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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第三幕

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556/821

358話 なに握りやしょう!

「おかえりなさい、ヤシロさん!」

「おかえりなさい、ヤシロさん!」


 二人分の物凄くキラキラした瞳に迎えられた。

 言うまでもなく、ジネットと――ベルティーナだ。

 マーシャ?

 マーシャは落ち着いたもんだよ。「あ~、おかえり~☆」だって。

 海魚の新しい料理と言えど、こっちの二人ほどの食いつきは発揮していない。


「え~っと、魚は――」

「三枚におろして柵にしてあります」


 わぁ、用意がいいこと。

 そういや、手巻き寿司の時に柵にしてから細く切ってたから、それを覚えていたのだろう。

 ジネット、料理には貪欲な女である。


「種類は――」

「手巻き寿司の時に、いろいろな具があった方が楽しかったのでたくさん用意しましたよ」


 と、手巻き寿司の時に使った魚がズラリと並ぶ。

 いや、持ってくんな持ってくんな。

 厨房でやるから。客前で握ったりしないから。……いや、もういっそ、客前で握るか?


「あぁ、そうそう。ワサビが――」

「すりおろしてあります! ついでにガリも準備しておきました!」


 え~ん、ジネットの勢いがちょっと怖いよぅ……


「……ヤシロ」


 ぐいぐい迫るジネットに気圧されていると、マグダが俺の背後に来てぽそりと呟く。


「……店長は扱い方を誤ると暴走するので要注意」

「うん、ごめん。まだ匙加減がよく分かってねぇんだ」


 俺はちょいちょいジネットを暴走させちまってるからなぁ。


「ナタリアは?」

「仕事があるとかで、荷物を置いたらすぐどこかへ行っちゃったですよ」


 ナタリアが見当たらなかったので尋ねたら、ロレッタが教えてくれた。

 あいつも、明日に備えて東奔西走するんだろうなぁ、今日一日。

 ウィシャート家の秘密通路に行く時、ナタリアに護衛してほしかったんだが、難しいかもしれない。

 となれば、頼れるのはこいつくらいか。


「なぁ、マグダ。あとでちょっと付き合ってほしいんだが」

「……店長が許可すれば可」

「少し危険なミッションなんだが」

「……なら、なにはなくともマグダがついて行くべき。ヤシロは、マグダが守る」

「助かるよ。まぁ、危険にならないように、マグダに付いてきてほしいんだけどな」


 ウィシャートの館に通じる隠し通路や抜け道の鍵取り換えミッション。

 人がいそうな場所は避ける。いないところはこっそり鍵を付け替える。

 そのために、マグダには索敵能力を遺憾なく発揮して、敵を避けに避けまくってもらいたい。


「……そういうことなら任せて。マグダの耳と鼻と可愛いエンジェルスマイルで敵を発見してあげる」

「頼りにしてるぞ。エンジェルスマイルでどうやって敵を発見するのかは知らんけどな」

「……こうする。…………にこっ」

「ぐはぁぁあ! エンジェルスマイルのマグダたん、マジ天使ッス!」

「……このように」

「そいつ、敵だったのか」


 マグダが口角を微かに持ち上げた瞬間、ウーマロが倒れながら陽だまり亭に入ってきた。

 なんつー絶妙なタイミングだ。

 つか、お前は港の工事に全力じゃなかったのかよ。さぼってんじゃねぇよ。


「あぁ、そうだヤシロさん。これ、ウィシャートの館の見取り図最新版ッス」


 床に倒れ伏すウーマロが懐から一枚の紙を取り出し手渡してくる。


「見取り図最新版って……どうしたんだよ、これ?」

「さっき、リベカちゃんがオイラのとこに来て、情報をくれたんッス。あれから、ウィシャート家の周りをうろうろして、人の足音が聞こえる『おかしな場所』を調べてくれたみたいッス」

