはないだろう。

 だが、作物が作れない農地は利益を生めない。

 土を総取っ替えするにも、規模がデカ過ぎればそれも不可能になるし、一部だけということになれば不公平が原因で争いが起こるかもしれない。



 だからまぁ、やるとしたら……



「あっ」


 ジネットが、小さな声を漏らした。

 視線を向けると、俺の顔をじっと覗き込んでいたジネットがにっこりと笑った。


「ヤシロさん。例のアノお顔をされていましたよ」


 ジネット曰く、誰かが困って「どーしよー」と悩んでいる時に俺が見せる「俺に任せとけ」的な頼もしい笑顔――らしいんだが、そんな自覚は一切ないし、おそらくジネットの見間違いだと思う。


 が、まぁ、なんとかなりそうな案は一つ思い浮かんでるんだよなぁ。


「今度は何をするんだい、ヤシロ?」

「もったいぶらずにさっさと話さぬか、カタクチイワシ」

「私も、とっても興味があります。教えてくださいますか、ヤーくん?」


 領主と領主候補に顔を覗き込まれ、俺は重たぁ~い息を吐く。

 あんま期待すんな。


「お前らには一肌どころか、真っ裸になってもらうくらいの苦労を強いることになるが、いいか?」

「真っ裸はお断りだけどね」

「そんなに肌色が好きなら、キツネの棟梁や瓶底メガネの彫刻家と大衆浴場で親睦を深めるのだな」

「私は、……まだ子供ですので、お約束は出来ませんが……」


 別に本当に脱がしたいわけじゃねぇよ。

 いや、脱いでくれるなら是非拝ませてもらうけれども。


「でも三人足してもC未満かぁー!」

「いいからさっさと内容を話してくれないかい!?」

「私がいなければB未満ではないか」

「あ、あの、これから精進したいと思います!」

「カニぱーにゃ、お兄ちゃんの言うことは真に受けたらダメですよ。流すです、こういう時は」


 ロレッタがカンパニュラを背中から抱きしめてネコっ可愛がりをしている。

 流せばいいとか、酷くなぁ~い? どいひー。


「じゃあ、パメラ。オルフェンと、出来れば四貴族全員を集められないか? それぞれの貴族が持っている土地が分かるような地図があると助かる」

「今すぐ帰って招集をかけるなのです! 四貴族はオルフェン様と三十一区のためにならどんな協力でも惜しまないのです!」

「じゃあ、昼頃行くから準備しといてくれ」

「りょっ!」


 元気よく行って、パメラが凄まじい速度で駆けていった。


「なかなか速いが、人間のレベルを超えてないな」

「君は給仕長をなんだと思っているんだい?」

「いや、だってナタリアはさぁ」

「彼女は超特別仕様なんだよ」


 自慢かよ。


 パメラの速度は、ロレッタはもちろん、ナタリアとも比べられない。

 四十二区って、何気に超人が多いよな。


「じゃあ、エステラとルシアは各領主に声をかけてくれ。『金を出してみんなで儲けようぜ』ってな」

「詳細を求めて詰めかけてくると思うよ」

「昨日の今日だぞ? そこまでの元気はねぇだろ?」

「バカか、カタクチイワシ。昨日の今日だからこそ来るのだろうが。四十二区に立派な港が出来たところだぞ? 美味しい話があれば真偽をその目で確かめに来る。来ない者は領主失格だと言ってもいい」


 ……また集まるのかよ。

 ヒマなの、領主って?


「んじゃ、夕方頃まで三十一区にいるって書いとけ。今日がムリなら別途説明するからムリするなともな」

「ギルベルタ、手紙の準備をせよ」

「出来ている、すでに。お借りした、シスターベルティーナに、執筆の場を」

「感謝する、シスター。では、部屋をお借りしよう」

「では、ご案内しますね。こちらへどうぞ」

「ボクたちも行動に移そう。ナタリア」

「四十区と四十一区への手紙は私が代筆致しますので、エステラ様は『BU』の領主たちへの手紙をお願いします。それ以外はルシア様にお任せしましょう」

「うん。ジネットちゃん、悪いけど、片付けはお願いね」

「はい。エステラさんも頑張ってくださいね」


 ぱぱっと挨拶を済ませ、エステラたちが動き出した。


 で、事の成り行きをじっと見守っていたウーマロとイメルダ。

 存在感はなかったけどしっかりいたんだよ。ガキどもに絡まれながらも餃子を食ってたよ。


「おそらく、今日明日中に大量に木材を発注することになる」

「木こりギルド四十二区支部をもう一つ作るくらいの木材なら揃っておりますわ」

「んじゃあ、その支部を十個作れるくらいの木材を頼む」

「じゅっ……!? 何をなさいますの?」

「え~っと……大工の酷使?」

「あ~……はは、やっぱ、そーゆー流れになるッスよねぇ」


 話を聞いていたウーマロも薄々感付いていたらしい。

 なら話は早い。


「今日は丸一日寝倒すって言ってたから、全員四十二区にいるよな?」

「あぁ……まぁ、大半はいるッスかね」

「港の工事も終わっちゃったし、ヒマだろ?」

「あはは……ヒマ……ッスね」

「じゃあ、お仕事しようか?」

「もう、なんでもこいッス!」



 こうしてまた一つ、デッカいプロジェクトが動き出した。






 三十一区へ来てみて驚いた。


「カッチカチだな」

「カッチカチやね」

「カチカチですね」


 俺の隣でレジーナとジネットが畑の土を見てため息を漏らす。

 これは……うん、ダメだ。


「ほな、検査してみるわ」


 言って、レジーナがカッチカチの畑から土を一掬い取り、ビーカーのような容器に入れる。

 そこからほぐした土を別の容器へ移し替えていく。

 大体等分になるように三つ。

 そこへ、それぞれ別の薬品を垂らしていく。


 結果が出るまで少しかかるようだ。


「しかし、ここまで酷いともう抗う気も起こらねぇな」

「うぃ……。私たち家族も、もう何年も畑には手を加えてないなのです」


 悲惨な畑を前に、パメラががっくりと肩を落とす。

 パメラの後ろには、以前見た覆面の執事が立っている。

 たしか、スピロ、とか言ったっけ?


