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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第三幕

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562/821

364話 追放と報恩と最後の忠告

 三大ギルド長、それぞれの規格外な力を目の当たりにして、その場にいた者全員が言葉をなくしていた。

 いつもと変わらないのは、当の三大ギルド長たちだけだ。


「こいつが終われば四十二区で祝賀会だろ? また寿司が食えるかもしれねぇぞ」

「ダーリンの握ったお寿司は美味しかったねぇ。アレがまた食べられるなら、このクッソ重たかった『人魚入れ』を運んだ甲斐もあったってもんだ」

「違うよ~ぅ。『陸上オーシャン』だからね。覚えてよね☆」

「お断りだよ!」

「ワシも、もう記憶から消してぇよ。こんな恐ろしい破壊兵器……」

「そんなこと言うと、ヤシロ君に頼まれて用意した、おいっし~ぃニシンの卵、食べさせてあげないんだからね! ぷ~んっだ☆」


 あぁ、数の子、用意してくれたんだ。

 なんて、そんな現実逃避しちゃうよね。


「こ、こほん。とにかく、事態を収拾しようか」


 エステラが場の空気を変えるように言う。

 そうだな。さっさとウィシャートたちを牢屋へ放り込んで、俺たちは帰るとしよう。


「メドラ、ハビエル。こいつらを地下牢に入れたら、二十四時間体制で見張りを頼む。仲間割れや自害をしてでも口を閉ざそうとするかもしれないからな」

「あぁ、任しといておくれ」

「こっちも、人選と当番はもう決めてあるぜ」

「あっ、じゃ~さじゃあさ、海漁ギルドからも人を出すよ~」

「人魚がいたところで、どーやって牢屋を見張るのさ!?」

「確かに、戦力にゃあならねぇな。水槽の中しか動けないんじゃぁよぉ」


 いや、ハビエル。

 マーシャはその中でも十分戦力になるだろう。

 お前ら二人以外には抑えることも出来ないと思うぞ。


「でもでも~、ウチの可愛い人魚たちがいると、見張りの子たちも張り合い出ると思うよ~。ねぇ?」

「ママ! やっぱり、三大ギルドは協力体制が重要だと思うんだ、俺は!」

「そうですよ、ハビエルギルド長! 木こりと狩猟と海漁、この三つの組織が協力することでこの街の平和は守られると思います!」

「お前ら……そんなに人魚が好きかよ」

「まったく、情けない男どもだねぇ。こんな乳だけ女に鼻の下伸ばしてさ」


 乳だけ女?

 いいじゃないか!

 乳こそが至高なのだから!

 あぁ、いや違った。「マーシャは乳だけなんかじゃないぜ」と、これが正しいフォローだったな。


 それはそうと――


「マーシャ以外に陸に上がりたがる人魚なんかいるのか?」

「うん。最近は、陸が楽しそうって思う子が増えたんだよ☆ まぁ、私が海で自慢しまくっちゃったせいなんだけどね☆」


 古い人魚は人間に対する反感や嫌悪感、差別意識みたいなものを持っていると聞いたことがあるが、若い世代はそうでもないのかもしれない。

 特に、マーシャの近くにいる若い人魚たちは影響を受けて陸に興味を持つかもな。


「四歳くらいのちっちゃい人魚は、ほんっとぉ~に可愛いんだよぉ~☆」

「ちょっと詳しく聞かせてもらおうか、海漁の!」

「さぁ、バカな話してないで、仕事するんだよ、ヒゲ筋肉!」

「待て待てメドラ! まずはワシらギルド長同士が会話を重ねることでだな……」

「娘を連れてくるよ!」

「ごめんなさい!」


 三大ギルドって、こんな力関係だったっけな?

 なんか、仲がいいんだか悪いんだか……


「あぁ、ヤシロのせいで三大ギルドが……」


 絶対俺のせいじゃないから、言葉にして既成事実作ろうとするのやめてくんない、エステラ?


「それじゃあ、ウィシャートたちを連行してくれ」


 賑やかなギルド長どもを放っておいて、ウィシャートたちを取り押さえている狩人と木こりに頼む。

「はい」と、素直に言うことを聞いてくれる。

 お前らもこの素直さを見習え、ギルド長ども。


 そして、狩人が先頭に立ちウィシャートたちを連行しようとしたその時、ヤツらが現れた。


「おい、そいつを連れて行く前に、俺たちにも話をさせろよ」


 狩猟ギルドを押しのけて、図体のデカい二人が割り込んでくる。

 木こりと狩人が素早く領主たちを守る位置に移動し、給仕長たちも一斉にピリつく。


「ノルベール……ゴッフレード……っ!」


 声を漏らしたのはドールマンジュニアだった。

 この二人との関わりが最も深かったのは、このドールマンジュニアだったのだろう。


「テメェらの失態は、俺たちがきっちりと報告しておいてやるぜ」


 ノルベールがデイグレア・ウィシャートを見下ろして言う。

 報告ってのは、バオクリエアにってことだろう。

 ウィシャートの失態により、バオクリエアが築き上げていた販売ルート――侵略ルートが崩壊した。

 ウィシャートの失点を報告し、代わりの案を持ち掛ければ、ノルベールも重用されるだろう。


「ウィシャート家が根こそぎ駆逐されたとなっちゃ、三十区は当分荒れるだろうな。俺たちが付け入る隙は、まだまだありそうだ」

「勝ち誇っているところ悪いんだけどね、ノルベール」


 エステラがノルベールを指さして言う。


「君は本来、この場所にいてはいけない人間だということを忘れていないかい?」


 ノルベールは追放処分になっている。

 今現在、オールブルームの中にいること自体がおかしい。


「それも、ウィシャートが侵略の意思を隠すためにしたことだ。……そう証言すれば、俺の罪は軽減される。なにせ、俺は被害者だからな」


 三十区を牛耳っていたウィシャートが倒れれば、すべての悪事はウィシャートのせいに出来る。

 三十区に蔓延っていた悪党どもは、これ幸いと「みんなウィシャートに脅されてやっていた」なんて言い出すかもしれん。


 だが――


「ノルベール。お前、獄中からバオクリエアに手紙を送っていたよな?」


 ノルベールは、バオクリエアと連絡をやり取りすることで、ウィシャートに手出しをさせないようにしていた。

 俺が指摘すると、ノルベールは分かりやすく肩をすくめてみせる。


「お前はそれを見てたのか?」


 そんな誤魔化しが利くと思うか?