「リベカ、そんなことまでしてくれたのか?」

「嬉しかったみたいッスよ。ヤシロさんに頼られて。それで、『ウィシャートの館を丸裸に出来るのはわしだけなのじゃ』って、張り切ったみたいッス」


 そうか。

 確かに、リベカの耳なら地下を歩く足音くらいは聞き取れるだろう。

 けど、危ないことをしたもんだ。不審がられたら、兵でも差し向けられかねないというのに。


「それで、いくつか判明した抜け道を見て、『だったらここにも抜け道がないと不自然ッスよね』ってところに予測の抜け道を追加したのがこの見取り図なんッス」


 リベカの調査と、ウーマロの知識から、ウィシャートの館の抜け道がほぼ網羅された。

 館から四方八方、十六方に延びる通路。

 ウーマロの予測は、おそらくいい線を行っているだろう。見取り図を見れば、まさに完璧と言わんばかりに均整の取れた設計であることが分かる。

 要塞の設計図を見せられているような気分だ。


 だからこそ、少々胡散臭い。

 これで完璧だ、という思い込みのその裏を突いてくるのがウィシャートという男だ。

 これにプラスもう一本、誰も知らないような抜け道を持っているような気がしてならない。

 そして、その一本が最も重要な通路になっている。そんな気がする。


 根拠もある。

 この見取り図の抜け道は、どれも館の外に繋がっているものばかりだ。

『BU』の監視を潜り抜け、十一区と繋がる抜け道がない。

 ウィシャートほど用心深い男が、館以外の、『自分の目が届かない場所』に、そんな重要な通路を設置するだろうか。


 言い方を変えるなら。

 そんな重要な通路から離れた場所で、あの臆病者のウィシャートが安心して暮らせるだろうか。


 見つかれば破滅するかもしれない重要な抜け道だ。

 絶対に館の中に出入り口が隠されている。


 そう思えてならない。


「まぁ、参考にさせてもらうよ」

「はいッス。でも、予測のところは話半分くらいで思っておいてくれればありがたいッス」

「半分ってことはないだろう? 出口になりそうな場所の当たりを付けるために、お前も館の周りを探ってくれたんだろ?」


 館の外。ウィシャートが抜け道の出口にしていそうな建物がきっちりと調べ上げられている。

 ウーマロたちもリベカとは別に調査をしていたという証拠だ。


「もともとは、オイラたちがウィシャートの誘いを蹴ったことで組合をけしかけられたッスからね。これくらいはやらないと……」

「ま、ウィシャートのねちっこい性格は今に始まったことじゃない。あんま気にするな。貴族の顔色を窺って、お前らが自由に仕事できなくなる方がこっちにとっては痛手だ」

「やはは……。ヤシロさんにそう言ってもらえると、安心するッス」


 トルベック工務店とのことがなくても、ウィシャートとはぶつかっていただろう。

 あいつの考え方は、基本的に侵略ありきだからな。


「それじゃあ、オイラの話はもういいッスから――」


 ウーマロが立ち上がり、苦笑いで俺の後方を指さす。


「――店長さんとシスターが待ちきれないようッスから、そっちの対応をしてあげてッス」


 うん。

 なんか途中から物凄い圧は感じてたんだ。

 話の腰を折るようなことはしないからなぁ、二人とも。

 でも、我慢にも、限度ってもんがあるよねぇ。


「じゃあ、やってみるか、にぎり寿司」

「はい!」

「ぜひ!」


「やりたい」と「食いたい」が同時に飛んできた。

 似た者母娘め。


「ロレッタ、カンパニュラ、テレサ。手伝ってくれるか?」

「もちろんです!」

「何をすればよいでしょうか?」

「おてちゅらいー!」

「ロレッタはフロアのレイアウト変更を頼む。カンパニュラとテレサは接客だ。これから来る客に事情を説明してやってくれ」

「事情を説明、ですか?」

「あぁ。いつもの陽だまり亭とは雰囲気が変わっちまうから、その説明と――」


 そして最も重要なのが。


「まだにぎり寿司を店で出すわけにはいかないから、うまく従来のメニューを注文するように誘導してくれ。にぎり寿司は港の工事完成イベントで食わせてやるからと気を持たせ――本番当日はじゃんじゃん食ってじゃらじゃら金を落とすように誘導……いや、宣伝しておいてくれ」

「なるほど、責任重大ですね。善処してみます」

「がんばぅ!」

「デリア」


 そして、陽だまり亭を頼むと言ったらちゃんとここに残ってくれていたデリアにも仕事を振る。


「ある程度寿司が出揃うまでベルティーナを抑えててくれ」

「えぇ……荷が重いなぁ」


 頼れるデリアが見せた、非常に珍しい業務への不服である。

 重労働だもんな、これ。


「大丈夫ですよ、デリアさん」


 言って、ジネットがベルティーナに告げる。


「いい子にしてないと、お寿司抜きですからね」

「はい。いい子にしています」


 にこにこと微笑み合う母娘。

 ……いや、お前らは好きなことになると結構暴走するからな? 自覚ないのかもしれないけれども。


「ヤシロぉ。なるべく急いでくれよな?」


 デリアがベルティーナの真後ろに立って不安げに言う。

 デリアも、この似た者母娘の暴走癖は理解しているようだ。

 ベルティーナは言わずもがな、ジネットも足つぼとかビーフカツレツとかいろいろやらかしてるからなぁ。


「じゃあ、『鮨処・陽だまり亭』臨時オープンと行くか」


 テーブルを横に並べてくっつけた長めのカウンター席の前で宣言する。

 まぁ、カウンターと呼ぶには低いけどな。




 気分を出すために、ねじり鉢巻きをしてみた。


「へい、らっしゃい! なに握りやしょう!?」


 手をパンっと叩き、威勢よく声を発する。


「これが、基本の挨拶だ」


 何事も形から。

 これが大事。


 というわけで、ねじり鉢巻きをしたジネットに挨拶をさせる。


「はい、いらっしゃいませ。何を握りますか?」

「ちがーう! もっと威勢よく! へい、らっしゃい!」

「へ、へい、らっしゃいっ」

「なに握りやしょう!」

「なに、にぎり、やしょう?」

「なに挟みやしょう!」

「なに、はさみ、やしょー!」

「わはぁ~」

「店長さ~ん。ヤシロ君に乗せられちゃってるよ~☆」

「へ? はっ! も、もう、ヤシロさん、懺悔してくださいっ!」


 いかんいかん。

 つい顔が緩んでしまった。

 ここでポーカーフェイスを貫き通せていれば、店に入るなり「なに挟みやしょう!」と出迎えてくれる爆乳寿司が誕生したかもしれないというのに……ヤシロ、一生の不覚っ!


「お兄ちゃん、なんかすごく楽しそうなところごめんですけど、早くしないとデリアさんが発動しちゃうです」


 ベルティーナを抑え込む要員としてデリアを配置している。

 ベルティーナの我慢が限界を超えたら、デリアが力で抑え込まなければいけなくなる。

 それは危険だな。よし、さっさとやろう。


「では、まず基本的な挟み方だが――」

「握り方を教えてください! もう!」


 うん、ごめんって。

 真面目にするから。そう怒るな。


「まず、一度手本を見せるから、一連の流れを見ててくれ」

「はい」


 真剣な眼差しで、俺の手つきを見つめるジネット。

 他の連中も固唾を飲んで俺の手元を注視している。


 手は綺麗に洗ってある。

 セッティングも、ロレッタとマグダが俺の指示通りにしてくれた。


「じゃあ、最初はマグロの赤身から行ってみるか」


 柵になっている赤身を切り、ネタを準備する。

 うん、いい赤身だ。


 桶に張った水に右の中指と人差し指を浸け、左手のひらを湿らせる。

 ネタを指二本で摘まみ手のひらへと乗せる。体温が移って鮮度が落ちないよう、べたべたとは触らない。ここからは手早くすべての工程を終わらせる。


 ワサビをネタに付け、そこへ、ピンポン玉より気持ち小さめのシャリを取り乗せる。

 二本の指でシャリを押さえ平らにし、『底』を作る。

 シャリの前後を軽く押さえて整え、素早く天地をひっくり返す。

 ネタの上から一度握り、その後シャリを挟み込むように左右からきゅっと、反転させもう一度きゅっと押さえて平皿へと置く。


「にぎり寿司とはいっても、おにぎりのようにしっかりと握るわけではない。理想は、箸で持っても崩れず、逆さにしてもネタが外れず、口に入れた瞬間にふわっと解けるくらいの一体感だ」


