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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第三幕

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552/821

354話 人心地つく場所

 レジーナが、マグダやロレッタと一緒に風呂に入っている。


「はぁ~……大きいお風呂っていうんも、気持ちえぇもんやなぁ~」

「はぅっ!? レジーナさん、もう浸かってるですか!? ちゃんと体洗ったですか?」

「洗ぅたで~、お尻以外」

「そこ、最も重点的に洗ってほしいところですよ!?」

「……レジーナ。これを貸してあげる」

「ん? なんなん、この人形」

「あっ、それはマグダっちょの大切なお風呂人形じゃないですか!? あたしでもなかなか貸してもらえないですのに!」

「……無事に帰ってきたお礼」

「なんや、特別なもんなんやな? ほなら、ありがたく使わせてもらおかな」

「……母親になったつもりで、お風呂に入れてあげると楽しい」

「はぁはぁ、ほな、お洋服脱ぎ脱ぎしよなぁ~はぁはぁ!」

「……没収」

「物の二秒で没収されたですね、レジーナさん!?」

「も~、これからがえぇとこやのに」

「……そーゆーのはロレッタでやって」

「なんであたしを売るですか、マグダっちょ!?」

「はぁはぁ、お嬢ちゃん、はぁはぁ、あぁっ、はぁはぁ!」

「誰か自警団呼んできてですー!」



 ――と、きっとこんなことが繰り広げられていることだろう。

 見てないから分かんないけど。

 見てないから!


「いや、見よう!」

「ヤシロ。そこを動いたら『デリアDEゴン』ね」


 ウチの領主がえげつない刑罰を生み出した件について……


 レジーナのおかえりパーティーは盛大に盛り上がり、閉店時間を過ぎても賑やかな声は途絶えなかった。

 レジーナが陽だまり亭に泊まると知ったパウラたちが――


「大変! 父ちゃんに言ってこなきゃ!」

「私も。お父さんとお母さんに明日の卵採りお願いしてくるね!」

「あたいも泊まろ~っと。カンパニュラ、一緒に寝るか?」

「はい。是非お願いします」

「そんじゃ、もう少しくらい飲んだって構わないさねぇ~」

「私も飲むぞ。ギルベルタ、パウるりゅ~んについて行ってお酒を買ってくるのだ」

「えっ、待ってルシアさん! その呼び方、あたし絶対イヤ!」

「つーか、ルシア。陽だまり亭に泊まる気かよ。エステラんとこかイメルダんとこ行けよ」

「それは無理だよヤシロ」

「そうですわね」

「ボクも泊まるから」

「ワタクシの宿泊は決定事項ですわ」

「……雑魚寝になるぞ。いいのか、貴族のお嬢様方?」


 という感じで、なんかもういろんなヤツが泊まっていくことになった。

 慌ただしく出ていった連中も全員帰ってきて、例によって二階は女子連中に占領され、俺とウーマロとベッコはフロアで寝ることに……


「って、なんでウーマロまで泊まる気なんだよ」

「マグダたんが尊過ぎて、100メートル以上離れたくないんッス!」

「しょうがない。もっと接近しよう。大丈夫だ、俺も付き合ってやる!」

「って、ヤシロさんお風呂覗く気満々じゃないッスか!? ダメッスよ!」

「ヤシロ氏! 拙者もお泊まりさせていただく気満々でござるよ!」

「へー」

「もっと興味を持ってほしいでござる! もっとイヤそうな顔をするとか、ちょっと強めに弄るとかでも構わんでござるからぁ!」

「男同士でイチャつくな、カタクチイワシ。見苦しいぞ」


 だったら女子とイチャつかせろよ!

 いつだって待ってるんだからね!


「っていうかさぁ、ロレッタだけズルくねぇか? あたいもレジーナと風呂入りたかったぞ」

「そうさねぇ。長旅で疲れたレジーナをゆっくりさせてやりたいってのは分かるんさよ。で、マグダがあぁなったから一人では寂しがるっていうのも、まぁ分かるさね。……けど、ロレッタはなんでかぃね?」

「しれ~っと入っていったよね、ロレッタ。あたしがカンタルチカから戻ったら、もう入ってたし」

「私の方が家遠いのに、パウラと戻ってくるのほとんど一緒だったもんね」

「父ちゃんがうるさくてさぁ。ネフェリーんとこはいいよねぇ、両親の物分かりがよくて」

「きっと、ぱうらさんのお父さん、寂しいんじゃない、かな? 親一人娘一人だし」

「う……まぁ、じゃあ、明日は精一杯父ちゃんに親孝行してあげようかな」

「ふふ、ぱうらさん、やさしい」

「話が逸れましたけれども、ワタクシ、レジーナさんとお風呂に入りたいですわ!」

「いい話に流されないのが君だよね、イメルダ」

「――と、余裕ぶっているエステラ様も、レジーナさんのフルヌードが見たくてうずうずしていらっしゃるご様子ですか?」

「フルヌードが見たいんじゃないよ!? 一緒にお風呂に入りたいの! 変な言い方しないでよ、ナタリア!」

「もし、それと同じセリフをヤシロ様が言ったとしたら?」



『俺はレジーナのフルヌードが見たいんじゃない! 一緒に風呂に入りたいだけなんだ!』



「……うわぁ」

「ヤシロ……」

「君という男は……」

「欲望垂れ流しですわね」

「土に還れ、カタクチイワシ」

「ホント、懲りないさねぇ」

「言いたい放題だな、お前ら」


 俺、なんも言ってなくね!?


