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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第三幕

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565/821

365話 明日はきっと、いい日になる

 ウィシャートの館での騒動から四日。

 統括裁判所から「裁判はこっちでやるからもう首を突っ込むな」という脅しめいた通達があり、なんだかなぁ~な顔をしていたエステラの気分を晴らすために港へやって来たわけなのだが……港に着くと、そこは戦場だった。


「だぁ~からっ! レンガはもっとオシャレに、デザイン性を重視して華やかに並べろつってんだろぉがっ!」

「だぁかぁるぁぁあ! そんな小せぇレンガじゃ、何十トンも海水を入れた荷車に耐えられねぇっつってんだるぉうぐゎ!? てめぇ、一年で何万回レンガ交換繰り返す気だ、ごるぁ!?」

「はっはっはぁ~っ! これだから知識の乏しいヤツは……! いいか? 組み方一つで何十倍も強度を上げる方法があるんだよ!」

「どっちの知識が乏しいんだ、おぉうん!? 港舐めてんじゃねぇぞデザインバカ! このスペースにかかる負荷は大通りの比じゃねぇんだよ!」

「新しい観光名所になる場所が、灰色一色の、味も素っ気もねぇ見栄えじゃ困るっつってんだよ、田舎者!」

「味や素っ気の前に、足元がグダグダのボロボロだったら観光客なんか危なくて寄り付かねぇって何遍言わせる気だ、世間知らず!」

「やんのか!?」

「上等だ!」

「やめんかーい!」


 近くにあったハンマーを投げつけてみた。

 ……ち、かわされたか。


「おいおい、ヤシロさん!? シャレにならねぇ凶器投げんじゃねぇよ!?」

「当たったら死ぬとこっすよ!?」

「え? いけない?」

「「悪魔か、あんたは!?」」


 だって、折角いい天気で、うっきうき気分で完成間近の港を見学しようと思ったら、暑苦しい大工同士の小競り合いが目に飛び込んできて――


「やしろちゃん、『いらっ☆』ってしちゃったじょ!」

「うわぁ……目に来るなぁ、ヤシロさんのブリっこ……」

「俺も、生まれて初めて……網膜が痛ぇ」

「ウーマロー! この失敬な大工、いる人材?」

「いるッスから、どっから持ってきたか分からないノコギリを手放してッス!」


 ウーマロが飛んできて、俺の手から『頸動脈カッター』を没収する。

 折角いい感じで手に馴染んで、『ふれでぃ君2号』って名前を付けて持ち帰ろうかと思っていたのに。

 ん? 1号? 知らんがな。どっかにいるんじゃね? 知らんけど。 ノリだノリ。ノリで2号なの。


「黙らせろよ、見苦しい」

「何回も言ってるんッスけど――」

「でも棟梁! 見た目は大事ですよね!? お披露目で『あ、なんか地味』ってがっかりされるのは看過できないですよね!?」

「いやいや、トルベックさん! 工事は安全第一! 使用に不安が残るような工事、トルベックさんなら許可しませんよね!?」

「――と、ずっとこんな感じなんッス」


 ウーマロが耳を垂らしてため息を漏らす。

 大方、どちらの意見も頷ける部分があって、どうしたもんか決めかねているのだろう。


「計画段階ではどうなってたんだよ?」

「俺の案より地味~なデザインで」

「俺の案より脆弱な耐久力でした」

「そうそう、こいつの案くらいの地味さでした」

「確かに、こいつの案くらいの脆さでしたね」


 つまり、どちらも基準は満たしてるわけだ。

 より美しくするか、より頑丈にするか。

 合格ラインを超えている以上、どっちかを否定するのは困難だよなぁ。


「そうだ! この際、ヤシロさんに決めてもらおうぜ!」

「おぉ、望むところだ!」


 ん?

 なんか大工が言い出したぞ。


「ヤシロさん! ヤシロさんなら分かってくれますよね!? デザイン性の重要さ!」

「いいや、ヤシロさんなら安全の尊さを分かってくれるに違いない!」

「美しい景観は人の心を高揚させて、テンションが上がった観光客は財布の紐が緩くなりますよね!? ヤシロさん、お金好きでしょ!?」

「見てくればっかで危険な場所なんか安心して観光できないっすよね!? 人が来なきゃ、財布の紐も何もないっすよね!?」

「子供らは楽しいのが好きなんだよ! ヤシロさん、子供好きですよね!?」

「子供好きのヤシロさんならなおのこと、安全面を重要視してくれるっすよね!?」

「その前に、俺、ガキは嫌いなんだが?」

「「でも、幼女は好きでしょ!?」」

「よしお前ら、その誤った意識から叩き直してやる。歯ぁ食いしばって三点倒立しろ」

「「何やらされんの俺たち!?」」


 人を、金にがめつくなったハビエルみたいに言いやがって。


「ヤシロさんはどっちが正しいと思います!?」

「デザインと安全、どっちが重要だと思います!?」

「「さぁ、どっち!?」」


 大工が揃って手を差し出してくる。

 テレビの公開お見合いショーか。「ちょっと待った!」の状況か。

 なんか、オッサン二人に取り合われてるみたいで、若干腹立つな。


「お前らは、俺が決めたことに従うんだな?」

「はい! ヤシロさんが言うならこいつも納得するでしょう」

「もちろん! ヤシロさんに言われりゃこいつも大人しく従いますよ」

「じゃあ、二人とも、俺の言う通りに作業するんだな?」

「「はい! もちろん!」」

「あ~ぁ……オイラ、知らないッスよ」


 何かを察知したのか、ウーマロがそそそ~っと二人の大工から距離を取った。


「それじゃあ、今日中に、デザイン重視で――」

「よっしゃ!」

「ちきしょー!」

「ちょっとやそっとじゃ壊れないくらい頑強な地面にしておくように」

「「……え?」」


 大工二人が呆けた顔で俺を見る。

 何見てんだよ。さっさと作業に取り掛かれよ。


「……えっと、ヤシロさん?」

「つまり、どっちなんですかね?」

「両方だ」

「「両方!?」」


 当たり前だろう。

 観光客のテンションが上がるような美しさは必要だし、安全面は最低条件だ。

 合格ラインだからOK? 舐めんな。

 妥協なんか許されるか!

 現状よりいい物が作れるなら、限界までいいものを提供しろ!