「そっちの覆面執事も貴族の生まれなのか?」

「はいなのです。スピロはウチと近しい血族なのです。いわば、遠い親戚なのです」


 パメラの言葉にスピロがこくこくと頷く。

 そして、スピロがパメラに耳打ちをする。


「『パメラの家に比べたら、ウチなんて土地も少なく弱小だけれど』と言ってるなのです。そんなことないのですけれど、スピロはほんの少しだけ農地が小さいことをとっても気にしているなのです」


 パメラの説明に、スピロがこくこくと頷く。

 さも、「その少しが重要なのだよ」とでも言いたげに。


「……つか、自分でしゃべれよ」

「それが、スピロはとても人見知りなのであまり仲良くない人とはまともに会話が出来ないなのです」

「全性別対象のウーマロみたいなもんか。……やっかいな」

「オイラ、なんか嫌な指標にされてるッスね……いや、まぁ、自覚はあるッスから否定はしないッスけども」


 スピロがパメラに耳打ちをする。


「『特に、解放の英雄様に直答するなど恐れ多く、危うく切腹しそうなほど』だそうなのです」

「お前のその発想の方が恐ろしいわ」


 スピロがパメラに耳打ちをする。


「『でも、こうしてお目にかかれてとても光栄だ』と言ってるなのです」

「昨日も会ったろうが」


 スピロがパメラに耳打ちをする。


「『昨日は、名前を言うのも腹立たしい変なヒゲ~マンへの怒りが先行して、解放の英雄様に心を向けられなかった。英雄様へは、100%穢れなき純粋な敬意を持って接したい』と言っているなのです」

「お前、よく一回で覚えられるな」

「慣れなのです!」

「しかし、会話がいちいち面倒くさいな」


 スピロがパメラに耳打ちを――しようとしたので、パメラの腕を引っ張って立ち位置を交換する。


「ご面倒と申されるならば、ソレガシのことは無視してくださって結構です。ソレガシは見ているだけでときめきハートがハッスルハッス……うきゃぁあああ!?」


 耳元で急に叫ばれ、思わず手が出てしまった。


「やかましいわ!」

「か、かかかか、解放の英雄しゃまっ!? 直答!? じきとー!」

「いいから落ち着け」

「腹を切ってお詫び申し上げ候!」

「ナタリア、取り押さえろ」

「お安いご用です」


 ナタリアが「するっ……」と動いたと思った次の瞬間には、スピロが地面に押さえつけられていた。

 ナタリアの左腕がスピロの両腕を器用に絡め取って拘束している。


「美女とお手々つないじゃったー! 大人の階段、登っちゃったー!」

「お前の階段、随分と地下深くから続いてんだな……」


 手を繋ぐだけで登れる大人の階段って……

 二十四区次期領主候補のこじらせフィルマンと同じレベルだぞ。


「二人の距離が近付いた記念に、今夜、ソレガシの部屋へ来ないか? ナタリア、いや、ターニャ」


 あ、違う。

 フィルマンみたいなメガトン級一途な感じじゃねぇな、こいつ。

 手を繋いだだけで彼氏ヅラしてやがる。

 ……つか、手、繋いでないけどね!?

 完全に締め上げられてるだけだけどね!


「密室殺人へのお誘いでしたら、ちょうどよいトリックが三つほどありますが、試してみますか?」

「あはは、冗談が好きだな、ターニャは」

「ねぇ、普通ナタリアだったらナターシャじゃないかな、愛称?」

「ターニャだったら、タチアナとかだよな」

「あの、エステラさんもヤシロさんも、お止めしなくていいんですか? ナタリアさんが困ってるようですけれど?」


 ジネットの目にはナタリアが困っているように見えているらしい。

 俺の目には、逆らっちゃいけない裏社会の怖い人に調子くれてケンカふっかけたチンピラの命が消え去る瞬間の図にしか見えないけどな。


「ふむ。ギルベルタを差し向けなくてよかった。あんなばっちぃのに触ったらギルベルタが汚れる」

「でも、アレが三十一区の執事だから、何かと顔を合わせる機会が増えると思うぞ」

「早急に教育する、パメラを、私とナタリアさんが」


 ギルベルタも、スピロとはあんまり絡みたくないようだ。


「ヤシロ様」

「なんだ、ナタリア?」

「もう、腹を切らせてもいいのでは?」

「うん。ごめんな、嫌な仕事押しつけちゃって。もう離していいから戻っておいで。あとでオリジナルブレンドのハンドクリーム作ってやるから」

「それは……、素直に嬉しいですね」


 スピロを解放し、ナタリアがハンカチで手を拭く。

 拭く。

 拭う。

 擦り倒す。

「ぺっぺっ!」っとツバを付けて、さらに擦る!

 手、荒れちゃうよ!?