「ウィシャート」

「…………あぁ。ノルベールは、バオクリエアと連絡を密に取っていた」


 虚偽の証言を封じられたウィシャートが、忌々しそうに証言する。


「囚われの身だったんでな。生存報告をしていたまでだ。それが何かの罪になるのか?」

「いいや。ただ、ノルベールはバオクリエアと非常に親密な関係にあるという事実の証明に過ぎん」

「当然だろう。俺は、バオクリエアの商人だぞ。まさか、バオクリエアと関わっていただけで犯罪者扱いする気じゃねぇだろうな?」

「まさか。出身地で人を犯罪者には出来ねぇし、いくらお前の祖国が執拗にオールブルームへの侵略を目論んでいると言っても、一般人であるお前を裁く法はオールブルームにはねぇよ」

「当然だ」


 にやりと笑うノルベール。

 その隣で、ゴッフレードまでもが笑っている。


「オールブルームには、な」

「……なに?」


 ノルベールの目つきが鋭くなる。

 今さら警戒してるのか?

 危険を顧みず、お前のお仲間からのお願いを聞き届け、親切にも無償で助け出してくれたって、俺に心許しちゃってたのか?


 お前、大丈夫か?


「なぁゴッフレード。お前は俺にこう言ったよな? 自分はノルベールと相互扶助の関係にあると。バオクリエアの王族に裏切られないよう互いが生きているという状態に固執していた」

「……それがなんだ?」


 なに。事実の確認さ。


「つまり、今回お前が必死になってノルベールを救出したのは、バオクリエアに対する牽制というわけだ」

「別におかしなことじゃねぇだろ。俺らみたいな仕事をしてりゃ、命の危険はごろごろ転がってやがる。その危険を少しでも減らすためには、多少の危険も冒す。そういうもんだ」

「なるほどなるほど」


 これはいいセリフを聞いた。


「つまりお前は、保身のためにノルベールに生きていてもらわなければ困る。そのためには、多少の危険も厭わない」

「さっきから何が言いてぇんだ、テメェは!?」

「ただの確認さ。ゴッフレードとノルベールはとっても仲良しさんなんだなってよ」


 ゴッフレードが顔を顰める。

 仲良しと言われて虫唾が走ったような表情だ。

 だが、その程度で済むのもここまでだぞ。


「ママ、見つけてきたゼ。バオクリエアの紋章が入った、怪しい種子が入った布袋! 見取り図にあった隠し部屋の中に置いてあったゼ!」


 アルヴァロが、見覚えのある布袋を持って駆けつける。

 ナイスタイミングだ。

 女子人気の高い男はタイミングまでいいのか、……くそ。

 いや、リベカが宝物庫の在処を『聞き当てて』くれたおかげでスムーズに事が運んだわけだ。つまり、モテるのはリベカの方だ。だから婚約者がいてラブラブなのか……くそっ。


「ドールマンジュニア」


 そして俺は、『今現在虚偽の申告を封じられている』と周知されているドールマンジュニアに話を振る。


「あの袋は、なんだ?」

「……くっ。ゴッフレードが持ってきた物だ。中身は何かの種子だ。何の種子かまでは分からぬ」

「すべてを包み隠さず話す――だったよな?」

「……うぐっ」


 俺にしゃべらされるのが屈辱なのか、ドールマンジュニアは顔を歪めて悪足搔きをする。

 が、観念したのか、忌々しそうなため息を吐いてすべてを話す。


「とても貴重な物だと、ゴッフレードは言っていた。ノルベールがバオクリエアに戻れない現状と、その布袋の紋章から判断して、それはバオクリエア王家からウィシャート様への贈り物だと考えられる。種の形状から察するに、おそらくMプラントの改良品であろう」

「なるほど」


 よろしい。

 よく出来ました。

 今証言したドールマンジュニアも、ドールマンジュニアにそう思い込ませたゴッフレードもな。


 さて、この話を聞いて顔色を変えた者が一人だけいた。

 ノルベールだ。

 思ったよりも頭のキレるヤツかもしれないな。


「ゴッフレード。その話は本当か?」

「ん? あぁ、まぁな」


 青ざめた顔でわなわなと震えるノルベール。

 ゴッフレードは、そんなノルベールの異変を気にも留めていない。

 大方、「出し抜かれたと勘違いして焦っている」くらいにしか考えていないのだろう。


「なるほどな……『オールブルームには』ってのは、そーゆーことか……っ」


 胸の内に渦巻く感情を押し殺すように、ノルベールが長い髪を掻きむしる。

 一方のゴッフレードはいまだのんきな表情だ。

 あ~ぁ、こりゃやっぱ、お前はノルベールのとこの下っ端だよ、ゴッフレード。

 ノルベールには、もう見えたようだぞ。

 お前がしでかしてしまった――俺に言われるがままに『やらされてしまった』大失態が引き起こす、絶望的な未来がな。




 表情を強張らせるノルベールを見て、ゴッフレードは鼻を鳴らす。

 とても落ち着いた、『裏を知る者』の余裕を見せて。


「まぁ待て、ノルベール。そう焦るな。あの袋は――」

「そんなことは分かっている!」


 ゴッフレードがあの布袋の真実を告げようとしたが、ノルベールはそれを拒む。

 バオクリエアと連絡を密に取り合っていたノルベールなら、もしかしたらゴッフレードよりもバオクリエア内の情勢に詳しいかもしれない。

 まぁ、ノルベールごときがどこまで第一王子に重用されているのかは知らんし、ノルベールにいい顔をしつつゴッフレードを使って新たなルートを作ろうとするなんてこともあるのかもしれない。