「イメルダが納得するくらいの美しさで、ハビエルとメドラが大喧嘩しても壊れないくらい頑丈な地面に仕上げておくように」

「「いやいやいやいや! 無理っすよ、そんなの!?」」

「それともなにか? トルベック工務店とカワヤ工務店の大工って、仕事に手ぇ抜いて、妥協とかしちゃう感じなのぉ~?」

「そんなことないッスよ!? そんなの、オイラが許さないッス!」

「こっちも、妥協だ手抜きだなんて、とんでもない! お天道様が空へ昇る限り、カワヤ工務店はすべての作業に全力ですよ!」


 両工務店の棟梁が鼻息荒く宣言する。

 そして、棟梁に火がついたことで、騒いでいた大工二人が「……あ、やってもうたかも」と顔を青くする。


「明日は領主様が直々に計画立案された、大々的なイベントが開催されるってのは、知ってるよな?」


 今さらながらに冷や汗を垂らす大工二人の肩に手を置いて、俺は満面の笑みで語りかける。


「それだけ期待されている港だからさ、全力……出そうよ?」

「いや、それは……」

「両方となると、さすがに、いろいろと……材料の強度とか、予算とか……」

「え、なに? 四十二区ごときの領主のためには全力は出せないって?」

「「そんなこと言ってないすよ!?」」

「あの領主バカだから、手ぇ抜いても気付かねぇよって?」

「「思ってない! 思ってないっす!」」

「いつまで経っても成長しねぇなぁ、あの胸って?」

「「それは、まぁ……」」

「面白い話をしているじゃないか、諸君?」

「「ぎゃぁぁあ! 微笑みの領主様っ!?」」


 俺にまんまと乗せられて、エステラの接近に気が付かなった大工たち。

 甘いなぁ。エステラは気配を消しきれてないんだから、ちゃんと気付かなきゃ。

 隣を歩いていたナタリアの気配は一切感じなかったけれども。


「明日の完成記念イベント、ボクは心から楽しみにしているんだ」


 にっこりと笑う微笑みの領主様。

 背中から暗黒のオーラが立ち上ってるぞ、微笑みの領主様(闇)。


「素晴らしい港が完成することを期待――いや、確信しているよ。……ボクの期待を、裏切らないようにね」

「「……は、はぃ……」」


 貴族からの強烈な圧力をかけられ萎れる大工。

 遠巻きに眺めて安心しきってるその他の大工たち……お前ら、他人事だとか、勘違いしてない?


「じゃ、ウーマロ。あとよろしく」

「お前ら全員集合ッス!」

「カワヤ工務店も集合! 駆け足!」


 各所で作業をしていた大工が集められる。


「え~、この二人の不手際の結果……今日は徹夜が確定したッス」

「えぇー!? 今日は最終確認だけで、早めに上がれるって言ってたじゃないすかぁー!」

「こいつらのせいッスよ!? よりにもよって。ヤシロさんを担ぎ出したんッス!」

「……うわぁ……ないわぁ……」


 なんだろう。

 大工の間で、俺ってどんな印象なんだろう。

 ……じっくり聞いてみたいなぁ……じっくり。

「ヤバい! 目ぇ合わせるな! 食われるぞ!」とか、酷くなぁ~い?


「カワヤ工務店の連中にも、いい機会だから経験してもらうッス」


 ウーマロが、オマール・カワヤの肩に手を乗せ、げんなりとした笑顔を向ける。


「……お前らが甘いだなんて勘違いしているヤシロさんの、本領ってヤツを……ッス」


 ごくりっと、オマールが唾を飲み込み、大工一同が寂びたブリキ人形のような動きで俺を見る。


「やるって言った以上、出来なきゃカエルな☆」

「「「……悪魔だ。悪魔がいる」」」


 なかなか失礼な者が多いようなので、俺は強力な助っ人を用意してやることにした。

 イメルダと、ハビエル&メドラ。


 ……さぁ、合格目指して、レッツ社畜☆





「華美なだけで品性が足りませんわ! やり直してくださいまし!」


 呼ばれてやって来たイメルダが、最初っから全開である。


「いや、でも、この組み方でないと強度が……」

「強度に関してはそちらでなんとかなさいまし。ワタクシはデザインのみを監督いたしますわ」

「棟梁~……」

「諦めるッス。それより、ここをこう変えたら力が分散して……」

「なるほど、じゃあ、この下に砕いた砂利で――」

「「棟梁二人が、めっちゃ凄まじい速度で新しい技術を生み出してるっ!? これが四十二区のスピード!? 四十二区、怖っ!?」」


 気が付いたら、トルベック&カワヤのみならず、港に関わったすべての大工が総動員されて試行錯誤が繰り返されていた。


「ふん! まだまだ脆い!」

「こんなもんじゃ、アタシたちを止められないよ!」

「「いや、お二人を止めるとか、物理的に無理ー!」」


 向こうでは、大怪獣二匹による組み手が行われ、その度に頑丈だというレンガが踏み抜かれている。

 そんな、板チョコを割るように軽々と……


「メドラ――こいつを避けられるか!?」

「甘いよ! 止まって見える――ねっ!」

「「あぁぁああ! 踏み込んだ時にまたレンガがぁぁああ!」」


 双方、共に手加減ありありでじゃれ合っているのだろうが、二人の周りだけ廃墟と化している。

 ほんと、日本に上陸して勝手に戦って帰る大怪獣並みの傍迷惑さだな。


「いいぞ、もっとやれ」

「「もうぼちぼち、手加減プリーズ!」」

「いや、でもよ。あの二人すら防げないと、凶暴な魚を陸揚げした時に困るだろ?」

「「あの二人より凶暴な魚なんか存在しないでしょー!? 知らんけど!」」


 まぁ、大工は知らないよな。海に出たこともないだろうし。


「ハビエル、ちょっと来てッス」

「なんじゃい、トルベック」


 ウーマロは、年上であるハビエルを普通に呼びつける。ハビエルは文句も言わずそれに従う。

 共に四十区に拠点を置く経済の主力。

 立場的には対等なんだろうな、あいつらの中で。


「これが一番硬いレンガなんッスけど、割れるッスか?」

「ふんぬっ! ……お、なんだ、余裕だな」

「じゃあもう、材質に頼るのは諦めて、力を逃がす方向で考えるッスよー!」

「「へーい!」」


 大工が集まって話し合いを始める。

 全然作業が進んでない。


「つーかさぁ、この二人が暴れて壊れない地面なんて、不可能なんじゃねぇの?」

「「「あんただ、それ言い出したの!」」」


 大工に総出で突っ込まれた。

 んだよぉ。せっかく手加減してやろうと思ったのに。


「あいつらの組手、踏み込みの足がすげぇ破壊力高いんだよ」

「「ですよね!」」

「だから、勝負方法を変えてみよう」

「「勝負させる必要ありますかね!?」」


 そこはほら、言い出した以上「出来ませんでした」じゃ、なんか負けた気がするだろ?