 ハンドクリームが嬉しいのか、やや上機嫌でナタリアが戻ってくる。


「パメラさん。あなたは給仕長なのですから、あのような変質者を野放しにしていてはいけませんよ」

「いや、スピロは優秀な執事で、私は教わることばかりで――」

「分かりましたね?」

「りょっ!」


 ナタリアのひんやりスマイルに、パメラが背筋を伸ばして敬礼をする。

 うん。早急に教育してやればいいよ。

 そもそも、人見知りでまともに会話も出来ない執事とか、今後接する時に面倒くさいし。


「よっしゃ。結果が出たで」


 一人で黙々と検査をしていたレジーナが立ち上がる。

 その表情は冴えない。というか険しい。


「想像通りだったか」

「せやね。バオクリエアの薬が使われとったわ」

「それを王族に知らせれば、バオクリエアから賠償金を取れないかな?」

「ムリやろうね」


 エステラは、バオクリエアの薬がオールブルームを穢していることに怒っているようだが、いくらバオクリエアの薬だと立証したところでバオクリエアを訴えることは出来ない。


「この薬を使ったのはおそらくウィシャートだ。大方、三十一区の首根っこを押さえつけるために弱体化させようって魂胆だったんだろうよ」

「いくら薬がバオクリエア産や言ぅても、それを手に入れて使ぅたんはこの国の貴族や。バオクリエアからしたら『知らんがな』って話やで」

「それは……そう、だけど……」


 ウィシャートとバオクリエアの第一王子が繋がっていたことは知っている。

 だが、だからといって三十一区の畑を壊滅させたのがバオクリエアだという確証はどこにもない。


「出来るとしたら、その薬の危険性を訴えて持ち込み禁止にさせるのが関の山だろうな」

「せやね。これまでのことは証拠不十分で追求できへんやろうけど、これから先同じ薬が持ち込まれへんように防ぐことは可能やと思うわ」

「それだけでもやった方がいいね。レジーナ、薬に関するレポートをお願いできるかい?」

「任しといて。脇腹ぺろぺろ券三枚で手ぇ打ったろ」

「そんなチケットは作らないよ!? 君にとってもメリットがないじゃないか!」

「それは……どぅやろなぁ?」

「ナタリア、なんとか言ってやってよ!」

「五枚綴りでお作りしますので、二枚ください」

「ごめん、やっぱり何も言わないで!」


 ナタリアとレジーナを引き離し、エステラが脇腹を隠すように自身の体を抱き包む。

 おーおー、顔が真っ赤だな。


 そんなエステラを見て、人見知りのスピロが呟く。


「きゃわわっ」

「土に埋めるぞ」


 あいつ、人見知りで誰ともしゃべれない方が世のためなんじゃね?

 この硬ぁ~い土の中に埋めて二度と出てこれないようにしてやろうか?


「とりあえず、領主の館へ戻ろう。この死に絶えた農地の活用法があるのであろう?」


 ルシアが興味深そうに俺を見る。


「聞かせてもらおうではないか、カタクチイワシ」


 領主っぽい表情でそう言って、ジネットへ視線を移す。


「お手々繋いで向かおうぞ、ジネぷー」

「なんでこの街には残念なヤツしかいないんだ」



 キリッとしたまま終われないもんかねぇ……高望みし過ぎか。






 三十一区領主、オルフェンの館には、パメラが集めた四貴族の当主たちが集まっていた。

 貴族を集めたせいで、畑の下見にオルフェンが同行できなかったのだが。


「いかがでしたか、三十一区の農地は?」

「残念ながら、想像したとおり、最悪の結果だったよ」

「そう、ですか……」


 集まったオッサンたちが重々しいため息を吐き出す。

 集まったのは四貴族の当主とその奥方。計八名。

 順番に貴族っぽい長々しい挨拶と自己紹介をされたのだが、さすがにもうこれ以上名前は覚えられない。

 一気に出てきた領主たちでさえ、もうほとんど忘れかけている。


 今日話題に上ったので、三十一区領主のオルフェンと、その兄で前領主だったアヒムは思い出したけど。

 ルシアの幼馴染みの丸いのと、ドニスと仲のいいカーネルさんの名前はもう忘れた。

 丸いのが『ピッグ』で、カーネルが『ムキ男』だったっけ? まぁ、そんな感じだったはずだ。


「ダックとマルコだ。領主の名くらい覚えろ、カタクチイワシ」

「えっ!? また顔に書いてあった!?」

「全部声に出ておったわ! ここの貴族たちの名前を誰一人覚えてないこともな!」

「申し訳ありません、ウチの区の領民がとんだ無礼を」


 ルシアに叱られ、エステラが俺の非礼を詫びている。

 エステラは貴族で領主なので俺より立場が上だ。上の者が謝ったのだから、この件はもう許されたも同然だろう。


「ま、そういうわけだ。許せ。で、諦めろ」

「どこまで横柄なのさ、君は!?」

「あの、ヤシロさんは人の名前とお顔を覚えるのが苦手なんです。ね?」


 ジネット。そのフォロー、俺がとってもダメな子みたいに聞こえるんだけど。

 しょうがない。覚えてやろうじゃねぇか!


「友好の証にニックネームを付けてやろう!」

「覚える気がない宣言じゃないか、それは!?」

「そっちから、イチロー、ジロー、サブロー、シロー」

「おざなりにもほどがあるよ!?」

「嫁は、そっちから、ユキコ、ツキコ、ハナコ、アマリコ」

「アマリコってなにさ!?」


 いや、だって、雪月花って付けようと思ったら一個足りなかったんだもんよ。

 あぁ、そうか、花鳥風月にすればよかったのかぁ、うっかりうっかり。


「私の両親はイチローとユキコなのです」

「ソレガシの両親はシローとアマリコです」

「定着させようとしなくていいから! ボクはちゃんとお名前を覚えていますからね、ミスター――」

「「「「解放の英雄様から授かったニックネーム、生涯大切に致します!」」」」

「あぁ、もう! ヤシロがどんどん感染していくっ!」


 失敬な。

 俺が望んでこうなってるわけじゃねぇわ。


 つか、その解放の英雄って、どのレベルで広まってるんだ?