 が、そんなことは、今はどうでもいい。


 ゴッフレードの持ち込んだ『バオクリエアの紋章が入ったとても貴重な物』が本物でも偽物でも、ノルベールたちを待ち受ける未来は変わらない。


「テメェ、なんてことをしてくれやがったんだ、ゴッフレード!」

「何って、俺はテメェを助け出すために――」

「あの袋が、今回の救出にどう役立った!? なんの関係もないじゃねぇか!」

「それは……ただ単に、使いどころがなかったんじゃねぇのか」

「『ねぇのか』だと……つまり、これはテメェの意思じゃなく、誰かに唆されて……」


 そう呟いた後、ノルベールが俺を睨む。


「……またテメェか」


 それには答えず、小首を傾げてみせる。


「テメェは、どこまで……っ!」


 ノルベールの目が血走っていく。

 そんなノルベールに戸惑いを覚えたのか、ゴッフレードの表情にも困惑の色が見え隠れし始める。


「おい、ノルベール。何をそんなに焦ってんだよ?」


 その発言に、ノルベールの怒りは俺からゴッフレードへ向かった。


「何を、だと? 本当に分からねぇのか?」

「テメェはいつもそうだ。一人で納得したような顔をしやがる。詳しく話せ」


 ノルベールが重いため息を吐く。

 心底がっかりしたような、軽蔑がありありと見て取れるため息だ。


「よく考えろよ、ゴッフレード。使いどころがない物を、なぜわざわざ持ち込ませる必要がある?」

「それは、俺と四十二区に関係があると匂わせて撹乱を――」

「それが目的だ、馬鹿め!」


 ゴッフレードを怒鳴りつけた後、「チィッ!!」っと舌打ちをする。

 ブチブチと髪が千切れるくらいに掻きむしり、ノルベールが「んなぁぁぁああ!」と咆哮する。


「どういうことだ、ノルベール? テメェが怒り狂ってる理由を言え!」

「怒らずにいられるか! テメェのせいで俺たちは破滅だ!」

「訳が分からん! 説明をしろ!」

「この底なしの馬鹿が!」


 ノルベールが真っ赤に充血した瞳でゴッフレードを睨み付ける。


「いいか。テメェが持ち込んだあの布袋が、もし本物だった場合。テメェはバオクリエアと三十区の間を取り持つ任務を失敗したことになる。あれがMプラントなら、禁輸品なんて生ぬるいものじゃなく存在そのものを秘匿しておかなけりゃいけねぇ侵略兵器をオールブルーム側に見つかり没収されることになる。御親切にその袋にはバオクリエア王家の紋章入りだ! これがどういうことか分かるか? バオクリエアはオールブルームを侵攻しようという意思があり、内部崩壊を画策していたという証拠を、敵国の王族に握られるということだ!」


 そうなりゃ、宣戦布告と見做され、バオクリエアはオールブルームへの干渉を一切断たれるだろう。

 オールブルームが出兵するかどうかまでは分からんが、内部崩壊を画策していたバオクリエアの計画は完全にご破算となる。


「い、いや、待て! あの中身は――」

「しゃべるな! 迂闊に発言を記録させんじゃねぇよ!」


会話記録カンバセーション・レコード』には、すべての会話が記録され、それは裁判で重要な証拠となる。

 証言が文書化されれば、他国へ伝わってしまうこともあるかもしれない……よな?


「もしあの中身が偽物で……いや、あの袋自体がでっち上げのインチキだったとしたら、テメェはバオクリエアの名を騙り、二国間に不和をもたらせたことになる! 他国で戦争の火種をまき散らされたバオクリエアはもちろん、内部を引っ掻き回されたオールブルームの王族も黙っちゃいない。両国がこぞってテメェを始末しようとするだろうよ!」

「……なっ!?」


 ゴッフレードが息を呑む。


「くそがっ! そんなことに俺まで巻き込みやがって!」


 戦争の火種をまき散らしたゴッフレードは、大の仲良しであるノルベールさんを助けるために、二国間を繋いでいた三十区の領主をぶっ潰す手助けをしちゃったんだって。

 まぁ、王族が聞いたらはらわた煮えくり返らせそう。


「ま、待て! 俺はそんなつもりは……っ! こ、こいつに言われて――」

「いいのか、ゴッフレード?」


 焦って真実を暴露しようとしたゴッフレードに釘を刺しておく。


「今、お前が口にしようとしたこと……本当に口にしても、いいのか?」


 よぉく考えろ。

 その軽そうな頭をフル回転させて。


「もしかしてお前、『これは全部俺や四十二区領主に言われてやったことだ』なんて言うつもりか?」


 事実はその通りである。

 だが、その事実は、不都合な事実の証明にもなってしまう。


「それはつまり――オールブルームの貴族と協力して、バオクリエアが長年かけて築き上げてきた侵略計画を完全に潰した――って、ことになるけど、そんな証言して、お前、大丈夫なの?」

「……て、てめぇ…………っ」


 お前は二つの大きな権力の間を行ったり来たりして、牽制し合う権力を盾に好き放題やっていたつもりなのかもしれない。

 だが、それは裏を返せば、どちらかに大きく偏れないということだ。

 ヤジロベェは、バランスが取れるごくわずかな範囲でしか自分を保てない。片方に大きく傾けばあっという間に崩壊してしまう。


 ゴッフレードが真実を口にすれば、本人の意思など関係なく『オールブルームに加担してバオクリエア潰しを行った』という事実が残る。

 ゴッフレードは、この先ずっとバオクリエアに付け狙われることになるだろう。

 ヤツがこれまで散々口にしてきたであろう「いざとなりゃバオクリエアを裏切ってオールブルーム側に取り入ってやる」なんて口先だけの発言とは重みがまるで違う。

 なにせ、侵略の扉を閉じただけでなく、根元から完全に崩壊させられたのだから。

「やるぞ? やっちまうぞ?」なんてのは、やらないからこそ脅しとして効果を発揮するのであって、実際やっちまったら、そのあとに待っているのは報復だけだ。


 ウィシャート家は長く三十区に君臨している。

 その背後にバオクリエアの影が付きまとっていたのだとすれば、ゴッフレードが生まれるより以前から、バオクリエアはウィシャート家と関わりを持っていたことになる。 


 それだけ長い年月をかけた計画が完膚なきまでに叩き潰されたのだ。

 毒物を使って内側からじわじわ嬲り殺すのが得意な陰険陰湿なバオクリエアが、その原因となった者を何もなしで見過ごすわけがない。


「あの布袋が偽物だったと判明したら――オールブルームとの関係を維持したいバオクリエアは『これまで出回った危険な薬物は、すべてゴッフレードが違法に国外に持ち出したもので、バオクリエア王家は一切関与していない』なんて声明を送りつけてくるかもな」