「お前ら、相撲で勝負しろ」

「「すもう?」」

「なんだ、相撲も知らんのか? 教えてやれ、エステラ」

「ボクも知らないよ!?」

「じゃあ、ナタリア」

「おそらく、卑猥な言葉です」


 違うわ!

 日本の国技に謝れ!

 全日本国民に謝れ!


「ウーマロ、この赤いレンガを借りるぞ」


 細長いレンガを地面に並べ、直径4.55メートルの円を作る。

 ……いや、嘘だ。そこまで細かい数字は分からん。ざっくり4メートル半くらい。


「この円を土俵と言い、この土俵から外に出された方が負けだ」

「なるほど。攻撃手段はなんでもありか?」

「打撃は禁止だ」


 張り手はOKなのだが、説明が面倒くさいので禁止とする。

 メドラとハビエルの張り手なんぞ、そこらの刃物より殺傷能力が高いからな。


「体と体、腕と腕で相手と押し合い、純粋な力で勝負する。ちなみに、膝から上が地面についても負けだ」

「つまり、相手を土俵から出すか、倒せば勝ちってわけか」

「打撃が禁止ってのが、ちょっと厄介だね」

「まぁ、ワシと力比べするのは怖かろう」

「バカ言うんじゃないよ、ヒゲ! いや、筋肉!」

「筋肉はお前もだろう、メドラ!?」

「アタシが言いたいのは、あんたと密着するのが嫌だってことさ。……男はみんなオオカミだからね」

「安心しろ。どんなオオカミでも、魔獣は襲わねぇよ」


 確実にオオカミより強いもんなぁ。


「ちょっと試しにやってみせてくれるか?」

「俺が?」


 ハビエルが俺に無茶振りをする。

 こんな大工だらけのところで、俺といい勝負になるヤツなんか……あ、あいつがいるか。


「グーズーヤ。ちょっと来い」

「いやいやいや! ヤシロさん、それはいくらなんでも心外ですよ!?」


 ひょろっひょろのグーズーヤが腕を振り回してやって来る。


「そりゃ、僕は棟梁たちに比べると非力ですけど、ヤシロさんには負けないですよ!?」

「じゃあ、負けたらハビエルとメドラの肩慣らし要員な」

「いや、死にますよね!?」

「大丈夫ッス、グーズーヤ。……負けなきゃいいんッス」


 非常に黒い顔で、ウーマロがグーズーヤの背中を押す。

 普通に考えれば、力比べで俺が勝てる見込みはない。


 見込みがないにもかかわらず、ウーマロは俺が勝つと確信している。

 確信していて、グーズーヤの背中を押しているのだ。

 酷い棟梁である。……まったく、『面白い』を逃さないヤツめ☆


「まぁ、そりゃあそうっすよね。肉体派じゃないヤシロさんに負けたら、大工として恥ずかしいですからね!」

「んじゃあ、ちょっとデモンストレーションしてみるか」


 俺はグーズーヤと一緒に土俵に入り、相撲の作法を教える。

 塩があるといいんだが、ないので省略。


「まず、真ん中に引かれたこの二本の線の前に立つ。お互いが見合って中腰になり、双方が両の拳を土俵につけたら開始だ。ここ、駆け引きポイントだから、慎重にな」


 そして、ウーマロに行司を頼む。

 掛け声を教え、しっかりと勝敗を見極めてもらう。

 ウーマロはノリノリで行司の役割を覚えた。


「グーズーヤ。ルールは把握したな?」

「はい! 覚悟してくださいよ、ヤシロさん。手加減しませんからね」

「あぁ、思いっきりぶつかってこい。俺に勝てたら、特上寿司をご馳走してやる。俺の奢りで」

「マジですか!? 棟梁がずっと、ずぅぅぅううっと、それはもう腹立つくらいに自慢してた特上寿司ですか!? うっしゃあ! 燃えてきたぁ!」


 ウーマロ、どんだけ自慢してたんだよ……


「それじゃあ、いくッスよ! 見合って見合って~……はっけよぉい……」


 俺が先に拳をつけ、グーズーヤを見据える。

 グーズーヤは速攻を目論んでいるようで、タイミングを見計らっている。

 そして、ゆっくりと拳を下ろし――土俵につけると同時に突進してきた。


 ので、身をかわして足をかけてやる。


「どっひゃぁあ!?」


 すると、グーズーヤは突進の勢いのまますっ転び、そのままごろごろと土俵の外まで転がっていった。


「勝者、ヤシロさん~!」

「ごっつぁんです!」


 まぁ、なんにも考えてない力押しじゃ、こうなるわな。


「なるほどな。力だけじゃなく、頭も必要ってわけか」

「それじゃあ、あんたにゃ勝ち目がないねぇ。駆け引きは、狩人の十八番さ」

「いつまでその余裕が続くかな?」

「なんなら、今夜の夕飯を賭けるかい?」

「あぁ、上等だ。四十二区の酒がなくなるくらい飲んでやるぜ」

「好きにしな。どうせあんたの金だ」


 なんとも力強い笑みで睨み合う両者。

 バチバチと火花が散る。


「「よし、そこの細い大工! 肩慣らしだ!」」

「やっぱ死んじゃう!?」


 それから、怪物二人にグーズーヤが特効して無残に玉砕するというお約束を演じ、ついに怪物同士の相撲バトルが開催される運びとなった!


「……せめて、笑うなり同情するなり…………二回目なんか、『あぁ、はいはい』みたいな扱いでさぁ……しくしく」


 グーズーヤ、うるさいよ。

 ちょっと静かにしててくれる?


「覚悟はいいか、メドラ?」

「娘の前でべそかかせてあげるよ」


 小さな土俵に、大きなギルド長が二体並ぶ。

 ん? 単位? あぁ、すまんすまん。二機か。二隻?

 引き続き行司をやるウーマロが子供に見える。


「じゃあ、行くッスよ。見合って見合って~」


 ハビエルとメドラの視線がぶつかった瞬間、「バリィッ!」っと、空気が弾けて振動した。


「はっけよぉ~い……」


 ハビエルが拳をつけ、メドラが拳を――つけた!