 そして、出来たマグロのにぎり寿司をジネットに差し出す。


「食ってみろ」

「では、いただきます……」


 ジネットが箸で寿司を持つ。

 寿司はしっかりとその形状を保ったまま宙へ浮き、小皿の上の醤油へと向かう。


「ジネット、醤油はシャリじゃなくてネタの方に付けると美味いぞ」

「そうなんですか? では」


 くるりと手首を反転させるジネット。

 ネタとシャリはしっかりとくっついている。


 マグロに軽く醤油をつけ、寿司が一口でジネットの口の中へと消える。


「――っ!?」


 瞬間、ジネットの目が見開かれ、手で口を押さえたまま「もいひーれふ!」と謎の言葉を発する。

 そうかそうか。美味しかったか。


「ヤシロさんっ。こ、これはすごいです! しっかりとした存在感があったはずなのに、口に入れた瞬間溶けてなくなりました! なのに、しっかりと美味しさが残っていて、ふわっと軽いシャリと、海魚のしっかりと力強い味わい、ぴりっと刺激的なワサビの辛みと風味が相まって、お口の中でわっしょいわっしょい、それはもう盛大にわっしょいわっしょいしています!」


 なんだか物凄い勢いだ。


「不思議です……食材はそれぞれ食べたことがあるはずですのに、こんなにも衝撃的な味になるなんて」

「それが技術だな。ジネットより先にやらせることになるが……試しにウーマロ、作ってみろ」

「えっ、オイラッスか!?」

「……むぅ」

「店長さんが膨れてるッスよ!?」

「まぁまぁ、ジネット。これも経験だ。味わっておくと、自分が作る時の参考になるから」


 膨れるジネットを宥め、ウーマロに見様見真似で寿司を握らせる。

 ネタだけは俺が切ってやった。

 ウーマロは形を綺麗にしようとべたべたと寿司を触りまくり、たっぷりと時間をかけてにぎり寿司を完成させた。


 それをジネットが口へ運ぶ。


「……えっ?」


 先ほどとは異なった衝撃が、ジネットを襲ったようだ。


「不思議です。同じ食材で同じ作り方なのに、どうしてこんなにも味に差が出るんでしょうか?」

「そんなに違うですか?」

「はい」


 ロレッタに聞かれ、ジネットは頭の中に『?』をいっぱいに浮かべているような表情で素直な感想を述べる。


「シャリが硬いわけではないのですがいつまでも口の中に残っていて、なんというか口当たりが悪いです。ネタも、なんだか妙に生臭くて、折角の美味しさが損なわれています」

「うぐ……、ご、ごめんなさいッス……」

「あっ!? いえ、すみません! ウーマロさんを責めているわけではなくて、どうしてそうなるのかが不思議だなと……お料理されないウーマロさんが初めて作られたと考えれば、これでも十分にいただけるものだと思いますよ!」


 かなり素直な意見だったので、ウーマロにぐさぐさ突き刺さったようだ。

 カンパニュラのおにぎりの時とは随分と違う対応だな。


「そんなに味が違うですか?」

「はい、……えっと、ヤシロさんのお寿司が美味し過ぎるのだと思いますが」

「うぅ……お気遣い痛み入るッス」


 しょぼくれるウーマロ。

 だが、ウーマロの失敗は必要なことだったのだ。


「ネタとシャリの美味さは確約されている」


 マーシャの持ち込む魚と、ジネットが準備したシャリはどちらも一級品だ。


「そうなると、味を大きく左右するのは技術ということになる。ただ、こいつは気を付ける箇所が無数にあって一個一個を口で説明すると日が暮れる……というか、口では説明しきれないくらいに多い」


 技術というものは事前に「ここに気を付けろ」とは言いにくい。

 穴が開くほどよく見て、実際にやってみて、その中で気付いていくものだからだ。


「つまり、いくらジネットと言えど、ぶっつけ本番でやればウーマロのような失敗を犯しかねない」

「……つまり、店長が作る料理が、美味しくない可能性がある、と?」

「それは一大事です!? 店長さんのお料理を食べた感想が『イマイチ』とか、あたし、そんなのヤです!」

「いえ、あの、わたしも初めてのことは失敗しますし、そんなに完璧なわけでは……」

「いいや、オイラもなんか嫌ッス! 店長さんの料理は、いつも心を晴れやかにしてくれるッスから。オイラの失敗で得るものがあるなら、オイラいくらでもマズい寿司を量産するッス!」

「よく言った、ウーマロ! じゃあ、他の連中にも寿司の食べ比べをさせてやろう。ジネットはその間、俺とウーマロのどこがどう違うのかをじっくりと観察して、何か掴んだらいくつか試しに握ってみてくれ。それで、納得のいくものになったら人に出すことを解禁する」