「申し訳ありません。皆、本当にミスター・オオバに感謝しているのですよ」

「お前も仰々しいよ。ヤシロでいい」

「では、オオバさんと呼ばせていただきます」

「というか、君が砕け過ぎているんだよ。ミスター・オルフェンは領主なんだよ」

「いえ、気さくに接していただけて嬉しいですよ」


 と、オルフェンが笑みを漏らす。

 とことんフレンドリーな人物のようだ。

 けどな、線引きはしとけよ。

 この四貴族とか、領主が止めないからどんどん暴走するんだよ、こーゆー連中は。

 しっかりしろよ、領主。


「三十一区は隣の二十三区との関係がうまくいっていませんでした。そのせいで『BU』の制度にはかなり苦労していたのです」


 二十三区を通る度に通行税が取られ、立ち入れば豆を押しつけられ、その豆にも税がかかる。

 関係がギクシャクどころか険悪だったため、三十一区の者は容赦なく豆を押しつけられていたらしい。


「ですから、『BU』を改革――いや、解放してくださった英雄様と微笑みの領主様、そしてときめき女帝様には、領民一同心より感謝していたのです」

「「「なら、その呼び方を今すぐ改めろ」」」


 俺とエステラとルシアの声が揃った。

 珍しいこともあるもんだ。今、心がぴたりと一つになった気がした。


「その上、三十一区にとって最も脅威であったウィシャートを討ってくださいました。今、三十一区では皆様の話題で持ちきりなのです」

「――の、割には、アヒムは友好的には見えなかったけどな」

「だからこそ、と申しましょうか……兄上としては、自分ではなく他所の領主やオオバさんがもてはやされていることに拗ねたのです。本当に、外を歩けば皆様への感謝と称賛の声が聞こえますから」


 それで、あんなにトゲトゲしかったのか。

 八つ当たりもいいところだな。


「今は心から反省し、少しでも領民たちの信用を取り戻そうと努力しているところなのです」

「そういえば、今日ミスター・アヒムはどうされているのですか?」

「別館で反省文を書いております」

「もっと違うアプローチで信用回復を図れや」


 いらんわ、反省文!


「ちょっとやそっとのことでは、許せませんぞ」


 と、イチローが腕を組んで鼻息を「ぶふー!」っと吹き出す。

 他の貴族たちも一様に厳めしい顔をしている。

 信用の回復は困難そうだ。


「あ、そうだ。農地の地図ありがとな。かなり正確な地図で分かりやすかったよ」

「お役に立ったようで何よりです。それは兄上が作成された地図なのです。兄上は几帳面というか、潔癖というか、神経質というか、病的なまでに細かい人間なので、製図や設計、区画整理などが得意なのです」

「ほんっとうに細かいなのです! テーブルクロスが1mmズレているとか、額縁が2度傾いているとか、重箱の隅をつんつくつんつくするように……っ!」

「いえ。額縁やテーブルクロスがずれているのは許容できませんよ」


 ナタリアが真顔で言う。

 こんなおちゃらけた給仕長ですら、主のために部屋を整える時はミリ単位の美しさを求めるのだ。

 パメラが他所の給仕長レベルになるのはまだまだ先のことになりそうだ。


「その点、オルフェン様はおおらかでとても優しい主なのです」

「あはは、そんなことないよ」

「本日のお召し物と洗濯物を間違えて差し出しても、気にせず着てくださるなのです!」

「いや、そこは着るなよ、領主!」

「着られないほど汚れているわけではないですからね」


 おおらかというか、ズボラや無頓着ってレベルじゃないか、それは?