 ドォォォオオン……




 四十二区が、震撼した。


「うぉぉおおおお!」

「はぁぁああああ!」

「ぎゃぁあああ土俵が!? 港の地面がぁぁああ!?」


 あまりに凄まじい両者の衝突に、地面はめくれ上がり、土俵は消し飛び、港は基礎から崩れかけていた。


「ストップストーップ! やめるッス! 港が崩壊しちゃうッスよ!?」

「まだまだぁ!」

「これからだよ!」

「やめるッス!」


 結局、ウーマロが行司権限とかいう聞いたこともない強権を行使して、試合は中断された。


「深く考えなくても分かることだったッス! 他所でやれッス!」


 ちょっと面白そうだな~という、軽い気持ちでやってみたら、想像以上の大惨事を巻き起こしてしまった。


「……ヤシロ。完成記念イベントは、明日なんだよ?」


 エステラにジト目で睨まれる、俺。

 へーへー、分かったよ。

 俺も協力すりゃあいいんだろ……ったく。


「レンガを剥がれにくく、加重で割れないようにする裏技があるんだけどな――」

「是非聞かせてッス!」

「その情報がなきゃみんな死んじゃう!」


 涙目のウーマロとオマールに縋りつかれ、俺はレンガ強化の裏技を教えてやった。

 レンガは古くから世界中で使われていた物だからな、知識だけならどこからでも手に入る。

 俺が知り得る知識を話し、ウーマロとオマールがそこにこの街ならではの改良案を提案し、なんとか無事に方向性は決まった。

 これで、オシャレで、且つ頑丈なレンガ敷きの地面になるだろう。


 ただまぁ、作業は深夜に及ぶだろうけどな。



 ……分かったよ。夜食と、明日の朝飯は奢ってやるよ。それでいいんだろ、……ったく。





「おにーちゃーん!」


 昼時を過ぎ、気が付けば太陽が天辺を超えていたそんな時間。

 妹たちがわらわらと港へとやって来た。


 ……危ねぇなぁ。一応ここ、外壁の外なんだぞ?


「こ~ら。小さいのだけで外出てきちゃダメだってロレッタに言われてたろ」

「へーきだよ-」

「おねーちゃんからのごいらい-」

「めっせんじゃー!」

「つきそいのおねーちゃんもいるー!」

「おおきいおねーちゃん!」

「たよれるじゅうななじょー!」


 十七女くらいまで来ると、もう頼っていいのかどうか分かんねぇよ。

 三女でギリ信用できる。

 ……まぁ次女はちょっとアレだが。


「どいつが十七女なんだ?」


 尋ねると、二人が一斉に手を上げ、他の妹たちが一斉に答える。


「「「どっちかー!」」」

「把握できてねぇのかよ……」


 で、どっちも年中じゃねぇか。


「で、ロレッタがなんだって?」

「『軍艦巻きを完璧にマスターしたから、いつ帰ってきてもいいです!』って」

「『お兄ちゃんの度肝を抜いてやるです』って」

「『あ、やっぱりこの辺は言わないでおいてです』って」

「『聞かれたらきっとあとでイジメられるです』って」

「『お兄ちゃん、そーゆーとこ結構子供なんです』って」

「『困ったお兄ちゃんですよねー』って」

「うん。たぶん言っちゃいけないこと全部言っちゃったんだろうけど、ありがとうよ、十七女×2」

「「どーいたしましてー!」」


 いい度胸じゃねぇか、ロレッタ。

 お前の言う『完璧』とやらを試させてもらおうか……ふっふっふっ。


「ヤシロ。邪悪な顔しないの」


 エステラがチョップを落としてくる。


「あと、店長さんが、『……まぁ、マグダの方が完璧だけれど』って」

「よく思い出してみろ。それ、本当にジネットが言ってたか?」

「うーうん。陽だまり亭の影の店長さんの方ー!」


 マグダ、そんな肩書きを名乗ってるのか……


「店長さんがね、『もしお仕事が一段落したら、お昼を食べに戻ってらしてくださいね。エステラさんとナタリアさんもご一緒に』って」

「そうだね、ヤシロ。ボクお腹空いちゃった。陽だまり亭に戻ろう」

「ん~……だがなぁ」


 現場はまだまだ途中なのだ。


「戻ってくださいッス、ヤシロさん。アイデアをいただけたんで、あとはオイラたちでなんとか出来るッス」

「助言いただいて、本当に助かりました! トルベック工務店の躍進の秘密を垣間見た気分です」


 ウーマロとオマールが笑顔でそう言う。

 ……その二人の向こうには、死にそうな顔でレンガを敷き詰めている大工が無数にいるわけだが……

 ま、俺が手伝えることはもうないか。


「せめて、お前らは明日好きなだけ飲み食いできるようにしておいてやるよ」

「まじですか!?」

「やったぁあ!」

「ヤシロさん最高!」

「タダ飯だー!」

「タダ酒だー!」


 ……あ、早まったかも。

 割と元気じゃねぇか、こいつら。


「らしくないね、ヤシロ。目測を誤ったのかい?」


 俺の表情を読み取ったのか、エステラがけらけらと笑う。

 ……にゃろう。


「領主様がご馳走してくださるだろう、きっと! そう、きっとね!」

「自分で言い出したんだから、君が責任持つように」


 エステラのヤツ、明日のイベントにはもうすでに結構金を出してるからなぁ。

 ここから搾り取るのはムリか……なら。


「ハビエル! 俺と相撲で勝負だ!」

「おいおい、ヤシロ。ワシにタカろうって魂胆は分かるがよぉ、そりゃちょっとばかり無茶が過ぎるんじゃねぇか? 見てたろ、さっきのワシとメドラの勝負をよ」

「ふん! 当然ハンデはもらってやる!」

「……なんで上から目線なんだよ。いや、ハンデくらいやるけどよ」

「まさかヤシロさん! そのハンデって、メドラさんと協力するとかじゃないッスよね!? それだけは絶対やめてほしいッス! 折角ここまで修繕したんッスから!」


 メドラとハビエルがぶつかれば、また辺り一帯が荒れ果てる。

 さすがにそれは出来ない。


「大丈夫だ。こっちの助っ人は妹たちだ!」

「「「「すけっとー!」」」」

「「「「なにやるのー!?」」」」

「ん? なぁに、簡単だ。こうやって、組み合ってな?」


 と、十七女の一人と組み合う。


「で、こうやってコカす」


 ころんっと、十七女を地面に転ばせる。

 回転が楽しかったのか、十七女は「きゃっきゃっ!」と笑っている。


「で、転んだ方が負けだ。これからみんなでハビエルオジサンと勝負して、もし勝てたら、今日は弟妹全員にスフレホットケーキを食わせてやろう」

「「「「きょーだいぜんいん!?」」」」

「「「「すごーい!」」」」

「ヤシロ……ヤシロ!」


 盛り上がる妹たちを眺めていると、エステラが俺を呼び寄せた。


「この作戦はすごくいいと思うけど、いいのかい? 『弟妹全員』なんて言って」

「あぁ。夕方から、パウラとネフェリーがスフレホットケーキの練習をしに来るんだ。明日のイベントで販売するためにな。どうせ練習するなら、美味そうに食ってくれるヤツがいた方が張り合いも出るだろ?」