「は、はい! 頑張ります!」


 そうなのだ。

 これは単なるわがまま、もっと言えば押し付けなのだが……


 ジネットにマズい飯は作ってほしくないのだ。

 俺が食うなら別に構わないんだが……


 誰かがジネットの作ったものを食って微妙な顔をしやがったら、俺はそいつをぶっ飛ばすかもしれない。

 これも俺のわがままだな。


 ジネットの飯は、いつだって美味くあってほしい。


 エステラにしてもジネットにしても、その経歴に汚点なんかつけさせたくないのだ。

 回避できるなら回避させたい。


 あくまで、俺のわがままでな。




「んんっ!? これは、ちょっととんでもないものが誕生しちゃったですね!?」

「……美味」

「とても美味しいですが、すぐになくなってしまうのが悲しいです。ですが、お口の中にいつまでも旨みが残って幸せな食べ物です」


 俺の寿司を食ったロレッタ、マグダ、ベルティーナが幸せそうに頬を緩める。


「そして、こっちがオイラの握った寿司ッス!」

「……生温くて生臭い。シャリが緩くてぼろぼろ……」


 先ほどシャリが硬いと言われたウーマロ。今度は緩過ぎたようだ。


「どうして生臭くなっちゃうッスかね?」

「手の上に乗せている時間が長いんだよ。手の温度でネタが温められて生臭さが際立っちまうんだ」

「そうなんッスか? けど、ヤシロさんみたいに手際よくは出来ないッスし……」

「生臭さを消すにはワサビが役に立つぞ」

「それじゃあワサビをたっぷり入れて……お待たせッス!」

「ではいただくです!」


 と、大量のワサビが入った寿司を口へ放り込んだロレッタは、期待通りの面白いリアクションを見せてくれた。


「ごっほぅ!? からっ!? いや、痛いです! 息を吸うのが痛いです!?」


 ワサビって、大量に食うと呼吸がしんどくなるんだよなぁ。

 マヨネーズを食うとワサビの「ツーン!」って辛さは緩和されるらしいが、面白いからもう少しこのまま見ていよう。


「コロす気ですか!?」

「いや、生臭いのを消そうかと思ったッスよ」

「生臭さを感じてる余裕なんかなかったですよ!?」

「じゃあ、成功ッスね! やったッス!」

「成功じゃないですよ!? めっちゃ涙目なの見てです! さっきからずーっとこっちに背中向けてるですけど、一回こっち向いてあたしの顔を見てです!」

「いぃぃいいあぁいやぁ、そそれはむむむりッスススス!」


 寿司屋にはあるまじき賑やかさだ。

 寿司屋じゃないからいいけども。


「……ふむ。この惨状を見るに、店長でもいささか難しい料理の模様」

「ですね……、店長さんが作った料理で、こんな惨状にならずに済んでよかったと思うです」

「……ウーマロ、ナイス犠牲」

「ウーマロさん、ナイス失敗作です!」

「褒められてる気は一切しないッスけど、役に立ててよかったッス」


 そんな間も、ジネットは俺の手元をじっと見つめている。


 というか、マーシャは完全ににぎり寿司の習得を放棄している。

 ウーマロの惨状を見た後だもんな。

 後ほどこっそり練習はするかもしれないけれど。


 じゃあ、いいお手本の味をしっかりと覚えて帰ってくれ。


「ほい、マーシャ。デリアはワサビ抜くか?」

「ワサビかぁ……抜いてもらおうかな」

「ほいよ。カンパニュラとテレサもサビ抜きな」

「サビ抜き、とは、ワサビ抜きのことですか?」

「あぁ。風味は若干損なわれるが、味はそこまで落ちない。辛いのを無理して食うよりはうまく食えるはずだ」


 俺は、サビ抜きなんて考えられないけどな。

 ガキにはサビ抜きがいいだろう。


「では『サビ抜き』でお願いします」

「しゃびぅきー!」


 なんだ、『サビ抜き』って言葉が気に入ったのか?

 どこに食いつくか分からんな、お子様は。


「ヤシロ君、すご~く、美味しい☆ お魚の良さが全部出てるよ~☆」

「うん! これは美味いなヤシロ! あたい、今度はワサビありも食べてみたい」

「大変美味しいです、ヤーくん」

「おぃしー! えーゆーしゃ、てんしゃい!」


 と、喜ぶ一同の前にウーマロの寿司が配られる。


「ん~……悪くはないんだけどねぇ……お魚『は』美味しいし」

「まっず!」

「そうですね。バランスが少し悪く感じます。とても繊細な料理なのですね。ほんのわずかな差でここまで味が変わるなんて」

「でも、ね、あーしは、ちらぃ、なぃ、よ? きちゅねしゃん、がんばった、ぇらぃ、よ?」

「くぅっ、みなさんの優しさが身に沁みるッス!」


 デリアには、優しさの欠片も見られなかったけどな。


「そう言えば、シスターは食べたです?」

「はい、いただきましたよ」

「どうだったです?」

「とても美味しかったですよ」

「……シスターは、口に入ればなんでも美味しい」

「そんなことは、ないのですが……。素材がよいので、多少失敗しても美味しくいただけましたね。ヤシロさんと比べると、やや劣る、くらいでしょうか」

「んじゃあ、俺が握った鯛だ」

「素晴らしいです! こんなに美味しいお魚は生まれて初めていただいたかもしれません!」

「あぁ……この差が、現実なんッスねぇ」

「シスターは、『美味しい』と『すごく美味しい』の差が大きいですよ。元気出してです、ウーマロさん」


 なんだかんだ言われながらも、きちんと全員に寿司を握ったウーマロ。

 まぁ、これだけ手伝ってくれたんだ、褒美が必要だろう。


「メンタルやられんなよ?」

「大丈夫ッスよ。ヤシロさんの料理と比べて劣ってるのは当然ッスから。それに、結構楽しかったッスし」

「んじゃあ、手伝ってくれた礼に、俺から特上握りのプレゼントだ」

「「「ぅぉおおお!?」」」


 ウーマロを押しのける勢いでベルティーナやロレッタが身を乗り出す。


「こ、これはすごいです! 見た目が華やかで、もう、見るからに豪華です!」

「特上という名に相応しい風格ですね。私も是非いただいてみたいです。何か、お手伝いすることはありませんか!?」


 落ち着けベルティーナ。

 ちゃんと食わせてやるから。

 ジネットに教えながら握る分もあるし。


「いくら理解しているとはいえ、いろいろ言われるのはやっぱちょっとキツいだろう。これを食って心を落ち着かせてくれ」

「そんなっ、もう、その心遣いだけで、オイラは十分ッス!」

「……マグダたちのわがままを聞いて、ウーマロが犠牲になってくれた。マグダは、その優しさをすごいと思う」

「マッ、マグダたんに労いのお言葉を!? オイラ、感激のあまり天にも昇れそうッス!」

「じゃあ、天に昇りながら天まで続くくらいの高層マンション建てといてくれ。足場いらずで経費も浮くし」

「いや、比喩ッスよ!? で、そんな高層マンションを目論んでるんッスか、ヤシロさん!? 怖いッス! 今後のために、大工全員で情報共有しとくッス!」


 いや、タワマンとか作ったら、貴族がアホみたいに金を積んでより高い階層の部屋を買ってくれんじゃないかな~って思ってさ。

 まぁ、追々だな、おいおい。


「それじゃあ、いただくッス!」


 ウーマロが特上寿司に手を付ける。

 ほほぅ、手掴みとは、こいつ、通だな?