「では、地図をお預かりしますね」


 と、受け取った地図をくしゃくしゃっとしてポイッとソファに放り投げる。


「くしゃくしゃポイすんな!」

「ソファの上に置いておけばなくなりません」

「絶対に気付かず座って破くだろ、お前!?」

「そうしたら、また兄上が作ってくださいます」

「まずい、こいつが領主になったの、すごく不安になってきた!」


 驚異的な大雑把だ。

 几帳面過ぎる兄のサポートとして、兄に足りない部分を補ってきたらしいオルフェン。

 が、兄が足りてる部分は一切伸ばしてこなかったようだ。


「ちなみに、お前は地図を描けるか?」

「あまりうまくはありませんが」


 と言いながら、アヒムの地図の裏に描こうとするオルフェン。

 即没収。


「これだけ正確で使える地図に落書きすんな! ナタリア、紙とペンを貸してやってくれ」

「かしこまりました」


 ナタリアが携帯している紙とペンを渡し、くしゃくしゃされた地図を綺麗に伸ばして手元に置いておく。

 もうオルフェンには渡さない。俺が管理する。


「えっとたしか、三十一区はこんな形で」


 と、丸を描く。

 ……丸って。大雑把の典型だな、こいつ。


「ここが領主の館で、畑はこんな感じでしょうか」


 と、雑な線で描かれた地図は、場所も大きさも形も、すべてが不正確なただの落書きだった。


「おっ、今日のはなかなかうまく描けたのではないか?」

「うぃ! 農地が領地からはみ出していないなのです!」

「そのレベルで大はしゃぎするのか、こいつらは……」


 意外なところで、俺の中のアヒムの株がちょっと上がった。

 きっとオルフェンはとても優しいのだろう。領民に慕われ、寄り添い、共に悩み、共に笑ってくれる領主なのだろう。

 だが、実務の方は非常に不安が残る。


「ちなみに、ウィシャートの影響がなくなって、仕事もいくつかなくなったと思うが、税収はどうするつもりだ?」

「これまで、領民たちは貧しいながらも重い税に苦しんでいました。なので、領内が落ち着くまでは税を限りなく軽くして、領民の生活を整えることを優先しようと思います」

「区の税収は大丈夫なのか?」

「そこは……みんなで力を合わせて、助け合いの精神で、なんとか」


 ん~……

 こいつは、エステラとは違った方向性で甘いな。

 エステラでさえ持ち合わせている『決断力』というものを放棄しているように思える。

 エステラは、どうしようもなくなった最悪の場面では、一部を切り捨てる決断を下せると思う。

 ただ、その一部が、『自分自身』である可能性が極めて高いところがエステラの甘さなんだけどな。

 それでも、涙をのんで非情な決断を、エステラならきっと下せる。

 あいつは、現実を嫌というほど見せつけられてきたからな。


 その点、オルフェンは本当の意味で領主ではなかった。

 限りなく近くにいたとしても、あくまでサポート。

 決断を下す者の苦悩と葛藤は、経験していないのだろう。


 おそらく、このオルフェンは兄アヒムとは真逆の領主になるだろう。

 領民に憎まれながらも、辛うじて区を存続させてきたアヒム。

 一方のオルフェンは領民に愛されているが、決断できない脇の甘さから領地は衰退していく。


 良くも悪くも、ウィシャートによって飼い殺されていたんだな。

 苦しみと共に、恩恵も受けていたわけだ。


 これが隣にいると、三十区がゆくゆく足を引っ張られる。


 やっぱり、自立させる必要があるな。

 英雄だのなんだのと、他区の他者を持ち上げてお祭り騒ぎしているのが、こいつらが自立できていない何よりの証拠だ。

 こいつらは、ウィシャートに代わる支配者を求めているに過ぎない。


 俺がその気になれば、侵略だって容易なんだが……生憎と、俺は三十一区の領主になんぞ興味はないし、奴隷を大量に抱え込みたいとも思っていない。

 最良は、俺のあずかり知らないところで、勝手に生きて勝手に満たされていて、時折こっちに利益が流れてくることだ。


 離れた区の状況をいちいち気にかけたくも、気に病みたくもないからな。


「オルフェン。お前は領主には向いていない」

「え……っ」

「……そうだね。少し話を聞いただけだけれど、ボクも、今のままでは遠くない未来、財政は破綻すると思う」

「優しさは責任の上で初めて意味を成すものだ。そなたのそれは優しさではなくただ現実が見えておらぬだけだ」


 諸手を挙げて迎え入れた先輩領主二人からきっぱりとダメ出しをされて、オルフェンは戸惑った表情を見せる。


「カンパニュラはどう思った?」

「そうですね……。領民のことを第一に考えていらっしゃるミスター・オルフェンのお考えは立派だと思います。ですが、領民のことを思うのであれば、苦しい今こそ、痛みを伴う決断が必要なのではないかと愚考します。ミスター・オルフェンには、領民の苦しみを誤魔化すのではなく、領民の苦しみを共に背負い、領民の手本となるよう、ままならぬ現実を直視して立ち向かっていただきたいと思います」


 税を安くして苦しみを取り払うのは一時しのぎにしかならない。

 その結果財政が破綻すれば、今の比ではない苦しみが領民に襲い掛かる。


 カンパニュラの言葉に、オルフェンは苦しそうに眉を寄せる。


「しかし、領民たちは本当に生活が苦しく……」

「単純な話だ」


 出口の見えないラビリンスに閉じ込められたような顔のオルフェンに、非常口にライトを灯すような提案をしてやる。


「金がないなら、借りればいいじゃない。『ヤシロにこにこファイナンス』がご相談に乗って差し上げますよ☆」


 俺の笑顔に、エステラとルシアが嫌そうな顔をした。

 ……なんでお前らがドン引きすんだよ。失敬な。




「ヤシロ」


 エステラが俺の名を呼ぶ。


「……死者が出る」

「人聞き悪い選手権の優勝でも目指してんのか、お前は」


 死者が出ないように、俺が知恵を貸してやろうつってんだろうが。


「そもそも、三十一区の財政を賄えるようなお金が用意できるのかい? ボクでも無理だよ」

「三十五区でも無理だ。他の区を支えるなど、不可能な話だ」

「なにも丸ごと支える必要はないだろう」


 事業というものは、回り始めたら利益が増えていくものだ。

 必要なのは開店資金くらいなもんさ。


「それに、一ヶ所で賄おうとするから歪みが出るんだ。出資者を増やせば、一人当たりの負担はどんどん減らせるじゃねぇか」

「それはそうだけど……四十二区の港みたいに、多くの協賛者を募るつもりなのかい?」

「し、しかし、オオバさん。微笑みの領主様が懸念されているように、我が三十一区にはそれだけ多くの方に出資していただけるような魅力は何も……お恥ずかしながら、特産品も何もない街でして……」

「だから、その魅力を生み出すんだよ」


 ないなら作ればいいじゃないの精神だ。


「なぁ、レジーナ。あの土、やたらと硬かったけど、強度って変化するのか? たとえば、雨が降ると液状化するとか」

「むしろ逆やね。あの土は水分を含むとがっちがちにかとぉなるねん。植物に必要な水を撒けば土が固まって芽ぇや根ぇが出られへんようになるっちゅう仕組みや。おまけに、周りの養分は根こそぎ吸収するさかい、フロッセや魔草ですら育たへん」