「……シスターが拗ねない?」

「あいつは、ガキには優しいからな」


 パウラたちがちょっと頑張ってたくさん焼けばいいだけの話だ。


「ちなみに、ヤシロチームはハンデとして八人同時に襲いかかる。土俵上にいる全員を倒せばハビエルの勝ち。ただし、ハビエルが許可をすれば、何人でも助っ人を増やしてもいいものとする!」

「くぅ! ワシが妹ちゃんたちに乱暴できないことをいいことに! しかし、さっきお前がやってみせたように優しく転がしてあげれば問題はない! この勝負、受けた!」

「よし、ナタリア。ハムっ子を全部呼んでこい!」

「いや、ヤシロ。さすがに全員は……ミスター・ハビエルが許可しないと参加できないんでしょ?」

「バカだなぁエステラ。優しいハビエルオジサンが、弟妹の中で仲間はずれなんか作るわけねぇじゃねぇか。なぁ?」

「くぅう! ヤシロはそーゆーとこ、ホントズルいよなぁ! もうもう! ハビエルオジサン困っちゃう~!」

「顔がまったく困っていませんわよ、お父さ……いえ、不審者さん」


 イメルダがデッカい弓矢を構える。

 もう木こりとか一切関係なく、ただの暗殺者じゃん、それ。


「ハビエルさんは、妹さんたちとの触れ合いを十分に堪能するでしょうが……なるべく急ぎます」

「頼むぞ。お前の努力で、四十区の資産が四十二区に流れ込んでくる! 走れ、ナタリア!」

「ナタリア――まいります!」


 ぎゅん――と、ナタリアが駆け出す。

 速い速い。

 ロレッタみたいなマンガ的な速さじゃないが、凄まじい速度だ。


「ハビエルオジサン、いくよ~」

「はっけよ~い」

「「のこった~!」」

「わはぁ。のこっちゃった~」

「貫け、我が必殺の矢よ!」


 実の娘から放たれる必殺の矢を片手で受け止めながら、群がってくるハムっ子たちと相撲を始めるハビエル。

 全然ビクともしていないのに「うわ~、強いなぁ~負けちゃいそうだ~」とか言ってめっちゃ楽しそうだ。


「……アレと、アノ人魚がアタシと並び称される三大ギルドのギルド長なんだよね…………ちょっと複雑だよ」


 メドラが、しまりのない顔をさらすハビエルを見て眉根を寄せる。

 ……うん。いや、まぁ……お前も大概だぞ?

 被害者が、高確率で俺なワケだけど。


「援護要請確認ー!」

「援護要請受理ー!」

「援護妖精さんー!」


 そこらにいたハムっ子が、さっそく港へなだれ込んできた。


「「「ハビエルオジサン、あーそーぼー!」」」

「くぅ! 早速大量に来やがって~! もう、弟も妹ちゃんも関係ない! みんなまとめてかかってこい!」

「「「ぅはは~い!」」」


 あ、よかった。

 ちゃんと弟の相手もしてくれるらしい。


「ギルド長に勝ったら、僕らがギルド長ー!」

「「「うっしゃー!」」」


 あ、木こりギルドの手伝いに行ってる年長組の弟たちが、どさくさに紛れて下克上狙ってやがる。


「そういう考えのヤツは真っ先に排除!」

「「「きゃあ~!」」」


 ハビエルも、ある程度年齢のいったヤツには容赦ないな。

 空高く舞い上がるハムっ子年長弟。

 まぁ、あいつらは頑丈だから平気だろう。


「はびえるおぃた~ん!」

「おぃた~ん!」


 普段見かける年少組よりもちっこい、先日ようやく外出許可が下りた妹たちまで参戦するようだ。


「ハビエルオジサンには、この子たちが一番効果的かと思って」


 三女が連れてきたようだ。

 さすが三女。しっかり者!


「……あの子たちが怪我したら、あたし、怒られるかも……ぷるぷる」


 ただちょっとネガティブ。


 それからも、じゃんじゃかじゃんじゃか集まってくるハムっ子たち。

 改めて……多いな!?