「じゃあもう、エステラと俺のエロスは同じジャンルということでいいな」

「「「異議なし!」」」

「異議あるよ! 同じにしないで!」

「では、エステラ様のエロスは人類のカテゴリーから外れた特殊なものだということでよろしいですね?」

「よろしくないことを承知の上で嬉しそうに言ってこないでくれるかい、ナタリア!?」

「よし、準備が出来た。浴場に突入するぞギルベルタ」

「追従する、今回ばかりは、ルシア様に、私は。楽しみ、実は、レジーナ・エングリンドとの入浴が」

「あっ、ズルいぞお前ら! あたいも行く!」

「そんじゃ、アタシがついてってやるさね」

「ワタクシが一番乗りですわ!」

「行こう、ネフェリー!」

「うん! ミリィも行っちゃおう」

「ぇ……でも、ぃのかな?」

「大丈夫ですよ、ミリィ姉様。レジーナ先生はお優しい方ですから、お友達を邪険にされることなどありませんよ、きっと」

「おふろ、あーしも、はいぅー!」

「マーシャはどうする?」

「うん、私はパス☆」

「はは、君はそうだろうね、マーシャ……って、あれ? ナタリアは?」

「もうお風呂に行っちゃったよ☆」

「どーして君はそう、自分ばっかりいいとこ取りをしようと……もう! 追うよ、みんな!」

「「「おぉー!」」」


 バタバタバタと、女子たちが厨房へと突入していく。

 ……さすがにその人数は無理がないか?

 芋を洗うような状態になるぞ。


 ……で、マーシャは本当にマイペースだな。

 というか、我が身が一番かわいいタイプか。

 マーシャとの入浴も激レアだから、レジーナと一緒にイジられる可能性が高いもんな。


「じゃあ、マーシャはあとで俺と入ろうな☆」

「残念だね☆ 私はあとで店長さんと入るから☆」

「そっか、三人で仲良く入るのは大歓迎だぜ☆」

「懺悔すればいいと思うよ★」

「もう、懺悔してください、ヤシロさん」


 どうやら俺は、一人寂しく風呂に入ることになるようだ。

 ん?

 ウーマロやベッコと?

 あっはっはっ、ナイスジョーク。


 大勢の女子がいなくなり、ガランとしたフロアを、ジネットが忙しなく動き回っている。


「ジネット、店の掃除は俺がやっとくから、二階の方を頼む」

「ありがとうございます。では、お願いしてもよろしいですか?」

「あぁ。先にお子様コーナーを整えてやらないと、テレサあたりが真っ先に寝ちまう」

「ふふ、そうですね。では、大急ぎで整えてきます」

「私もお手伝いする~☆」


 いや、お前に何が出来るんだよ、マーシャ?

 水拭きが出来るって? 空拭きが大変だっつーの。


「ウーマロ、店内の掃除を手伝ってくれ」

「はいッス」

「ベッコは、二階に行って俺らの布団持ってこい。祖父さんの部屋に客用の布団を大量に買い込んでたから、ジネットが」

「うふふ。いつでもお泊まりに来ていただきたいと思いまして」


 過去、豪雪期の時に教会やイメルダのとこに布団を借りに行った経験から、ジネットがそんな備えをし始めているのだ。

『断る』というスキルを身に付ければ事足りる案件だと思うんだがなぁ。


「任されたでござる! 三人分でござるな?」

「四人分だよ」


 これだけ賑やかになって、テレサ一人だけ「じゃ、帰れ」とは言い難く、テレサも一緒に泊めることにした。

 外泊癖を付けるのはよくないんだろうが……陽だまり亭に集まる連中は何かと泊まりたがるからなぁ……教育上よくない環境だよ、ここは。

 で、無断外泊などさせられないので遣いを頼んだ。


 ……俺が留守にすると、戻ってきた時に領民総出で泊まることになりかねないんでな。


 で、ヤップロックの家へ伝言を頼んだのが――


「役目を終えての、御帰宅やー!」

「お前の家じゃねぇよ、ハム摩呂」

「はむまろ?」


 ハム摩呂なので、まぁ、当然のようにこいつも泊まっていくだろう、ってな。


「「「およばれにきたー!」」」


 ……なんか、弟が三人ほど増えてる。


「おにーちゃんが」

「一人は危ないからって」

「おにーちゃんが」

「一緒に行動しろって」

「おにーちゃんが」

「「「言ってたー!」」」

「いちいち『おにーちゃんが』を強調するな」


 まるで俺が心配性みたいに。


「というわけで四人分の布団だ」

「え、いや、プラス3で七人分ではござらぬか?」


 あほ。

 さすがにそこまで客用の布団なんぞ置いておけるか。


「こいつらは一つの布団で積み重なって寝るから大丈夫だ」

「「「「うんー! おにーちゃんの布団でー!」」」」

「テメェらの布団で寝ろよ!? 入ってくんなよ、マジで!」

「「「「入るなよ、絶対入るなよ、のヤツやー!」」」」

「そのヤツじゃねぇよ!」


 まったく理解していないハムっ子を一人一人アイアンクローして、全員でフロアと厨房の掃除をした。

 まったく……

 今夜は大変なことになりそうだ。





「「「「すやすやぁー!」」」」


 テーブルをどかし、布団を一つ敷いたらハムっ子たちが折り重なって眠り始めた。

 ……早ぇよ。風呂、まだ入ってないだろうに。

 あと、寝息が力強ぇよ。どんだけ全力で寝てんだ、お前らは。


「こいつらは、明日まとめて揉み洗いだな」

「ヤシロさん、朝からお風呂入るッスか?」

「いや、川に放り込む」

「どこで揉むッスか!?」

「俺レベルになると、視線で揉める!」

「普段何を揉んでるんッスか!? いや、言わなくていいッスけど!」


 掃除を終え、ハムっ子が眠ろうとも、フロアの灯りは消さない。

 たぶん、みんなこの後出てくるだろうし、俺たちはその後で風呂に入るわけだし、風呂から出てフロアが真っ暗とか……怖いし。

 …………人の気配がする真っ暗で静かな部屋って……怖いじゃん?