「粋な食い方だな」

「そうなんッスか?」

「古来、俺の故郷では手掴みで食うのが粋とされていた」

「それじゃあ、オイラは今後も手で食べるッス」

「……じゃあ、マグダは口で」

「手で食べるって、そーゆーことじゃないッスよ、マグダたん!?」


 きゃっきゃと騒ぐ一同をよそに、ジネットは黙々と指先を動かしている。

 何度もイメージトレーニングを重ね、ついに握ってみるつもりらしい。


「一度、挑戦してみます」


 緊張した表情で言って、大きく深呼吸をする。


「まずは、手のひらにお水を……」


 そして、俺が教えた後ずっと観察し続けた通りに寿司を握っていく。

 ネタはマグロの赤身。


「ここでひっくり返して――完成です」


 とても初めてとは思えない手際のよさで、ジネット初のにぎり寿司が完成した。

 見た目は合格。

 シャリの量も、ネタの位置も完璧だ。


「では、ヤシロさん。御試食、お願いします」

「あぁ」

「あ、やっぱり、先に自分で食べてみてから――」

「もう遅い」


 わたわたするジネットの隙をついて、ジネットの寿司を口へ放り込む。


「…………」

「……ど、どう、でしょうか?」

「…………」

「…………ど、どきどきします」

「…………」


 うん。


「美味い!」


 そう断言すると、フロア内に歓声が上がった。

 緊張した空気が緩和され、誰からともなく安堵の息が漏れた。


「さすがだな、ジネット」

「そんなこと……。ヤシロさんが丁寧に何度も見せてくださったからですよ」


 いや、マジで美味い。

 満点とは言い難いが、この腕前なら日本で店を出せる。

 適正な、ちょっとお高い料金設定にしたとしても、十分に客がつくレベルだ。

 安さ自慢の回転寿司が隣に出来ても潰れることはないだろう。


「じゃあ、今の感覚を忘れないうちに、いろいろな種類を握ってみるか?」

「いえ、その前に、みなさんに一度食べていただきたいです」

「はい! 食べます!」

「デリア、ベルティーナを座らせてくれ」

「もう、シスター。行儀悪いぞ」


 デリアがベルティーナに行儀を説く。

 なんか、物凄く珍しい光景だったな、今の。


「美味しいです、ジネット。あなたは素晴らしい娘です」

「……これは絶妙。美味」

「お兄ちゃんに引けを取らない、一級品の味です! もし違いを述べるのだとしたら、お兄ちゃんのお寿司は研ぎ澄まされた繊細さがあり、店長さんのお寿司は包み込むような優しさが味の向こう側に存在してるです!」