「ぅきゃー!」

「きゃー!」

「うぎゃー!」


 参加した、年上の弟から順に排除されていく。

 ハビエル。お前、贔屓がエグいよ。


「のこったぁ~!」

「うわ~、つよいなぁ~! おじさん、まけちゃいそ~!」


 ハビエル……エグいな。


「まったく、締まりのない……ん?」

「めどらままぁ~!」


 腕組みして、呆れ顔でハビエルの痴態を見守っていたメドラのもとへ、ぎゅうぎゅう詰めの土俵に入れなかった妹や弟たちが集まってくる。


「なんだい? アタシはあんたらのママじゃないよ」


 メドラがママ呼びを許すのは狩猟ギルドの一員だけだ。

 ……マーシャは強引に呼び続けてるけど。


「めどらまま、のこった~!」

「アタシじゃなくて、あっちのヒゲオヤジに言っとくれな」

「めどらまま、のこった~!」

「のこった、のこった~!」

「だから、ママじゃないし、のこったは向こうの……」

「「「めどらまま、のこった~!」」」

「あぁ、もう! しょうがない子たちだねぇ! アタシに挑む度胸がある者はまとめてかかってきな!」

「「「ぅははぁ~い! のこった~!」」」


 結局、ちんまいガキどものおねだり光線に陥落し、メドラがガキどもの相手をし始める。

 ハビエルのようにだらしない顔をするでもなく、贔屓をするでもなく、きちんと手加減して、適度に接戦を演じ、ハムっ子たちと相撲を取る。

 面倒見のいいヤツだな、ホント。

 九分九厘趣味でやってる向こうの木こりとは大違いだ。


「おい、弟。こっちでも下克上狙ってみたらどうだ?」

「「「いやいやいや! メドラさんはそーゆーのマジでキレるから無理! ハビエルさんと違って命の危険あるから!」」」


 十二を超えてくると、そこら辺の匙加減も自然と身に付くのだろうな。

 こいつらは冗談でも「ママ」と呼べないらしい。

 狩猟ギルド専属になればそう呼べるだろうが、こいつらはお手伝いだからな。


「はびえるおじさ~ん! まけたけど、もう一回混ざってい~ぃ?」

「ばっちこ~い!」

「「「うははは~い!」」」


 一度負けたハムっ子が再び土俵へ上がっていく。

 あぁ、これはアレだな。『コロン! ってするアトラクション』扱いだな、ハビエル。


「じゃあ、ウーマロ。決着がつくかどうか分からんが、日が暮れる前には止めといてくれ」

「まぁ、あの辺の整備やる時は邪魔なんで退かせるッスけど……」

「よし、僕たちももう一回チャレンジだ!」

「お前らは、負けたんだからこっちの手伝いをするッスよ!」

「「「えぇ~……」」」

「早くやるッス!」

「「「はぁ~い」」」


 年長組は、トルベック工務店でもよく仕事をしている。

 ウーマロには頭が上がるまい。


 こうして、明日の資金はハビエルとメドラから大部分が寄付されることになった。

 うんうん、よしよし。

 四十区と四十一区の資産は、どんどん四十二区に流れ込んでくればいいと思うよ。うん。





 陽だまり亭へ戻る。


「あ、完璧な軍艦巻きをマスターしたロレッタだ」

「あ、本当だ。ヤシロの度肝を抜くロレッタだね」

「むはぁぁ!? その話、やっぱり漏れちゃったですか!?」


 帰るなり大騒ぎだ。

 ……つか、店内が酢飯クサイ。


「おや、ヤシロ様を裸足で踏みつけてはぁはぁしたいロレッタさんではないですか」

「そんなことは言った覚えないですよ!?」

「えぇ……ロレッタ……引くわぁ……」

「言ってないですから、引かないでです、お兄ちゃん!?」


 俺たちのやり取りを、ジネットがくすくすと笑って見ている。


 店内は閑散としている。

 今日はジネットが新メニューの練習中であるため通常営業はしないと告知したのが影響したのだろう。

 それでも陽だまり亭で飯を! ってやって来たヤツにはバラちらしを食わせるようにしている。

 あと、明日のイベントに向けて、どいつもこいつも今日がラストスパートなのだ。

 イベントに直接関係ない連中も、「明日一日、目いっぱい楽しむために!」と、今日中に自分の仕事を終わらせようと躍起になっているのだとか。

 ……この街の人間、ホントイベント好きだよな。


「じゃあ、ジネット。昼飯に、寿司を握ってくれるか」


 ここ数日、散々食いまくっているが寿司ならまだ食える!

 ジャパニーズストマックが「寿司を寄越せ!」と叫んでいる!