「ヤシロさん。お掃除ありがとうございます」

「おう」

「ウーマロさんも、ベッコさんも、お疲れ様です」

「や、ははっは、はいッス!」

「これくらい当然でござる」


 まともに返事も出来ないウーマロや、特に苦労もしてないベッコに礼なんぞわざわざ言わなくていいのに。


「あ、ハムっこさんたち、寝てしまわれたんですか?」

「もう時間も時間だからな」


 普段ならマグダも寝ている時間だ。

 今日はレジーナやその他大勢と風呂に入っているので、はしゃいでいるのだろうけれど。


「……マグダ、風呂場で寝てないだろうな?」

「ロレッタさんやノーマさんが一緒なので大丈夫だとは思いますが、あとで確認してきますね」

「いや、ジネットは疲れただろう。ここは俺が――」

「めっ! ですよ」


 懺悔じゃないパターンで怒られた。

 まぁ、実際やるとは思ってないからこんな感じなんだろうけど。


「ジネットももう休めよ。風呂、入るだろ?」

「はい。あ、みなさんお疲れでしょうからお先にどうぞ? ……あ、すみませんマーシャさん、勝手に」

「ん~ん☆ 平気だよ~。だって、きっとメンズは譲ってくれるし、ね☆」

「へいへい。レディファーストは世の常だもんな」

「さっすがヤシロ君、紳士的だね☆」

「ただ、ウーマロがどーしても一緒に入りたいんだと」

「言ってないッスよ!?」

「わ~、キツネの棟梁くん、エッチだ〜☆」

「言ってないッスって!」


 うん。

 マーシャを使うとウーマロイジリが一層楽しくなるな。


「ねぇねぇ、キツネの棟梁くん☆」

「な、なんッスか?」

「二歩下がって」

「二歩ッスか?」


 マーシャに背を向けているウーマロは、背後も確認せずに言われたとおりに二歩下がる。

 すると、マーシャの水槽の真ん前、マーシャが身を乗り出せば抱きしめられるくらいの位置へ来る。


 ザバッと水音をさせ、マーシャが水槽の縁へ身を乗り出す。

 そして、腕で背伸びをするようにぐぐっと背筋を伸ばして、ウーマロの耳元に口を近付けた。


「今度から名前で呼ぶね、ウーマロ君☆」

「ごふぅッス!?」


 鼓膜から伝わる色香に耐え切れず、ウーマロが血を吐いた。

 お前のセンサーは敏感だなぁ。


「くすくすくすっ、おもしろ~い、ウーマロ君☆」

「あ~ぁ、気に入られちゃった」

「ふむ。男子としては羨ましい限りでござるな」

「……笑い事じゃないッスよ……」


 恨みがましそうな目でベッコを睨むウーマロ。

 お前だけだぞ、マーシャにそんなことされて困るのは。


「マーシャさん。ほどほどにしてあげてくださいね。ウーマロさんが困ってしまいますよ」

「はーい☆」


 ジネットのお説教も、女子には優しいんだよなぁ。

 懺悔させればいいのに。ウーマロを。


「では、みなさんがお風呂から出てくるまでの間に、明日の仕込みを出来るところまでしてしまいますね」

「誰か、ジネットに『休息』って言葉を教えてやってくれ」

「じゃ~さぁ、ヤシロ君が半分手伝ってあげると、店長さんは少し楽になると思うよ~☆」

「そんな。大丈夫ですよ。ヤシロさんもお疲れでしょうし」


 そんな反応をされると余計に断れないだろうが。


「いや、俺も手伝うよ。こっちにいてウーマロやベッコの相手をしてる方が疲れるだろうし」

「心外でござるよ、ヤシロ氏! ……けど、こういうイジられ方をすると、ちょっとほっとする自分がいるでござる」

「わ~、もう手遅れだねぇ、ござるくん☆」


 妙な組み合わせではあるが、港が完成したらこういう変わったメンバーで集まることも増えるのかもしれないな。


「じゃあ、マーシャ。そいつら好きに使っていいから」

「うん。そーする~☆」

「こっちの許可なく勝手なこと言わないでほしいッス!」

「しかしながら、所詮は抗えぬさだめでござる」


 達観する二人を置いてジネットと厨房へ向かう。


 この厨房を抜けて、奥の廊下へ出れば、そこには風呂場という名のパラダイスへ通じる扉が……


「あ、そういえば俺、あっちに用事が~」

「もう、ダメですよ、そんなことをしたら」


 見回りパトロールを頑張ってきたからだろうか。

 今日はジネットの懺悔がなかなか出ない。


「ジネット、疲れたろ? 揉んでやろうか、肩とかを」

「懺悔してください」


 わぁ、出た出た。

 まぁ、手つきが完全に肩以外の場所を揉んでたからな、今。


「で、何からやる?」

「そうですね。おイモの皮をむいて水にさらしておきま――きゃっ!」


 作業台に置かれているカゴ盛りのジャガイモを取ろうとしたジネットは、何もないところで躓き、咄嗟に作業台に手をついた。

 転倒はしなかったが、その衝撃でカゴ盛りのジャガイモが床へと落下し散らばってしまった。


「大丈夫か?」

「は、はい。少し足がもつれてしまいました」


 確かに、今のは躓いたというよりふらついたという方が適している

 今日はマグダが狩りに行き、俺が見回りパトロールに出たため陽だまり亭はジネットとロレッタの二人が回していた。

 カンパニュラとテレサがいたとはいえ、戦力になるのはやはりジネットとロレッタの二人だけだ。

 指示をすればカンパニュラとテレサも動いてくれるが、出来ることに制限があるし、ある程度見守っていなければいけない分負担は増える。

 通常業務の合間に誰かに指示を出すというのは、通常業務だけをやればいい時の三倍は気疲れするものだ。

 他人に教えるって、しんどいんだよな。特に、新人教育ともなると。


「やっぱりお前ももう休め。仕込みは明日の朝、無駄に余っている人材をアゴで使って終わらせてしまえばいい」

「うふふ。そんな、可哀想ですよ」


 にっこにこの顔で言われても説得力はないな。


「でも、ありがとうございます」


 作業台に手を添えたまま、ジネットが「ほぅ……」っと息を吐く。