「店長、これ美味いな! ヤシロのみたいだ」

「とっても美味しいです、ジネット姉様」

「ぉいしい。てんちょうしゃ、いっつもごはん、おぃしぃ、ね」

「うん。お魚がシャリの上で喜んでるよ☆」

「くぅ! さすが店長さんッス。初めてでこの味とは、恐れ入ったッス」


 全員がジネットの寿司を口にして、ジネットの緊張がようやく解れた。

 そして、自分で握った寿司を自分で食う。


「……まだまだ、ですね。ヤシロさんのお寿司には程遠いです」

「練習しましょう、ジネット! そして試食をしましょう!」


 ベルティーナが物凄く食いついた。


「まぁ、イベントまでにマスターしてもらわなきゃいけないから、存分に握ってくれ」

「あの、ヤーくん。たくさん握るのに、お客様にはお出ししないんですか?」


 たくさん握るなら、客にも食わせてやったらどうか、とカンパニュラは考えたようだが……


「それじゃあ、イベント当日の楽しみが減るだろ? 客には、情報だけを与えて期待を膨らませておくんだ。そうすることで、イベント当日が大盛り上がりになる」

「なるほど。ことを性急に進めるのはよろしくないというわけですね。大変勉強になりました」


 こいつは、どこからでも知識を吸収するな。

 将来が楽しみだよ。


「あの、ヤシロさん。他のネタも、握り方を教えていただけますか?」

「おう。ちょっとしたコツと一緒に伝授してやるよ」

「はい!」


 そうして、ジネットの寿司修業が始まった。





「いらっしゃいませ。ようこそ、陽だまり亭へ」

「いしゃっしゃぃまて! ようこしょ、ひらまぃていへ!」


 新しく入店してきた客を、カンパニュラとテレサが出迎える。


「テレサさん。元気があって大変よろしいですが、もう少し、落ち着いて、一つの言葉、一つの音を大切に発音してみると、もっと相手に伝わる言葉になるかと思いますよ」

「はい!」

「では、もう一度言ってみましょう」

「いらっしゃぃ、まぁ~、せっ!」

「そうです。ゆっくり、丁寧に、相手の方と会話する時間を大切に」

「よーぅこしょ、ひらま……ひまら……ひまひまてぃへ!」


 そこまで暇じゃねぇよ。


「うふふ。可愛いですね、ひまひま亭」

「やめてくれ。利益が見込めなくてぞっとする」


 テレサの言い間違いを聞いて、ジネットがくすくすと笑う。

 さっきまで眉間にしわを寄せる勢いで緊張していたから、それが解れてちょうどいいだろう。

 ナイスだテレサ。


「ジネット。今握った寿司が今までで一番美味いぞ」

「本当ですか。では、やはりいつものように楽しくお料理しないといけないようですね。参考にします」


 ジネットはそれでいい。

 頑固おやじのもとで修行するような厳しさは、こいつには向かない。

 食べる者が笑顔になる。それが、ジネットの料理の正解だ。


「カニぱーにゃもテレさーにゃも、練習は大事ですけど、お客さんをいつまでも立たせたままじゃダメですよ」

「わっ、そうでした。大変申し訳ありませんでした」

「もうしわけ、あぃません、した」

「あぁいいよいいいよ。気にしなくていいから」

「これが大工さんじゃなかったら、大変な失礼になるところだったですよ」

「「「へいへーい、ロレッタちゃん! その認識がモスト失礼なんだぜ~い! まぁ、ロレッタちゃんは可愛いから許しちゃうけども!」」」


 今日も気持ちが悪いくらいに息の合った大工たち。


「ウーマロの身内である」

「いや、アレはカワヤ工務店の大工ッスから、仲間ではあるッスけど、結構遠い存在ッス」

「ぅわあ、トルベックさんがすっげぇデッカイ壁作ってる!」

「ひっでぇひっでぇ!」

「棟梁に言いつけてやるー!」

「いや、今やオマールはダチなんで構わないッスけど」

「「「えへへぇ~、トルベックさんと俺ら、もう仲良し~」」」

「なぁ、大工になるには、『気持ち悪い検定』をパスしなきゃいけないルールでもあんの?」


 なんでどこの大工も同じように育ってしまうのか。


「では、お席にご案内しますね」

「おせちに、ごなんあい、しましゅ! ……うぅ……おせち、に……お、せ、……ちっ!」


 テレサはしゃべり慣れてないのか、しゃべる時に考え過ぎてしまうのか、純粋に口周りの筋肉が鍛えられていないのか、まだうまくしゃべれてない。というか、練習を始めてから悪化したような気すらする。

 思うままに気ままな『ガキ言葉』なら簡単なんだろうが、カンパニュラみたいなきちんとした言葉遣いを習得しようとすると、そこらのガキでも苦労する。

 一気に高いハードルに挑み過ぎなんだよ。もっと難易度落としてやるかな。


「テレサちゃんは、今のままでも十分可愛いんだから、無理してしゃべる練習しなくていいんだよ」

「そーそー。むしろ舌っ足らずなところが可愛い!」

「一生そのままでいてほしい!」

「むぅ! あーし、ちゃんとぉしゃべり、できるに、なぅのっ!」

「「「むはぁあ! 可愛い~!」」」

「ウーマロぉ……」

「オイラ、管轄外ッス」


 ウーマロが、大工連盟の代表という責任を隠して知らんぷりを決め込んだ。

 こーゆーヤツが権力を持つと組織が腐敗しそうで怖いなー。


「ところでトルベックさん。それなんっすか? めっちゃ美味そうっすね!」

「これはまだ非買品ッスよ」

「えぇー!? ズルくないっすか!?」

「俺らもそれいただきたいっすよ!」

「申し訳ございません。現在、当店の店長が修行中につき、まだお客様にお出しできる段階ではないのです」


 カンパニュラが、ぶーたれる大工たちに向かって言う。


「港の工事が完成した暁には、完成記念のイベントが盛大に行われると聞き及んでおります。その晴れの日には、当店店長が自信を持ってお勧めできる最高のにぎり寿司をご提供できると思います。どうか、その日をお楽しみにお待ちくださいますよう、お願い申し上げます」

「ん~……カンパニュラちゃんに言われると、逆らえないけどさぁ……」

「食べてみたいよなぁ?」

「あぁ、一個だけでも……だめすかねぇ? ねぇ、ヤシロさん」


 大工どもが熱い視線を俺に向ける。

 なんで俺だ。店長であるジネットに向けろよ、そーゆーおねだりの視線は。


「あいつら、ヤシロさんが甘いって話を聞いて、篭絡しようとか思ってるんッスよ」

「どこで流れてんだ、そんな誤情報?」

「あながち間違いではないんッスよねぇ。エステラさんとかルシアさんに優しいッスし、子供たちにも甘いッスから」

「だから、どこ発信なんだよ、そのデマ情報?」

「――とはいえ、あいつらはまったく分かってないんッスよ。……ヤシロさんは、メンズ、特にオッサンには一切甘くないってことを!」


 そんな、俺が性別や年齢で依怙贔屓しているみたいに。

 巨乳美人に優しくするのは世の理としても、俺は比較的平等に接しているぞ。

 誰に対しても平等に、搾取してやろうと目論んでいる。……ふっふっふっ。


「まぁ、あいつらも四十二区で働いていれば、そのうち嫌でも身に沁みるッスよ。……ヤシロさんの容赦なさを」

「まるでお前は沁みてるみたいな言い方だなぁ? ん? 高層マンション建て始めるか? この忙しい時期に」


 お前らがつらい目に遭うのは、「NO」と言えないお前たち自身の弱さゆえだ!

 もちろん、「NO」とか言ったら、言ったことを後悔するような酷い目に遭わせるけども!


「とにかく、寿司はまだ食わせられん」

「えぇ~!?」


 大工が三人でむっきむっきの体を「いやいや」と揺する。

 やめろ、暑苦しい。目に暑い。


「しょうがねぇな……」


 と、俺が呟くと大工どもの顔が一斉に輝いた。


「寿司とは違うが、特別な物を食わせてやる」


 言いながら、カンパニュラを呼び寄せる。テレサもついてくる。

 二人を連れて厨房へ引っ込むと、二人の目線に合わせるようにしゃがんで作戦会議を行う。


「カンパニュラ。さっきの説明はよかった。これで連中は寿司が食いたくて仕方なくなっているはずだ。港の完成イベントで連中は確実に寿司を食うだろう」

「ですが、ヤーくんはこの後お寿司を振る舞うつもりなのですよね?」

「いいや。寿司ではないが、寿司の気分を味わえるものだ」

「それは一体……?」


 寿司を作る時には魚をさばいて『柵』という長方形の状態にする。

 それを薄く切っていけばネタになるのだが、当然、魚の体は長方形ではない。

 長方形の柵を作るには、切り取られた多くの部位が出てしまう。

 その切れ端の部位を使って、お手軽簡単で、美味しい逸品を作る。


「――その名も、バラちらしだ」

「バラちらし、ですか。なんだか美味しそうな予感がします」

「あとで食わせてやるよ。テレサ、カンパニュラの話し方をよく見て、いろいろ技術を盗めよ」

「はい。ぉべんきょう、すゆ!」

「私などで手本になりますかどうか……」

「なに、お前なら大丈夫だ。ちょっとしたコツを教えてやる」


 そして、俺はカンパニュラにコツを伝授する。


「人は、落差に弱い」


 100円のおにぎりが売っていれば、人は安いと感じる。

 だが、その元値が500円だと知れば、「めっちゃ安い!」と感じるものだ。

 つまり、もともと100円のものだったとしても、先に500円の値札を貼り、二重線で500円を消して、上から100円の値札を貼ってやれば、簡単にお得感を演出できる。


「さらに、『今だけ特別』という言葉を付け足せば、相手の満足度は急上昇する」


 人は誰しも得をしたいものだ。

 今日はいつもと違うことをやっている。

 その影響で、今日だけ特別なことが起こる。

 それに遭遇できた自分はなんてラッキー!