「ではみなさん、こちらへおかけください」


 ジネットが、テーブルをくっつけて作ったカウンター席もどきを指して言う。

 カンパニュラとテレサが俺たちをエスコートしてくれる。


「テレサさん。今の椅子の位置は非常によかったですよ」

「えへへ~」

「そこで表情が崩れなければ100点でしたね」

「はぅっ!?」


 ナタリアが、密かにテレサを教育している。

 折を見て、ちょこちょこアドバイスをしているらしい。

 きっと、どの給仕に対してもこうなのだろう。だから信頼が厚いんだろうなぁ。……普段は『あぁ』なのに。


「ではみなさん。なに握りやしょう?」


 俺たちが座ると、ジネットがにっこりと微笑んだ。

 うん。いい雰囲気だ。


「じゃあ、『おまかせ』で頼めるか」

「おまかせ、ですか?」

「あぁ。お前が『これを食べてほしいな』と思うものを、いい感じの順番で出してくれ」

「はい。……少し緊張しますね」


 おまかせは、寿司職人の知識と技量が問われる、難しい注文方法だ。

「おまかせでいいの? やった、じゃあ好き勝手やろ~っと」なんてド三流は、本物の職人の中にはいないと信じたい。


 さて、ジネットのお手並み拝見と行くか。


「ではまず、コハダから召し上がってください」


 青ものか。

 俺はイカから行くのが好きなのだが、今回はジネットのチョイスに身を委ねる。


「コハダってなに?」

「魚だ」

「それは分かってるよ!」

「それ以外にどう答えろってんだよ?」


 エステラがぷくっと膨れる。

 どんな魚かなんか、説明したところで「へぇ~」以外の感想抱かないだろう、お前。


「食ってみれば分かる」

「うん。そうだね」


 魚の知識なんて、生態や習性よりも美味いかどうかが重要なのだ。漁師でもない限りはな。


「お待たせしました」


 俺が頑張って量産した木の器『ゲタ』に寿司が置かれる。

 落ち着いたグレーが美しい、新鮮なコハダだ。


「どれ……」


 ここは粋に手掴みで――


「んっ!? 美味っ!」


 びっくりした。

 ジネットのスキルが四段階くらいレベルアップしている。

 ともすれば癖が強過ぎて好みの別れる青魚なのだが、ジネットの技術がこのコハダをなんともあっさりとした、それでいて強烈なインパクトのあるうま味へと変換している。

 気持ちの良い美味さが口の中に、そして脳へと広がっていく。


「うわぁ、美味しい! ボク、この海魚好き!」

「上品な味わいですね」


 エステラとナタリアも満足したようだ。


「次は、脂の乗ったアジを、おろしショウガと一緒に召し上がってみてください」


 アジはジネットの大好きな魚だ。

 口の中へ放り込めば、ジネットの『好き』が滲み出す、まさに究極の美味さだった。


「ヤバ、もう抜かれた」

「いえ、そんなことはありませんよ」


 いやいや。

 絶対、もう俺の寿司よりジネットの寿司の方が美味い。

 だって、この皮目の切込みとか、絶妙だもん。


「ジネットちゃん、美味し~よ~!」

「海魚だから、という単純な理由を超越した美味しさですね」

「ありがとうございます。では、そろそろイカを召し上がってみますか? 甘味が濃厚で美味しいですよ」

「なるほど。つまみ食い済みか」

「ぅきゅっ……み、みなさん、共犯ですよ?」


 と、自分だけではなく陽だまり亭一同が共犯だと暴露するジネット。

 マグダとロレッタがさっと目を逸らす。

 いや、味の確認は必要だから全然いいんだけどな、つまみ食い。


「甘ぁ~い! なにこれ、もちもちこりこりして、噛めば噛むほど甘くなってく!」

「これは、癖になる味と食感ですね」


 モンゴイカの握りは、エステラとナタリアにぶっ刺さったようだ。

 確かに甘味が強く濃厚だ。

 なるほど。これなら先に青魚を持ってきて正解だったな。

 この後じゃ、アジの繊細な旨味が損なわれていた可能性がある。


 とかなんとか言っているが、美味いもんはどんな順番で食っても美味いんだよ。

 好きなように食えよ、寿司くらい。


「では、次はマグロの赤身を握りますね」

「店長さん、あたしたちの出番はまだですか? ……なんか、待っている間ずっと緊張するです……」

「……マグダも同意」

「そうですねぇ。では、中トロの後、一度蒸しエビを挟んでからお二人の軍艦巻きをいただいてもらいましょうか」

「分かったです!」

「……心構えをしておく」


 脂の乗ったものの後、一度さっぱりとしたもので口をリフレッシュしてウニとイクラか。

 ジネット流の順番は、味覚に次々刺激を与えてくれる。

 まさに――


「味覚のテーマパークやー!」

「お兄ちゃんがハム摩呂みたいなこと言い出したです!?」


 バカモノ。

 こっちこそが元祖じゃい!


 ……いや、俺が元祖なわけじゃないけど。


「ねぇ、同じマグロなのに、どうしてこんなに味が違うの!?」

「脂の差だな」


 赤身と中トロを続けて食べ、エステラが頬っぺたを真っ赤に染めている。

 幸せそうに食うな、お前は。


「私は、中トロよりも赤身の方が好みですね」

「脂は好みが分かれるからな」


 かく言う俺も、大トロのように脂の多いネタよりもあっさりとしたネタの方が好きだったりする。


「ボクは脂の乗った方が好き!」


 とかいう、単純なヤツもいるけどな。

 どーせエステラは玉子やかっぱ巻きも好きに違いない。

 エビサラダとか、絶対食いつくぞ、こいつ。


「あ、マグダとロレッタに覚えてもらうものが増えたな」

「えっ!? まだ軍艦の合格をもらってないのにですか!?」

「……じゃあ、またロレッタより先にこっそり教えてほしい」

「どーしてそうすぐ抜け駆けするですか、マグダっちょ!?」

「……やりたくなさそうだったから」

「やるですよ!? いっぱいお料理覚えるですよ!」


 というわけで、あとで細巻きとサラダ巻きを教えておこう。

 ジネットなら、すぐマスターするだろうな。

『簾』は、いつか巻き寿司を作るだろうと事前に準備しておいたし。備えあれば患いなしだな。


 そして、イヤミのない甘さの蒸しエビを食べた後、マグダとロレッタの軍艦巻きが登場した。

 マグダがウニ、ロレッタがイクラだ。


 形はよし。

 ネタとシャリの量もよし。


 では――


「ん! 美味い!」

「やったです!」

「……マグダなら当然の結果」


 と、尻尾が『緊張するわー!』と毛羽立っているマグダが言う。


「んん! ウニが美味しい!」

「イクラはどうですか、エステラさん!?」

「うん。普通に美味しいよ」

「普通やめてです!」


 一通り、ジネットの『おまかせ』を堪能し、最後に「おかわりタイム」を設ける。

 もう一度食べたいネタをリクエストするのだ。


「大トロ!」

「イカをお願いします」

「じゃあ、俺はアジ」

「はい、少々お待ちください」


 締めの一品を食べて、なんとも豪勢な昼食を終える。


「あぁ、ボク、毎日お寿司がいい……」


 そのうち飽きるわ。さすがにな。


「ジネットがこれだけ握れるようになったなら、明日のイベントは大丈夫だろう」

「マーシャさんの負担を、なるべく減らしてあげたいですからね」


 それで頑張ってたのか。

 でも、マーシャにも握ってもらう。

 味などどうでもいい。人魚が握る寿司だ。それだけで価値がある。

 ……まぁ、ホタテが異常なほど注文されそうだけれども。


「あとは、変わり種も用意しておくか」

「変わり種ですか?」


 まぁ、定番ではあるが、こっちではまだ握っていない――


「玉子焼きとか」

「玉子焼きのお寿司ですか?」

「甘い味付けで、しっとりと焼き上げてな。美味いぞ」

「え~、そうかなぁ? お寿司って言ったら魚じゃなきゃさぁ」


 と、エステラがしっかり『前振り』してくる。

 断言してやろう。

 お前はタマゴの握りが大好きになる!

 お子様舌だからなぁ、エステラは。


「あとはナスとか芽ネギとか山芋とか」

「そういうのも合うんですね。あ、マーシャさんがトビウオの卵を持ってくるとおっしゃってましたよ」

「トビッコか! あれも美味いぞ」


 そうして、明日のイベントに向けて、もう一段階寿司を充実させていく。

 金に糸目をつけずに考えられるって、いいよね。

 お支払いはハビエルとメドラまで♪

 分割手数料は微笑みの領主様が負担いたします☆


「楽しみですね、明日」


 ジネットが窓の外を見つめて言う。


 あぁ、そうだな。

 明日はきっと楽しくなる。


 そんな気がしていた。







あとがき




ウィシャートの結末はあんな感じになりました。

賛否はあるでしょうが、一先ず一段落です。


あとは細々した残務処理です。



本編は一気に変わって賑やかな四十二区です。


妹たちと相撲……取ってみたかったんです!

はっけよいって、のこってみたかったんです!




(*´▽`)「妹たち~、オジサンがお相撲さんのコスチュームを用意してあげたよ~」

(゜Д゜)「逮捕ですわ!」




……はっ!?

なんかイメルダさんみたいな口調の人に逮捕されてしまいました。

たぶん人違いです。

私はハビエルさんではありません!

なので、妹ちゃんたちとお相撲を――




(゜Д゜)「極刑ですわ!」




……あの人、刑事なのか裁判官なのか、どっちなんでしょうか。



あ、お相撲さんで思い出しましたが、

以前家族で食事に行ったんですね。


……いえ、ウチの家族にはお相撲さんも、日頃からまわし一丁で生活している者もいませんよ?

でもお相撲さんで思い出しちゃったんですもの。

人の記憶って不思議ですよね~(*´ω`*)



で、家族とちょっと小洒落たお店にご飯を食べに行ったんですね。

予約とかしちゃって。

高級なレストランみたいなところじゃなくて、

こぢんまりとしていて、温かい感じの、隠れ家的なお店なんです。

で、座席数少ないんで予約していったんですよ


そしたら、お店に入るなり――



宮地「予約していた宮地です」

店員のお姉さん「お待ちしていました(にっこぉ~)」



――って、めっちゃ眩しいスマイル!