 水を撒けば周りの土や植物から根こそぎ養分を吸い尽くすフロッセですら発芽できない死の土か。

 しかし、逆に考えれば、水を撒くだけで強度が増して、雑草も生えない地面になるってわけだ。

 コンクリやアスファルトのないこの街には貴重な資源かもしれないな。


 まぁ、危険度を考えたらセメントを作り出す方がよっぽど理に適ってるけどな。


 そんなことを考えていると、館の使用人が静かに入室してきた。

 オルフェンの背後に近付き、耳打ちをする。


「分かった。皆様、四十区と四十一区の領主様がお見えになったようです。お招きしてもよろしいでしょうか?」

「デミリーだけ呼んでリカルドは追い返すか」

「賛成」

「あの、ヤシロさんもエステラさんも、冗談が過ぎますよ。とても仲の良いお友達ではないですか」


 ジネットが俺とエステラの心を折りに来る。

 そんな風に見えてるの? えぇ、ショック……


 そうこうするうちに、リカルドとデミリーが俺たちのいる応接室へとやって来る。


「来てやったぞ、エステラ。お、陽だまり亭の店長に薬剤師、それにトルベックもいるのか」

「ふふ。レディ・カンパニュラはもうすっかり領主の仲間入りだね」

「いいえ、ミスター・デミリー。寛容な先輩方に勉強させていただいているだけです」


 入ってくるなり、当然の顔をして俺たちのそばへやって来るリカルドとデミリー。

 今日は珍しく、二人とも執事を引き連れている。

 いっつも身軽に一人で四十二区にやって来るのにな。さすがに、三十一区に行くのに一人でってわけにはいかなかったのだろう。


 領主が増えて、三十一区の四貴族が緊張したように顔を強張らせる。


「ついでに、アヒムも呼んできてくれ」

「否! 空気が汚れるのでやめておいた方がいいなのです」

「『否!』じゃなくて、呼んでこいっつってんだよ」

「しかし……」

「パメラ。オオバさん直々の指示だよ」

「……りょ」

「では、我々はこの辺で――」


 パメラが動くと同時に、四貴族が立ち上がる。

 そんなに会いたくないか。


「いいから座ってろ」

「殴るかもしれませんよ」

「怪我人が出た時点で俺は帰る。ジネットにそんな痛々しい場面を見せたくないからな」

「では、罵倒が聞こえた時点でボクは帰るよ。ジネットちゃんに、そんな荒んだ空気を吸わせたくないから」


 俺とエステラの言葉に、四貴族たちは顔を見合わせる。


「でしたら、なおのこと、我々は帰った方が……」

「じゃあ、お前ら抜きで三十一区の再生方法を決めちまうぞ。あとからタダ乗りなんか出来ると思うなよ?」

「……ぅぐ」


 嫌なことからは逃げて、美味しいところだけもらおうなんざ、虫が良過ぎる。


「はっきりと言ってやる。アヒムがいなければ、三十一区は破綻する」

「しかし、兄上はこれまで――」

「お前のやり方は信頼できねぇって言ってんだよ」

「な……っ!?」

「大赤字の大損失が確定している場所に、投資をするヤツなんかいるわけがないだろう」


 人の好さでは利益は生まれない。

 フロントマンとしては、オルフェンは適任なのだろう。

 領民の前には、みんなに好かれているオルフェンが出て行けばいい。


「だが、三十一区を支える貴族は、きちんと裏の事情も把握しておく必要がある。好き嫌いで態度を変えるようなヤツなら、俺はわざわざ知恵を貸さない。もったいないからな」

「辛辣に聞こえるやもしれんが、カタクチイワシの言っていることは正しい。この地図一枚とってみても、兄と弟では技能の差が歴然だ」


 ルシアが持ち上げた二枚の地図。

 それを見て、デミリーとリカルドが顔をしかめる。

 なんとなく、状況を察したようだ。


「現領主よ。そなた、イチローの畑の面積を正確に把握しておるか?」

「それは……」

「おそらく、そなたの兄は把握しておるぞ。……そういうところだ」


 ルシアの指摘に、オルフェンは反論できず口を引き結んだ。


「確かに、アヒムはイヤなヤツだったんだろう。四十二区での騒動を考えれば、それは容易に想像がつく。……だが、ヤツがそうなった理由は、ヤツだけにあったのか?」

「オオバさん、それは一体、どういう意味でしょうか?」


 オルフェンが真剣な顔で俺を見る。

 そこに気付くのは、本当に難しいんだ。よく聞いておけ。


「アヒムは、四家の貴族につらく当たっていたんだよな」

「はい。それはもう、目の敵のように」

「当然、四貴族はアヒムに協力などしない」

「はい。兄とは、完全に決別しておりました」

「ウィシャートに睨まれ、首根っこを押さえられ、領内では強力な後ろ盾となるべき貴族たちと決裂――それがアヒムを追い詰めたとは考えなかったのか?」

「しかし、先に事を荒立てたのは兄上の方で……!」

「きっかけは些細なことかもしれん」


 たとえば、心無い噂を耳にしたとか、こちらが必死に駆けずり回っている時にのんきに交遊している姿を見かけたとか、泣きたい気持ちの時に馬鹿笑いしていたとか。


「小さな苛立ちから攻防が始まり、時間と共に取り返しのつかない溝が生まれたのかもしれない。……エステラとリカルドのように」


 初めて会ったリカルドは、エステラを敵視して、見下し、侮蔑して、器の小さい馬鹿野郎に見えた。

 だが、リカルドの立場から見れば、多くの譲歩を受けながらも筋を通さないエステラに対し憤りを感じていたのだと後に判明した。


「エステラは知らなかった。いや、知ってはいたが気付けていなかった。恩恵を当たり前だと誤解し、それをゼロにして『自分はやるべきことはやっている』と思っていた」

「まったく。今思えば恥ずかしい限りだよ。リカルドが、ただの嫌がらせのために無理難題を吹っ掛けてきていると、本気で思い込んでいたんだから」

「……エステラ」


 エステラの言葉に、リカルドが目を丸くし、デミリーが静かに微笑んで見守っている。


「当時、エステラは精神的にも経済的に限界で、自分の苦労ばかりが目に付いていた。『こんなに苦しい中、これほど礼を尽くしているのに』ってな」

「けど、こっちが苦しいのと、リカルドから恩恵を受けていたのは別問題なんだ。そこを混同して、ボクばっかりが苦労している……なんて、不満に思っていたんだよ」

「いや、まぁ……あの時は俺も限界で、お前の微妙な立ち位置に気付いてやれていなかった。領主代行という身でありながら、倒れた父親の代わりを必死にやっていることは分かっていたのに……ただ、あいさつに来ない、顔を見せに来ない、そんなことに腹を立てて……俺の方こそ、大人げなかったと思っている」