 え、ちょっと値段は割高? 構うものか、特別な日なのだからどーんと大盤振る舞いよ! ……ってなもんだ。


「なるほど。分かりました。やってみます」

「ちなみに、バラちらしの値段は決めていない。カンパニュラが決めてみるか?」

「よろしいのですか?」

「俺があとでジネットに言っといてやる」

「では、原価はいかほどでしょうか?」


 そうして少し相談をして――バラちらしの本当の値段と『最初の値段』が決定した。



 余った魚の切れ端を加工して、バラちらしを作る。

 錦糸卵に刻み海苔、青ジソも乗っけて豪華な見栄えにする。


「お待たせいたしました」


 まだ注文を受けたわけではない。

 だが、確実に売りつけて見せるという意気込みから、現品を持ってのセールストークだ。


「こちらは、今はまだご提供できないにぎり寿司と同じ材料で作られた『バラちらし』というお料理です。こちらはまだ、どこにも出していない特別なお料理なのですが、ヤーくんのご厚意で特別にご提供できることになりました。にぎり寿司とは異なる料理ではありますが、にぎり寿司とはまた別の幸福感を味わえる逸品となっております。新鮮な海魚を種類も豊富に、これだけ大量に使用していますので、販売するとなれば……そうですね、250Rbは軽く超えてしまうでしょうが……」


 250Rbは2500円だ。

 お高い。


「ですが、是非皆様に召し上がっていただきたいと、私がヤーくんと交渉を行い、本日に限り――50Rbでご提供させていただくことになりました!」

「買った!」

「俺も!」

「こっちにも一つ頼むよ!」


 入れ食い。

 大量。

 爆釣れだ。


「カンパニュラちゃん……もうすっかりヤシロさんの色に染まってしまったッスね……」


 などと、失礼にも遠い目をするウーマロにはあとで重めのお仕置きが必要だ。


「そのお料理、あの、是非わたしにも作り方を……あぁ、でもにぎり寿司の練習も……あぁっ、体が二つあればいいのに!」


 そうしたら、おっぱいも二倍で幸せも二倍だね☆


「ヤシロさん。こちらにもバラちらしを一つ」


 大量のにぎり寿司を食っているのにまだ食うのか、ベルティーナ。

 あ、愚問だったな。

 まだ食うよな、ベルティーナは。


 そんな感じで、本日はにぎり寿司を見せながら、余った魚の部位でバラちらしを販売する日となった。

 すし飯はジネットが大量に作っていたし、魚を切って盛り付けるのはロレッタでも出来る。デリアとマーシャが手伝ってくれるなら、数が出ても大丈夫だろう。

 俺が店を空けても、今日は十分営業できる。


「わっ!? なにこれ!? 何か楽しいことやってるじゃないか!」


 鍵の準備を終えたエステラが入店するなり文句を垂れていたが、お前は寿司を食ってる暇なんかないからな?

 さっさと次のミッションに向かうぞ。


 駄々こねないの!

 いいから来い、膨れっ面の領主め。







あとがき




エステラさん、

頬っぺたはよく膨らむのに……


あ、宮地です。

にぎり寿司です。

業界人御用達の、シースーです。


私が芸能界デビューをしていたら、

きっと毎夜毎夜、ザギンのチャンネー引き連れて、シースーを、べー食ーしてたことでしょう。

チェージューゲー万握りしめて!(チェー=C、ゲー=G、Cが1でDEFと順に234とカウントしていきます。なので『C十G万』で15万円、という意味になります)


ギョーカイ人宮地「この後、スーシーでも食ーべーに、行ーこーかー」

ザギンのチャンネー「まぁ、とってもギョーカイ人!」



そんなわけでお寿司にぎにぎ回です。


私、いまだかつて女性板前さんに出会ったことがなく、

女性の握るお寿司って食べたことがないんですよね。


スーパーのお徳用お寿司を握ってるのがどなたかは知らないので

知らず知らず食べている可能性はありますが!



近所に回らないお寿司屋さんがありまして、

ランチの時間に行くと

とってもリーズナブルなお値段で美味しいお寿司をいただけるお店なんです。


千円で「これでもか!」ってレベルの海鮮丼がいただける感じで

握りも、かなりお得なお値段でいただけます。

夜だとチェー万くらい取られそうな上握りが五分の一程度のお値段で!


たま~に、いただきに行くんですが、

そこのお店、お寿司が美味しいのは当然のことながら、

握りを頼むとセットで付いてくる小鉢が絶品なんです!


宮地「この小鉢うめぇー! バーリバーリ」


じゃないですよ?

いえ、はっきり否定しておかないと、

「まぁ、宮地さんってば、わんぱくなんだからっ」とか思うでしょ?

皆様、思うでしょ!?


(;>□<)思うでしょ!?



そこの小鉢、行く度に中身が変わるんですが、

いつ行っても美味しいんです!

基本的に煮物なんですけども、

大根と豚肉だったり、

こんにゃくとチクワと根菜だったり、

青物だったりと、

何を煮込んでも美味しいんです!


そこそこご高齢の「お母さん」みたいな方が作られているようなのですが

最上級のおふくろの味とでもいいましょうか、

二十代以上に食べさせたら九割以上の人が「美味い!」って言うであろうお味で、

その小鉢を目当てに通っていると言っても過言でないくらいなんです!



……なので、大将にはちょっと申し訳なくて。

あの、その……上握りは、ついで、なので……(´・ω・`;)


いや、お寿司も美味しいんですよ?