「待っててくれたんですかー(≧∇≦)」ってテンション上がるくらいの

100点満点のお出迎えをされたんです。


マスクされていたんですが、

目元がですね、とある声優さんに似てるな~と思いまして、

席に着くなり家族に言ったんです



宮地「あの店員さん、声優の人に似てるね」

宮地「だれ?」

宮地「えっとほら……加藤……みどりさん?」

宮地「サザエでございまーす」

宮地「あぁっ、その人じゃない!」



英美里さんでした。

(≧∇≦)てへっ!


……っていうか、カギ括弧の前みんな『宮地』で分かりにくい!

でもしょーがないですよね、だって家族なんだもの!



最近ですね、

言葉が出てこないというか、

まぁほぼほぼ正解なんですけど、

八割~九割正解なんですけど、ちょこ~っと間違っちゃうことが増えまして。


その食事の時にですね、

私、現場仕事なもので、緊急事態宣言中も出社しなきゃいけなかったんですね。

でも、世間様にはお家でお仕事してる方もいらっしゃるじゃないですか、

パソコンぽっちぽち~って、寝間着のままお仕事して。

なんかそれが羨ましくてですね、

私もお家でお仕事したいな~って訴えたんです。



私「私もホームワークしたいなぁ」

宮地「宿題!」



テレワークでした

(≧∇≦)てへっ


でも八割くらいは正解ですよね。

でもね、国民が一丸となって流行病を防ごうぜって時に出社するのは損した気分……もとい、負けたような……ではなく、メンドイ……なんだかこう、思うところがあり、



宮地「むしろ、会社の方がウチに来い」

職場「無茶言うな、ぼけー」(#゜Д゜)



やっぱりね、足並みを揃えるって大切だと思うんです。

だから、駅員さんは自分家のリビングで「駆け込み乗車おやめくださーい」って言って、

大工さんは自分家のリビングに高層マンション建てちゃえばいいと思うんです。


ダメですかね?


警察官さんはリビングで凶悪犯を捕まえてみるとか、どーです?

ホームワークで。


あ、今思い出しました、

テレワークじゃなくてリモートワークでしたっけ?

まぁ、八割くらい合ってるのでどっちでもいいですね(≧▽≦)




そういえば、駅員さんとか警察官さんとか、

あの制服って持ち帰ってるんですかね?


家で着たら、幼い子供にキラキラした目で見てもらえそうじゃないですか?

「おとうしゃん、かっけー!」みたいな!


娘さんだったら「しょーらい、おとーしゃんとけっこんするー!」

とか言われちゃうかも!



駅員さん娘「しょーらい、おとーしゃんにかけこみじょうしゃするー!」

駅員さん「はっはっはっ、じゃあその時は特別に、ドア、開けちゃおっかなぁ~」



とか



警察官さん娘「しょーらい、おとーしゃんにたいほされるー!」

警察官さん「お父さん、刑事さんじゃないからなぁ。なかなか逮捕はしないんだよ~」

警察官さん娘「じゃー、しゅーとくぶつとして、おとーしゃんにとどけられるー!」

警察官さん「拾得物横領されないように気を付けるんだぞ~」



みたいな!


いいですね、制服パパ。

ママさんも、お仕着せとか着てくれると楽しいかもしれませんね。



三兄弟兄「なーすふくー!」

三兄弟弟「せーらーふくー!」

三兄弟妹「ちゃいなどれすー!」



お母様、いろんなお洋服でお酒勧めるお仕事されてます!?

いや、バリエーション豊かで素敵ですけども!



三兄弟母「いえ、ただの事務員です」

宮地「あ、そうなんですか。いや、申し訳ない。勘違いでし……何着て仕事してんの!?」

三兄弟母「服装は自由な会社なんです」

宮地「自由度、高っか!?」



ウチの会社にもいてほしいですね、ナース服で仕事する事務員さん……

ウチの会社、服装結構自由なんですけどねぇ……

真っ赤な髪をした女子社員とか、「なにザイル!?」みたいな髪型の男性社員とか、「クリリンのことかー! の直後!?」みたいな髪型のオジサンとか……



宮地「自由度、高っか!?」



……まさか、自分の会社に向かって言うことになるとは。

最近、背中を大きく開ける服って流行ってるんですかね?

前から見ると、ふわっとした軽めの服なのに、後ろががっつり開いてて、

チューブトップと背中がメッチャ見えてるってファッションしている人をよく見かけます。


一昔前は、肩だけを出すような服流行ってましたよね。

90年代はヘソを出したり、

2000年初期は見せパン出したり、

そして今年は背中ですか?




いつになったら流行るんですか、ビキニアーマー!?




もうそろそろいいでしょう!?

80年代のゲームでメッチャ見かけましたよ、ビキニアーマー!

ヴァリスとかマドゥーラの翼とか!

ブームは巡るのでしょう!?


レッツ、ビキニアーマー!

\(≧∇≦)/




布面積は小さいけど、不思議と防御力は高い(はず!)だから

皆様もじゃんじゃん装備しましょう!

色とかブランドじゃないんです!


令和の時代は、防御力を重視していきましょう!



……それだと、フルプレートアーマーが流行ってしまうか orz


仕方ありません。

ビキニアーマーは本作でも登場しておりませんし(……してない、ですよね?)

本作で多くの女の子が夢中になっているものから流行を発信してみましょう。

もしかしたら、女の子の定番ファッションになる、かも☆



今、本作で女の子たちが夢中になっているもの、

そう、お相撲です!



というわけで、令和は『まわし』でトレンドを先取りしましょー!


\(≧∇≦)/流行ってもいいよ!




というわけで、

お食事処で笑顔の素敵な店員さんと出会ったというお話でした。


(;゜Д゜)そーいや、そんな話してたな!?




次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
[一言] レンガ舗装の強度問題もあるけど、重いものを運ぶから沈み込みとかも考えないといけないですよね 領主のように、しっかりした道にしないと。 Nリア「つまりエステラ様のように、いつまでも平坦を保て…
[一言] 元々ゲームが原作のとあるファンタジー小説では 女性は女神の加護をより受けるため 防具は最低限で露出多めという設定があったようなww
[良い点] やっと本編(後書き)が帰ってきましたね。相変わらずで安心しました。 相変わらずといえば、エステラさんの胸も相変わらず(ナイフ『サクー!』) 四十二区もごたごたが片付いてほのぼのした日常が…
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