「どうやら、今日は思っている以上に疲れているようです」


 胸に手を添え、きゅっと押さえる。


「マグダさんもレジーナさんも無事に帰ってきてくださって、気が抜けてしまったのかもしれません」


 ジネットは普段通りに振る舞いながらもずっと心配をしていた。

 狩りに行ったマグダのことも。

 バオクリエアへ旅立ったレジーナのことも。


「安心すると、一気にやってくるよな、疲労って」

「はい。……うふふ。ヤシロさんも、そういうことがあるんですか?」

「あるある。俺なんかいっつも気を張ってるもんよ。もっと俺を気遣えってんだ、どいつもこいつも」


 この街の連中は俺に対する配慮が足らない。

 俺に対する感謝が足らない。


「ビキニカーニバルが開催されれば、俺の疲労は向こう三年分くらい吹き飛ぶだろう」

「では、毎日ゆっくりとおやすみになって、疲労を溜めないようにしてくださいね」

「いや、頑張るからビキニカーニバルを――」

「お風呂、ぬるめにしてゆっくり浸かってくださいね」


 ビキニカーニバルの開催はまだまだ程遠いらしい。


「では、お言葉に甘えて、仕込みは明日の朝みなさんにお手伝いしてもらいましょう」


 言いながら、ジネットが膝を曲げて床へ散らばったジャガイモへ手を伸ばす。

 なんだか、そのままひっくり返って頭でも打ってしまいそうなイメージが脳裏をよぎる。


「あぁ、いいよ。俺が拾うから」


 咄嗟に手を伸ばし、ジネットより先にジャガイモを拾う。

 ……つもりが、ジャガイモの上でジネットの手を掴んでしまった。


「ひゃぅっ!?」


 手と手が触れ、ジネットが驚いて手を引っ込める。

 そして、尻餅をつく。

 ……あぁ、もう。


「すまん。大丈夫か?」


 手を差し出せば、照れくさそうに手を伸ばしてくる。


「すみません。お手数をおかけしてしまって」


 つないだ手から、ジネットのぬくもりが伝わってくる。

 柔らかい手。

 ……だが、少し、荒れてるか?


 立ち上がったジネットは手を放そうとするが、その手を掴まえる。

 手のひらをぷにぷにと押し、指先をさらりと撫でる。

 うん。確かに少々荒れている。

 柔らかくてすべすべではあるが、指先に少し疲れが出ている。

 手を返して指先を見れば、微かにさかむけが見られた。


 仕事が忙しくなれば、当然水仕事も増える。

 そうか。もっと早く気にかけてやるべきだったんだ。

 前に手をつないだ時は……くそ、結構前だな。

 もしかしたら、心労が肌に影響を与えていたのかもしれない。


 ロレッタやマグダはよくジネットと手をつないでいるが、気が付かなかったのだろうか。

 俺も、定期的にジネットと手をつなぐようにしなければいけないだろうか。

 ロレッタとマグダも、もしかしたら肌荒れに悩まされるようになるかもしれん。

 これは、早急に対策が必要だ。


「あ、あの……っ、やしっ、……ヤシロしゃんっ!」

「んぁ?」


 肌荒れ対策について考えていると、ジネットの声がした。

 視線を向けると、真っ赤な顔のジネットが片方の手で口元を隠していた。


 ……ん?


「あ、あの……手、……手が……っ」


 手と言われて見てみれば、俺の手は、ジネットの手を握ってなでなでさすさすぷにぷにしまくっていた。


「ふぉうっ、ごめんっ!」


 完全に痴漢です。

 セクハラです。

 ほんと、どうもすみませんっ!


「いや、悪い! ちょっと考え事を!」

「は、はい。大丈夫です。嫌だったわけではありませ――あぁいや、そうではなくて! いえ、嫌ではないのは本当なのですが、むしろ嬉し――ではなくて、あのっ、大丈夫です! なんだか、いろいろ、みんな大丈夫ですから!」

「お、おぉう、そうか! なんかいろいろ全部大丈夫だなきっと大丈夫だな!」

「は、はい! あのっ、わたし…………マグダさんを見てきます!」


 厨房から逃げ出すようにジネットが風呂場へと向かう。



 ……あぁ、やっちまった。



 定期的にジネットと手をつなぐ計画は、白紙撤回だな。これは。





 その後、ややあって、ジネットとマーシャが風呂へ向かい、先に風呂に入っていた女子たちがわらわらとフロアへと出てきた。


「ぁは……ぃいぉ湯だったぁ~」


 ほこほこミリィが、頭にバスタオルを巻いてフロアに出てくる。


「よし、確保!」

「総員、あの危険人物を排除!」

「「「いえす、うぃーきゃん!」」」


 エステラの号令に、パウラたち湯上がり女子たちが俺を拘束する。

 おぉう……レジーナ特製のシャンプーの香りがムラムラ……いや、ドキドキ……えぇいムラムラする!


「あぁ、せや。船旅の途中、二つほど小さな村に停泊する予定やったらしいんやけど、天候が悪ぅて寄らずにさっさとバオクリエアに向こぅたんやけどな、クルーから『この先の村を二つ、停泊せず通過します』って言われた時、『ほほ~ぅ、つまり「村々スルー」やね!』って思ぅたんよなぁ~」

「なんの話をしているんだい、レジーナ!?」

「いや、おっぱい魔人はんの顔を見て思い出した旅の冒険譚や」

「……どこが冒険譚なのさ」


 各駅停車が天候の影響で準特急くらいになっていたのか。

 それで、レジーナが結構早く戻ってこられたんだな。

 もともと、何かある度に飛ばされる程度の小さな村なのかもしれないけれど、そう考えるとなかなかグッジョブだな、村々スルー。


「最高だな、ムラムラスルー!」

「今の発言を『会話記録カンバセーション・レコード』で読み返すと、かなり最低な発言になっていますね、ヤシロ様」

「うわっ、ホントだ。ヤシロサイテー」


 さくっと『会話記録カンバセーション・レコード』を確認したパウラが俺から離れていく。

 あぁ、ネフェリーも、ノーマまで!

 ノーマなんて、ムラムラさせてナンボみたいなところあるくせに!