「待てっ、俺一人でそんなことが出来るわけ――」

「事実なんてどうでもいいんだよ。王族なんてものは、建前と体面さえ整えば、真実に目をつぶるなんて平気でやってのける。そういうもんだろ?」


 どちらの国も、自国に被害は出したくない。

 全面戦争になれば相当に疲弊するのが目に見えている。

 なら、相手が弱って簡単に侵略できるようになるその日まで、笑顔で仲良しのふりをしていた方がいいだろう?


「一人では出来ないからこそ、お前は『仲良しのノルベール』を救出しに来たんだろ?」

「テメェ……まさか、それを狙って……」


 おいおい、ゴッフレード。

 まさか、お前……、俺が何の狙いもなくお前に指示を出していたと思っていたのか?

 とんだハッピーボーイだな。頭ん中フラワーカーニバルか?


「あぁ、そうそう。そういやお前は、『バオクリエアの命令で、ノルベールと一緒に外周区を荒らし回っていた』とも証言したよな? 外周区が弱れば、バオクリエアが侵攻しやすくなるからって」

「俺はそんなこと――!?」

「『会話記録カンバセーション・レコード』」


 下らない反論は時間の無駄なので、『会話記録カンバセーション・レコード』にて、ゴッフレードの証言を提示する。

 ゴッフレードが現れ、俺と賭けをして、その直後の会話だ。


『外周区が荒れれば侵攻はしやすくなる』という発言がある。

 そして、俺の『お前とノルベールはオールブルームの守りを弱体化させようとしていたわけか。バオクリエアが攻め込んできた時に、すんなりと王族のいる中央区まで進軍できるように』という質問を肯定した。


「お前の曖昧でぶつ切りな発言を、俺がわざわざ分かりやすく、且つ一目瞭然に翻訳してやったんだ。親切だろ、俺って」

「テメェ……まさか、あんな前からこうなることを狙ってやがったのか……」


 あんな前から、だと?

 当たり前だ。


 テメェみたいな危険人物を野放しになんかするわけねぇだろうが。


 こいつは、ジネットの発言を取り上げ『精霊の審判』で脅しやがった。

 その後、エステラの寝所に案内しろとまで発言しやがった。

 ただの悪い冗談などでは済まされない。

 あのような場面でそういう発言が出てくるのは、日頃からそういうことを考えている証拠だ。人は、考えたことがないような内容は口に出来ない。

 思わずぽろっと出てくるのは、そいつが建前の裏に隠している本心の一部なのだ。


 ゴッフレードは、機会があればそれを実行する危険人物である。


 こいつがジネットに悪意を向けた瞬間から、俺はこいつの排除を心に誓った。

 何があっても、ゴッフレードだけはオールブルームから追放する。

 一切の慈悲もなく、完膚なきまでに、徹底して関わりを断ち切る。


「この証言がある以上、オールブルームのどこにもテメェの居場所は存在しねぇんだよ、ゴッフレード」


 ゴッフレードの証言があり、そして実際に被害に遭ったという過去が存在する。

 それだけで十分にゴッフレードを裁くことが出来る。



「お前が捕らえられたという情報がバオクリエアに届いたら、第一王子はどう動くだろうな?」

「テメ……っ!」


 どうせもとより信頼も重用もされていないゴッフレードだ。

 計画が潰れたのなら、それはいい機会だとばかりに始末されるだろう。


「もしくは、ウィシャートと深く関わりのあった、オールブルームの貴族連中がお前の口を封じに来るかもしれねぇな。自分の悪事を他国のゴロツキに背負わせるために、なぁ?」


 ウィシャートの口からおのれにとって不利な発言が出ないように画策する貴族は大勢出てくるだろう。

 ウィシャートに付いて裏の仕事に従事していたゴッフレードなんてのは、知られちゃ困る秘密の宝庫みたいなもんだ。

 お前はそれを、自分の武器であり強みだと思っていたようだが……そいつはいつ爆発してもおかしくない爆弾みたいなもんなんだ。扱いを誤れば、吹き飛ぶのはお前自身さ。

 お前を狙うのは王族だけじゃない。

 これまでお前が関わってきた者すべてが、お前の敵になる。


 特にお前は口が軽そうだからなぁ、ゴッフレード。

 信用って、こういう時に、物を言うんだぜ?

 日頃の積み重ねを怠ったお前の、自業自得だ。



「ゴッフレード。お前は俺にこう言ったよな? 『その頭にしっかりと刻んでおくんだな。この街には、逆らっちゃいけねぇ相手がいたんだってことをよ』と」


 けどな、そいつは間違いだぜ。


「敵に回しちゃいけねぇヤツは……世界中にいるんだよ」


 それこそ、異世界にだってな。



 その視野の狭さが、テメェの敗因だ。




「ゴッフレード。今ならまだ好きな未来を選べるぜ」


 ようやく事態を把握して青ざめるゴッフレードに告げてやる。


「オールブルームとバオクリエアのどちらかに骨を埋めるか――この先、言葉も通じない異国へ逃げて一生逃亡生活を続けるか」

「テメェ……オオバ、ヤシロ……っ!」


 ゴッフレードの筋肉が盛り上がっていく。

 怒りが限界を突破して思考が停止したのだろう。


「テメェも道連れだぁ!」


 俺の頭ほどもある拳が振り下ろされる。

 だが――


「させると思うかい?」


 メドラとハビエル、そしてナタリアが俺を守ってくれていた。

 ゴッフレードの背後にはイネスとデボラまでいて、ゴッフレードの息の根をいつでも止められる位置に陣取っている。


 そうなることが分かっていたから、俺は身じろぎ一つしなかった。


「これが、俺とお前の差だよ、ゴッフレード」


 お前は、俺を同類だと言った。

 あぁ、確かにな。デッカいジャンルで言えばその通りかもしれねぇよ。

 人類を善人と悪党の二つに分ければ、俺は間違いなく悪党側さ。


 だがな。


「テメェは自分の利益のために他人を利用し、裏切り、使い捨てる。一方の俺は自分の利益のために最良の土壌を作り上げる。いわば、テメェは他人を騙す悪党で、俺は他人を信用させる悪党なのさ」