でも、小鉢が美味し過ぎて……


大将、

女将さん、大切にしてあげてくださいね。

お客さんの半数、女将さん目当てですよ、きっと!


ただ、蒸しエビとウニはこのお寿司屋さんが一番美味しいです。

私はあのお店より美味しい蒸しエビとウニを食べたことがありません。

函館ではウニ食べませんでしたしね!


いやぁ……函館一回だけ行ったことあるんですけどね、一泊二日で。

早朝、一般的な飲食店がまだやってないような時間に函館に到着して、

朝市に立ち寄ったんですよ。



市場のおじさん「お、兄ちゃん、観光? カニ買っていきなよ! 活きがいいよ!」

宮地「いや、これから観光するのに生きたカニはハードル高いっす!」



で、ほら、朝市って、テンション上がるじゃないですか?

それも、アノ、函館の朝市ですよ?

テンション上がるじゃないですか!

「どうだぁー!」みたいな海鮮丼がお手頃価格じゃないですか!

食べるじゃないですか、当然!


……で、それ以降なんんんにも食べられないくらいお腹いっぱいで……

帰りの電車までオヤツもほとんど摘ままず。

ウニの入る余地はありませんでした。



朝市の海鮮丼が美味し過ぎたのがいけないんです……




そうそう! それとですね!

最近一番のお気に入りの、

めっちゃめちゃ美味しい親子丼屋さんがあるんです!

親子丼の専門店ってなかなかないですよね?

鶏肉と卵にこだわりがあって、とにかく美味しい!


専門店とはいっても、他にもメニューがあるんですが、


ご自慢の卵を使った卵かけご飯セットとか、

小鉢がいっぱいのプレートランチとかもあるんですけども、

そんなんに目が行かないくらいに親子丼が美味しくて、

行く度に親子丼を食べていたんですね。


ところが、

今年に入って、


かき揚げ丼っていうのが登場しまして。


正直、最初、

「かき揚げぇ~?」って舐めてまして。


ほら、

きっと日本人の八割の方が、

『かき揚げ=緑のたぬきかどん兵衛のアレ』という思考でしょ?

「あぁ、後乗せサクサクのヤツね」

ってな感じでしょ?


オジサマあたりになると、駅の立ち食いソバの薄いかき揚げとかが「美味いんだよなぁ~」って感じでしょうか。


私も、そんな感じでした。


中学生のころ、

食べ盛りだった私は、カップ麺一個では到底お腹が膨れず

カップ麺を食べる時は必ずご飯を一緒に食べる!

くらいにわんぱくだったのですが、


どん兵衛の麺をまず一気に食い尽くして、

かき揚げをご飯の上に乗せまして、

で、お出汁をその上にじゃぶじゃぶと――



かき揚げ丼!\(≧▽≦)/



私の知っているかき揚げ丼って、まさにそれだったんですね。

贅沢したい時は、そこに生卵を落としたりなんかして

それが、特上かき揚げ丼でした。



で、

かき揚げ丼って、まぁ、その程度でしょ?

って思って最初はスルーしてたんです、親子丼屋さんの新メニュー。


でも、ある日、

一回食べてみるかなぁ~って気になって

注文したんですよ、かき揚げ丼。





世界が変わりましたよね。




めっちゃ美味いんです!

これまで軽んじてしまっていた全かき揚げに謝罪したいくらいに、

かき揚げ丼が、


(」 ̄□ ̄)」美ー味ーいーんーでーすー!


プリっとしたエビ!

うま味の凝縮されたアサリ!

コリっとした歯ごたえのイカ!

中に閉じ込められている具材がみんな一流で、


(≧▽≦)メンバー紹介してー!


ってくらいに美味いんです!



かき揚げ「じゃあ、一緒になって最高のかき揚げを作ってくれているメンバーを紹介したいと思います。我らがリーダー、芝エビ!」

芝エビ「二階席ー!」

宮地「きゃー! 今目が合ったー!」



みたいな、凄まじいテンションで平らげてしまいました。


あれから数ヶ月。

あんなに美味しいって大好きだった親子丼、

一回も食べてません!


だってかき揚げ丼が美味し過ぎるから!(>へ<;)



美味し過ぎるのも、ある意味、罪、ですよねぇ




――というわけで、

美味しいもののお話をずざざーっとしてまいりましたが、

お気付きの方もおいででしょう、


そうです!


あとがき、書き忘れてたんです!

公開直前に「えっ!? あとがき無くない!?」

って、めっちゃ焦っていたんです、なう!

(;゜Д゜)どきどき!


すぐに書けるもの、

食か、おっぱい!


よしおっぱいだ!



――と、書き始めたものは、

そのまま載せるとアカウント「BAN!」されてこの作品が死ぬか

お巡りさんに「BAN!」されて社会的に私が死ぬか

その二択になりそうな内容で……


あれですね

あまりに好き過ぎるものを勢いで書くと歯止めが利きませんね

私のおっぱい話は、少し時間をおいて、

平常心という名のフィルターを通してから

皆様へお届けすることといたします。


……そこのあなた!

「全力のおっぱい話を見てみたい」とか言わないの!

宮地さんが宮地容疑者になっちゃいますよ!Σ(>□<|||)


というわけで、

宮地さんの外食事情を勢いに任せてお伝えいたしました。


なんとか、公開時間には間に合いそうです☆



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海


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― 新着の感想 ―
[一言] 読み返して気付いたけど テレサ技術を盗むを勉強するに頭の中で置き換えてるの凄すぎるマジで細かいとこに頭の良さ出てて可愛い
[良い点] 新しい料理が登場するときの空気感めっちゃすき、この1話を読むために毎日頑張ってると言っても過言ではないです [一言] 本編耐えたと思ったらあとがきで飯テロを食らった……(゜Д゜;) 近所の…
[良い点] 美味しいものは良いですよね。 今日の夕飯はお寿司にしよう。 [気になる点] 感想で「エステラさん、…」と「頬っぺた…」 が混ざりエスぺたさんが私の脳内に…( ̄¬ ̄) [一言] 楽しく読ませ…
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