「ムラムラって、どんな感じなんだ? あたい、よく分かんなくてさぁ」

「あんたは分かんなくていいさね」

「では私が教えてあげよう、デリりん!」

「強制排除する、三十五区の人間の責任において」


 ギルベルタがルシアの首根っこを掴まえてフロアの端へ引き摺っていく。

 そのまま三十五区まで連れて帰ってくれればいいのに。

 騒がしいのが遠ざかったので、ちょっとリサーチをしておくか。


「なぁ、ミリィ。ラベンダーとかを使ってハンドクリームとか作れないか?」

「ラベンダーのハンドクリーム!? なにそれ、すごく素敵そう! てんとうむしさん作れるの!?」

「いや、作れないかって聞いてんだけどな……」

「いいや、君なら作れるはずだよ、ヤシロ! レジーナも帰ってきたんだ、鬼に金棒じゃないか!」

「え、なんやて? お気にの金と棒やて?」

「ナタリア、排除」

「え、どちらをですか?」

「なんでボクとレジーナを交互に見てるのさ!?」

「金とか棒とかいう主は少し……」

「言ってないよね!?」

「言ったとか言ってないとか、関係ないのです!」

「大ありだよ! むしろ、そこだけが重要!」


 メンバーが変われどいつも賑やかな四十二区女子たち。

 ただし、そこにレジーナが入ると卑猥が三割増しになる。

 レジーナとナタリアのコンビは危険だな。

 ハウリングを起こすみたいに卑猥が増幅していく。


 いや、それよりも、ハンドクリームだ。

 よくよく考えたら、スキンケア用品ってほとんどないよな。

 化粧水とか、乳液とか。

 折角素敵やんアベニューが出来たんだから、そういう商品も作っていかないとなぁ。


 四十二区に誘致した砂糖工場、ほぼ機能してないしな。

 いや、パーシーが張り切って砂糖を作ってこっちに直接持ってくるからさぁ。

 最初に数が必要で四十二区に呼んだ砂糖工場、生産数すっげぇ低いみたいでなぁ……


 新しい事業が必要だな。アホのパーシーのせいで!

 頑張るなよ! オールブルーム随一のフーテンキャラのくせに!


「ハンドクリームってたしか、蜜蝋とオイルと精油で作れたっけ?」

「せやね。せやけど、ワセリンとか使ぅてもえぇ感じになるで」

「ワセリンあるのかよ!?」


 なんとなく呟いた言葉にレジーナが食いついてくる。


「あるわな。当たり前やん」


 にこにこっと笑って――


「括約筋付近で活躍するために、な☆」


 ――最低なことをほざく。

 うん、聞かなかったことにしよう。


「ちなみにレジーナ、化粧水とか乳液とか、分かるか?」

「バオクリエアでは、スキンケア用品の開発も盛んやったさかいな。一応の作り方は分かるで。ウチ自身、スキンケアに興味なかったさかいに自分で研究とかはしてへんかったけど」


 あるのか!

 すげぇな、バオクリエア!?


「……なんか、わざとバオクリエアに攻め込ませて、メドラで返り討ちにして、バオクリエアを植民地化したくなってきたな」

「ヤシロ。腹黒い企みが口から漏れ出ているよ。口を閉じて! 早急に!」


 いや、こういうのを呟いたら「それいいね! じゃあ、そうしよう!」ってどこからともなく賛同が得られるかと思ったんだが……


「グリセリンとか、分かるか?」

「化粧水の材料やね。今はあらへんけど、頼めば手に入ると思うで」


 なるほど。


「ちなみに、精製方法もばっちり入っとるで」


 と、自身の頭をとんとんと指さす。

 すごいぞ、レジえもん! どんな素敵アイテムも思いのままじゃねぇか!


「がっぽり儲けよう!」


 女性の美しさのために、ひと肌脱いでやるぜ!