 詐欺師に一番求められるのは信頼感だ。

 バレれば即終了なんて綱渡りの悪事しか出来ねぇ三流が、俺と同じ土俵に立ってるつもりになってんじゃねぇよ。



「ゴッフレード」


 動きを封じられたゴッフレードに、エステラが告げる。


「ボクたちは本日、今回の件を踏まえて正式に統括裁判所へ提訴する。ことの詳細を記載した報告書を添えてね。それが、何を意味するか、分かるね?」


 エステラとここにいる領主とギルド長が連盟で報告書を提出すれば、それは統括裁判所を窓口にして王族へと知らされる。

 そうすれば、数日の内に本日起こったこと、そして『湿地帯の大病』の真実と、長年にわたって行われてきたバオクリエアとウィシャートによる侵略行為の概要がオールブルーム中に知れ渡ることとなる。


「君に残された猶予はない。生き延びるつもりなら、今すぐに荷物をまとめてこの街を離れ、二度とここへは近付かないことだね」

「ぐ……っ!」


 ゴッフレードをカエルにすることは出来ない。

 だが、これからは憲兵へ突き出すことが出来る。

 なにせ、国家転覆を目論んだ他国の侵略者なのだから。


「君は悪名を轟かせ過ぎたんだよ。……君の顔は、わざわざ似顔絵を作成するまでもなく多くの者が知っている。おかげで経費が削減できて助かるよ」

「てっ……テメェ!」

「いいのかい、もたもたしていて。君を恨みに思っている領主は、この場に大勢いるんだよ?」


 ゴッフレードが視線を巡らせる。

 きっとその目には、恨みのこもった目で自分を睨む領主の顔がたくさん見えたことだろう。

 分かりやすく顔を引き攣らせやがった。


「まぁ、ほんのちょっとだけだけれど、今回の件に貢献をしたと認められる部分もあったからね。……これが最後の情けだよ。今すぐボクの目の前から消えて、そして二度とボクの視界に入るな」