「うん。確かに大人げなかったよね!」

「おい! そこは否定しろよ! 謙遜を覚えろ、貴様は!」


 和解以来、こういう話は初めてするようで、エステラもリカルドも照れが顔面に溢れていた。


「お前らも、アヒムの悪いところしか見えていないんじゃないか?」


 少なからず、アヒムは三十一区を存続させてきた。

 ウィシャートからの無理難題に苦しんでいる時に、「畑がダメになったから」と努力を放棄して他人に助力を乞うしかしていないのだとしたら、アヒムが四貴族を「無能」だと非難する気持ちも分からなくはない。

 やり方は最悪だけれど。そこはアヒムが悪い。反論の余地もなく、100%アヒムのひん曲がった性根が悪かった。


 だが、そうだとしてもだ。


「オルフェンの能力では、俺の出す提案を実行に移すことは不可能だ。俺としても、信用に値しないヤツに大事業を任せてはおけない」


 むしろ、一分の隙も無い完璧な縮図を描けるほど几帳面過ぎるアヒムの能力こそ、俺は利用したい。


「本当に三十一区のことを思うなら、嫌いなヤツの能力を利用してでも街の活性化に協力しろ。嫌いなヤツとは協力できない、街より自分が大事だというヤツは今すぐここから出ていけ。選択はお前らに委ねる」


 言い放ってしばらく間を置く。

 貴族たちは顔を見合わせ、幾度か頷きを交わした後、腹を決めたように腰を下ろした。


「よろしい」


 とりあえず、第一次審査は合格だな。

 ここで一人でも帰っていたら、マジで三十一区を見捨てるところだった。


「それじゃあ、話を始めるぞ」


 先ほどよりも真剣みを増した表情で、オルフェンと四貴族が俺の顔を覗き込む。


「三十一区の財政を賄うために、これから集まってくる領主たちに金を借りるんだ。そして、その見返りに――お前たちは土地を差し出せ」

「まさか、領地を売れとおっしゃるのですか!?」

「いや、貸し出すだけだ」


 それで、ピンと来たのか、リカルドは「なるほどな」とニッと笑った。


「フードコートを作るのか?」

「そんな小さいもんじゃねぇよ」


 大食い大会の会場を作るための費用を他区から借りた四十一区は、一時的に自区の土地を他区へ貸与した。

 四十区と四十二区は、会場の近くに店を構え、自区の宣伝と出店した店の利益を得ていた。


 今回は、それをもっと大規模で行う。



「三十一区に、外周区と『BU』、すべての美味いものを集めた食のテーマパークを作る!名付けて、『ナンジャコリャタウン』!」



 ……ん、さすがに著作権的にNGか、な?







あとがき




今以上それ以上愛されたい宮地です。

どもども。


先日、ゆーちゅーぶ~で安全地帯の動画(公式ですよ! 著作権違反の動画、イくない!)を見ていましたところ、

関連動画に、


自治体がキャンプを禁止している場所でキャンプをやっていた集団が

自然の驚異に晒されて大変なことになるというなんとも恐ろしい動画が表示されまして……



「全っ然、安全地帯じゃないじゃん!?」Σ(・□・;)



と、驚いてしまいました。

むしろ危険地帯でした。

関連……です、かねぇ?


この夏、キャンプをされる方は十分お気を付けください。

令和ちゃん、まだちょっと気候の調整、上手じゃないようなので。


……6月末に猛暑来ましたよね?

その後、7月中頃に梅雨復活しましたよね?


アレ、たぶんですけど、

令和ちゃん家に『梅雨の素』が残ってたんですよ。

掃除してたら、「あ、梅雨の素まだちょっと残ってた」って。


で――



「使っちゃえ~!」(≧∇≦)/・::※



――ってしたんですよ、絶対!


今年の行楽シーズン、みなさん、十二分にお気を付けを!




さて、

ちょこっと本編のお話をしますと、

三十一区新領主のオルフェンさん、

メッキが剥がれてきましたね☆


四十二区に来た際のオルフェンの行動で、

「この弟も、ちょっとどうなの?」みたいな反応が

思ったよりもありまして……


するどいな~(・ω・ノ)ノ


と、びっくりしてました。


それとも、漏れ出ちゃってましたか?

オルフェンさんのモデルになった人に対する、


私の、


不・快・感☆



その不快感は……次回、チラ見せしましょうかね。

……なんか、最近モンクばっかり書いてますね。

いけませんねぇ


今回は楽しいお話をいたしましょう致しましょう!



怪談とか好きですか?(*´▽`*)

実はシャレにならないくらいエッグイ呪いをもらった人が(*´艸`)


……おかしい、楽しくなる要素が見い出せない(;・_・)

まだ荒んでるんでしょうか、私の心。

最近の楽しみが、家庭菜園と水槽くらいしかないですからねぇ


家から一歩も出ない趣味!( ̄▽ ̄)



あぁ、そうだ!

皆様にお礼を言いたかったんです。



少し前まで、物凄く心が疲れていまして、

感想返しが物凄く溜まってしまってまして、

さすがにそろそろお返事書かなきゃな!

と、結構無理やりPCに向かったんですが、


お返事書いているうちにどんどん楽しくなっていって、

ある程度お返事書き終わった時、

すごく前向きになれていました。

(≧▽≦)vイェイ



素晴らしいですね、触れ合いって。



お返事の内容は、毎度毎度すっごいくだらないことなんですけど、

そうやってくだらないことを言える相手がいるってすごいなぁって

ありがたいなぁって。



いつもいつも、ありがとうございます


ラ\(*´▽`*)/ヴ



なんでも、

昔読んだ胡散臭い自己啓発本によりますと、

気分が沈んでいる時は無理やりにでもポジティブな発言をすることで

自分の声が脳に届いて沈んだ心を浮上させてくれるそうです。


え、何が胡散臭いかって?