「あ、本音と建前がひっくり返った」

「大丈夫だよ。君の本音は建て前を突き破って前面に出てくるタイプだから、結果一緒さ」


 そんじゃあ、この先も本音全開で生きよ~っと。


「そんじゃあ、ハンドクリームの試作でもしてみるかな」

「ほ~、そらえぇな。ほんならウチも一丁噛ませてもらおかな」

「あんたら、今そんなことやってる余裕あるんかぃ?」

「まぁ、大丈夫だろう。二十四時間気を張っているわけでもないし。空いた時間で進めれば、その分早くハンドクリームが完成するしな」

「そうだね、ヤシロ。ちなみに、ラベンダー以外でも作れるよね、もちろん?」

「あぁ、ミルク風味にして『おっぱいの香り』なんてハンドクリームも可能だぜ!」

「そんなものは求めてないよ!」

「ブレへんなぁ、領主はんは」

「ブレてないのはヤシロだよ!」

「あぁ、言い間違えたわ。揺れへんな~」

「よしレジーナ、表で語り合おうじゃないか!」


 どんなに高速移動をしてもブレないバストの領主がパトスを滾らせる。

 前回ウィシャートのところへ行って明日で九日。

 動くとすれば明後日だ。

 ゴッフレードが『十日後にまた来る』と伝えているはずだからな。

 それに合わせる必要がある。


 ……まさか、レジーナが間に合うとは思わなかった。


 これで、かなりやりやすくなる。

 まぁ、その前にやるべきことをやっておかないといけないんだけどな。


「ほんなら、今からちょっと試作してみぃひんか?」

「今からかい? 材料はどうするのさ?」

「ウチがぱーっと行って取ってくるわな」

「何かそのまま戻ってこない気がするです、レジーナさんの場合!」

「そ、そそそ、そんなことあらあらあら……あられもない姿!」

「噛み過ぎて変なとこに着地しちゃったですよ!?」


 あられもない姿で戻ってくるのか、お前は。


「レジーナ一人じゃ危ないよ。いくら、レジーナ以上の変質者はそうそういないって言ったってさぁ」

「パウラ、正直過ぎるよ」

「ネフェリーも大概さね」


 まぁ、普通なら、こんな夜中に女子を出歩かせるなんてことあっちゃいけないんだが――


「んじゃ、俺がついて行くよ。お前ら、全員風呂上がりだしな」

「ヤシロが? ……余計危険じゃない?」

「大丈夫や。おっぱい魔神はんがウチになんかするわけあらへんやん」


 けらけらと笑って、こちらへ視線を向ける。


「せやんな?」


 そんな呟きは、いつものレジーナらしからぬ柔らかい視線と共にこちらへ向けられた。

 ……くっ。だから、そーゆーのとかが……


「精霊神とジネットのおっぱいに誓って、変なことはしないと誓おう」

「じゃあ大丈夫ね」

「え、パウラ。それはどっちへの誓いで確信したの?」

「皆まで言わせんじゃないさね、ネフェリー」


 もしかしたら、全員ハンドクリームが楽しみなのかもしれない。

 俺とレジーナは二人でレジーナの家へ向かうことになった。反対する者は出なかった。


「レジーナも、帰ってきたばかりなんだから、あんまり無茶しちゃダメだよ」

「心配いらへんって。ウチ、船ん中でず~っと寝とったさかい、ちょっと散歩するくらいがちょうどえぇ運動になるわ」


 そんなセリフを遺して、レジーナは陽だまり亭を出る。

 そして、俺もそれに続く。



 ドアが閉まり、夜の闇の下で二人きりになる。

 まるで、レジーナが出発したあの夜のように。


「…………」

「…………」

「……ほな、行こか」

「……ん。だな」


 短く言って、俺たちは歩き出した。





 ジャリジャリと、靴底が土を踏む。

 街道として整備したといっても地面にレンガを敷き詰めたわけではない。

 デッカい木の器具で均し、押し固めただけだ。

 中世ヨーロッパ風というより、江戸の時代に近いものがあるかもしれない。


 しかしそこはそれ。

 獣人族の力で押し固めているので重い馬車が通っても轍が出来る様子もない。

 けどまぁ、いつかレンガを敷き詰めるのもいいかもしれないな。

 三十五区の大通りはレンガ敷きだし。



 ――と、そんなことを考えてしまうくらいに静かだ。

 隣を歩いているのはレジーナだというのに。

 口を開けばくだらない下ネタばかりの、目先の小笑いを必死に拾いに行く若手芸人のような、あのレジーナだというのに。

 今は、随分と大人しい。


 口を開けば騒がしいのだが、口を開かなければただの美人だ。

 運動をほとんどしていない痩せた体と青白いほど日に焼けていない肌のせいで儚げな美少女に見えるから始末に負えない。



 ……つか、なんかしゃべれや。

 ………………しょうがない。こっちから話題を振るか。


「……どう、だった? バオクリエアは」

「……うん」

「…………」

「…………」


 どーだったのー!?

 いや、別にどーしても聞きたいわけじゃないけどさ!?


「あの……アレやな」


 レジーナは両手で自分の髪の毛を掴んで、顔を覆い隠すように引っ張る。


「くっそ恥ずかしいな、なんか!」


 顔を隠して、必要以上に大きな声を出す。

 うん。

 その気持ちはよく分かる。

 だが一言言わせてほしい。



 それはこっちのセリフだ!



 だから言っただろうが!

 そんなことしたらこの次顔を合わせる時に悶絶するって!


「あの場面で『信じてる』とか『待ってる』とか、よぅ言ぅたな、自分!? ウチ、今日会ぅてからずっとよぅ顔見やんかったわ!」

「ばっ!? それを言うならお前の方がだろうが!? あの時急にあんな……っ!」

「ちょぉおおい、すとおっぷぅぅう! それ以上口にしたらアカンで、自分! 絶対アカンからな!?」

「え、それはフリか?」

「ちゃうわ! 言ぅたら、ウチ家に閉じこもって向こう一年出て来ぉへんからな!」


 そんな、口にするのも耳に入れるのも憚られるようなことをされたこっちの身にもなれと言いたい。

 こいつ、マジであの時は戻ってこられないと思ってたんだろうな。


 いや、戻ってこられないかもしれないという恐怖を抑えつけるために、「帰ってきたい」と思えるようなことをたくさんしたのだろう。

 つまり、俺とのあれやこれやはレジーナにとって――


「ごふぅっ!」

「ちょぉい、自分! なんか勝手に妄想して勝手に一人で悶えるんやめてくれるか!? 恥ずかしいの伝染するさかいに!」


 真っ赤な顔で俺を睨んでそっぽを向くレジーナ。

 んなこと言ってもよぉ……記憶が鮮明に…………感触が……ぐふっ!


 そうだな。

 忘れよう。

 とりあえず、一度気持ちを整理するために二人きりの時間を作ったのだ。

 きっとレジーナも同じ気持ちだったに違いない。


 だって、こいつが帰ってきてから、俺たちはびみょ~に距離を取り、びみょ~に視線が合わないようにずっと気を張ってたからな。

 視線がぶつかった後も、なるべく素早く他のヤツに話を振ったりボケたりして気持ちのリカバリーしてたし。


 すぅ~……

 はぁ~……


 とにかく落ち着こう。


 …………よし、大分落ち着いた。


 もう大丈夫――と、思ったら、レジーナが急に顔面を真っ赤にシャイニングさせて「ごふぅ!?」っと咽た。


「お前っ、人が折角気持ちを落ち着けた瞬間に蒸し返すようなことすんなよな!?」

「しゃーないやんか! 自分が、あ、ああぁぁ、あんなこ、こと、言ぅさかいにやなっ!?」


 俺が何を言ったってんだよ!?

 …………んぁぁあああ! なんかいろいろ言ったなぁ、そういえば!

 くっそぉ、折角落ち着きかけてたのに、羞恥がぶり返してきた!?


「むがぁー!」

「むゎあー!」


 二匹のケモノが叫びながら、夜の四十二区を歩く。

 ……レジーナの家、結構遠いんだよなぁ。

 間が、持たん。




「あぁ、やっとお家帰ってきたわ。ほな、おおきに」

「待て。お前を連れて帰らないと、俺がめっちゃ怒られるから」


 家に着くなり早速引きこもろうとするレジーナ。

 だが、今日ばかりは陽だまり亭に連れ帰らないと全員納得しないだろう。


「ウチは、家にたどり着いた瞬間言いようのない安心感に見舞われ、蓄積していた疲労感と緊張感と閉塞感の波が一気に押し寄せてきて気ぃ失ぅた――とかなんとか、適当なこと言ぅとってくれへん?」

「そんなしょーもないことで『精霊の審判』のリスクを背負えるか」


 というか、今日このまま陽だまり亭に戻らないと、明日から三日三晩監視付きで拘束されて各家を転々とお泊まり行脚させられかねないぞ?