 中には、ゴッフレードを統括裁判所に突き出して極刑を与えるべきだという意見もあった。

 だが、今回のまとめ役はエステラだからな。

 他の領主連中もその辺を汲んでくれて、一度だけ猶予を与えてやることとなった。


 二度とオールブルームに近付かない。


 それが守れるなら、命だけは助けてやるってな。

 ゴッフレードが改心するなんて誰も思っちゃいない。

 悪党から足を洗えないならそれでもいい。



 だが、もしこの次オールブルームにちょっかいをかけるようなことがあれば、その時は――



「くっそ……がっ!」


 エステラと、そして俺を睨んでゴッフレードが駆け出した。

 最後に悪足掻きで一発くらい殴りかかってくるかと思ったのだが――


「水鉄砲☆」

「ぅおう!?」


 マーシャからの牽制が入り、ゴッフレードは歯ぎしりをして逃亡した。


 これでもう、二度とあいつの顔を見ることはないだろう。

 ま、念のために人魚のお守りでも作って売り出してみるかな。

 海難と悪党避けのお守りだ~とか言って。



「さて、ノルベール」


 ゴッフレードが去り、ノルベールが残される。

 周りには、怖ぁ~いギルド長と給仕長。

 ノルベールは大人しく、ことの成り行きを見守っていた。

 暴れるつもりは、もはやないようだ。


 メドラたちに視線を送り、ノルベールと俺の間をあけてもらう。

 差し向かい、一対一で話をする。


 俺が前に立つと、ノルベールは苦虫を噛み潰したような表情で少し笑った。


「俺とゴッフレードの立場が逆だったら、まんまと利用されることはなかったのによ」

「いいや。相手がお前だったら、お前用のプランでまんまと騙してやってたさ」


 ゴッフレードより頭が切れるなら、頭が切れるヤツ用の詐術を駆使するまでだ。

 バカにはバカの、頭のいいヤツには頭のいいヤツなりの騙し方ってもんがある。

 結果は一緒だったさ。


「これで、貴族への夢もおしまいか……」

「もとより、似合わねぇよ。お前に貴族なんてよ」

「けっ! 言ってくれるぜ」


 自分の利益のことしか考えられないヤツに貴族は向かない。

 自分のことしか考えていない貴族がほとんどではあるが、じゃあそいつらが貴族に向いてるかといえば、それはNOだ。

 そいつらは、今たまたま貴族でいるだけで、決して求められてそうなったわけではない。


 そんな不向きな貴族は早晩潰され、引きずり下ろされる。

 欲をかいて身を滅ぼしたグレイゴンのようにな。


 一度、エステラに視線を向ける。

 エステラは口元を緩め、静かに一度頷く。


 もう一度視線をノルベールへと向け、言葉を投げる。


「ノルベール。お前には言っておかなきゃいけないことがある」


 一歩踏み出せば、ノルベールが微かに身構える。

 だが、周りには身体能力が人間離れした者たちがわんさかいる。

 ノルベールが何をしようがすべて徒労に終わる。


 そう悟ったのだろう。

 ノルベールは肩の力を抜き、軽く肩をすくめて息を抜いた。


 それを確認して、俺はノルベールの前まで歩いていく。


 目の前まで来て、その顔を見上げる。

 初めて会った時よりも随分と痩せたか。……そりゃそうか。


「ノルベール」


 俺の、ここでの生活は、こいつとの出会いから始まった。

 こいつの魂胆がどうあれ、身なりのいい俺を見てダダ漏れの下心を抱いていたとしても――




「助けてくれて、ありがとう」




 ――こいつがいなければ、俺はこの街にはたどり着いていなかった。


「あの時、お前が俺を助けてくれていなければ、俺はきっと死んでいた。別の誰かに拾われたとしても、きっと今頃はどこかで野垂れ死んでいた」


 この街で、この街の連中に出会っていなければ、俺はきっと過去を引き摺ったまま身も心も悪党のままで、ゴッフレードやウィシャートにも劣る悪党に成り果てていただろう。


 そんなヤツは、惨めに野垂れ死ぬのが関の山だ。


「お前がどうしようもない悪党で、この街の平和を脅かす存在だったとしても、俺を助けてくれた恩は消えない。……もっとも、香辛料の一件とそれがきっかけでお前が捕まったのはお前にも責任があるし、ウィシャートの性根が腐りきっていた部分も大きいから、まぁ、責任は分散されて、俺の責任はたぶん8%くらいだろうけどな」

「ふざけんな。テメェが80%だろうが」

「いやいや。短気を起こして暴れたお前の思慮が浅かったのが50%、ウィシャートが臆病で陰湿だったのが42%くらいだろう」

「いや、ウィシャートの性根が腐ってたのが70%じゃねぇか?」

「じゃあ、残りを折半して15%ずつでどうだ? これ以上は引き受けられねぇぞ」

「しょうがねぇ。じゃあそれでいい」


 さすが行商人のノルベール。

 交渉がうまい。


「つまりまぁ、あれだ。こんな出会い方じゃなかったら、もうちょっと話が合ったかもしれねぇんだけどな」

「いや、そいつはねぇな。俺はお前が大嫌いだ。そもそも、顔が気に入らねぇ。なんだその陰気な目つきは。もっとぱっちり開きやがれ」

「バカタレ。こういうのは『目元が涼しい』っつって、二枚目の条件だっつーの」

「惜しいな。いい鏡を作る職人を知ってるんだが、それをお前に売ってやる機会がねぇ。なんとか自分で調達しろ。現実が見えるからよ」

「似合いもしないロン毛でイキってるオッサンに言われたくねぇよ」

「はぁ!? バカか! めっちゃ似合ってるわ! 酒場に行きゃあ女がわんさか寄ってくるってんだよ!」

「おいおい。周りの給仕長たちを見てみろよ。ドン引きだぞ」

「ぐ……っ! こ、小娘にゃ、大人の魅力が分かんねぇんだよ」


 なんだその負け惜しみ。

 バーサ系女子にでもモテたいのか? 渋い趣味だな。


 そんな軽口を叩いた後、俺は指を二本立ててノルベールに突きつける。


「二つ、条件を飲んでくれるなら、俺はお前に恩返しが出来る」



 これが、俺に出来る精一杯だ。




「…………聞かせてもらおうか」


 じっくりと考え、ノルベールが言う。

 考慮する気があるようだ。


「一つ。二度とオールブルームとバオクリエアに関わらないこと」

「バオクリエアにも、か?」

「向こうにも、死なせたくない連中がいるんでな」


 今回の件が伝われば、バオクリエアはまた一段と騒がしくなるだろう。

 そんな時に、ノルベールがしゃしゃり出て引っかき回してほしくないのだ。


 マグダの両親には、怪我一つしてほしくないからな。


「で、二つ目は?」

「悪事から足を洗って、……そうだな、農家にでもなってくれ」

「商人ですらねぇのかよ……」


 だってお前、商人とかやってると今までのクセで悪知恵ばっかり働かせるじゃねぇか。

 そうすりゃ、いつかまた押し込めたはずの野心が鎌首をもたげかねない。


 お前はもう、欲をかかずに今を生きていられる幸せを感じて静かに暮らせ。

 枯れるにはまだ早いが、いつまでも無茶が出来る年齢でもねぇだろ?

 生き方を変える最後のチャンスだと思ってよ。


 ノルベールは腕を組み、静かに考え始める。


 今回のこの件、エステラには俺の考えを話してある。


 もし、ノルベールがゴッフレード並みの救いようのないドチクショウではなかった場合、一度だけ更生の機会を与えてやりたい。

 俺が、多少とは言え、考え方を変えるきっかけをこの街にもらったように。

 俺をこの街に連れてきてくれたノルベールへ、恩返しの意味を込めて。


 その話をした時、エステラはとても驚き、そして笑っていた。

「好きにすればいいよ」と俺の肩を叩き、そして、「そっちの方がボクの好みでもある」と言っていた。


「その条件を飲むんだったら、私が特別に、打って付けの街まで送っていってあげるよ☆ もちろん、街の偉いさんには私が話を通してあげる」


 マーシャがノルベールに告げる。


「人魚の間ではね、アメフラシの糸っていう童話があってね――」


 マーシャが語って聞かせた童話は、こんな内容だった。


 どうしようもない悪党が死に地獄へ落ちた。

 しかしその悪党は生前一度だけアメフラシを殺さずに助けたことがあった。

 それを知っていた海の神は、地獄に落ちたその悪党のもとへアメフラシの糸を垂らし、地獄から抜け出すためのチャンスを一度だけ与えた――


 って、蜘蛛の糸じゃねぇか!?

 そっくりな話が人魚の間で創作されてたんだな!?

 っていうか、アメフラシの出す糸って……卵、だよな?