言ってることはまともですよね? 確かにね?

でも、例文が――



※疲れた時は「疲れた」ではではなく「まだ大丈夫!」と言いましょう。



いや、それなんて社畜!?Σ(・□・;)

疲れた時は休め!

「まだ大丈夫!」じゃないんだわ!?

(」・□・)」 たーおれーるぞー!



※仕事が終わらない時は「まだこんなに仕事が残ってる……」ではなく「まだこんなに成長する機会がある!」と言いましょう。



いや、休ませてあげて!Σ(・□・;)

その状態、もうライフはゼロよ!?

(」・□・)」 泣いてもいいんだよー!



※部下の仕事が遅い時は「仕事が遅い」ではなく「仕事が丁寧だね」と言ってあげましょう。



やだ、すっごいイヤミ!?Σ(・□・;)

京都の人も真っ青な言い回しですよ、それ!

(」・□・)」 余計心を抉るよー!?



※協調性のない部下には「協調性がない」ではなく「君の個性を大切に育ててね」と言いましょう。



いや、協調性のなさ放置しちゃダメ!Σ(・□・;)

その個性育てられたらチームが困っちゃうよ!

(」・□・)」 せめて報連相はきっちりねー!



※何をやっても平凡でありきたりな人には「ありきたりでつまらない」ではなく「定番を押さえているね」と言ってあげましょう。



いや、それはポジティブ……か?Σ(・□・;)

一冊の本にするほどネタがないなら無理して本にしなくていいのに!

(」・□・)」 著者さん、絶対「ネタがねぇ! 終わらねぇ! ツレぇ!」って弱音吐いてたよね!? ね!? 正直に言ってごらん! ねぇ!?



あぁ、そうだ。

以前いた会社に、自己啓発本が大好きな上司がいまして

啓発本に書かれていたことをそのまんま、一字一句実行する人がいたんです。


「昨日までそんなこと言ってなかったじゃん」

ってことをやり始めたら、

「あぁ、新しい本読んだんですね」ってみんなに思われるような人だったんですが……


とある啓発本に

「心が荒んだら美しい言葉を発しましょう」みたいなことが書かれていたらしく、

美しい言葉の例には「ありがとう」「幸せだ」「嬉しいよ」「大好き」みたいなのがあったそうなんですね。


で、その上司がその本を読んじゃったもんだから……



上司(#゜Д゜)「なんでまだ仕事が終わってないんだ!」

先輩(゜□゜#)「あんたが別の仕事振ったからだろう!?」

上司(#゜Д゜)「なんだ、その口の利き方は!」

先輩(゜□゜#)「そっちがそーゆー口の利き方してるからだろう!?」

上司(#゜Д゜)「なにを、この…………」

先輩(゜□゜#)「……なんだよ!?」

上司( ゜Д゜)「気付かせてくれてありがとう」

先輩(〇□〇;)「ふぁ!?」

上司( ゜Д゜)「君のような部下がいてくれて嬉しい。すごく幸せだ」

先輩(〇□〇;)「……どしたんですか、急に?」

上司( ゜Д゜)「俺はお前が大好きだよ!」

先輩(゜ー゜;)「…………」

上司( ゜Д゜)「大っ好きだよ!」

先輩(>_<。)「……やだもう、この人怖いっ!」



みたいなことが……


すごい怒鳴り合いだったんですが、急~にスイッチが切り替わったようで

オッサンがオッサンに「俺はお前が大好きだよ!」という

衝撃的なシーンを見せつけられて――


周りで見ていた私たち、ずっと笑いを我慢してました


(((*>艸<)))ぷるぷる


どんだけ自己啓発下手なんだよと。

自分なりに理解して、しっかり吸収してから実践して!


あと、



先輩(;´・ω・)「うわ~、仕事のし過ぎで右腕が痛ぇ~」

上司(・`д・´)「そんなネガティブなこと言うな。もっとポジティブな発言に言い換えるんだ」

先輩(;´Д`)「いや、どう言い換えるんすか?」

上司(。-`ω-)「……『左腕は痛くない』!」

先輩( ̄□ ̄;)「右腕の件、解決してねぇな!?」



読む以上に、理解することが重要なんだなって、

思いました。




コンプライアンスが厳しくなり、

ハラスメントに敏感になった昨今、

管理職の皆様は様々なセミナーを受けたり

自己啓発本を読んだりされるかもしれませんが、


まずは出来る範囲で、自分らしく取り組みましょう、ね☆


急に態度が変わると……部下はガクブルですので

((((;゜Д゜))))どーした、きゅうに!?




そんなことを思い出して、

前向きな言葉よりも、

結局は好意的な言葉の方が心を前向きにしてくれるんだなぁと気付いた宮地さんでした。


皆様からの「しゅき☆」の気持ち、

ちゃんといただいておりますよ☆

\(≧∇≦)/


(」・□・)」 誰も「しゅき☆」なんて言ってないのにー

(」≧∇≦)」 言ってなくても伝わってるから―


次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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[良い点] 本日のベストシーン 「私の両親はイチローとユキコなのです」 「ソレガシの両親はシローとアマリコです」 「定着させようとしなくていいから! ボクはちゃんとお名前を覚えていますからね、ミスタ…
[一言] ときにはネガティブな表現でも元気になる気がします。 例、 誰も宮地のこと、「しゅき☆」なんて言ってないんだから! おっぱいがしゅき☆なだけなんだから、勘違いしないでよねっ!! …こんな感…
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