 と、そんな説明をしてやると、「……うわぁ、めっちゃありそう」とレジーナは観念したようだ。

 大人しく、今日一日陽だまり亭に泊まれ。

 な~に、戻ったらもうあとは寝るだけだ。

 すぐに終わっちまうさ。


「ほな、さっさとハンドクリームの材料持って戻ろかな」


 本当は、こんなに急いでやる必要はないのだが。

 まぁ、こうしてバカ話でバカ騒ぎをしたおかげで、少しだけ気持ちに整理が付いた。

 これで、また明日から普段どおり接することが出来るだろう。


 あの夜は特別で、俺たちはどちらも普通ではなかった。

 俺とレジーナだけじゃない。レジーナが旅立つと知ったエステラや他の連中も同様だ。

 言いようのない寂しさと不安を紛らわせたくて、微かなレジーナのぬくもりや雰囲気にすがろうとしていた。

 きっとそういうことだ。

 噴飯物の小っ恥ずかしい言動をしてしまったのは。


「まぁ、今すぐどーこーしたろーとか、そーゆーことやないしなー」


 店のドアを開けながら、レジーナも軽口を叩く。

 あっけらかんとして、冗談まじりに。

 そうだ。

 今までどおりでいい。

 今回はいろいろ特殊だっただけだ。

 今日を区切りに、また普段の生活に戻ればいい。


「わぁ、なんや、えらい懐かしいニオイやなぁ」


 店に入ると、レジーナは鼻から息を大きく吸い込んで、深呼吸をした。


「……やっと、帰ってこられたわ」


 ぽつりと呟かれた言葉には、心からの安堵が含まれているような気がした。


「これでみ~んな元通り。明日からは、楽しい楽しい日常の再開や」


 店の真ん中に立ち、店内を見つめて両腕を広げるレジーナ。

 俺も店に入り、扉を閉じる。


 パタンと、扉が閉まる音がするのと同時に、レジーナは振り返り、一歩――床を蹴って俺の胸に飛び込んできた。


「お、おい……っ」

「明日から――」


 俺の胸に顔を埋め、俺の服をぎゅっと握って、レジーナは震える声を漏らす。


「明日から、元通りのウチになるさかい……ちょっとだけ、こうさせといて」


 これで、レジーナの心にキリがつくのなら。


「ほんでな……ついでにもう一個だけ、わがまま、えぇかな?」


 レジーナの吐く息で、胸の辺りがじわりと温かくなる。

 あぁ……レジーナはちゃんとここにいるんだなと、今さらながらに実感した。


「……言ってみろ」

「ほなら……褒めてんか。ウチ、めっちゃ頑張って帰ってきたさかいに……褒めて……」


 死を覚悟したのだろう。

 それでも、やらなければいけないと思ったことを、こいつは実行し、見事に完遂した。

 なら、相応の称賛を送るべきだし、絶賛するのに否やはない。


 胸にすがりつくレジーナの肩を引き寄せ、腕を回して抱きしめる。

 体の距離を一層短くして、頭のそばで呟く。


「よくやった。お前は偉いよ」

「…………ぅん」


 胸の辺りに、息とは違うぬくもりが広がっていく。

 じわりと広がる温かさは、すぐにひんやりと冷たくなっていく。

 止まることなく落ちていく涙に気付かないふりをして、俺はレジーナにもう一言、言葉を向ける。



「おかえり、レジーナ」

「…………っん」



 声になっていない返事を聞いて、あとは黙ってレジーナを抱きしめていた。

 こぼれ落ちる涙が止まるまで、ずっと。







あとがき




モグラ叩きは苦手だけれど、

おっぱいつつきなら得意な気がします!

宮地です!


モグラ叩きとまったく同じルールであろうと、

おっぱい突きなら高得点が叩き出せると――いや、突き出せると確信しています!



いえね、

なんかヤシロとレジーナがいい雰囲気で終わろうとしてたので

ぶち壊してやろうかと思いまして(>ω・)てへっ☆



まぁ、ご覧の通り

まったりとしております。

お風呂に入る入らないなんてことで一話使いました。


そして次回も、まったりです!




……すみません。

仕事でものすごぉぉ~~~~~く嫌なことがありまして


今回、こんな感じになって、

まぁ、四十二区のみんなに癒やされたから明日からがんばろー!


……と、思った翌日に、

さらに輪をかけて嫌なことが起こりまして……


これはもう、ジネットに癒やされねば収まりがつかん!



とか思っているウチに続々と職場で嫌なことが起こり続けまして――



結果!

しばらく陽だまり亭でまったりしたお話が続きます。


結構長いですよ~、まったり回!


二週間くらいずっと苦しめられ続けてしまいましたので、

その間書いたお話、み~~~~んな、癒やし回です!


だって!

現実でつらくて、

創作の中までつらかったら泣いちゃいますもん!(´;ω;`)


これで、ウィシャート邸へ乗り込んだりしたら――




ヤシロ「地獄の業火に呑まれて朽ちろっ! 【ソリタリィ・ミール】っ!」




みたいな、聞いたこともないような攻撃魔法でウィシャートを倒しちゃいそうですし!(>△<;)

そして、そこから怒濤の区対抗の武術会が開催されかねません!

トーナメント形式で、優勝者だけが生き残れる、みたいな!


まぁ、怖い!



……え、【ソリタリィ・ミール】ですか?

意訳すると『ぼっち飯』ですかね。


地獄の業火に焼かれるくらいの苦しみを味わえますよね☆


この春入った新入生諸君、

それが楽しめるようになって、初めて大人の仲間入りなんだZE☆



というわけで、

宮地さんの心のササクレが治るまでしばらく陽だまり亭から動きません!

お家いるの! 出かけないの! もう帰るの!

(ノシ>□<)ノシ


ウィシャートとの決戦は、もう少し先になりそうです。




さて、

ここ最近、仕事が終わった後、

家に帰る前に喫茶店に寄って執筆をしているのですが

お気に入りの喫茶店が三軒ほどあって、その日の気分で行くとこ決めてるんですが、

その内の一件が、駅直結の綺麗な喫茶店なんですね。

喫茶店というか、コーヒーショップですかね。


一面ガラス張りで明るく、オシャレで、清潔感があるようなお店なんです。

で、その窓際の席によく座って書いているんですが――


ここ最近、何か事件でもあったんでしょうかねぇ

駅にですね、警察官さんがたくさんいるんですよ。

二人組で、通り過ぎる人に声をかけて職質をされているんですね

ほぼ毎日。


駅前にも結構たくさん。

駅前商店街にも。

繁華街を離れたところにも。

私の家のそばにも。


……あれ? つけられてる? 大丈夫?


で、ですね、

ある日私が窓際の席で執筆していると、

なんだか影が、そして圧が……


ちらっと窓の方を見たら、二人の警察官さんが目の前に!