「その悪党が最終的にどうなったかは教えてあげない。君が自分の人生を懸けて答えを見つけてみてね☆」


 悪党は、自分だけが助かろうと欲をかいて地獄へ逆戻りする。

 そんなラストなのだろう。


 それを聞き、ノルベールは複雑な表情を見せた。


「まぁ、二年も牢屋にいて、正直懲りたっていやぁ懲りたし、そろそろ潮時だとも思っていたがよ……けど、今さら農家になんてよ……」

「よいではありませんか、農家!」


 デカい声がして、一人の男が……いや、鳥が駆けてくる。


「ベックマン」

「ノルベール様! お助けするのが遅れて申し訳ございませんでした! ですが……ご無事で何よりですっ!」


 ベックマンがノルベールの体にすがりつき、おいおいと号泣し始める。


「私、ベックマンは、生涯を賭して恩人であるノルベール様にお仕え致します! 貴族だろうと農家だろうと構いません! ノルベール様のお側が、私の生涯の居場所なのであります!」


 ぎゃんぎゃん鳴くベックマンに、ノルベールは困ったような顔を見せ、でも諦めたように息を吐いた。


「分かったから、泣き止め。やかましい」

「はい! 仰せのままに!」


 ずびぃー! っと洟を啜って、ベックマンがケロッと泣き止む。


「農家だぞ? 出来ると思うか?」

「もちろんであります! ノルベール様に不可能はございません! 私が保証いたしますれば!」

「……はぁ。お前は二年経ってもバカのままだな」

「お褒めいただき、ありがとうございます!」

「……褒めてねぇよ」


 げんなりとした口調は、どこか嬉しそうにも聞こえた。


「おい、人魚さんよ。お前さんの船、もう一人増えても乗れそうか?」

「もちろんだよ~。百人乗ってもだ~いじょ~ぶ☆」


 イナバ物置かよ。

 なんか、人魚の世界、感性が日本と似てないか? 気のせいか?

 え、これも『強制翻訳魔法』の仕業?


「マーシャ。『ふぁいと~』」

「『いっぱ~つ』☆」


 絶対おかしいよな!?

 なぁ、おい、精霊神!

 どこまでがお前のジョークで、どっからが本気なの!?

 こんなくだらないことで『この世界の真実』とかいうもんの片鱗とか垣間見せる気じゃないよな!?

 ただのおふざけだよな!? なんか言えよ、精霊神!


「あぁ~……ったく!」


 ノルベールが長い髪をがっしがしと掻きむしる。

 その癖、早々にやめないと、デミリーの足音が「るんたった♪ るんたった♪」って近付いてきちゃうぞ。


「ベックマン。男に二言はねぇな? とことん付き合ってもらうぞ」

「はい! もちろんであります、ノルベール様!」


 ノルベールに抱きつこうとしたベックマンの顔を鷲掴みにして抱きつかせないノルベール。

 そうやってそばにいてくれるヤツがいれば、案外人生は楽しいもんだ。


「悪党でも人生をやり直せる……被害者のことを考えれば、それが正しいことなのかどうか考えてしまうけれども――」


 エステラが、泣きながら歓喜の声を上げるベックマンと、呆れながらもそれを受け入れているノルベールを見て苦笑を漏らす。



「未来は頑張る人を拒絶しない。そうであってくれたらいいなと、ボクは思ってしまうよ」



 ま、ノルベールが犯した罪ってヤツの被害者はウィシャートとバオクリエアの第一王子くらいなんじゃねぇの。

 間接的にはいろいろいるのかもしれないけれど。


「甘ちゃん領主」

「あれ? この未来を望んだのは君だったと思うけれど? なんなら見てみるかい、ボクの『会話記録カンバセーション・レコード』に記録されたあの日の会話を」

「いらんわ。しまっとけ」


 俺は条件を付けたんだ。

『ノルベールがどうしようもないドチクショウじゃなかったら』ってな。

 なら、その条件をクリアしたノルベールの手柄だろう。

 俺が甘いとか辛いとか、そんなもんは関係ない。


「礼なんぞ言わねぇぞ、オオバヤシロ」

「おぉ~、いらんいらん」


 ノルベールの言葉は手を払って受け流す。

 お前に感謝なんぞされたら胸焼けを起こすわ。


「じゃあ、マーシャ。あとを頼めるか」

「うん。任せて☆ じゃあ、メドラママ。運転手よろしくね☆」

「じょーだんじゃないよ、まったく! ……世話の焼ける人魚だよ」


 文句を言いながらも、マーシャの水槽を押してやるメドラ。

 ノルベールと二人きりになんかにして、マーシャにもしものことがあったらシャレにならないからな。



 ノルベールとベックマンが消え、いまだ中庭と、元廊下だった付近に取り残されているウィシャート七人。


 これまでの一連を見て、なんだか複雑な表情を見せている。

 俺たちがどれほど相手の行動を先読みして計画を立てていたのかを知りおののく感情。

 そして、ゴッフレードを容赦なく切り捨てた残忍さと、ノルベールにチャンスを与えた甘さ。

 自分たちがどのような対応をされるのかという不安と期待。


 いろんなもんが混ざった顔をしている。


「随分と待たせて悪かったな。お待ちかねの地下牢へご案内だ」


 デイグレア・ウィシャートに声をかけると、いまだくすぶる野心の見え隠れする瞳が俺を睨む。


「見ての通り、四十二区の領主はいささか甘過ぎるきらいがある」


 国家転覆の片棒を担いだノルベールを見逃すなんて、他の領主じゃあり得ない。


「そんな四十二区領主が主導する裁判だ。これまでの行いを心から悔い、深い反省と共に真摯に向き合うならば、きっとそうそう悪い結果にはならねぇと思うぞ」


 エステラは、そこまで重い罪を望みはしない。

 一番の被害に遭いながら、一番慈悲の心を持っている。

 理屈ではなく、きっとエステラの本心に刻み込まれているのだろう、あの『なんとかして他者を助けたい』って心情は。


 俺なら、問答無用で全員極刑に処すところだが……実際はもっと甘い罰になるだろう。

 だから、ウィシャートたちにはしっかりと伝えておく。


「お前らご自慢の抜け道は、すべて把握している。もう逃げ出そうなんて考えずに裁判が始まるまで地下牢で大人しくしておくんだな。これが、俺から言える最後の忠告だ」


 デイグレア・ウィシャートは何も言わず、俺の顔をじっと睨むだけだった。


「エステラ」

「うん。じゃあ、地下牢へ連れて行って」


 狩猟ギルドと木こりギルドによって連行されていくウィシャートたちの背中を、俺たちは無言で見送った。






 それが、俺が見たウィシャートの最後の姿だった。







あとがき




はい!

これにて、ヤシロとウィシャートが絡むお話はおしまいです!


……おや?

まだちょっともやっと何か残ってる感じしますか?