こっち、見てましたよね。

で、二人で何か話してましたよね。


さすがにお店の中にまでは入ってこられませんでしたが、

しばらくこっちを見てましたよね……


あれ?

これ、店を出た瞬間呼び止められる系?


警察官さん「いや~、待ってたよ~。じゃ、職質しよっか☆」


みたいなことですか!?(どきどきどきどき!)

奇しくも、その時は「ミリィたん、はぁはぁ!(*´Д`)ハァハァ」みたいな内容を書いている真っ最中で――



マジで捕まるっ!?Σ(゜Д゜;)



と、心臓が縮み上がりましたよね。

誤魔化すために、ちょっと哲学っぽいこと地の文に書いちゃいましたもん。

我、ミリィたんを観測す。故にミリィたんあり。とかなんとか。

家に帰ってソッコー消しましたけれども。



えぇ、そうなんです!

帰れたんです!


しばらく窓越しに私を見ていた警察官さんたちでしたが、

ややあって、目の前を通り過ぎていったお兄さんを追いかけていっちゃいましてね。

正直、「えっ、その人行く!? 全然怪しくなくない? あれ? 怪しい人に声かけるんじゃないんですか? そのお兄さんに比べたら、私の方が17倍怪しいですよ――誰が怪しさ満点マンですか!?ヽ(`Д´)ノぷんぷん!」

とか思っちゃうような普通の人に職質かけてましたね。



何か、警戒するようなことでもあったんですかね?



もしくは……

私ってば、私が思っているほど、怪しく……ない?

もしかして、他の人から見たらむしろ爽やかだったり!?

雰囲気イケメンくらいなら名乗ってもよかったり!?

え~、まじで~、まいったなぁ~、むひょひょひょひょ(*´艸`)


……笑い方が爽やかとはかけ離れてしまいました。



まぁ、とりあえず、

あとがきを書く時はあの喫茶店使わないようにしますね☆

本編はたぶんギリセーフですけど、あとがきは確実にアウトでしょうから♪

前回のあとがきとか、公共の場所で書いてたら現行犯ですYO-NE☆


(M)マジで(K)告訴される5秒前☆

MK5ですね☆



で、それとは別日なんですが、

新人さんたちが総出でやらかしてくれちゃった日がありまして

そのすべての後始末とフォローとリカバリーを私一人でやらなければイケない日がありまして……


心身共に疲れ切ってしまったある日、

さすがにその日は執筆できるような状況ではなかったので駅から直帰したんですが


駅を出て、

駅前のちょこっと賑わってるところを通り過ぎ

商店街の方へ向かう交差点で信号待ちをしていた時


私の肩に「ぽん!」って、割と強めに手が置かれたんですね。

で、「えっ、なに!?」って驚いて振り返ったら警察官さんが二人。


……思わず、見なかったことにしようと前に向き直っちゃいましたよね。


「見てない。何も見てない。何も見えない。浮遊霊はこの方法でスルー出来るからきっと警察官さんもこれでイケるはず……」


まぁ、ダメでしたけどね。(ー。ー;)

あぁ、ついに私も人生初の職質かぁ~と、

今まで宮地さんを野放しとか、日本の警察はやる気あるのか~と、

というか、ここまでの人生で職質受けたことなかったな~と、

自転車に乗ってる時はしょっちゅう声かけられてたけれど……あ、あれが職質か。じゃあ職質経験者だわ。うん、慣れっこ慣れっこ。……くすん。と、

そんなことを思っていたワケですが――



警察官さん「ちょっといいですか?」

宮地「えっ!?(びくっ!)」

警察官さん「駅で見かけて追いかけてきたんだけどね」

宮地「(尾行!? そんな怪しかった!?)」

警察官さん「大丈夫?」

宮地「(時間が? それとも私自身が? ……誰が大丈夫じゃない大人代表ですか!?)」

警察官さん「うわ、顔色も悪いね。あのね、君ね、さっきからずっとふらふらしてたよ」

宮地「……え?」

警察官さん「自覚ないでしょ? 後ろから見てて、倒れそうだったよ」

宮地「あ~……仕事で、ちょっと……」

警察官さん「ご苦労さんだね」(肩、ぽんぽん)

宮地「……で、あの、職質、ですか?」

警察官さん「ん? あぁ、いや。心配になったから声をかけさせてもらっただけだから」

宮地「そう、なんですか……(おぉ、職質じゃなかった)」

警察官さん「…………」

宮地「…………」

警察官さん「…………」

宮地「…………(いや、全然どっか行かないじゃん!? お話終わったんじゃないの!?)」

警察官さん「…………」

宮地「……ついでに職質してくか~、とか思ってます?」

警察官さん「ぶはっ! いやいやいやいや! ついでに職質とかしないしない! そんなのないからっ、んふふふふっ!」(←マジで「んふふふ!」って笑ったんですよ)


――とかなんとかやってると、信号が青に変わる。


警察官さん「それじゃ、気を付けて帰ってね」(肩、ぽ~ん)

宮地「あ、信号待ってたんだ!?」



ということがあり、

宮地さん、


ギリ職質回避です!


セーフ!

かなり際どいところまで足を踏み入れた感はありましたが

ギリギリセーフ!


私はまだまだ不審者ではないようです!



……日本の警察、本当に大丈夫なんでしょうか?

(」 ̄□ ̄)」< 宮地さん、いまだ野放しですよー!

(」 ̄□ ̄)」< いーんですかー!?



……いや、いいんですよ、野放しで!(゜Д゜;)



ということがありましたというご報告で3000文字を超えましたのでここらで締めます!


……カクヨムの一話分あとがき書いちゃった(≧∇≦)てへっ!



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
[良い点] 改めて家にも帰宅したレジーナにおかえりなさい。 好きあらばジネットといちゃつくヤシロ、ふざけんな!(本音)いいぞもっとやれ!(本音) [気になる点] バストのパトスが溢れるなんて……!な…
[一言] こんなラストシーン、、、う~む。これは宮地さんもいよいよ、結婚か?
[良い点] え、レジーナ、え? かわいくない?(小並感) [気になる点] 現実の辛さとファンタジーのほのぼのに負けて放置されてるウィシャートさん。黒幕なのに軽んじられちゃって可哀想に・・・ぷぷーっ!(…
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