…………それは残尿感ではなく?


いえ、最近ですね、寝る前に何度トイレに行っても

「なんか残ってるような……」って、布団の中で不安になること……増えましたよね? ね!?


そんな気持ち悪さをあまり引き摺るのもよろしくないなぁ~




と、いうことで、




明日と明後日、連続更新いたします!

\(≧▽≦)/



小説家になろうの方も、三日連続更新ですよ!(今日分含む)



明日は、連れて行かれたウィシャートたちの

明後日は、その翌日のヤシロのお話になります!


久しぶりの挿話です!

挿話ではないんですけども!

いえ、扱い的にちょっと違うんですよ。

こだわりです、こだわり。

ほら、宮地さんって難しい作家先生ぶる時あるじゃないですかぁ~

( *´艸`)こだわりだって、ぷぷっ


というわけで挿話っぽい、挿話じゃない

エクストラなお話です!


あ、挿話枠ですので、明日と明後日はあとがきがございません。


ですので、あとがきの更新は6日後ということになります。

泣かずに待っていてくださいね(´;ω;`)ぶゎっ……!



正直、明日のお話はどうなんだろう……と、まだ自分の中で不安がいっぱいです。

ヤシロの隣にはいつもジネットがいて

ジネットが見ている世界はいつもキラキラ輝いているので、

ヤシロもそのキラキラ世界をジネット越しに見ているんですよね


でも、この世界でも当然のように闇の部分があったりしまして……



若干、『異世界詐欺師』の作風からズレているような……


不安っ!(´;ω;`)ぶゎっ……!



けどまぁ、

ここまでやってきましたので

思い切って公開しましょう!

そして、皆様にご覧いただいて、

いろいろと感じていただければ、それでいいかなと思います。




けどまぁ、批判があまりに多かったらすぐ消しますけどね!

なかったことにしてやる!

なんなら三幕丸ごと消してやるんだからね!



……というくらいにドキドキしております。



今回、ラストのエステラさんのセリフ。



「未来は頑張る人を拒絶しない。そうであってくれたらいいなと、ボクは思ってしまうよ」



被害者からしたら「ふざけんな!」って話なんですが、

私も、悔い改める機会は平等に与えられるような世界であり、

それで、そんな世界をきちんと受け止めていられる人間でいたいと思います。


線引きが難しいんですが

お金がなくて、どうしようにもなくなって、つい盗みを働いてしまった

という人と、


こいつザッコ! 盗みなんか余裕だし、遊ぶ金欲しいのはみんな同じっしょ!?

みたいなヤツと、


罪状は同じ窃盗でも、前者は立ち直りの機会を与えてあげてほしいと思う反面

後者には重い罰を望んでしまう

被害者でもない私が、勝手な感情で贔屓しちゃうんですよね


果たして、

法律というのは平等であるべきなのでしょうか。

それとも、公平であるべきなのでしょうか。


平等は

裁判官「犯人全員に一発ずつ強パンチ喰らわせます!」


公平は

裁判官「犯人の防御力を考慮して攻撃回数は変えますが、全員に100のダメージを与えます」


もしくは

裁判官「全員の残りHPを4にします」


みたいな感じでしょうか。

どちらが正解なのか、私には分かりませんが

ただ、頑張る人の足を引っ張ったり不幸を願ったりするような人間にはなりたくないなと。


法が不公平だったり不完全だったりしてモヤッとする事件を目の当たりにしたりしますけれども

私個人としては、法に守られている身として法に則って正しく生きていこうと頑張っております。



清く正しく美しく

幼女は愛でる、ノータッチで! をスローガンに

元気に楽しく生きていきましょう!


あぁ、でも揺れるおっぱいにはちょっと触れてみたいっ!

分かってます!

法に触れるってことは!

でも、男にはやらなければいけない時があるのです!


ほうに触れようともぼうに触れたい時が!




……うまいっ!(≧▽≦)




いや、何か真面目な話始めちゃったんで、

もんのすんごい強引に話の方向転換をしてみました。


トレーラーで急カーブ曲がるぐらい「んぎゅぎゅぃぃーーん!」ってUターンを!



ただ一つ、

ヤシロはこの世界に来て、ジネットやエステラ、他のみんなと出会えたことに感謝してるんだなと


やり直すチャンスをもらったって思ってるんだな~ってことが分かりました。

なんだかんだ食って掛かっている精霊神に、ちょこっと感謝してるんですね。


だからこそ、

ゴッフレードにもノルベールにも、ウィシャートにも、

一回だけ選択の機会を与えてあげたのだなと。



なんか、その辺に、ヤシロの

あまり表に出さない感謝の気持ちみたいなのが表れていればいいなぁ~と。

伝わればいいなぁ~と。

そういうこと欄外で言葉にしちゃうのは邪道なんだけど、伝わってるか不安なので言葉にしちゃったな~と。

そんな感じです( *´艸`)



――というわけで、

ながながだらだらと

防御力めっちゃ高いボスに1ずつダメージを与えるがごとく

時間をかけて目上の敵を突き崩してまいりました三幕ですが

ようやく一区切りとなりそうです。


まだまだ残務処理があったりもしますが、


まだもう少し続く三幕、

より一層まったりお届けいたしますので、お付き合いいただければ幸いです。


【壁】▽・)< まだもうちょっとだけ続くんじゃ



次の公開日は明日!

その次は明後日です!

\(≧▽≦)/



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴッなんとかにも見事に引導を渡したのは良かった! ちょっと残尿感(違)があったわけで。そこまで計算済みでしたか! 見事 これでやっとほのぼのおっぱい時空に戻れるのかと。良かった良かった。…
[良い点] ノルベェェェェルゥゥゥ!! 楽しく慎ましやかに生きろぉぉぉぉ!! [気になる点] マーシャて実は日本人じゃ…
[良い点] 異世界詐欺師のなんちゃって経営術が毎日読める幸せ [気になる点] 強制翻訳魔法さんはどれだけ「日本の文化・ネタ」に詳しいのか。 [一言] 6日後まで本編(後書き)が読めないのは辛いですが、…
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